137.墓標船 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
敬礼が終わり、最初に戻ってきたのは声ではなかった。
仕事だった。
艦長代理が手を下ろしたその瞬間、艦橋を覆っていた、呼吸すら遠慮させるような静寂は、すぐには消えなかった。ただ、切れ目が入った。まだ完全には溶けていない氷のように、命令によって最初の亀裂が走り、全員がその亀裂に沿って、黙ってそれぞれの持ち場へ戻っていった。
私は席に戻り、手を戦術台に置いた。
指先がパネルに触れた瞬間、自分の手のひらが少し冷えていることに気がついた。
怖かったからではない。
さっきの「帰る道が見つけられない」という声がまだ耳の中で回っているから、というわけでもない――いや、正直に言えば、多少は回っている。あの言葉は魚の骨のようなものだ。大きくはないが、刺さった場所がひどく悪い。飲み込むこともできず、吐き出すこともできず、仕事をしながらずっと、刺さっていないふりをするしかない。
雪風の艦橋はプロフェッショナルだ。
刺さっていても、仕事を先に並べる。
「針路、正常を維持」
ロイが最初に口を開いた。さっきより少し低い声だったが、安定していた。
「《テキサス》との相対距離、拡大中。円盤外縁のデブリ流に異常な偏向なし。本艦、残骸軌道への進入なし」
「記録完了」
アカリが言った。
「KX-03《テキサス》喪失墓標、本艦の航行図への書き込み完了。相対星位、円盤陰影座標、双子巨星の参照角、すべて封存済み。連邦への報告時には直接呼び出せます」
アカリの声はやはり平坦だった。たった今、全艦と一緒に二百年前の墓船へ黙礼を捧げてきた人間の声とは思えないほどに。
ある意味、私は彼女が羨ましかった。
冷静さが羨ましいのではない。その冷静さをこれほど澄んだ形で使えることが、羨ましかった。
「残存信号、封存完了」
蘭は最後の音声トラックを暗号化アーカイブに収め、一拍置いてから付け加えた。
「読み取り専用の副本を別に作りました。今すぐ使うためではありません。連邦が受け取った後、いつか手が痒くなって、教科書向きの、もう少し体裁の整ったバージョンに書き直したくなった時のための保険です」
私は蘭の方を振り向いた。
軽い口調だった。冗談のようにも聞こえた。
だが、その刺は本物だった。
なぜなら、誰もが知っているからだ。歴史が最も得意とすることは、人を記憶することではなく、人を整えることだ。救難信号を「消息を絶つ」に直し、絶望を「犠牲」に変え、「帰る道が見つけられない」という一言を「任務中止、名誉の戦死」に書き換える。
言葉はきれいになる。
人は消える。
「原本は保存しておけ」
艦長代理が言った。
「すでに保存してあります」
蘭は素早く返した。
「三重にロックをかけました。私ごと主機を解体でもしない限り、手は届きません」
「それは工数が多すぎる」
アイダが淡々と言った。
「勧めません」
……なるほど。これが雪風だ。
他のクルーなら黙礼の後、うつむいて考え込むか、窓の外を見上げるか、「人生は長く宇宙は広い」といった台詞の一つでも口にするだろう。
私たちは違う。
歴史と一緒に三十秒泣いたかと思えば、次の瞬間には連邦の文書システムが死者の遺言を行政公文に書き直さないための対策を話し合っている。
冷酷で、それでいて妙に人間くさい。
説明するのは難しいが、今はこれが、この艦の性分なのだと思い始めている。
「技術面、正常」
アイダは監視板から目を離さないまま言った。
「『神風』出力安定。超光速主コイルは観測のための減速で余分な負荷を受けていません。艦内の放射線値、ガス循環、生化学指標、すべて正常。《テキサス》は今のところ、私たちをあの世へ送り込んでいません」
「無事の報告を毎回、危篤通知みたいに言ってくれてありがとう」
ジェスが小声で言った。
「どういたしまして」
アイダは顔も上げなかった。
「本当に危なくなったら、もっと優しい口調で伝えます」
ジェスは二秒ほど黙った。
「星野、この艦で一番危険なのは宇宙じゃなくて技術長かもしれない」
「今頃気づいたの?」
私は前方のメインスクリーンを見たまま、できるだけいつも通りに聞こえるよう声を整えた。
