139.狩る者と狩られる者 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
海狼が縮み始めたその一秒、私が最初に感じたのは、その縮み方があまりにも自然すぎるということだった。
まるで最初からこちらの世界に属していなかったように。私たちが苦労して重力微塵で削り取ったあの切断面が、単に奴が苛立たしげに落とした一枚の皮に過ぎず、皮がなくなったから帰る、とでも言うように。
私たちが目で見えず、触れることもできず、悪態をつく方向すら分からない、あの場所へ。
メインスクリーンの中央で、重力子空間魚雷によって無理やり炙り出されたねじれた幾何学の影が、縁から内側へと収束し始めていた。
全体が後退しているのではない。何層にも折り畳まれた何かが、三次元空間に突き出していたその短い「牙」を、一寸ずつ引き抜いているような動きだった。重力微塵の場はまだ反発し、震えていたが、その振幅はすでに薄くなり始めていた。
「海狼、切断面収縮中」
アカリの声は相変わらず平坦だった。死線の上で綱渡りをしている人間のように平坦だった。
「重力網の有効拘束時間……修正……六秒、いえ、五秒半」
「五秒半?」
ジェスが小声で繰り返した。
「それ拘束って言わないわよ。ただの当たり屋じゃない」
「高次元の目標に対しては、触れられただけでも大したものです」
アイダが監視曲線を睨みながら、他人の希望を解剖するような冷たさで言った。
「重力網は檻ではなく、ただの紙やすりです。これ以上削り続ければ、先に削り切られるのはこちらの場安定器の方です」
よろしい。
技術長は相変わらず期待を裏切らない。
一番冷や水が欲しいタイミングで、氷の塊が詰まったバケツごと頭からぶちまけてくれる。
私はその切断面を睨みつけながら、主砲の射撃計算、ミサイルの追尾、近距離反応火力の三つのプランを頭の中で高速で走らせた。だが、どれも同じ壁にぶち当たった。
ロックできない。
火力が足りないのでもない。
射角が足りないのでもない。
今私たちに見えているのが、完全な敵艦ではなく、重力場で削り出された高次元の錯面に過ぎないからだ。主砲には三次元の座標が必要だし、ミサイルには安定した輪郭が、火器管制には少なくとも「物体」と呼べるものが必要だ。
だが海狼が今私たちに提示しているのは、内側へ縮んでいく傷口だけだ。
「艦長代理、主砲は無理です」
私は口を開いた。自分でも驚くほど早かった。
「今撃てば切断面を吹き飛ばすだけです。本体はさらに奥にあり、私たちはまだ奴の本当の縦深にすら触れていません」
艦長代理はメインスクリーンから目を離さなかった。
「結論を言え」
「まず、奴をこじ開ける必要があります」
私は言った。
真紀が真っ先に私を振り返った。
その視線は短かったが、私が何を言おうとしているのか、彼女がすでに理解しているのが分かった。これが彼女の最も鬱陶しいところの一つだ。私がまだ言い終わっていないのに、彼女は先に理解してしまう。おかげで前置きすら無駄に思えてくる。
アイダもすぐに続いた。
「切断面が収縮しているだけなら、奴は接触面を回収しているということです。理論上、切断面の最も不安定な箇所に十分な強度の位相擾乱を打ち込めば、その小さな三次元投影を強制的に維持させ、さらに――」
彼女は半拍止まった。こんな狂った戦術の保証人になるのが、ひどく不本意であるかのように。
「さらに、奴全体をもう少しこちら側へ引きずり出せる可能性があります」
「位相震動弾ね」
私は言った。
ジェスが弾かれたように私を見た。
「本気?」
「メニューを暗唱してるように見える?」
「見えないわね」
ジェスは言った。
「この次元にいない犬を殴りに行こうとしてる顔に見えるわ」
「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくわ」
メインスクリーン上で、海狼の切断面がさらに一格内側へ縮んだ。
四秒。
あるいはもっと短いかもしれない。
アカリはすでにカウントダウンを始めていた。
「局所排斥場、弛緩。切断面境界、一二パーセント陥没……二〇……」
蘭が素早く別の解析層を重ね合わせた。
「切断面外縁の位相ノイズが収束しています。撃つなら、今は『裂け目』を狙うしかありません。中心を撃っては駄目です。中心は偽物――いえ、少なくとも私たちにとっては偽物です。本当の質量軸はその後ろにあります」
「裂け目をマークして!」
私は言った。
「戦術席へ送信済み」
