133.狂暴な惑星 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
全地形車両は、雪風に吐き出された金属の歯のように、あの青白く光る狂った惑星に深く噛み込んでいった。
メイン画面は最初の一秒で、カメラが壊れたのかと思わせるレベルだった。
揺れているのではない。
世界全体が歪んでいた。
映像の中の空は、もはや空というより、見えない巨大な手に何度も絞り上げられているガラス板のようだった。青白い重力裂帯がいく筋も高空を横切り、遠くの地平線は弧ではなく、息をする波のように高低を繰り返していた。まるで惑星全体の骨格が、地の底で寝返りを打っているように。
「大気圏突入」Dの声が公共チャンネルから聞こえた。いつも通り短い。言葉を一つ増やすごとに料金が発生するみたいな短さだ。
次の瞬間、車両前方カメラの視界がぐっと下へ沈み込んだ。
墜落ではない。
重力が突然重くなったのだ。
目の前の数値列が、誰かに一蹴されたようにひっくり返る。〇・八、二・一、三・八、また一気に〇・四まで落ちる。まるでハーヴィーが濃縮コーヒーを三杯あおった後にピアノを弾いているような跳ね方だった。
「重力場乱流、第一層に突入!」アカリの声がわずかに強ばる。「シモ、右側裂帯が溢れてる。元の軌道、ずれる!」
「見えてる!」
私はほとんど叫ぶように返し、指を飛ばして二つのモデルを重ねた。
この惑星、本当に頭がおかしい。
毒で人を殺すタイプでも、焼き殺すタイプでもない。物理の教科書を書いた教師が見たら、その場で職を辞したくなるタイプの病気だ。
画面右上の重力流線が変形し始める。さっきまでは川のようだったものが、今は子どもがぐちゃぐちゃに塗りたくった青い毛糸玉のようになっている。その中で突然輝き始めた一本の裂流を拡大した瞬間、胸が少し沈んだ。
「第一梯隊、右へ五度!三度じゃない、五度!今すぐ!」
Dは一切余計なことを言わず、車両は瞬時に側面へ切り込んだ。
メイン画面が大きく横に振られ、私は椅子ごと横滑りして、副操縦席に頭をぶつけかけた。隣のジェスが、感心できないほど効率よく私のカップと、飛びかけた資料パネルを同時に押さえてくれた。
「ありがと」
「どういたしまして。艦長代理が先に艦橋で転げ落ちたら、後で説明が面倒だから」
「その一言で、どうして毎回こんなにちゃんとむかつかせながら役に立てるの?」
「才能」
彼女は当然のように答えながら、手は止まらなかった。通信遅延と重力微粒の干渉データを、次々に私のメインウィンドウへ重ねてくる。この女、今日に限って静かすぎる。口の悪さまで工具の一つみたいに必要最小限に絞ってきて、逆に落ち着かない。
車両が再び正姿勢に戻った瞬間、真紀の声が入ってきた。
「右前方、浮遊岩塊」
彼女の調子は安定していた。安定していて、まるで朝食のメニューでも読み上げているかのようだった。
それでも私は、その声を聞いた瞬間、情けなくも一拍遅れた。
……本当に情けない、中尉星野 シモ。昨夜からもう何時間経ったと思ってる。誰かに再起動ボタンを押されたシステムみたいに不安定でいてどうする。
「見えてる」私は無理やり注意を映像に引き戻した。「D、下から潜るな。左側を擦って抜けろ。三秒後にあれ、落ちる」
「了解」
彼の返答とほぼ同時に、車両前方の巨大な浮遊岩塊が一気に輝き始めた。
反射ではない。
自分で光り始めたのだ。
岩層の隙間から青白い光が滲み出し、中に小さな太陽でも目を覚ましたみたいだった。すぐ後に、その岩塊全体が見えない力に握り潰されたように、半空で炸裂して無数の光る破片を撒き散らし、嵐の流れに沿って横滑りしていった。
Dの反応が半拍遅れていたら、私は今ごろ第一梯隊の骨をどうやってきれいに仕分けるか考え始めていたところだろう。
私は息を吸い、背中に冷たい汗がにじむのを感じた。
これでまだ、大気圏に入ったばかりだ。
この惑星は、まだ本気の見せ場すら出していない。
「高度一四〇〇、外殻圧力上昇中!」アカリが息継ぎする暇もなく数値を読み上げる。「低Gウィンドウは維持。でも主裂帯が予定より南へ偏移!」
「シモ」アッシュの声が入ってきた。「新しい進入点を出せ」
私は画面を睨み、瞬きさえ惜しんだ。
活性インジウムの噴泉帯がすぐ前にある。巨大な青い光柱がいくつも地表から天空へ突き刺さっていた。鉱石というより、誰かが地の底から注射器で引き抜いた発光する神経みたいだった。
