142.完全撃破 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
この艦の生命力の強靭さには、思わず感嘆するしかなかった。
本当に。
海狼は私から何度も痛撃を食らっていた。特に尾部の反応炉エンジンへの数発は、「軽いかすり傷」などという遠慮がちな言葉で片付けられるレベルではないと確信している。普通の艦艇があれだけ叩かれたなら、多少は「今日はもう駄目かもしれない」という自覚を見せてしかるべきだった。
だが海狼は違った。
あれはまだもがいていた。
しかも、ひどく見苦しいもがき方で。
九九式回転式プラズマ砲を尾部に思い切り叩き込まれた後、あの陰鬱な余裕を纏っていた艦体の姿勢は完全に崩れていた。高次元収束紋様は引き千切られた神経のように、再び照準を合わせ直して折り畳もうとしているのに、あの陰へ滑り込む鮮やかさをどうしても取り戻せずにいた。それでも棺桶に片足を突っ込んだようなその状態で、周囲の防空レーザー火網はむしろ凶暴さを増していた。
一本。二本。三本。
暗闇の中で光の線が理屈の通らない殺意の網を織り成し、私の零式を一口ずつ食い千切ろうと追ってきた。「リズムのある迎撃射撃」ではなかった。尻尾を踏まれた何かが、血を流しながら怒り任せに刃を振り回しているような撃ち方だった。
ああ。
どうやら私は本当に、何かを本気で怒らせてしまったらしい。
「防空火力の密度が上昇しています!」
蘭が報告した。
「私も追われてるんですけど、ご報告ありがとう!」
私は零式を外へ引きながら、歯を食いしばって機首を斜めに引いた。数本のレーザーがキャノピーの縁すれすれを掠め、目が痛くなるほど眩しかった。誰かが熱した針を目の前で引き抜いていったような感覚だった。
ロイの声がすぐに割り込んだ。
「直線で逃げるな、星野。今の奴は狙っているんじゃなく、暴れている。暴れているものを相手にする時は、奴の動きを予測するより、どう暴れるかを予測しろ」
「その言い方、ジェスを形容してるみたいに聞こえるんだけど?」
「聞こえてますよ!」
ジェスがすぐに抗議した。
「しかも私の方がずっと可愛いし」
「それはどこの法廷に証拠として提出するの?」
口は動いていたが、手は止めなかった。零式は私の操縦で右側へ翻り、きれいとは言えないが命が繋がる機動を描いた。これはシミュレーションの試験ではない。転向の姿勢に点数をつける評価員はいない。宇宙のゴミになっていなければ、それで合格だ。
前方の海狼が、また一度震えた。
今度は単純に被弾した後の失衡ではなかった。艇全体が突然、何か最悪の決断を下したような動きをした。高次元へ縮むことへの執着を捨て、乱れた重力紋の中で、無理やり艦首を転向させていた。
私は半秒、呆然とした。
次の瞬間、背筋が一気に冷えた。
「……おかしい」
「どうした?」
艦長代理が聞いた。
「逃げていない」
私はHUDの上で、亡命者のように転向しつつある敵影を見つめた。喉が乾いて締まった。
「高次元へ戻ろうとしていない。転向している」
通信が一拍、静まった。
次の瞬間、アカリの声がほとんど裏返った。
「確認! 海狼、重力紋の収束停止。艦首が零式の方向へ向いています! 離脱ではありません――加速しています!」
「くそ……まだ諦めていない」
私は海狼から離れながら、通信チャンネルを雪風のメイン戦闘回線へ切り替えた。声が自分でも分かるほど速く詰まった。
「こちら零式〇一、聞こえますか? 雪風! 海狼を今すぐ撃ち落として! 道連れにするつもりです!」
最初に返ってきたのは、艦長代理でも真紀でもなかった。
膝で予想がつくような、明るくて悪戯っぽい、語尾に蝶結びを付けたいような声だった。
「任せて任せて! ちょっと見せてあげる!」
……やっぱりジェスだった。
