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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
士官学校編
42/68

11. 愛の鞭 4

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

クラス全員が後ろへ下がって、整然とした冷血な半円を作った。全員の表情が真剣で、授業を受けているというより、合法的な公開処刑を観覧しに来たような顔だ。理解はできる。人間の劣根性の一つとして、他人が先に不運に見舞われるのを見たとき、「よかった、今のところ自分じゃない」という低コストの幸福感が生まれるものだ。


カールが合金の腕を一本持ち上げた。


「基本ルールだ」と彼は言った。「攻撃してもいい。防いでもいい。躱してもいい。離脱してもいい。唯一許されないのは、俺が手加減すると期待することだ」


「連邦の子育て方針みたいですね」


「始め」


カウントダウンなし。


構えなし。


「よろしくお願いします」もなし。


そのまま、来た。


突進じゃない。自分で加速できる壁が、こちらと物理的に深い関係を築くことを決意したような動きだ。カールの右肩が沈み、左手がフェイントで上へ、本命の攻撃は下半身から切り込んでくる。速すぎて、脳内で罵倒の下書きを作る時間しかなかった。


本能で半歩後退し、両腕を交差させて受ける——


ドン!


受けた。


そして飛んだ。


誇張じゃない、本当に宙に浮いた。高重力のせいで一キロ一キロがいつもより憎たらしいのに、カールの一撃はそれを無視してまるごと私を地面から引き剝がした。「受けたつもりが、より完全な形で一発もらっただけ」という実演だった。


着地して半回転し、肘が粗い床面を擦った。痛みで目尻が引きつり、連邦の軍事教育体系全体に向けた長大な追悼演説を、その場でぶち上げたくなった。


「直線的すぎる」カールが言う。


「あんたの振り方も直線的すぎるだろこの暴力教材!」


「生きていてこその文句だ。修正価値がある。もう一度」


追い打ちに来ることすらしない。


ただその場に立って、私が自分で起き上がるのを待っている。


それが一番腹立つ。


さっきの一撃が、追撃する価値もないと判断されているということだからだ。「ちゃんと殴られている」段階にすら達していない。単なる初期テスト用の消耗品扱いだ。


口の中の血の味を吐き捨て、もう一度立つ。


「もう一度でもなんでも」口元を拭って顎を上げる。「今日壁にめり込んでいるのは私じゃないんで」


「さっきの一発を、すぐに懐かしく思うことになる」


「そんな教育的コメントを通知表に書いたら、保護者が銃を持って学校に来ますよ」


カールは答えなかった。


足が動いた。


今度は見えた。


動作全体じゃない。ごく小さな予兆だ——右足の外側がかすかに床を押し、重心が私の顔面ではなく、左肩の空いたスペースへ切り込もうとしている。頭で考えきる前に身体が先に横へ縮んでいて、合金の腕が耳をかすめて通り過ぎた。その風圧だけで前髪が一センチ短くなりそうだった。


最初の一撃を躱した。


よし。


喜ぶ暇もなく、二撃目が来た。


カールはそのまま腰を回し、膝が私の側腹へ直接入った。


「っ——!」


痛みじゃない。臓器が一斉に有給申請を出した感覚だ。


全身が折れ曲がり、走馬灯が目の前をよぎりかけた。胃を拳で掴まれたみたいで、肺の空気が情けない詰まった音になって搾り出される。二歩よろめいて、膝をつきかけて、高重力と暴力の合同作業で涙腺まで刺激された。


「遅い」カールが言う。


「お前は——」腰を曲げながら息を吸う。「チタン合金製の家庭内暴力教材か」


「立て」


「若くて可愛い少女の最後の尊厳を、今必死に維持しているところです!」


「尊厳は拳を防いでくれない」


「人の尊厳を破壊する方法だけは、やたら詳しいですね!」


罵倒しながら、身体を立て直す。


側腹が痛い。


背中も痛い。


腕も痛い。


全身の所有権を、重力と金属に半分ずつ持っていかれたような状態だ。


でも、この労働基準監督署に訴えたいレベルの痛みの中で、私はある感覚を掴み始めていた。


カールの動きは、でたらめじゃない。


一撃ごとに起点がある。


肩のライン、腰の回転、重心の移動、足裏が床を押す角度、そして合金の腕が起動する直前、関節の隙間からごく細い機械的な噛み合い音がする。


短い。


普通の人間には、ただの環境音に聞こえるくらい短い。


でも私は普通の人間じゃない。


第一特別運用科で電気を流され、注射を打たれ、高Gで脳を攪拌され、博士に高価なサンプルとして神経系を整理された、とことん不運な奴だ。身体はボロボロだが、少なくともいくつかの部分は、以前より確かに速くなっている。


……代償は人生の質だが。


三ラウンド目。


カールの直拳が来たとき、今度は手で真正面から受けなかった。半歩引いて肩のラインを縮め、一撃を訓練着の表面に沿わせながら、右手で彼の前腕の内側を叩いて力線を外へ逸らす。


パン!