「あんたの危機察知能力、《テキサス》のナビゲーションシステムより遅いわよ」
「それはちょっとひどいわね」
「技術長があんたの死亡通知を予約してくれてるのに、私はまだ十分優しいわよ」
ジェスは横を向いて私を見た。口元が動いた。笑いたいのに、今笑うと目立ちすぎると思っているらしく、無理やり堪えて奇妙な表情になっていた。
正直、私もほぼ同じ状態だった。
これが黙礼の後の一番面倒なところだ。
悲しみではない。
悲しみはむしろ単純だ。
本当に厄介なのは、胸の中にまだ何かが沈んでいるのに仕事は止められなくて、感情が肋骨の間に挟まったまま上にも下にも動けず、最終的に笑いたいような、ため息をつきたいような、どちらでもない何かになってしまうことだ。
みっともない。
だが、本物だ。
「副長」
艦長代理が口を開いた。
「はっ」
真紀はずっと背筋を伸ばして座っていた。敬礼の時にあったあの、ほとんど見えないほどの緊張も、今はすでに制服の中に仕舞われていた。この人間のすごいところはそこだ。刺さらないのではない。刺さった後も、その切り口を制服の下に押し込んで、何事もなかったような顔ができる。
頼もしい。
そして腹立たしい。
「今の黙礼の手順と全艦の状態を、まとめて航程備忘録に記録しろ」
艦長代理は言った。
「付記事項:本艦は接近せず、乗艦せず、干渉的作業は一切実施しなかった」
「承知」
真紀は素早く入力しながら、口調を変えずに付け加えた。
「追記を提案します。墓船の座標は標識済み。連邦が今後、回収または調査を行う場合は、別途専任チームを編成すること。本艦は引き受けない」
「付けておけ」
「はっ」
二人のやり取りを聞きながら、私はふと、奇妙な気持ちになった。
二百年前、ある船が暗闇の中で助けを求めた。
二百年後、別の船が彼女に敬礼し、「本艦は引き受けない」と備忘録に書いた。
前後の文脈を取り除いて単独で見れば、冷血以外の何物でもない。
だが私には分かっていた。これが今できる、最も正しい答えだ。
応えるということは、必ずしも死者を棺から引き出すことではない。
時に応えるとは、ただこう言うことだ。見た、と。
死んだ、と。
それを証明するために、生きている人間をまた犠牲にはしない、と。
それが、生者にも死者にも、本当に誠実な答えだ。
「戦術区、円盤陰影の危険説明をまとめろ」
艦長代理の視線が私のところへ来た。
「連邦が回収艦を派遣する時に、後から来る人間があそこをただ景色のいい古代の墓地だと思わないよう、念のためにな」
「了解」
私は《テキサス》周辺のデブリ流、双星の重力擾乱、陰影区域の死角、残骸の再散乱リスクを一項目ずつ説明フレームに引き込んだ。戦術図の上の白線は冷たく、細く、プロフェッショナルだった。プロフェッショナルすぎて、少し笑いたくなるほどに。
さっきまで失敗した先行艦へ敬礼していたのに、今はもう、将来そこへ近づく人間のために「ここは危険です、触らないでください」と書いている。
情緒もない。
でも、これが雪風だ。
書いている途中で、右側から手が伸びてきて、指の関節が私の端末パネルの左下隅を軽く叩いた。
横を向いた。
真紀がいつの間にか自分の仕事を一部片付け、半身こちらへ向けて、私の報告書を見ていた。
「ここ」
彼女は一つのリスク注記を指さした。
「デブリ流の周期は双峰型に直しなさい。単峰じゃない。さっき《テキサス》が通っていた陰影角は単純な静止区域じゃなくて、円盤外縁と双星の潮汐が一緒に挟み出した構造よ」
私は彼女が指した箇所を見て、一拍止まった。
……そうだ。
彼女の言う通りだ。
腹立たしい。
「分かってる」
私は意地を張った。
「あんた、まだ直してなかった」
「今、直すところよ」
「ふうん」
「その『ふうん』が一番腹立つ」
真紀がようやく私を見た。その目は笑っていなかったが、いつもよりわずかに柔らかかった。わずかに、だ。氷の下に自分を隠していた人間が、うっかり表面に亀裂を一本走らせてしまったような柔らかさだった。
「星野」
彼女は低く言った。
「あんた、さっき上の空だった」
私の喉がわずかに引き締まった。
「なってない」
「なってた」
「なってない」
「あの船を見すぎていた」
……この女は。
