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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:ロスト
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143.「富士丸」事件 2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

すぐに、私たちはその民間船と回線を繋いだ。


メインスクリーンの右側に民間船の外部映像が映し出された。船体は小さく、塗装は地味で、左舷に二本の明らかな焼蝕痕があった。どう見ても不運な普通の民間船だった。


――前提として、帝国軍が普通の民間船のために駆逐艦三隻を動かすと信じる気があるなら、の話だが。


「こちら連邦駆逐艦雪風」


蘭の声は、さっき帝国の駆逐艦を二隻爆破したばかりとは思えないほど落ち着いていた。


「あなたの船は即時の脅威から脱しました。船名、船籍、損傷状況、乗員名簿を報告してください」


通信の向こうが二秒、沈黙した。誰かが声を潜めて口論していて、こちらに聞かせまいとしているような沈黙だった。


やがて、男の声が響いた。かすれていたが、言葉は安定していた。


「こちらは民間航運船・富士丸……医療支援を要請します。また、貴艦による短距離護衛をお願いしたい」


要請の内容は普通だった。普通すぎるほど、わざとらしかった。


「乗員名簿を提出してください」


今度の沈黙はより長かった。それから、男が再び口を開いた時、その声は明らかに低くなっていた。


「……申し訳ありません。乗員名簿は公開チャンネルでは提供できません」


艦橋で誰も口を開かなかった。だがその瞬間、全員の表情が変わった。


民間船。護衛を要請。乗員名簿を出せない。


なるほど。これ以上、普通の民間船と呼ぶのは私にも気が引けた。


「アカリ」


真紀が言った。


「はっ」


アカリの指が素早くパネルを走った。


「船体構造スキャン中……異常あり。艦体中央の第三区画が肉厚になっており、内部に二重の隔離層があります。これは通常の貨物艙の構造ではありません」


ジェスが低く口笛を吹いた。


「外見は民間船、骨格は金庫室ね。乗っている人物、なかなか格が高いわ」


蘭も同時に補足した。


「相手が先ほど返してきた暗号ハンドシェイクコード、民間フォーマットではありません。連邦外務体系の保護シーケンスです」


これには私も笑いそうになった。事態が面倒になりすぎて、冷笑しか残らない類の笑いだ。


なるほど。帝国軍は強盗をしていたのではない。人を堵いていたのだ。そして三隻目の駆逐艦が逃げたのも、怖くなったからではない。事が成らなかったから、急いで報告に帰ったのだ。


通信の向こうで、あの男がついてまた口を開いた。今度は、一言一言を奥歯の間から絞り出すように言った。


「雪風号艦長代理閣下……艦対艦の暗号単独回線を要請します」


彼は一拍置いた。


「我が船には、公開チャンネルでは名を明かせない人物が乗っています」


艦橋が半秒、静まった。


やはりそうか。


艦長代理は眉一つ動かさず、ただ淡々と言った。


「蘭、暗号単独回線を開け」


「了解」


メインスクリーンの右側に新しい識別フローが表示され、公開チャンネルの緑のランプが消え、代わりに控えめなほど神経質な青白いロック環が現れた。


「艦対艦暗号単独回線、確立中」


蘭が言った。


「相手のハンドシェイクコード、照合通過。権限レベル――連邦外務体系甲級以上」


ジェスがごく軽く口笛を吹いた。


「わお。これはもう民間船じゃなくて、民間船のコスプレよね」


「静かに」


真紀が言った。彼女は横を向き、艦長代理を見た。


艦長代理が頷いた。


「繋げ」


次の瞬間、公開チャンネルが切られ、艦橋の主席、副席、通信席だけが共有する暗号回線が点灯した。


暗号回線の中で、あの男が再び口を開いた。今度の声は先ほどより低く、より正式だった。


「雪風号艦長代理閣下、先ほどは明言できず、失礼いたしました」


男は言った。


「我々の護送対象は連邦軍政の序列には属しておりません。銀河連邦外務省の外交保護条項に基づき移送中の、特別保護対象です。現在のところ公開での申告は困難であり、一般的な辺境ステーションの公開登記手続きにも入ることは適切ではありません」