鉱区の周りには、半分浮いた岩片、歪んだ金属光沢の紋路、「地面のように見えるもの」が大量に転がっていた。だが今の私は、地面のように見えるものを何一つ信じない。
右側の重力曲線が持ち上がり始めた。
上がるのではない。
ひっくり返ろうとしている。
津波が波を巻き上げるように、エリア全体を持ち上げようとしていた。
「B-2に変更!」私は即座に叫んだ。「A区の主噴泉には入らないで。右側山稜の下に二次鉱脈がある。輝度は十分、地表もまだマシ!まず活性インジウムを確保。嵐晶体は次の嵐ピークまで後回し!」
「了解」アッシュは言った。
だからこそ私は今、艦橋にいて、下で重力と取っ組み合いをしていない。
うんざりするが、その通りだ。
私がどれだけ不満を持っていようと、アイダが私を橋に押さえつけたのは間違いではない。こんな場所で現場指揮官とブリッジの判読要員が同時に惑星に振り回されたら、雪風の次のタイトルは『全員安らかに宇宙遊泳』でいい。
車両が眩しい重力ダストの層を突き抜けた。
カメラ映像が一瞬で砂嵐に変わり、画面を埋め尽くす青白いノイズは、誰かが光る砂利をバケツごとレンズの前にぶちまけたかのようだった。ジェスはすぐに干渉抑制を最大に上げ、さっきより低い声で言った。
「重力微粒が激増。映像は断続的になる。星野、メインカメラだけ見てないで、車両の底部センサーも見て」
「分かってる」
「注意喚起であって、揶揄じゃないから」
「……今日のあなた、本当にジェスらしくない」
「それがお好みなら、全員が生きて帰ってから元に戻る」
その一言は軽かった。ほとんど冗談みたいに。
でも私は、なぜか一瞬だけ黙ってしまった。
返事をする前に、メイン画面が再び鮮明になった。
そして私は「地面」を見た。
いや、この惑星流の「地面」だ。
鉱区全体が、神に一度壊されて適当に組み直された青い廃墟のようだった。巨大な純フェライトの柱が斜めに地面に突き立っており、なかには半分だけ地表に残り、残り半分がゆっくりと空へ浮かび上がっているものもあった。
地面の亀裂からは刺すような青い光が滲み出し、活性インジウム鉱脈が血管のように岩の下を流れていた。そのたびに周囲の瓦礫がふわりと浮き、また落ちる。
そして私は、「活性染み」を見た。
発光している岩肌の縁に、あの暗い青黒い膜のようなものが伏せていた。濃すぎる油膜のようでもあり、何かをぺしゃんこに叩き潰したもののようでもあった。表面が動いていた。風に吹かれてではない。あれ自身がゆっくり収縮と膨張を繰り返していた。まるでこの惑星の重力を使って呼吸しているかのように。
胃が一気にむかついた。
「……正式に宣言しておく。私はこういう『まだ生きているかのように見える床』が一番嫌いだ」
「記録しました」ロイが近軌道チャンネルから真顔で言った。「帰還後、星野中尉の禁忌地形リストに追加します」
「『飛ぶ山』も追加して」
「それで二ページ埋まるね」
車両が減速を始めた。
Dは車体を極端に低く抑え、半浮遊状態のフェライト斜面を擦るように滑っていった。金属の底板が瓦礫を掠める度に甲高い摩擦音が響き、外部視点は今にも車体全体が惑星のビンタ一発で飛ばされそうに見えた。
「着地カウントダウン」アッシュが言った。
「待って」私は重力シーケンスを睨んだ。「踏み抜くな!地表値が跳ねてる。今踏んだら——」
数値が急激に跳ね上がった。
「——潰される」
Dは私が言い終えるのとほぼ同時に、車両をわずかに持ち上げた。
次の瞬間、今まさに降りようとしていた地面が半層分沈み込み、その直後に四・一Gの重圧で叩きつけられた。瓦礫が、誰かがビルを丸ごと天から落としたみたいに轟音とともに押し潰され、放射状のクレーターを作った。
背筋に冷たいものが走った。
「……ありがたくはあるけど」低く呟いた。
「まだ礼を言うのは早い」Dが言った。「まだ地を踏んでない」
この男は、本当に慰めと見せかけて肋骨にナイフを差し込むのが上手い。
アカリの声がいきなり高くなった。
「今!低Gポケット形成!」
目が一気に冴えた。私はほとんど机を叩くように叫んだ。
「今だ!前方左六十メートル、フェライト柱の陰!D、落とせ!」
車両が一気に沈み込んだ。
カメラが激しく揺れ、雪風の艦橋でも数人が同時に息を止めた。私は画面を凝視した。次に見えるのが、着地成功ではなく、高価な全地形車両が缶詰のように押し潰された姿だったとしてもおかしくなかったからだ。
だが、そうはならなかった。
二度の大きな衝撃の後、映像はついに安定した。
塵、青い光、瓦礫、飛散する重力微粒子の中で、車両は短い安全地表の上に、どうにか足をつけた。
