131.今夜のあなたは、少し強引すぎるかも? 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
寝室に戻る時、正直に言えば、あまり戻りたくなかった。
疲れているからではない。怪我のせいでもない。単純に——気まずいからだ。
しかも普通の気まずさじゃない。ドアが閉まった瞬間、もう「なかったこと」にはできないと分かっている、そういう類の気まずさだ。
私が足を踏み入れると、真紀がすぐ後に続いた。
カチャ。
背後でドアが閉まり、ロックの噛み合う音が無駄に澄んで響いた。
私は一瞬固まり、振り返った。
正面からぶつかるように、真紀が抱きついてきた。
礼儀的な、友人同士で肩を叩き合って終わるような抱擁ではない。「みんな今日は大変だったね、生きて帰れてよかった」という安全な距離感を保ったものでもない。
その抱擁はきつかった。
まるで、もう互いに体裁を保つつもりなどないと言わんばかりに。誰も口にしなかったのに、ずっと私たちの間に横たわっていたあの線を、彼女が一足飛びに踏み越えてきたみたいに——
おい。
私たちはもう、適当に誤魔化せる関係じゃないのかもしれない。
九島真紀とは、そういう人間だ。
自分をきつく縛り上げる。苛烈なほどきつく。感情を幾重にも束ねて、隠して、自分でも感じ取れなくなるほど押し込めれば、そんなものは最初から存在しなかったことにできると思っているかのように。
彼女はたぶんずっと、それを冷静と呼び、制御と呼び、成熟と呼んできたのだろう。
でも、それは制御なんかじゃない。
ただの抑圧だ。
抑圧という代物は、普段はとても静かに見える。
一度亀裂が入れば、音を立てる間もなく、全体が一気に崩れ落ちる。
彼女が今までどうやって持ちこたえてきたか、私に全部が分かるとは言えない。
打破したいわけでもない。
でも、私が本当に望んでいることを聞かれたなら——
別に大したことじゃない。
ただ彼女に、少しでも……幸せでいてほしいと思う。
それだけだ。
「シモ……」
彼女の声は低く、ほとんど耳元に落ちてきた。
「……なに」
真紀が少し身を引いた。でも完全には離さなかった。
彼女は私を見た。その目が近すぎて、息が詰まりそうだった。瞳の奥に微かな涙の光が溜まっていて、静かなのに、不安定だった。
「私のこと、嫌いになった?」
彼女は言葉を選ぶように少し間を置いた。それとも、口に出した瞬間、自分でもそれが遅すぎると感じたのかもしかもしれない。
「さっき……ジェスの前で」
私は少し黙った。
ここまで来て、今さら誤魔化す意味もない気がした。
「……なってない」
正直に言った。声が少しこもった。
「どちらかと言えば、あの場でもっと早く彼女を止めるべきだったのは私の方だし」
真紀は何も返さず、ただ私を見ていた。
その視線にぞくっと鳥肌が立ち、仕方なく続けた。
「ただ、先に言っておくけど、彼女を庇ってるわけじゃないから」
私は鼻に少し皺を寄せた。自分でも、言い訳がましく聞こえると思った。
「ジェスって人間はもともとああいう奴でしょ。口が悪くて、不真面目で、一線を越えるのが呼吸みたいに自然で。でも……悪意はないのよ。少なくとも、本当に物事を台無しにする類の悪意じゃない」
そこで言葉が止まった。
これが真紀への説明なのか、自分の中の整理なのか、自分でもよく分からなかった。
「ただ、彼女があなたと私の関係にああも嫉妬するなんて——そこは、正直少し意外だったけど」
口に出した瞬間、一歩遅れて気づいた。これではほとんど独り言だ。
真紀の手はまだ私の背中にあり、離れなかった。
「真紀」
「なに」
「チームに亀裂は入れたくない」
口にした瞬間、自分でも分かっていた。これはいかにも私らしい解決法だと。
まず任務の話をし、大局の話をし、全員の位置を整えてから、自分のことは後回しにするふりをする。
それでも、言わなければならなかった。
「普段からそうであるべきだし。今みたいな時期は、なおさら崩れちゃいけない」
真紀は数秒黙った。
その数秒は短かったが、短いなりに少し息苦しかった。まるで、彼女が理解した上で、その答えを全く気に入っていないかのように。
最後に、彼女は低く応じた。
「分かってる……」
その「分かってる」を言い終えても、彼女はすぐには放さなかった。
ただ静かに私を見つめ、しばらく沈黙した。
それから、口を開いた。
「分かっては、いる」
彼女の声は軽く、ほとんど抑揚がなかった。それなのに、さっきよりずっと逃げ場がなかった。
「でも今は、あなた自身がどう思っているのかを知りたい。シモ」
空気が再び沈んだ。