心の中で一言悪態をついたが、同時に半分だけ息が緩んだ。こういう時にこういう口調で話せる人間は、どちらかといえば狂人か、それとも勝算があるかのどちらかだ。ジェスがどちらに属するかは今でも判断が難しいが、少なくとも今日は、どちらでも私の役に立った。
海狼はまだ迫ってきていた。
尾部の推進機関の乱気流は私が散々叩き込んでやったせいで問題だらけで、艇全体の幾何学的な輪郭もまだ発病中だった。それでも何か偏執的な推力で前へ突っ込んでくる。
腹を割かれた狼が、巣へ帰れないと悟り、残った骨を全部使って最後の一噛みをしに来るような感じだった。
本当に性質が悪い。
「シモ、右下へ引け」
真紀の声が個人回線に切り込んできた。相変わらず安定していた。首筋に刃を静かに当てて、慌てを削ぎ落とすような声だった。
「奴に一直線で突っ込まれる角度を与えるな」
「了解」
これほど短く、これほど過不足のない言葉が、最悪の瞬間にこれほど直接に胸へ刺さるのは、なぜなのだろう。真紀はたぶん気づいていない。こういう時に短く言えば言うほど、私はそれを普通の戦闘命令として処理できなくなるということに。
……腹立たしい。
私は口元を押さえ、その余計な感情が顔に出ないよう強引に抑え込み、零式を右下へ切り出した。海狼はあの崩れかけた艦体を引きずりながら、執念深く追いかけてきた。
次の瞬間、雪風が撃った。
陽電子砲の光束が視野の端から猛然と引かれ、この深宇宙にあってはならないほど眩しかった。火ではない。圧縮の限界まで絞り込まれた白い長槍のようだった。清潔で、冷酷で、大型艦砲だけが持つ横暴な合理性を帯びて、雪風の側から一息に突き出てきた。
そして、海狼の横を掠めた。
本当に、掠めただけだった。
光束が海狼の艦側を撫でるように走り、もともとひどい外殻をもう一層削り取ったが、正中はしなかった。
私はまず呆然とした。
それから、その場で爆発した。
「こんちくしょう、ジェス・マッカロウ!!」
私は怒りで操縦桿を噛みちぎりそうになった。
「目はどこについてるの!? お尻の後ろ?!」
公共回線にジェスの笑い声が響いた。さっきあの一発で私の心臓まで一緒に削りかけた張本人とは思えない明るさだった。
「あらあら、怖い。ごめんね、ちょっと手が震えちゃって」
「手が震えた、ですって!!」
「本当なんだって、あんながあんなに大きい声出すから、緊張しちゃうじゃない」
「白々しい――」
私の罵倒が終わる前に、二発目が来た。
今度はジェスはふざけなかった。
陽電子砲の第二射は、海狼に息つく間を与えなかった。一発目が掠めて残した焼灼の痕が、まるで二発目のための目印になっていたかのようだった。純白に近い残酷な光束が、私が逼り出した姿勢のずれに沿って、海狼の中後部を一息で貫いた。
音はなかった。
真空は何のために叫んでもくれない。
だがその瞬間、私は何かが撃ち抜かれる感覚を本当に「聞いた」気がした。立ち続けていた死体を支えていた鉄の釘がついに折れ、骨格全体が内側から一緒に崩れ落ちるような感覚だった。
「命中」
アカリの声はわずかに上ずっていた。
「貫通。海狼の内部重力場が崩壊し始めました」
私は網膜に残った白い光の残像を見つめ、思わず唾を飲んだ。
やはりそうだ。
ヘリウム・水素駆動炉に換装してから、推進力だけでなく主砲の出力まで発病している。雪風の艦砲はもともと遠慮がなかったが、今はさらに、普段は無口なのに口を開けたら即座にテーブルをひっくり返すような人間に似ていた。
海狼が制御を失って横転し始めた。
さっきの失衡にまだ「持ちこたえるかもしれない」という錯覚の余地があったとすれば、今はその錯覚をジェスが一発で宇宙のゴミに変えていた。
艇はまず横転し、次に中部の貫通箇所から不規則な暗い閃光が次々と噴き出した。きれいな爆発の花火ではなかった。もっと醜い連鎖誘爆だった。一格、一格、一節、一節と、自分自身を解体していくように。