一連の白い線が、即座に私の目の前に跳ね上がった。
それは通常の照準フレームではなかった。極めて醜悪で、絶えず自己修正を繰り返すねじれた曲線だった。長く見ていると頭皮が粟立つ。なぜならその物体は、人類が空間に対して抱く礼儀正しい期待に、一切応えてくれないからだ。左に向かっているのか、内側に向かっているのか、上昇しているのか、折り返しているのか、説明するのは難しい。ぐしゃぐしゃに丸めた紙を広げて、それを「前後高低」で理解しろと強要されているようなものだ。
簡単に言えば、ひどく嫌な代物だ。
「艦長代理」
私はその裂け目の計算結果を睨みながら言った。
「主砲の計算遅延が大きすぎます。今から補正しても、奴が縮む速度に追いつけません」
艦長代理がここでようやく、私を見た。
一瞥だけ。
だがその一瞥で、艦橋の全員が理解した。
ジェスが最初に理解した。
真紀も理解した。
ロイは何も言わなかったが、操舵台の上の指の関節が明らかに一度白くなった。
蘭でさえ、口元に浮かびかけた感情を完全に拭い去った。
その視線の意味があまりにも明白だったからだ。
艦橋から撃てないなら、誰かが近づいて撃つしかない。
真紀が先に口を開いた。まっすぐに冷たい声だった。
「即時出撃に反対します」
私は一瞬、呆気にとられた。
……彼女が反対したからではない。
正直言って、彼女が先に反対しない方がおかしい。
私が驚いたのは、彼女が私より先にその言葉を奪ってしまったことだ。これで私が「私が行く」と続ければ、副長にわざと盾突く思春期の馬鹿みたいに見えてしまう。
まあ、私には元からそういう傾向が少しあるかもしれないが。
それでも、今はそんな風に見られたくなかった。
真紀は私の一瞬の硬直を無視して、そのまま続けた。
「理由一、切断面が依然として不安定。理由二、『神風』エンジンの冷却が未完了であり、本艦は第二層の離脱保証を提供できない。理由三、海狼が切断面を意図的に収縮させているのは、我々に機動部隊を出させるためである可能性がある」
非常によろしい。
模範解答だ。
ケチをつけるために順番待ちをしなければならないほど、完璧な解答だ。
だが艦長代理も、すぐにはそれを採用しなかった。
彼はただこう聞いた。
「出撃しなければどうなる?」
今度は私の番だった。
「逃げられます」
私はメインスクリーン上の裂け目を見つめて言った。
「あるいはもっと悪いことに――奴は本当に逃げるわけじゃなく、位置を変えて、三番気閘艙よりも柔らかい場所を探してもう一度噛みついてくる。私たちは今、残像を追っているわけじゃない。奴が牙を剥いた瞬間を掴んでいる。このウィンドウを逃せば、次に同じ重力網の条件が揃う保証はどこにもない」
「あんたが自分で行くつもり?」
真紀が私を見た。
私も彼女を見た。
「ええ」
「理由は」
「この裂け目のリズムを読んでいるのが私だからよ」
私は戦術図をサブスクリーンに弾き飛ばした。
「主砲のシステムは変形の周波数に追いつけない。でも人間ならできる。少なくとも今、艦橋にいる人間の中で、どれが『影』でどれが本当の接触点か、一番分かっているのは私よ」
ジェスが即座に補足した。
「副手による戦術席の代行は可能です」
私は横目で彼女を見た。
彼女は私を見ず、メインスクリーンだけを見つめていた。まるでこちらを向けば、私を庇っているように見えてしまうのを恐れているかのように。
……分かったわよ。
あんたにも良心があったってことね。
アイダが私をちらりと見た。
「技術面から補足。位相震動弾は海狼を爆殺するためのものではなく、切断面を『固定』するためのものです。零式が弾頭を裂け目の縁に押し込みさえすれば、爆発時に発生する局所的な位相の乱気流が、理論上は高次元への収縮を失敗させ、海狼に少なくとも八から十二パーセントの三次元投影を強制的に露呈させることができます」
「理論上はね」
ジェスがごく小さな声で真似をした。
「今日は物覚えが早いですね」
アイダは冷たく返した。
アカリがその時、突然言った。
「切断面の縮退速度が落ちました」
艦橋の全員が同時にメインスクリーンを見た。
本当に遅くなっていた。
止まったのではない。海狼も迷っているようだった。一息に牙を全部引っ込めることもできるはずなのに、ある一点で一瞬だけ停滞した。
重力微塵の場のねじれた排斥輪郭に、第二層の細かな折り目が現れ始めた。まるで背後に隠れていた巨大な実体が、後退を急ぎすぎたせいで、内側の骨格までこちらの世界の縁に擦りつけてしまったかのように。
蘭の瞳孔が収縮した。
