139.狩る者と狩られる者 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
私が言い終わった直後、艦橋に落ちた一秒の沈黙は、さっき左舷三番気閘艙が内破した時よりも居心地が悪かった。
皆が私の言葉に同意しなかったからではない。
まったく逆だ。私が正しいと言っていると、全員が分かってしまったからだ。
今の私たちは確かに、空気に向かって拳を振っている。
雪風の拳が軽すぎるからではない。
戦術席の私が今日特別に運が悪いからでもない。
問題は――そいつが、自分自身の体を私たちの次元に完全には入れようとしないことだ。
ほんの少しだけ差し出す。
気閘艙を一つ噛み潰すのに十分な分だけ。
そしてまた、引っ込める。
極めて恥知らずで。
極めて有効なやり方だ。
「少し考えさせろ」
艦長代理は、メインスクリーン上でまだ左後方をゆっくりと滑っている異常軸線を見つめながら言った。氷の底の水のように低い声だった。
私は何も返さなかった。
こういう時、一番愚かなのは「自分もすぐに何か言わなければ参加していることにならない」と勘違いする人間だ。
今の雪風に一番いらないものは、勇気ではなく、無駄話だ。
アカリはまだ異常な変位を追っていた。蘭はノイズの空洞と背景星光の切れを何層もの半透明な観測膜として重ね合わせ、宇宙そのものの皺の中から、猟犬の歯形をどうにかして描き出そうとしていた。アイダは『神風』の超伝導拘束環の温度を睨みながら、同時に三番気閘艙の損害管制結果を新しいダメージ図として引き出していた。
メインスクリーン右下、真っ赤に染まった艦内破壊の模式図は、雪風が自分の肉を誰かにえぐり取られたように見えた。
……本当に、不格好だ。
「『神風』冷却、残り一一分二〇秒」
アイダが言った。
「追加報告。三番気閘艙は『爆破された』のではありません。局所的な空間圧縮による構造の内部崩壊です。言い換えれば、そいつが次に別の場所を選んだとしても、私たちはやはりシールドで直接防ぐことはできません」
ジェスがごく小さく息を吸い込んだ。
「これ、もはや噛みつきじゃなくて、チートでしょ」
「戦場にチートなんて言葉はない」
真紀が冷たく言った。
「あるのは、自分が生きてルールを書き換えられるかどうかだけ」
ジェスは唇を曲げたが、言い返さなかった。
認めざるを得ない。真紀の言う通りだ。
そして、いかにも真紀らしい。
彼女の慰め方というのは、鋼の定規で人の背中を叩くようなものだ。理性的で、有効で、まったく可愛げがない。
艦長代理がようやく口を開いた。
「相手の最大の優位は今、火力ではなく、位置の差だ」
私は顔を上げた。
「奴は完全に頭を出さなくても、こちらに触れることができる」
艦長代理はその異常軸線を見つめて言った。
「なら、船を探すのはやめろ。奴がここに触れた時に残した痕跡を探すんだ」
……来た。
私の背筋は、ほとんど即座にピンと伸びた。
彼が私と同じことを考えていると分かったからだ。
目標を狙うのではない。
まず、網を張るのだ。
「戦術長」
艦長代理が私を呼んだ。
「はっ」
彼はメインスクリーンを見たまま、声のトーンを上げることもなく言った。だがその声は、心臓まで無意識に縮み上がるほど硬かった。
「『九三式』重力子空間魚雷を準備しろ。象限一から象限四まで、扇状に拡散投下。この空間を重力場で埋め尽くす」
いかにも彼らしい命令だったからだ――冷たく、容赦なく、正確で、一文字の無駄もない。
高次元に隠れて噛みついてくる?