艦腹が裂けた。
尾部が炸けた。
まだ完全に縮まりきっていなかった高次元の収束フィンの一枚が、制御を失ったエネルギーに引きちぎられ、壊れた骨のように丸ごと折れ、さらに多くの歪んだ破片を三次元空間へ引きずり込みながら一緒に死んだ。
「うわあ……」
蘭が低く声を漏らした。
「推進機関、二次誘爆」
アイダがすぐに続いた。実験報告を読み上げるような口調だった。
「内部ヘリウム・水素混燃室、点火シーケンス失調。見事ね。もうこれは死にたくても死ねない」
「言葉を選んで、技術長」
ジェスが向こうで楽しそうに笑った。
「私が撃ったのに、まるであんたの手柄みたいに誉めてるじゃない」
「私は兵器が正常に機能したことを喜んでいるだけよ」
「上院の愛情って本当に骨太ね」
前方の海狼はまだ横転していた。
正確には、崩れていた。
誘爆は中後部から前方へ追いかけていった。乾いた血管に沿って火が一節ずつ燃え上がるように。あの陰鬱で、ぬるりとした、いつも半分別の次元に隠れているような悪意が、連鎖爆発の中でついに形を失った。もはや潜む狼ではなかった。日光の下へ引きずり出され、骨が一本一本割れながら煙を上げている死骸のようだった。
最後に、艇全体が止まらない誘爆の中で解体した。
潔い「ドン」の一発では終わらなかった。
自分がすでに終わっていることをずっと認めようとしなかった何かが、宇宙に頭を押さえつけられ、一寸一寸崩れることを強いられているようだった。
前部の艦首が残火を引きながら翻り、中部は数塊に砕け、尾部は最後の爆閃の後に完全に散った。破片と歪んだ重力紋が四方へ飛び散り、あの未練まで一緒に灰にしたようだった。
私はその光景を見て、しばらく息ができなかった。
怖かったからではない。
この時になって初めて、体がようやく認めてくれたのだ。本当に終わったのだ、と。
発射から、投弾から、追われることから、防空火網から、腹の下への切り込みから、尾部への追撃まで、骨の中でずっと張り詰めていた力が、誰かに糸を切られたように、遅れて一気に戻ってきた。手はまだ操縦桿を握っていたが、指の関節が痛み始めた。肩は被弾していないのに、濡れた砂袋を二つ吊り下げたように重かった。
「零式〇一、状態を報告しろ」
艦長代理が言った。
私は自分が海狼の残骸を少し呆然と見つめていたことに気がついた。
「……生きています」
ジェスがすぐに口を挟んだ。
「意味は正しいけど、フォーマットが規格外ね」
「黙れ」
私は力の抜けた声で言い返した。
「零式〇一、機体は制御可能。操縦士は……たぶん制御可能」
「たぶん?」
ロイが聞いた。
「手が今、自分のものみたいな気がしないけど、まだ動いてくれてる」
「それで十分だ」
ロイの声には、珍しくわずかに緩んだ響きがあった。
「帰投しろ。戦闘が終わった後に墜落するのは格好悪い」
「……この艦の慰め方は本当に教育省に検討してもらうべきね」
「教育省は深宇宙戦闘の管轄外よ」
蘭が静かに言った。
「それに、さっきジェスを怒鳴りつけた時の声、元気があったわよ」
アカリが続けた。
「判定:意識は明瞭」
私は白眼を剥き、それからようやく気づいた。今、本当に白眼を剥く力があった。これはいいことだ。まだ頭がおかしくなっていないし、まだ吐いてもいない。今日のところは、人格も胃袋も、どちらも面目を保ってくれた。
前方で、雪風が回収姿勢に入った。
外から見ると変わらなかった。超次元潜航艦を一隻撃滅したからといって、主人公の後光が差すわけでもない。艦体は相変わらず冷たく、硬く、実用的で、灯りが一点一点、暗闇の中で点いていた。気の利いたことは言えないが、約束通りに人を連れて帰るものの灯りだった。
……おかしいな。
さっき発射された時は、宇宙の大きさが胃に来るほどだった。今、雪風を見ると、あの幾重にも重なった鋼板と通路が、手を招いているみたいに温かく見える。