「単純に撤退しているわけじゃありません」
「……こちらを値踏みしてるのよ」
私は言った。
艦長代理が「うむ」と短く応じた。
「我々がこの一歩を追う度胸があるかどうか、知りたいのだろう」
その言葉が落ちた瞬間、状況はさらに体裁の悪いものになった。
賭けをしているのは私たちだけではなかった。
海狼も賭けているのだ。
雪風には度胸も、余裕も、まだ閉じかけている裂け目の中に手を突っ込むほどの決断の速さもないだろうと、奴は賭けている。
残念ながら、今日は船を間違えたようだ。
あるいは――
戦術席に座っている、この貧乏くじを引いた人間を間違えたか。
「副長」
艦長代理が言った。
「はっ」
「戦術席の交替準備。ジェスは副代理位へ上がり、戦術監視を代行。星野の離席後、すべての艦橋火器管制データはジェスが引き継ぎ、貴官が全体のリズムを監督しろ」
真紀は半秒も黙らなかった。
その半秒は短かった。
躊躇とすら呼べないほどに。
むしろ、本能的な反対を無理やり飲み込んだような間だった。
「了解」
彼女は言った。
私の胸の奥が、突然きゅっと締まった。
外に出るからではない。
真紀が、それ以上止めなかったからだ。
彼女はただ私を見ていた。目は冷たかったが、いつもより深く沈んでいた。止めたくないのではなく、今は止められないし、止めるべきでもないと分かっているような目だった。こういう理解は、時に反対されるよりも辛い。自分がただカッコをつけているのではなく、本当に命を少しだけ外へ差し出そうとしているのだと、はっきり意識させられるからだ。
「星野」
艦長代理が私を見た。
「はっ」
「零式に位相震動弾を懸架しろ。目標は海狼の撃沈ではなく、奴を引きずり出すことだ。接近できるウィンドウは一度きり。逃せば戻れない」
私の口が、脳よりも先に動いた。
「ご忠告どうも。随分と励みになりますね」
ジェスがその場で低く悪態をついた。
「あんた、こんな時にまで減らず口を」
「じゃあどうしろって言うのよ」
私は固定バックルを外しながら立ち上がった。
「泣きながら出て行った方が、戦術的価値が高いわけ?」
「少なくとも人間味はあるわ」
「私が人間味に溢れすぎてるのが最大の問題だって、さっき確認したばかりでしょ」
言い終わってから、自分でもどこかおかしいと思った。
だが今は言葉の矛盾を反省している時間はない。戦術席の引き継ぎ画面はすでにジェスの方へ切り替わっており、私はメインの監視権限を一気に彼女へ投げ渡し、上着を掴んで一歩下がった。
真紀が突然、私を呼び止めた。
「シモ」
……この人間は、こういう時に私の名前を呼ぶ。本当に反則だ。
私は振り返った。
彼女は立ち上がらず、副長席に座ったままだったが、全身がひどく張り詰めていた。白い制服の肩の線は一糸の乱れもなかったが、その視線はさっきのどの瞬間よりもまっすぐだった。
「裂け目の右下、第三層の折り目」
彼女は言った。
「あれはノイズじゃない。折り返しよ。入る時、あそこには近づかないで」
私は一瞬、呆然とした。
そしてようやく気づいた。彼女はただの戦術的な助言を付け加えたのではない。
彼女が唯一許容できるやり方で、「死ぬな」という一言を私に無理やりねじ込んできたのだ。
「分かった」
私は言った。
ジェスがそこに割り込んできた。相変わらず一発殴りたくなるような口調だったが、語尾には、認めたくはないが私にも分かるほどの緊張が混じっていた。
「もし本当にあの犬を引きずり出せたら、今日からあんたへの文句を少し減らしてあげるか考えてもいいわよ」
「結構よ」
私はハッチを開ける前、最後にもう一度彼女を見た。
「あんたはいつも通り鬱陶しいままでいて。その方が安心するから」
「……ふざけんな」
よろしい。
これでいい。
もしジェスまで急に優しくなったりしたら、私は自分がすでに死んでいるのではないかと疑い始めるところだった。
私は振り返り、艦橋の後方へ向かって早足で歩き出した。背後でドアが開き、そして閉まった。警報灯はまだ点滅し、艦内の通路は全艦加圧時特有の低い唸り声を上げていた。雪風全体が歯を食いしばり、この一息で自分を支えようとしているかのようだった。
私の頭の中に残っているのは、さっきメインスクリーンに映っていた、ねじれた切断面の最後の画像だけだった。
海狼。
銀河帝国軍の猟犬。
そっちが完全に出てこないつもりなら。
私がこの手で、引きずり出してやる。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




