144.思いがけない者 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「あら」
その少女が、ようやく口を開いた。
声は美しかった。
甘くも柔らかくもない。冷たく、清潔で、一音一音の角が丁寧に削られてから外へ出てきたような、そういう美しさだった。
残念ながら、その口から出た内容は、まったく優しくなかった。
「連邦軍というのは、たいてい頭を使わない種類の人間だと思っていました」
彼女はわずかに首を傾け、視線を私へ向けた。唇の端に、笑いとは呼べない程度の弧が浮かんでいた。
「ですが今日は、どうやらそうでもないようですね」
……実に毒がある。
しかも毒の品質が高い。刺されたと分かっているのに、まず自分の立ち位置が悪かったのではないかと反省させられるような、上等な種類の毒だ。
私が「お互い様ですね、帝国軍も全員が頭を持っているわけではないようですが」と返すべきか考えていた時、一本の手が私の腕を確実に掴み、後ろへ引いた。
その動作の迷いのなさ、慣れっぷり。
考えるまでもなかった。彼女しかいない。
「私はこの艦の副長です」
真紀が一歩前に出た。私の前に立ち、声は高くなかったが、停機坪の中で火花を散らしかけていた空気を一段、確実に押さえつけた。
「九島真紀大尉」
少女の目がわずかに細くなった。
私にはその表情が分かった。
単純な驚きでも、警戒でもない。
値踏みだ。
一瞬で、真紀の階級、立ち位置、話し方、立ち方の癖、私を後ろへ引いたその小さな動作まで、すべてを秤に乗せて、自分だけが知る数字を弾き出している。
「九島真紀……」
彼女はその名をごく軽く繰り返した。何かを確認するように。あるいは、それまでばらばらだった判断の断片を、一つの完全な形へ繋ぎ合わせるように。
それから、淡々と言った。
「なるほど……失礼しました」
私は真紀の目尻がごくわずかに動くのを見た。
幅は小さかった。他の人間なら気づかなかっただろう。
だが私には見えた。
そして私は三日分の配給プリンを賭けてもいい。あの「なるほど」の中に込められているものは、表面上のそれより遥かに多い。
これは「ああ、あなたが副長なのですね」という意味ではない。
どちらかといえば――
ああ、雪風で本当に厄介なのは、あなたのような人間なのですね。
……腹立たしい。
想像しただけで、真紀のために腹が立った。
「申し訳ありません」
少女は口調を崩さないまま続けた。
「先に自己紹介をするべきでしたね」
彼女は二名の護衛の間に立っていた。背後には、まだ完全にエンジンの余熱が消えていない接駁艇。正面には、雪風の保安隊の、まだ完全には下がりきっていない銃口。だが彼女の全体は、それらがすべて背景板であるかのように、そこに立っていた。
「私はヘートヴィヒ・フォン・ヴィッテルスバッハと申します」
私は一瞬、止まった。
この姓は……
頭の中で何かが鈍く衝突したが、まだ完全には繋がらなかった。
ヴィッテルスバハ。
どこかで聞いたことがある。いや、正確には、歴史の授業を全部寝て過ごしたのでなければ、誰でも多少は聞いたことがあるはずの名前だ。
彼女は私たちを見ながら、語尾も揺らさず、最後の一言を静かに落とした。
「銀河帝国第三皇女です」
その瞬間、停機坪の空気ごと、時間が止まった気がした。
さっきまで引き金を噛みちぎりそうなほど緊張していた保安兵たちまで、電源を抜かれたように固まった。銃はまだ構えたまま、魂だけが先に詰まった。空調の風が戻ってきたのに、誰の表情も動かせなかった。
その感覚は奇妙だった。宇宙が親切にも半秒止まって、この場にいる全員に、後から後勤部門が残業になり、政治部門が一斉に髪を抜き、機密審査担当者が笑いながらナイフを取り出すような自己紹介を消化する時間を与えてくれたようだった。
私は口を開いたが、声が出なかった。
大物を見たことがないからではない。
大物がこういう顔をしているとは、想像したことがなかったからだ。
若すぎる。
落ち着きすぎている。
試験の最後の問題が完全に範囲外なのに、隣で崩れていく人間を横目に、丁寧に答案を書き続けられる人間のように見えた。
……いや、今は試験の話ではない。
今は私たちの艦が外交事故に片足を突っ込んでいて、しかも皇室の血統と暗殺と帝国の駆逐艦三隻のセット付き、豪華アップグレード版だ。
ジェスが最初に声を出した。
低く口笛を吹いた。今夜の目玉演目がついに幕を開けたのを見届けた人間の口笛だった。
「これは参ったわね」
彼女は言った。
「厄介ごとを拾ったと思ったら、厄介ごとの戸籍謄本まで拾ってたとは」
「ジェス」
真紀がただ名前を呼んだ。
声は平坦だった。