艦長代理の声には変化がなかった。


「性質は?」


向こうが二秒、沈黙した。それから、男は一言を吐き出した。


「銀河連邦外交部・特別移送案件。対象は外交保護名簿内の人物であり、連邦の高官ではありません」


艦橋全体が一瞬、静まった。


……なるほど。これは本当に「民間」ではなくなった。そしてこれは「連邦高官」よりも厄介だ。


真紀が先に口を開いた。


「帝国が駆逐艦を直接出した理由が分かった」


海賊ではない。偶発的な襲撃でもない。辺境の治安事件でもない。


外交的な暗殺だ。


ジェスが副席の横にもたれ、低く笑った。


「そうよね。駆逐艦三隻で民間船一隻を追うというのは、もはや強盗じゃなくて、消えてはいけない誰かを急いで消そうとしていたってことよね」


蘭は暗号回線を維持しながら補足した。


「相手が送ってきた外務保護シーケンスは本物です。偽造の痕跡はありません。それに――一般の領事や通商保護レベルではありません。外交部直轄で、辺境外交安全局との共同署名による特別保全チェーンに近い」


ロイまで航法パネルの方から目を上げた。


「つまり私たちが今しがた撃墜したのは、行き当たりばったりの帝国の駆逐艦三隻ではない」


「そうです」


アカリがスキャン結果を見つめ、指を素早くパネルの上で走らせた。


「しかも三隻目が撤退するのが早すぎました。怖くなって逃げたのではなく、富士丸がまだ生きていて、しかも雪風と接触したという情報を急いで持ち帰ろうとしている」


……やはりそうだ。


艦長代理が口を開いた。


「貴方の護送対象の状況は?」


「命に別条はありませんが、富士丸の左舷が損傷し、医療区に二名の負傷者がいます。護衛の一名も行動不能です。我々のナビゲーションモジュールと長距通信は部分的に故障しており、単独での安全な離脱は不可能です」


アイダが冷たく一言付け加えた。


「これだけの損傷を受けてまだ持ちこたえているとは、この艦は命が硬い」


男は続けた。


「艦長代理閣下、雪風号に対し、富士丸への近距離護衛と優先医療転送を正式に要請します。また――連邦辺境の正式収容施設に到着するまで、いかなる第三者にも船上の乗員の真の身元を知られたくない」


この言葉が落ちた瞬間、事態の重さが初めて本当に艦橋全体に圧しかかった。


私たちは人を助けて終わりではない。秘密を引き受けるのだ。そして「秘密」という言葉は、連邦の軍艦の上では通常二つの意味しか持たない。面倒か、非常に面倒か、だ。


ジェスが私に小声で言った。


「シモ、さっきの帝国の駆逐艦三隻の方が、むしろ単純だったと思えてきたんだけど」


「うん」


私は富士丸の映像を見つめ、正直に答えた。


「あの三隻は少なくとも、外から爆破してくれたから」


真紀はすでに半歩前に出て、艦長代理の斜め後ろに立っていた。


艦長代理は数秒、沈黙した。迷っているのではなかった。これから爆発しうるすべての結果を頭の中で素早く確認しているようだった。


最後に、艦長代理が口を開いた。


「雪風、護衛要請を受諾する」


富士丸の向こうで、艦全体が一緒に息を吐いたようだった。


だが艦長代理の次の一言が、その息をすぐさま手順の中へ釘付けにした。


「ただし、これ以降は我が艦が主導する。富士丸は最低限の機動を維持し、対外能動発信モジュールをすべて閉鎖し、雪風との暗号航法リンクのみを保持せよ。辺境の公開チャンネルへの無断通報は一切禁止する。できるか?」


「できます」


「よし」


艦長代理が言った。


「蘭、航法ビームを送れ。ロイ、富士丸の近距離誘導を引き継げ。アカリ、三隻目の帝国の駆逐艦の離脱方向を再スキャンしろ。アイダ、医療収容と損傷評価の準備。真紀、護衛手順を」


「はっ」


「了解」


「承知」


命令が落ちると、艦橋が再び動き出した。


私は富士丸の映像が自分たちの護衛フレームの中に引き込まれていくのを見て、心の中にただ一つ、素朴な思いが浮かんだ。


帰り道は本当に、休ませてくれない。

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