130.妥協 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
あの「さっきのあの声、本当に可愛かった」という一言だけでも、ジェスを松葉杖ごと毒霧に放り込んで頭を冷やしたくなるのに十分だった。
宇宙はどうやら、私の今日の耐性訓練がまだ終わっていないと判断したらしい。
メイン画面の右上が、突然一面赤く染まった。
小さな警告ランプではない。システムが「そろそろ本当に仕事をしてもらいます」と一気に顔面に叩きつけてくるような、大面積の警報だ。二号艇が第二輪の気体ウィンドウに切り戻ろうとした瞬間、毒霧層の底にあった異常に黄色く光る菌類群が、地底から一発蹴り起こされたように一斉に膨張し、続いて三本の腐食霧柱を噴き上げた。ほぼ幕のように連なっている。
「艦橋!」アカリの声が最初に炸裂した。「二号艇前方ウィンドウの保護膜が四十七パーセントまで低下、まだ下がっています!」
「地表組の東側地盤が緩んでいる!」Dがすぐ続けた。「二次亀裂あり、霧流の方向が変わった!」
ハーヴィーの方から直接罵声が聞こえた。
「くそっ、これは普通の噴出じゃない!あの菌類が共振している!」
ジェスに齧られた恥ずかしさの残り火が、仕事という冷水を一気に浴びて蒸気になった。
ホログラム風場図が目の前で狂ったように更新されていく。計画していた第二輪の速採ウィンドウは、今や三本の新規噴出霧柱に完全に遮断されていた。二号艇が無理に突っ込めば、コレクターはラドンガスを少し余分に回収できるかもしれないが、左舷外層保護膜が先に溶ける。地表組はさらに厄介で、真紀の班がちょうどナトリウム鉱石回収の中盤に差し掛かっており、前は霧、後ろは亀裂で、どちらも「まともな道」とは言えない。
艦橋に残ったのは、データの更新音、通信のバックグラウンドノイズ、そして私自身の心拍だけだった。
それから、真紀の声が聞こえた。
「艦橋、地表組は第二箱の強行回収が可能」
彼女の声は安定していた。
安定しすぎていた。
まるでさっきの私の情けない漏れ音など聞こえなかったかのように。自分を地表の実行ユニットとして扱い、艦橋の判断を待っているだけのように。
それがかえって、私をより乱れさせるわけにはいかなくさせた。
深く息を吸い込み、第二輪の収益予測と人員損耗リスクを重ね合わせた図を直接引き出す。
迷いすぎなかった。
この場所での迷いは慎重とは呼ばない。人を危険にさらすことだ。
「第二輪の気体ウィンドウは放棄する」私は口を開いた。自分が思っていたより声が安定していた。「二号艇は直ちに上昇、保護膜とコレクターを優先。地表組は第二箱の完全回収を中止、第一箱は持てるだけ持ち帰り、残りは全部爆破処理。真紀、そっちの班は北へ十三度切って、元の道は使うな。左側の硬殻帯を踏んで突き抜けろ」
イヤホンの中で、ごく短い沈黙があった。
ハーヴィーが先に叫んだ。
「待ってください!あの箱の中にはまだ——」
「分かってる」私は直接遮った。「燃料が欲しいか、人間が欲しいか」
ハーヴィーは一拍止まり、歯を食いしばって言った。「……了解、二号艇上昇します」
Dがすぐ続いた。
「地表組、廃棄箱の爆破準備。撤退を援護する」
真紀は半秒後に口を開いた。
「北へ十三度?」
彼女はもう一度繰り返した。
疑問ではない。
確認だ。
なぜなら、その道は地図上の標準撤退ルートではなく、低重力の硬殻帯と二か所の毒霧の隙間を無理やり縫い合わせた細い縫い目だからだ。うまく走れれば主噴出区域から直接脱出できる。少しでも乱れれば、班全員が酸性雨と地裂の間にある「命を回収する場所」に踏み込む。
私は風場を睨みながら、指を素早く動かして撤退路を彼女たちのHUD上に標示した。
「そう、北へ十三度」私は言った。「三番目の硬殻ポイントは踏むな、崩れる。二番目で弾みをつけて跳び、着地したら即座に西へ切れ。空窓は七秒しかない」
イヤホンの向こうがまた半拍静かになった。
それから真紀が低く返した。
「……了解」
その間は軽かった。
別の時だったなら、彼女が何かを聞き取ったのかどうか、何かを思い出したのかどうか、その半秒をわざと私に心虚で死ぬために残したのかどうか、考える余裕があったかもしれない。
でも今はできない。
なぜなら次の瞬間、地表の画面が激しく揺れ始めたからだ。