半分成功した。


拳の軌道は逸れた。でも腕そのものが小型の攻城槌みたいな重さで、かすっただけで腕全体が痺れ、掌骨に高速列車にキスされたような衝撃が走った。


でも飛ばなかった。


それが重要だ。


飛ばなければ、一方的な被害ではない。


自分に精神的な拍手を送る暇もなく、カールのもう一方の手が喉へ伸びてきた。今度は一歩早く頭を下げて潜り込み、胸元の死角へ滑り込んで、膝を内腿へ打ち込み、肘を脇腹へ叩き込んだ。


カン。


……ああ、そうだった。


この人、六割は合金だ。


肘が痺れて感覚を失い、心の中で文明的な罵倒が一連流れた。


でもカールが、本当に半拍止まった。


その半拍だけ。


彼が見下ろし、私が見上げる。互いの距離が近すぎて、金属マスクの縁についた細かい摩耗の傷まで見えた。


「少し面白い」と彼は言った。


「ありがとうございます」歯を食いしばって後ろへ飛び退く。「軍用自動ドアに肘打ちを食らわせる勇気、自分でも大したものだと思います」


教室の後方から、抑えきれない忍び笑いがいくつか漏れた。


よかった。


少なくともコメディアンとしての才能は残っている。


特戦営に返品されたら、トークショーに転職できるかもしれない。タイトルは『連邦に合法的に殴られた日々』で決まりだ。


カールは笑い声を制止しなかった。


ただ左手首を回して、合金関節が細かく調整音を立てた。


そして次のラウンドは、前より速く始まった。


直拳。


肘打ち。


膝蹴り。


掴み。


投げ。


世界が、短くて、硬くて、理不尽な暴力の断片に変わった。毎秒、躱す。毎秒、痛む。毎秒、高重力の中で「人体はこの角度からも教育できる」という事実を学ぶ。


一分目、多少口が達者なサンドバッグ状態。


二分目、少なくとも「あまり完璧に殴られない方法」がわかり始めた。


三分目、本当に少しだけリズムを掴んだ。


勝てるわけじゃない。


夢を見るな。


この戦争冷蔵庫に勝てるようになるまでには、文明一段階分くらいの差がある。


でも少しずつわかってきた——カールの攻撃は、解けないわけじゃない。


ただ、清潔で、速くて、重くて、こちらに同情しないだけだ。


踏み込むときは必ず重心を落とす。


喉を狙うときは、左肩が右肩より先に沈む。


合金の腕で直接こじ開けてくるときは、マスクの下方に一瞬の赤い照準光が走る。


四度目の交手で、それが見えた。


左目の奥で、赤い光が一閃した。


感情じゃない。


殺意でもない。


義眼の補助システムが焦点を合わせているような光だ。


その閃きは短く、タイミングも絶妙だった——私が半歩早く動いて、彼の組み付きを躱した、まさにその瞬間に。


肘の外側から滑り抜けて、靴底が床を鋭く鳴らし、ほとんど地面に貼り付くような体勢で転じながら、逆手で彼の手首を外へ押し出した。


今度は躱しただけじゃない。


軌道を逸らした。


カールの一撃が空を切った。


小さかった。


でも、確かに空振りだった。


教室が、また一瞬静まり返った。


私自身も、〇・何秒か固まった。


……え?


今私、この機械化暴力教材の攻撃を、本当に空振りさせたのか?


カールが体勢を戻し、ゆっくりとこちらへ振り向いた。


半分金属のその顔に、表情は読めない。でも左目の奥の赤い光が、もう一度ごくわずかに揺れた。


あれに「驚き」という機能があるとしたら、今のがそれだろう。


ああ。


なるほど。


この鉄くず怪物も、最初から私を壁に叩きつける専用の的だと決めていたわけじゃないらしい。


息を切らしながら立ち直る。足は震えて、手は痺れて、側腹はまだ鈍く痛んでいる。それでも口の端が勝手に上がった。


「どうですか、教官」息を切らしながら、いやらしく笑う。「若くて可愛い女の子をこんな場所に連れてきて機械人間と殴り合わせるの、少し勿体なかったと思いませんか」


カールは私を見た。


「いや」と彼は言った。


次の瞬間、もうそこにいた。


「今確認できた——お前には、武器に仕上げる素材がある」


ドン!