副長の職能の一部を、私の顔の上に配置したのではないかと本気で疑いたくなる。でなければ、私が数秒ぼんやりしていたことまで捕捉できるはずがない。
「あんたはどうなの」
私は声を落として返した。
「あんただって、同じくらい見てたでしょ」
真紀は半秒黙ってから、静かに言った。
「だから今、仕事をしている」
私は危うく彼女に言い負かされるところだった。
腹立たしい。
そして最も腹立たしいのは、彼女がやはり正しいということだ。
ジェスが隣で自分の副手監視板を忙しそうに叩いているふりをしていた。だが耳だけはとっくにこちらへ伸びてきていると分かっていた。この女を情報将校にしないのは、宇宙規模の人材の無駄遣いだ。
「戦術副手」
私は表情を変えずに言った。
「はい」
ジェスが素早く応じた。
「もう一度盗み聞きしたら、円盤流速の二次校正を全部あんたに回すから」
「盗み聞きじゃないわよ。職場の空気に乗って流れてきた有効情報を共有してただけ」
「その空気を今すぐ精簡する」
ジェスはすぐさまうつむいた。
「はい、戦術長。了解です、戦術長」
……まあ、賢明な判断だ。
前方のメインスクリーン上で、《テキサス》の標識はすでに極細の白い点に縮まり、星図の左後方に引っかかっていた。補われた句読点のように。双子の青い巨星はまだ燃えていて、原始惑星系円盤もまだそこにあり、ゆっくりと回り続けていた。宇宙は古い船がようやく誰かに見つけてもらったからといって、半秒も立ち止まらなかった。
それは普通のことだ。
残酷でもある。
だが不思議なことに、私はそれでかえって少し楽になった。
宇宙すら止まらないなら、まだ生きているこの艦も、止まってはいけない。
「全艦の状態報告、アーカイブ済み」
真紀が言った。
「元の航態を維持」
艦長代理が命じた。
「第一段超光速安定期を継続。十分後に全体の圧力複核を一度実施する」
「はっ」
一連の応答が艦橋のリズムを元へ縫い戻した。
私はうつむき、戦術図の右下に自分が今補った一行の注記を見た。
KX-03《テキサス》喪失墓標。接近禁止。
冷たい。
公文書のように冷たい。
だが、その一行を見つめながら、私はこれが私たちに今できる、最もまともなことの一つだと思った。
彼女を引きずり出すことではない。
遺骨を暴くことでもない。
彼女の死を使って、きれいな報告書を一本書くことでもない。
後から来る人間が近づく前に、ここに何が眠っているかを知らせること。
私は息を吸い、最後のリスク注記を送信した。
「戦術説明、完了」
艦長代理は頷いた。
「よし」
その「よし」は短く、何の変哲もなかった。
だが聞いた後、胸の中に引っかかっていた棘が、少しだけ下へ移動した気がした。
消えたわけではない。
ただ、呼吸の上にぴったり乗っていた位置から、少しだけずれた。
その時、ジェスが私にしか聞こえない声でごく小さく言った。
「星野」
「何よ」
「もしいつか私たちが本当にギリギリになったら、最後まで減らず口を叩いてよね」
私は眉をひそめて彼女を見た。
「何それ」
ジェスは前方のメインスクリーンを見たまま、口元を動かさずに言った。
「最後に『だから言ったでしょ』って言われたくないから」
私は半秒止まり、それからほとんど反射で返した。
「安心しなさい。そういう時でも、最初の一言は絶対にそれよ」
ジェスはようやく笑った。
短く。
誰かに見られるのを恐れるように、短く。
私も口元が少し動いた。それから視線を前へ戻した。
雪風はまだ進んでいた。
この一分間、技術的には何も起きなかった。
新たな敵艦もなく、システムの故障もなく、超光速の不安定化もなく、誰かが突然テーブルを叩いて命令に逆らって乗艦すると言い出すこともなかった。
だが、何も起きなかったこの一分間こそが、さっきの黙礼の重さを本物にした。
なぜなら私たちは全員、知ってしまったから。
本当に帰れなかった人がいたことを。
今こうして前へ進めていることが、当たり前ではないことを。
だから、この一分間が過ぎた後でようやく、雪風はあの古い船を本当に後ろへ置いてきたと言えた。
忘れたわけではない。
あの船が残した言葉を胸に持ったまま、前へ歩き続ける、ということだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