その平坦さだけで、ジェスは後半を飲み込んだ。口元だけが、爆発物の前で指の爪で軽く叩いてみたい衝動を抑えているような、欠けた笑みのまま残っていた。
竹中曹長の顔色は、艦外塗装に直接使えそうなほど悪くなっていた。何か言おうとして、やめて、最終的に銃口を二寸だけ下げた。
それで十分だ。少なくとも彼の頭はまだ動いていた。自分が今しがた、雪風の艦歴を連邦外交教材の反面事例に書き込む寸前だったと気づいているということだから。
上層からの通信がここで割り込んだ。
「保安隊、全員安全装置を維持したまま銃口を下げろ」
艦長代理の声が公用回路から落ちてきた。方正に切り出された氷のように冷たかった。
「命令なしに対象への接触禁止。二度目の銃口上げ禁止。口頭での挑発禁止。竹中、停機坪の警戒線を再整備しろ。蘭、暗号識別を再照合。アイダ、接駁艇と随員の装備をスキャンして、法務部が報告書を二部減らせるようなデータをよこせ」
この一連の命令が落ちた瞬間、場面全体が「次の一秒でニュースになる」から「かろうじて軍隊らしい」まで引き戻された。
「はっ」「了解」「処理中」
聞き慣れた応答が次々と繋がった。私はそれを聞きながら、心臓がようやく半拍遅れで機能を取り戻した。
真紀が半歩前へ出て、さっきより真っ直ぐに立った。相手が皇女の身分を名乗ったからといって、即座に声を低くして頭を垂れるような様子は微塵もなかった。それが私には、心強かった。
真紀の最も恐ろしく、最も頼もしいところはそこだ。刃を向けられても乱れない。皇室の称号を叩きつけられても跪かない。ただ場を引き戻し、それから必要であれば相手ごと収める。
「ヘートヴィヒ殿下」
真紀は口を開いた。言葉は清潔だった。
「雪風は貴方の身分表明を確認しました。ただし二次照合が完了するまで、停機坪の現行警戒を維持します。ご不便をおかけする点はご容赦ください」
ヘートヴィヒは真紀を見た。あの細かい審査の目がまだそこにあった。
だが、彼女は頷いた。
大きな動作ではない。ごく軽く、一度だけ。
だがなぜか、その一動作は、さっきの「第三皇女」という自己紹介よりも、ずっと本物の上位者らしかった。安排を受け入れているのではなく、判断を下しているように見えた。この艦には、少なくとも様になる人間がいる、と。
「合理的です」
二言だけだった。
だが、停機坪の全員が今夜集団で詫びを入れなくていいと赦免されたような響きがあった。
私は少し腹が立った。
理由はない。ただ、完璧すぎて、冷静すぎて、どこからどう見ても正答にしか見えない人間を前にした時に、思春期の未成年が本能的に感じる「どこかに文句をつけたい」という衝動だった。特に今夜、私たちの艦が眠れない理由の一端がこの人物にあるとなれば、なおさらだ。
「では」
私は腕を組み、意図的に少し口調を崩した。
「帝国第三皇女殿下、さっきの帝国の駆逐艦三隻は、辺境で新入生歓迎会を開いていただけで、砲口の向きが少し熱烈だったというご説明でよろしいですか?」
真紀が横目で私を見た。
その目の意味は明白だった。星野 シモ、いい加減にしなさい、と。
だが止めなかった。
つまり彼女も答えを知りたいのだ。ただ私ほど不躾ではないだけで。
ヘートヴィヒの視線が私へ移った。
短かった。
だが正確だった。
私はこういう目が嫌いだ。圧迫されるからではなく、人間を分解して見ているような目だから嫌いだ。骨格、気性、胆力、無礼の程度、すべてを一瞥で計量して、最後に「包装が良くない」と評価されるような目だ。
「もしそう言ったら、信じますか?」
彼女が聞いた。
「信じません」
「結構です」
彼女は淡々と言った。
「少なくとも雪風には、侮辱を外交的礼儀として受け取らない人間がいる」
……この人は。
毒舌を第二母語として習得したのか。
私の口元が一瞬引き攣った。危うく笑いそうになった。ジェスはすでに拳を口に当てて笑いを堪えており、肩が一度一度と揺れて、死にかけの奇妙な海産物みたいに見えた。
真紀がこれ以上おかしな方向へ転がらないよう、場を引き取った。
「殿下」
彼女は言った。
「ここでは続けにくい。雪風は保護協議に従い、隔離、医療、仮安置を提供します。貴方の随員と護衛については、まず重火器を解除し、こちらの保安に引き渡して登録する必要があります。同意いただければ、艦内の会客隔離区へご案内します」
傍らで、今にも意志の力で自分を縫い合わせようとしていた男――先ほど暗号回線で私たちと話していた人物――がようやく生き返ったように低く言った。
「殿下、これは合理的な手順です」
ヘートヴィヒはすぐには答えなかった。
まず停機坪を一通り見た。
保安兵を見た。
接駁艇を見た。
真紀を見た。
最後に、視線がまた私へ戻った。
「……なんですか?」
「星野」
真紀が低く言った。