今度も吹き飛んだ。肩から地面を転がって、痛みで惑星の家系図を呪いたくなった。でも転がりながら、ちゃんと衝撃を逃がせた。さっきみたいに壁に全力で叩きつけられることはなかった。


半膝立ちになって顔を上げる。胸が燃えるように上下している。


カールはそこに立って、私を見下ろしていた。電子音は相変わらず天気予報みたいに平板だ。


「それが要点だ」


一本指を立てる。


「勝つことじゃない」


二本目。


「耐えることでもない」


三本目。


「生きたまま、相手が読めるようになるまで持ちこたえることだ」


ゆっくりと立ち上がる。膝はまだ震えているが、頭はさっきより澄んでいた。


そうだ。


これだ。


ここは格好よく見せる場所じゃない。


初日に奇跡の逆転劇を演じて、二メートルの生体改造教官を踏みつけ、熱血BGMを流す場所でもない。


連邦はそんなにロマンチックじゃない。


ここが求めているのは——


そんなに早く死ぬな。


まず余分な打撃を二発減らせ。


そして少しずつ、二発減らした分を、一発の反撃に変えろ。


奥歯を舌で確認する。まだ少し鉄錆の味がする。


それからカールを見て、ひとつ笑った。


「わかりました」


「言え」


「まず死なない」手を振って指の痺れを払う。「それから、相手を先に死なせる方法を考える」


教室が静まった。


カールは私を見た。左目の赤い光は今度は揺れず、ただ静かにそこにある。


数秒後、彼は一度頷いた。


小さかった。


錯覚かと思うほど小さかった。


「ぎりぎり合格だ」と彼は言った。


……ああ。


この評価、思ったより高い。


高すぎて、一瞬だけ、情けないことに少し気分が上がった。


だめだ。


こんなのはだめだ。


自分を壁に叩きつけた鉄くず野郎に頷いてもらって、一糸の嬉しさを感じるなんて、これは軍事特訓版のストックホルム症候群じゃないか。


内心の少女人格が、即座に抗議のプラカードを掲げた。


でも口の悪いベテラン兵士人格の方が一歩速く、そのプラカードを引き千切った。


カールが身体を向けて、クラス全員を見渡した。


「見たか」電子音が全員の耳に叩きつけられる。「彼女が強いわけじゃない」


私を指差す。


「お前たちより先に、顔で全部受けるのをやめただけだ」


……くそ。


侮辱的だ。


でも正確だ。


しかも腹立つことに、教育的だ。


誰も笑わなかった。


さっき笑いを堪えていた連中まで、遺影用の顔を作って黙っている。


カールが再び私を見た。


「星野」


「はい」


「横で見ていろ」


少し固まった。


「え、急に良心が痛みましたか」


「違う」と彼は言った。「他の連中がもっと馬鹿な失敗をするのを見せてやる」


……。


なるほど。


これが正しい。


これが連邦特戦営の正しい温度感だ。


全身がバラバラになりそうな骨を引きずって場の端に退き、壁に背を預けて立つ。さっきぶつかった場所がまだ抗議の声を上げていて、呼吸もまだ完全には整っていない。でも目はもう、自然とカールの動きを追い始めていた。


肩を見る。


腰を見る。


足を見る。


あの合金の腕が、いつ起動するかを見る。


そして自分の中でははっきりわかっていた。


さっきの授業は、まだ始まりじゃなかった。


あれはただ、カールが最も単純で、最も直接的で、最も人権を無視したやり方で、一つの事実を私の骨に刻み込んだだけだ。


ここでは、口が悪くてもいい。


従わなくてもいい。


血を流しながら罵ってもいい。


でも、学ぶのは速くなければならない。


さもなければ次に玄武岩の壁に張り付くのは、背中だけじゃ済まない。


私は全身バラバラになりかけた骨格を引きずって場外へ下がり、壁にもたれて立った。さっき叩きつけられた背中がまだ抗議しているし、呼吸も完全に整ってはいない。だが、私の目はすでに無意識のうちにカールの動きを追っていた。


肩。


腰。


足。


あの忌々しい合金の腕が、いつ動き出すか。


よくわかっていた。


さっきの一幕は、まだ授業開始ですらない。


カールが、最も簡単で、最も直接的で、最も人権無視なやり方で、一つの事実を私の骨に叩き込んだだけだ。


ここでは、口が悪くてもいい。


反抗してもいい。


血を流しながら罵ってもいい。


ただし、学ぶ速度だけは落とすな。


さもないと、次に玄武岩の壁に貼りつくのは——


背中だけじゃ、済まない。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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