真紀の班が毒霧の前縁を全速で切り離した。低重力のせいで一歩ごとに通常より遠く跳び、その分だけ落下点の一つ一つが命懸けになる。前方の硬殻帯は酸液に焼かれた骨のように白く光っており、一か所踏み外せばその下は噴出中の亀裂だ。Dが二発で廃棄箱の固定金具を撃ち抜き、鉱石箱が地面で炸裂した。黄色いナトリウム結晶が四方に飛び散り、背後の菌類霧群の視界をかき乱した。
二号艇も同時に上昇を開始したが、左翼の保護膜数値が三十二パーセントまで落ちていた。あと二秒遅れていたら、そのまま早期退役していただろう。
「もう十メートル上げろ!」私はデータを見ながら叫んだ。「振り返って拾おうとするな!今誰か振り返ったら、帰ってきたら私が直接頭をコレクターに縛り付けてやる!」
「了解了解!」ハーヴィーが非常に生存本能全開で叫んだ。「私たちは今日、この糞惑星に何の感情的な未練もありません!」
次の瞬間、メイン画面の左下で異常胞子体群が一斉に爆発した。
濃い黄色の毒霧が翻った壁のように立ち上がり、真紀たちがさっきまでいた場所を丸ごと覆い隠した。半拍遅れていたら、彼女たちは今頃撤退しているのではなく、腐食性の菌類スープに完全に漬け込まれる実演をしていただろう。
その翻る毒霧を見つめながら、背中にじわりと冷や汗が浮かぶのを感じた。
「地表組、報告しろ」
イヤホンから、荒い息と靴底が硬殻を踏む音が先に届いた。
それからDが言った。「全員、主噴出区域から離脱」
さらに半秒後。
真紀の声が続いた。
「資材第一箱、回収完了。人員に異常なし」
そこで彼女は少し間を置いた。
ごく短く。
ごく平坦に。
それから付け足した。
「……艦橋、判断は正確だった」
私の指先が、わずかに締まった。
終わった。
この一言は、彼女が直接「さっき艦橋で何をしていたの」と聞いてくるより、はるかに恐ろしい。
なぜなら彼女は何も聞かなかった。
ただ非常に公務的に、その肯定を置くべき場所に置いた。清潔で、重かった。胸の中の何かがその重さで少し沈み込み、もう少し落ち着いた、でも処理しにくい何かへと変わっていった。
隣のジェスが軽く口笛を吹いた。
「見事、艦長代理」
私は彼女を見なかった。
「黙って」
「今回は本当に褒めてる」
「さっきも『可愛い』って褒めてたよね。あの種類の褒め方は私には荷が重い」
「あ、ちゃんと覚えてたんだ」
私は彼女を今すぐ処理しようとすると艦橋を先に解体することになると判断し、一時保留した。
その後の帰還ペースは予想より速かった。第二輪採集は正式に中止され、全艇組と地表組は人員優先で上昇ウィンドウへ撤退した。雪風は軌道上で二度修正を行い、回収ハッチを毒霧上縁の比較的クリーンな空窓に正確に合わせた。
一番艇が誘導光線を掴み、二番艇がほぼ外皮一枚溶けかけのコレクターを抱えて戻ってきた時、私はようやく本当に最初の完全な息を吐いた。
二口目はまだだ。
全員の点呼が終わるまで。
最後の「確認、全員揃い」がイヤホンから届いた時、私は椅子の背に倒れ込んだ。両肩が、鉛の塊から引き剥がされたような感覚だった。
艦橋がずいぶん静かになった。
回収ハッチのプログラムが動いているだけで、メイン画面の毒性惑星は相変わらず、こちらを気にする素振りもなく黄緑色の毒霧を翻し続けていた。今日は逃げ足が速かったな、次はもっとうまくやってやる、とでも言うように。
その惑星を二秒ほど見つめてから、ゆっくりと横を向いた。
ジェスはまだ副コンソールの縁に寄りかかり、松葉杖を斜めに突いていた。その顔には、自分がこれから清算されることを完全に理解していながら、反省の色を見せるつもりが全くない表情が書いてあった。
いい。
その方が処理しやすい。
「ジェス・マッカロウ」
フルネームで呼んだ。
彼女はすぐに眉を上げた。
「はい、艦長代理」
まだそう呼ぶのか。
私は立ち上がり、彼女の前に歩いた。
今の彼女は脚の怪我が癒えておらず、理論上は松葉杖を一本引き抜けばその場で片足跳びの演技を強いられる。でも私はアッシュでもなければ、仲間の脆弱さを見て喜ぶような性格でもないので、最終的には手を伸ばして彼女の襟首を掴み、こちらへ少し引き寄せるだけにした。
ジェスが一度瞬きした。
その一瞬、彼女は本当に少し固まった。
「わあ」彼女は私が掴んでいる自分の襟元を見下ろし、また私の顔を見た。「今のあんたの顔、さっき撤退指令を出してた時より怖い」
「さっきあんたのせいで危うく命令を誤りかけたって、分かってる?」
「でも誤らなかった」
「そこが重要なんじゃない」
「あ」彼女がわざと語尾を伸ばした。「じゃあ重要なのは何?通信が開いてる時に私があんたにキスしたこと、それとも——」