「着地成功」Dが言った。
艦橋に一瞬、静寂が降りた。
喜べないからではない。
この惑星では、地を踏んだからといって安全を意味しないことを全員が知っているからだ。
せいぜい、「物理法則にこれから徹底的にいじめられる資格を得た」という程度だ。
「第一梯隊、降車準備」アッシュが言った。
外部カメラが車両の外へ切り替わった。
ハッチが開いた瞬間、嵐の音が一斉に流れ込んできた。
風の音ではない。
世界全体が巨大な金属板を引き裂いているような、骨にまで直接染み込む高周波と低周波の入り混じった音だった。瓦礫、青い塵、発光する重力粒子がハッチの外で歪んだ気流に乗って乱舞し、遠くでは半浮遊状態の山稜がゆっくり空へ持ち上がり、その縁から煌めく破片が絶え間なく剥がれ落ちていた。
そして真紀が降りた。
彼女がこの発光する狂った惑星の地表に足を下ろす様は、私の想像よりずっと安定していた。
環境が優しくなったからではない。
彼女がそういう人間だからだ。一度足を戦場に乗せてしまえば、普段は人を追い詰めるために使っているあの冷静システムがすべて戦闘用に切り替わり、手入れの行き届いた刃物のような精度で動き出す。
動力装甲が微かに光を放ち、重力アンカーが自動で地面に打ち込まれ、最初の逆向きの引力に持っていかれないように彼女を繋ぎ止めた。
車両の側面を支え、前方の鉱脈を見渡す彼女の姿を見て、喉が妙に締め付けられた。
昨夜、あれほど私を無様な状態にした本人が、今日は私が艦橋で心配しなければならない対象として、山に押し潰されかけている。
世の中にこれ以上理不尽な分業があるだろうか。
「前方三十メートル、二級鉱脈確認」真紀が言った。
「見えてる」私は返した。
声を出してから、自分が普段より速く応じていることに気づいた。
……まあいい。今は自分の感情マネジメントを反省している場合じゃない。
Dは多機能採取アームを上げ、活性インジウム外層岩殻の切開に入った。最初の切断ビームが鉱脈の縁に食い込んだ瞬間、青い光が内部から一気に増幅した。地底から、極めて低く、こもった共鳴音が響いてきた。
惑星が不機嫌になっている。
もっと目を覚ます準備をしているようにも聞こえた。
「採集開始」アッシュが言った。
「全艦注目。第一輪活性インジウム回収、開始」
その同じタイミングで、アカリが鋭く息を呑んだ。
「待って——」
彼女は別の側のモニタを一気に拡大した。
鉱区西側で、新たな重力裂帯が形成されつつあった。
じわじわ光り出しているわけじゃない。
誰かが空から刃を直接引き抜いてきたかのように、青白い裂光が一瞬で高空を裂き、第一梯隊の位置へ斜めに落ちてきていた。
胸が沈み、頭より先に手が通話キーを叩いていた。
「第一梯隊!西側に新しい裂帯が発生、嵐が前倒しで——」
言葉が半拍詰まった。
その裂帯の直下で、大きな地表面が光り始めていたからだ。
活性インジウム鉱脈のような安定した光ではなかった。
もっと荒く、もっと乱れ、もっと刺すような光だ。
亀裂が次々と走り、大地そのものが目を開けたようだった。次の瞬間、無数の巨大な青い結晶柱が地面から噴き出した。暴走する重力流に沿って空へ向かって狂ったように伸び、鉱区全体を燃やし尽くすかのような輝きで満たした。
嵐晶体。
しかも、規模がおかしい。
ジェスが隣で小さく口笛を吹いた。
「うわあ」彼女は言った。「この星、一気に清算しにきたね」
私は突然全面的に輝き出した嵐晶体群を見つめ、頭の中が一瞬で、冷たくなるほど静かになった。
普通なら、こんなものは「見られれば十分。命を賭けてまで触りに行く類ではない」に分類されるはずだ。
問題は、今が普通ではないことだ。
ここは重力が発作を起こし、山が浮き、地面が神に離婚を迫っている青白い発光狂惑星で、その嵐晶体は、第一梯隊がぎりぎり手を伸ばせる範囲にある。まるで「好機」という二文字を地表に直接溶接したみたいに輝いている。
「嵐晶体群の規模が異常」アカリの声がいつもよりわずかに速かったが、まだ乱れてはいなかった。「西側裂帯が落ちてくるまで、局所的な操作ウィンドウは推定十一〜十四秒。超えると高反転区域に入る」
十一〜十四秒。
素晴らしい。
いかにも雪風らしい時間だ。
長くもなく短くもない。人生を変え得る決断をするには十分で、その決断がすぐに人生を短くするにはさらに十分な長さだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