上等だ。
なら、まずこの空間を、足跡を記録する灰の海に変えてやる。
「了解」
私は戦術発射パネルに手を押し当て、素早く魚雷の割り当てページへ切り替えた。
「『九三式』重力子空間魚雷、象限一から四、扇状拡散準備」
隣のジェスがすでに追従し、弾道の展開角と散布パラメータを同期して開いていた。
この時の彼女は一言の無駄口も叩かず、ただ命がけの速さで指を動かしていた。そこがいい。今の雪風で生き残っている人間は、どれほど口が悪くても、黙って仕事をするべき時は黙る術を知っている。
「一番、二番発射管、待機完了」
私は言った。
「三番、四番、待機完了」
ジェスが続いた。
アイダが顔も上げずに一言補足した。
「念のため言っておきますが、これは普通の魚雷ではありません。重力子空間弾頭が展開すると、局所区域に短時間の重力微塵網が形成されます。通常の艦種が突っ込めば厄介なことになりますが、高次元の目標が踏み込んだ場合、理論上は排斥または圧縮反応が現れます。理論上は、ですが」
私の眉がピクリと動いた。
「こういう時に『理論上は』って付け足されるの、一番嫌いなんだけど」
「どういたしまして」
アイダは言った。
「私はこういう時に、理論に過度な幻想を抱かれるのが嫌いなだけです」
非常によろしい。
この艦は相変わらず、誰一人としてまともな人間の言葉を話そうとしない。
安心できる。
艦橋が静まり返った。
リラックスした静けさではない。
全員が注意力を一本の針のように細く圧縮し、見えない怪物を突き刺す瞬間を待っている時の、あの死の静けさだ。
外の深宇宙の荒野は、相変わらず不安になるほど黒かった。
敵艦はない。
砲火もない。
私たちが堂々と撃ち返せるようなものは、何一つない。
ただあの高次元の異常軸線だけが、傷口のそばの痛覚のように、見え隠れしている。
「動きがあります」
アカリが突然、少しだけ前傾姿勢になった。
大きな動きではない。ほんのわずかな前傾だ。だが彼女にとって、この動きの幅は警報そのものが席から立ち上がったのに等しい。
「引力の波紋が再発生。方位二一〇、距離四〇〇〇。振幅変化中……いえ、信号が減衰しています」
彼女の手が素早く第二層の図を切り出し、さっきの小さな重力漏れの歪んだ波形を引き伸ばし、拡大し、重ね合わせた。その波形は、通常の艦体が移動した時に残す滑らかな尾を引いてはいなかった。むしろ、急所を掴まれながらも、さらに深みへと滑り込もうと必死にもがく蛇の影のようだった。
「クソッ」
ジェスが低く悪態をついた。
「あの畜生、さらに深い層へ隠れようとしてる」
「隠れてるんじゃない」
私は急速に薄くなっていくその歪みを見つめて言った。
「縮んでるのよ」
「違いがあるわけ?」
「あるわ」
私は言った。
「隠れるのは逃げること。縮むのは、二口目を噛む準備よ」
ジェスは黙った。
私が雰囲気を煽るために言ったのではないと、分かったからだ。
私たちは今、捕まるのを恐れて逃げる目標を追っているのではない。
自分の輪郭を掴まれかけていると知りながら、それでも近くに留まって機会を待つ度胸のある狩人と、賭けをしているのだ。
奴は、私たちがこの網を張りきれない方に賭けている。
私たちは、奴がもう一度こちらの世界に触れざるを得ない方に賭けている。
この賭けに体面などない。
あるのは、どちらが先に刃の前に手を差し出すか、それだけだ。
「艦長代理」
私は口を開いた。
「奴は接触面を回収しています。あと一秒遅れれば、散布角が今の変位ノードを包みきれなくなる可能性があります」
艦長代理に一切の躊躇はなかった。
「今だ。星野、撃て。直ちに」
私は「はっ」とすら言わなかった。
こういう時は、その一文字すら遅すぎる。
指を落とした。
「魚雷発射管、一番、二番――発射!」
私は止まることなく、もう片方の手で第二グループの発射パネルを押し込んだ。
「三番、四番――発射!」
雪風の艦体外側から、低くくぐもった四つの発射音が伝わってきた。
爽快な砲撃音ではない。精密な狩猟具が、狩人の手から暗闇の中へ平然と押し出されたような音だった。四発の九三式重力子空間魚雷が、あらかじめ設定された散布角に沿って飛び出し、肉眼では見えない深宇宙で次々と弾頭を展開させた。何もないはずの象限一から四の空間に、短時間だけ存在する重力微塵の場を力ずくで敷き詰めた。
簡単に言えば、見えない風の中に、灰を一把撒き散らしたのだ。
もしあれがまだそこにいるなら。
もしあれがまだ噛みつこうとしているなら。
もしあれに本当に質量があって、その足の一部がまだこちら側を踏んでいるなら――
必ず、何かを残すはずだ。
三秒。
五秒。
一〇秒。
艦橋は、一人一人の心臓がどれほど不格好に跳ねているか聞こえそうなほど静かだった。
ロイは艦体を立て直す動作すら最小限に抑えていた。少しでも余計に揺れれば、決定的な波紋を消してしまうと恐れているように。蘭は片手でイヤホンを押さえ、もう片方の手をパネルの縁に当て、呼吸を極限まで潜めていた。
アイダは重力微塵からのフィードバック図を睨みつけていた。普段の「全世界の効率が悪い」とでも言いたげな表情は消え、ただ冷酷なまでの集中だけが残っていた。
アカリは一番極端だった。
彼女はほとんどセンサーの中に自分の体を埋め込もうとしているように見えた。
そして、彼女が口を開いた。
「捕まえました」