私は彼女の襟元をもう一度引いた。
「ジェス」
「分かった、半秒黙る」彼女は笑ったが、まだ憎たらしかった。「でも先に言っておくと、あんたはさっき本当に——」
「その言葉を言ったら、松葉杖を分解する」
「どの言葉?可愛い?」
私のこめかみが跳ねた。
「違う」
「じゃあ、あんたが気にしてるのはもっと——」
「ジェ、ス」
今度は本当に声を出して笑った。
低く、近い笑い声。私が彼女の息に含まれる医療区画の薬の匂いと、任務から帰ってきた後の緩んだ熱気を感じ取れるほど近かった。
「分かった」彼女は言った。「じゃあ言い方を変える」
彼女は私を見た。いつも挑発の光を帯びているあの目が、今回は少しだけ沈んでいた。
「あんたはさっき、自分が何をしているか分かってた」彼女は言った。「それに、うまくやった」
私はすぐには返せなかった。
なぜなら、これは冗談ではなかったからだ。
単に私をからかっているわけでもなかった。
むしろ、彼女が一連の流れを全部見届けた上で、私が発作しようとしたその瞬間を選んで、私自身がまだ認める余裕のなかった事実を、先に押し戻してきたみたいだった。
非常に厄介だ。
そして、非常に……まずい。
私は無理やり彼女を睨み続けた。
「話を逸らすな」
「逸らしてない」ジェスは言った。「あんたが本当に怒ってる部分に答えてる」
彼女は私が掴んでいる自分の襟元を一度見てから、ゆっくりと視線を戻した。
「あんたが怒ってるのは、私がいたずらしたことだけじゃない」彼女は言った。「下にいる人たちの命を全部背負い込んで、そのタイミングで私がわざと乱したことに怒ってる」
……くそ。
なぜこの女は、こういうことまで見えてしまうのか。
彼女の襟元を掴む手は力を緩めなかったが、増しもしなかった。
なぜなら彼女が正しかったからだ。
私が怒っているのはキスだけじゃない。耳たぶのことだけでもない。
私が怒っているのは、自分が本当に乱れかけたことで、その下には——アッシュ、D、真紀、アイダ、ハーヴィー、蘭、ロイ、アカリ——全員が毒霧の中で、私の指令に命を預けていたということだ。
それはどんな顔の赤さよりも重要だ。
どんな恥ずかしさよりも重要だ。
あの子猫みたいな漏れ音よりも、はるかに重要だ。
「それでもやった」私は低く言った。
ジェスは私を見た。
今回はすぐに笑わなかった。
「だってあんたが格好よすぎたから」彼女は言った。
私は一瞬固まった。
彼女はさらに低く付け足した。
「それに、あんたは彼女の報告が入るたびに、目が変わる。それが気に入らなかった」
その一言が出た瞬間、艦橋の中でまだ口喧嘩の空気を保っていた何かが、一気に厄介なものに変わった。
聞こえなかったふりもできなかった。
私は彼女を見つめ、どこから罵倒すべきか、しばらく判断できなかった。
ジェスは自分からその言葉を半分引っ込め、また少し悪い笑みを戻した。
「でも心配しないで」彼女は言った。「私にはちゃんと職業倫理があるから。後半のあんたがあんなに見事だったのに、私はちゃんとおとなしく画面を見てたじゃない?」
「職業倫理の解釈が、犯罪者の自己評価に近い」
「褒め言葉として受け取る」
「褒めてない」
「私の中では褒め言葉」
私は二秒ほど彼女を睨み、最後に彼女の襟元を放して、副操縦席の方へ軽く押した。
「座れ」私は言った。「もう一度あの音のことを——」
「猫みたいなやつ?」
「……」
本当に死にたいらしい。
深く息を吸い込み、松葉杖を没収することを本格的に検討し始めたその時、回収ハッチの気密プログラムがちょうど完了し、艦橋のドアも同じタイミングで開いた。
全隊が帰ってきた。
先頭に入ってきたのはアッシュで、顔色を見れば毒霧から出てきたばかりで、気分が普段より処分報告書を十枚書いて全艦に配布したい方向に傾いているのが分かった。
Dが後ろに続いた。装甲の外層には酸霧に削られた灰黄色の痕が残っていた。
真紀が入ってきた時、まずメインコンソールを一瞥し、次に私を見て、最後に私とジェスの間の、明らかに近すぎて単純ではない距離の上に、ごく短い時間だけ視線を止めた。
ハーヴィーは手袋を外しながらこの惑星は工学的な侮辱だと罵り、蘭とロイが回収データを抱えて入り、アカリはまだ俯いて採集量を統合していた。
それからアッシュが止まった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