「間違ったことは言っていないわよ、ただ彼女が私を見るから聞いただけで――」
ヘートヴィヒの唇の端が、わずかに動いた。
笑いではなかった。
氷の表面に、ごく薄い亀裂が一本走ったようなものだった。
「あなたの言った通りです」
彼女は言った。
「どれが?」
「もし奇襲するつもりなら、停機坪にこれだけの人数が今もまだ立っていない、という点です」
私は一瞬、止まった。
隣の竹中曹長の顔が、軍紀手帳に唐辛子を混ぜたような表情になった。
ヘートヴィヒは報告書を校正するような口調で続けた。
「第一印象でそこに気づいたということは、少なくとも銃を上げた人間より一手多く考えた、ということです」
竹中曹長のこめかみが一度、跳ねた。
私は危うく堪えきれなかった。
誉められたからではない。こういう人間に誉められると、賞賛というより、よく作られた刃物にさらりと肩を叩かれたような感覚がある。
問題は、彼女の言っていることが正しい、という点だった。
だから私は咳払いをして笑いを押し込み、なるべく尻尾を振る馬鹿に見えないよう努めた。
「ありがとうございます」
私は言った。
「帝国の皇女に誉めていただいても保証書がついてくるかどうか、よく分かりませんが」
「ついてきません」
彼女はすぐに答えた。
「残念です」
「お互い様です」
……なるほど。
この人は本当に手強い。
真紀が眉間に指を当てた。これから続く頭痛のために、前払いで疲労を貯蓄しているような顔だった。
「雑談はここまでにします」
真紀は言った。
「竹中、接駁艇周辺の武装感知を解除。ジェス、笑うのをやめて艦橋へ戻り、さっきの火器管制記録を整理してきなさい。アイダ側から帝国軍規格以外のものが検出されたら、直ちに私に報告」
ジェスは娯楽を強制終了された人間の顔をした。
「ちょうど一番いいところだったのに」
「もう一秒見ていたら、一番いいところはあなたの反省文になる」
真紀が言った。
ジェスは舌打ちをして、本当に素直に身を翻した。
私はこの人がこの一種類のやり方にだけ従うのではないかと疑い始めている。
ヘートヴィヒの護衛は短く目を合わせた後、手順に従ってゆっくりと外付けの武装を解除し始めた。動作は依然として無駄がなく、余分な敵意もなかった。その配合自体が何かを物語っていた。彼らは私たちを信頼しているのではない。ヘートヴィヒが既にこの一手を計算済みだと、信頼しているのだ。
そう気づいた瞬間、私はかえって居心地が悪くなった。
この人は保護対象に見えない。
一連の出来事の中で、最初から最後まで主導権を手放さなかった、唯一の人間に見える。
接駁艇の艙門はまだ開いていた。冷たい光が彼女の背後から差し込み、その黒いコートの縁をくっきりと浮かび上がらせていた。彼女はそこに立っていた。年齢は私とそれほど変わらないはずなのに、すでにひどく厄介な完成度を持っていた。
他の人間が十五歳の時に数学と恋愛と寮の中での間食の隠し方を学んでいた時、この人は暗殺と権力闘争と外交保護名簿の中での生き残り方を学んでいたのかもしれない。そしてその結果として、誰も気軽に折れない一枚の文書のように、自分を立たせることを覚えたのかもしれない。
目の前の人間は、荷物ではない。
人質でもない。
普通の意味での王女でさえない。
この人は――生きている限り、後患を生み続ける人間だ。
帝国はそれをよく分かっていた。だからこそ、三隻の駆逐艦を出した。
「シモ」
真紀が呼んだ。
「うん?」
「ぼんやりしていないで、ついてきなさい」
気づくと、隊形はすでに艦内へ向けて動き始めていた。保安兵が外縁で護送陣形を組み直し、ヘートヴィヒが中央に立ち、女僕と二名の護衛が後に続き、真紀が自然に場を押さえるのに最も適した位置へ収まっていた。
私は、本来この隊列にいるべきではなかった。
理論上、初めての実機任務を終えたばかりで、頭がまだ発射の衝撃で少し揺れている単座戦闘艇の操縦士は、今すぐ医療区か休養区へ行くか、少なくとも普通に眠れる青春期の生き物のふりをするべきだった。
残念ながら雪風では、理論というものは装飾用の壁紙とほぼ同じ扱いを受ける。
「私も行くの?」
「最初の一言を先に奪っておいて、今更無関係の人間のふりをするつもり?」
真紀は振り返らなかった。
「私はただ現場の戦術的観察を提供しただけよ」
「あなたが提供したのは厄介ごとです」
前を歩くヘートヴィヒが、ごく軽くひとこと添えた。
「雪風の副長の判断は、その点で相当正確です」
「……」
ジェスは既にほとんど遠ざかっていたのに、それでも振り返って一刺しを入れた。
「星野、おめでとう、皇女認定よ」
「黙れってば!」
停機坪がようやく動き始めた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