私は零式をゆっくりと回収航線へ乗せた。
交戦はなかった。理屈の上では楽なはずだが、実際にはさっきのどの瞬間よりも試練だった。戦闘が終わると、ずっと黙らせていた体の中のものが一斉に口を開く。手が震え始め、背中が痛み始め、喉が渇き、さっきまで気づかなかった冷や汗が、突然存在感を持ち始める。
さらに悪いことに、ようやく自分が今何をしていたか振り返る余裕ができた。
初めての実機。
単独で離艦。
高次元切片への投弾。
敵艦の腹の下への切り込み。
相手の大きな推進口への直撃。
そして陽電子砲の仕上げが来る前に、ジェスを頭から尻まで一通り怒鳴りつけた。
……よろしい。
この一連の流れを学校に見せたら、私はおそらく「通常の校内カウンセリングを推奨しない」という欄に直行だ。
「シモ」
真紀の声が入ってきた。
公共回線ではなく、個人回線だった。
私は無意識に背筋を伸ばした。
「いる」
「回収中は気を抜くな」
真紀が言った。
「戦闘で死ぬ人間より、戦闘が終わったと思った瞬間に死ぬ人間の方が多い」
「……分かった」
半秒の間があった。それから真紀がもう一言付け加えた。
「それと」
「うん?」
「よくやった」
たった、それだけの言葉だった。
私はあやうく零式の針路を外しそうになった。
「な、なに今それ言うのよ! 危ないってば!」
「だからあんたがまだ手を動かしている時に言った」
真紀は平然と言った。
「その方が、その場で暴れられないから」
……この女は本当に性格が悪い。
性格が悪くて、精確で、腹が立つのに心臓が熱くなって、どこにも抗議のしようがない。
私はしばらく言葉に詰まり、最後にようやく一言だけ絞り出した。
「……帰ったら、覚えていなさい」
「いいわよ」
真紀が言った。
「前提として、先に帰ってくること」
回線が公共に戻った時、私はようやく自分の口角が押さえきれていないことに気がついた。
恥ずかしい。
今、誰にも顔が見えていなくて本当によかった。
零式は回収手順に入り、格納庫の誘導灯が一節ずつ点灯した。指示に従って機体を送り込み、固定架が機身を噛み、艙内の気圧が戻り、外部の機械アームがロックを完了した時、ずっと強引に保ってきたあの一息が、ようやく本当に吐けた。
キャノピーが開いた瞬間、最初に感じたのは「生きていてよかった」ではなかった。
空気が、なぜこんなに重いのだろう、という感覚だった。
まるで艦全体の現実が一度に肩へ戻ってきたような重さだった。真空の中では集中力で何とか支えていられたのに、艙内の金属と油脂と人間が活動した後の空気の匂いを嗅いだ瞬間、その場で膝が折れそうになった。
整備員が上がってきて固定ベルトを外してくれた時、手のひらが汗でびっしょりなのに気がついた。グローブの内側が貼りつきそうなほどだった。
「中尉、大丈夫ですか?」
一人の整備員が小声で聞いた。
「大丈夫よ」
私は座席にもたれ、声が乾いていた。
「ベッドと水と、ジェスを絞め殺せるロープを一本もらえたら、もっと大丈夫になる」
整備員は半秒固まり、それから笑いを必死に押さえ込んだ。
「……精神状態に問題はなさそうですね」
「ありがとう、私もそう思う」
搭乗梯を降りた時、膝がわずかに折れた。大きくはなかった。たぶん私にしか分からないほどだった。だが私にしか分からないからこそ、余計に腹立たしかった。
本当に恥ずかしいのは、戦闘中に叫ぶことではなかった。戦闘が終わった後、体が遅れてやってきて崩壊の申請を出してくることだった。
だが、そのチャンスは与えなかった。
格納庫で水を受け取り、二口飲んで、喉を人間の言葉が話せる状態に戻してから、艦橋へ向かった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