声は相変わらず平坦だった。
だが平坦すぎるからこそ、その一言はかえって容赦なく響いた。
「重力網に排斥現象が現れました。方位二一五。重力場が内側へ凝集しています……いえ、これは自然な還流ではありません。実体質量が、高次元の境界上で微塵を外側へ押し出しています」
メインスクリーンの中央で、虚空に散らばっていたはずの重力微塵が変形し始めた。
見ていて非常に不快な光景だった。
それは船の輪郭ではない。
頭でも尾でもなく、艦首でも艦腹でもエンジン区画でもない。三次元の脳がホッと一息つけるような、正常な構造は何一つなかった。
それはむしろ、私たちの視界に無理やりねじ込まれた、幾何学的なバグのように見えた。
極度にねじれ、境界が絶えず変形し続ける影の塊が、重力微塵の場の中に無理やり浮かび上がらされていた。安定した前後も高低もなく、互いに反発し合うべき部分が重なり合い、ある稜線が凸になったかと思えば、次の瞬間には内側へ陥没する。この宇宙に属さないものが、最も粗暴なやり方で、ほんの小さな切断面だけを押し出されたようだった。
無理に例えるなら――
何もないはずの海面に、突然あってはならない波紋が浮かび上がり、その下に何かがいること、そしてそいつが自分の船よりもずっと上手に隠れる術を知っていることを告げられたような。
「これが奴……」
ジェスが低い声で言った。
「違う」
私はそのねじれた切断面を見つめ、背筋が冷えるのを感じた。
「これはまだ奴じゃない。奴から私たちが削り取った、ただの影の一層よ」
蘭がすでに別の解析プログラムを重ねていた。
「重力紋の照合、開始」
この怪物が、高次元の境界から私たちの世界を押しつぶした時に残した、重力の指紋だ。
数秒後、蘭が顔を上げた。
その顔に勝利の表情はなかった。
ただ、「本当はこんなこと証明したくないけれど、残念ながら事実です」という冷たさだけがあった。
「艦長代理、重力紋の照合完了」
彼女は一瞬、言葉を切った。
「銀河帝国軍、超次元潜航艦――海狼と確認」
艦橋で歓声を上げる者は誰もいなかった。
こんな時に歓声を上げる人間がいたら、さっき三番気閘艙と一緒に脳みそまで押しつぶされたのではないかと疑うところだ。
なぜなら、「見つけた」と「殺せる」の間には、ひどく不格好な命のやり取りが丸ごと一つ挟まっているからだ。
私たちはただ、自分たちに噛みついたあの犬の名前を、ようやく知ったというだけだ。
そしてその犬は今、重力微塵の網に引っかかり、高次元の狼のように網で皮を一枚削り取られ、縁をねじらせ、輪郭を揺らしている。だが、まだ本当の意味でこちらの世界に引きずり出されたわけではない。
「敵性目標を確認」
真紀の声はさっきよりも半度冷たくなっていた。
「海狼、高次元切断面の局所を顕影中」
艦長代理はすぐには次の攻撃命令を下さなかった。
彼はメインスクリーン上で変形し続ける幾何学的な影を見つめ、絶対に計算を間違えてはならないものを数えるような、沈んだ目をしていた。
彼が何を見ているのか、私には分かっていた。
「敵が現れた、よし、撃て」ではない。
彼が見ているのは――
こいつのどれだけの部分が、今、本当に私たちの側にいるのか、ということだ。
なぜなら、あの切断面に向かってただ闇雲に撃ち込んだとしても、影の層を吹き飛ばすだけで、海狼をより深い場所へ逃がしてしまう可能性が高いからだ。そしてまた、三番気閘艙と同じような挨拶を受けることになる。
それはあまりにも愚かだ。
今の雪風が最も犯してはならないのが、その愚かさだった。
私はそのねじれた輪郭を見つめていた。いつの間にか、手のひらは完全に汗ばんでいた。
怖いからではない。
いや、怖いだけではない。
ついに敵に触れたのに、その敵が自分の想像以上に「物体」らしくないことへの苛立ちだった。
あれは船ではない。
少なくとも、今はまだ。
高次元の裂け目の向こうから、牙だけを伸ばしてくる意志のようなものだ。
「……そういう顔をしてたのね、あんた」
私は低い声で言った。
ジェスが横を向いた。
「誰と喋ってるの?」
「あの犬よ」
「随分と物騒な口調ね」
「少し物騒にしておかないと、私が噛まれるのを喜んでるって勘違いされそうだから」
ジェスは少しだけ笑った。
短く、乾いた笑いだったが、確かに笑った。
そしてその瞬間、メインスクリーン上の海狼の切断面が、突然内側へ一格縮んだ。
消えたのではない。
縮んだのだ。
ここにこれ以上留まれば、もっとまともな代償を払わされることになると、奴自身が気づいたかのように。
アカリが即座に報告した。
「海狼、切断面の不安定度が上昇!重力網からの離脱を試みています――」
艦長代理がようやく口を開いた。
「よし」
その「よし」は、喜びではなかった。
狩人がついに獲物の震えを見た時の、あの冷たさだった。
そして彼は、私の方へ視線を向けた。
「戦術長」
私はほとんど反射的に背筋を伸ばした。
「はっ」
「奴をそこに押さえつけろ」
……来た。
さっきから胸の奥でくすぶっていた、あまり上品とは言えない火が、ついに本格的に燃え上がった。
この瞬間まで、雪風はただ噛まれるだけの側だった。
だがついに、私たちはあの空気の中に手を突っ込み、奴に触れたのだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