明らかに、ここまで来てしまえば、大局を重んじるとか、任務優先だとか、チームの安定が第一だとかいう綺麗な理由では、今日の真紀を止められない。
私は答えなかった。
その答えを一度口にしてしまえば、多くのことが変わると分かっていたからだ。
少し変わる程度じゃない。
裏返るのだ。まだそれなりに安定していた床板を丸ごと引っぺがして、その下にある、今は絶対に見たくないものを全部晒し出すように。
私の顔を見て、真紀はそれ以上追及しなかった。
ただごく軽く息を吸い込み、もっと直接的な道に切り替えたかのように、言った。
「シモ……」
彼女はまだ私を抱いていた。
その抱擁は、もはやさっきのような単純な温度ではなくなっていた。静かで、柔らかいのに、どうやっても抜け出せない拷問器具のようだった。
「彼女に、どこを触られたの?」
私は固まった。
彼女。ジェスのことだ。
後ろめたくなって視線を逸らした。
「なんでそんなこと聞くの?」
「気になるから」
真紀の返答は速く、ほとんど間がなかった。
「それに、帰ってきてからずっと、私を避けてる」
「避けてない」
ほぼ反射的に否定した。声が少し大きくなった。
真紀は私を見たまま、視線を一ミリも動かさなかった。
「避けてる」
……くそ。
突然、コーナーに追い詰められたボクサーみたいだと思った。
しかも、熱血漫画の最後の一秒で華麗に逆転する主人公じゃない。振るうたびに空を切り、もがけばもがくほど自分の後ろめたさが露呈していく、そういう情けないタイプだ。
彼女の腕の中で不安げに身じろぎした。陸に釣り上げられた魚になった気分だ。まだ生きていて、まだ跳ね回るが、威厳も何もあったものじゃない。
真紀が目を伏せ、視線が私の頬の脇に落ちた。
次の瞬間、彼女が顔を寄せ、私の耳元にごく軽く触れた。
「ここ?」
私はその場で全身を強張らせた。
反応する間もなく、彼女の唇が耳たぶを掠め、歯の先がほんのかすかに触れたかと思うと、耳元にかすかな吐息がかかった。
「それとも、ここ?」
全身が小さく震えた。
……検証の必要なし。
全問正解だ。
その瞬間、恥ずかしさのあまりこのまま蒸発したくなった。できれば艦内の公式文書付きで。「星野 シモ中尉、精神的自然発火により殉職。遺体の引き取りは不要」と明記してほしい。
真紀は私を見て、逃げたいのに逃げられない私の様子に、少し笑いがこみ上げたようだった。打破したいわけでもない。でもその笑みは薄く、むしろ「どうしようもない」と言っているような苦笑だった。
「別の方法を使わないとダメ?」
「な——」
その抗議が形になる前に、彼女の指がごく短く、意地悪く、そして恐ろしいほど正確に、私の脇腹に触れた。
たった一度。
私は全身がぎゅっと縮み、喉から非常に情けない短い音が漏れた。自分でも、それが自分の出した音だと認めたくなかった。
「ちょ、ちょっと待って……くすぐったいってば——」
くそ。
彼女は、私がここが一番弱いと知っている。
でも真紀は、その瞬間に動きを止めた。
わざと焦らすような止まり方ではない。本当に何かに気づいたように、ピタリと手を止めたのだ。
彼女の視線を追って俯くと、彼女が私の腰にある、薄れかけながらもまだ残っている傷跡を見つめているのが分かった。
あの林間学校の時のものだ。あの時、私は撃たれた。彼女が緊急処置をしてくれた。
止血、圧迫、固定。手は信じられないほど安定していたのに、目だけは人を切り開いて中を確かめたそうな表情をしていた——今でもはっきり覚えている。
まずい。
終わった。
今、私の頭の中は彼女でいっぱいだ。
「まだ痛む?」
真紀の指先が、その傷跡をごく軽くなぞった。壊れやすい何かに触れているような手つきだった。
「……少しだけ」
嘘をついた。
本当に厄介なのは傷口じゃない。彼女が今触れている場所は、とっくに皮膚の下の古い傷だけではなくなっていた。
真紀は私の嘘を暴かなかった。
ただ静かに二秒ほど私を見つめ、それから身を屈めて、その傷跡にそっと口づけを落とした。
私の呼吸が一瞬、止まった。
「シモ」
彼女は顔を上げず、その古い傷から染み込んでくるような低い声で言った。
「あなたが痛くないと言う時、いつも本当のことには聞こえない」
私は一言も返せなかった。
艦内は静かだった。
雪風の深部から規則正しく伝わってくる低い振動音と、軍人としての矜持を完全に失った、私自身の馬鹿みたいな心拍音だけが残っていた。
はっきりと分かっていた。
今夜はもう、何もなかったふりはできない。
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