127.もう二度と、あなたの手を離さない 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
肩が一度震え、次に二度、三度。涙が理不尽な勢いで熱く落ちてきた。堪えようとすればするほど惨めになり、最後には顔ごと毛布に埋めて、戦術的素養の欠片もない泣き方をした。
その時、ごく軽く、誰かの手が手首に触れた。
アイダではない。
ずっと傍らで、ほとんど固まったように静かに立っていた真紀だった。
最初はただ触れただけだった。私が振り払うかどうかを確かめるように。動かないのを見て、初めてゆっくりと、目を押さえていた私の手を少しだけ引き離した。動作はごく小さく、ひどく遅かった。彼女自身も、何か非常に細い橋を渡っているみたいに。
涙で滲んだ視界の中で、彼女を見上げた。
いつもは報告書の表紙みたいに冷たい真紀の顔が、今は全部乱れていた。ドラマチックに泣き崩れているわけでも、大崩壊しているわけでもない。ただ、目の底にずっと上手く押さえ込んでいた何かが、私のこの泣き方で、無理やり亀裂を入れられていた。
彼女はベッドの縁に座り、低く言った。
「もう、大丈夫」
この言葉自体は、ごく普通だった。
普通すぎて、誰に言われても信じないかもしれない類いの言葉だ。
でも彼女の口から出た瞬間、私はどういうわけか、少しだけ信じてしまった。
鼻声で返した。「さっき斧で人をあんな状態にしておいて、今その台詞を言うのは……説得力ゼロなんだけど」
真紀の呼吸が一瞬、引っかかった。
それから、とても、とても小さな声で言った。
「じゃあ、言い方を変える」
半秒ほど間を置いた。普段なら決して使わない種類の言葉を探しているようだった。
「……ごめん。来るのが遅くなった」
この言葉は、前の言葉よりもさらに始末が悪い。
私が最後に残していた薄っぺらな見栄を、まるごと剥がしていったからだ。
涙が余計に止まらなくなり、同時に少し笑いたくもなった。
——ふざけるな。
せめて少しは尊厳を保って泣くつもりだったのに、今の私は、この艦の重力制御に個別ロックオンされたような惨状だった。
「あんた、こういう時にそういう言葉を覚えないでよ……」しゃくり上げながら言った。「反則だから」
傍らに立っていたアイダが、ついに顔を背けて、薬皿をいじるふりをした。
「私は何も聞いてないから」彼女は言った。「二人で続けなさい。どうせ医療区画の防音は優秀だし」
泣きながら、彼女に対して思わず笑いそうになった。
この人は本当に、医者としての倫理とゴシップへの嗅覚を、妙なバランスで共存させている。
真紀は、アイダの冗談には乗らなかった。
ただ手を伸ばして、私を毛布ごと少しだけ自分の方へ引き寄せ、額を彼女の肩に預けさせた。その動作はぎこちなく、壊れやすい何かを初めて抱えてみているような、そういう不慣れさがあった。でも、そのぎこちなさがあるからこそ、かえって本物に見えた。
彼女に寄りかかると、金属粉塵と汗と洗浄剤、そしてかすかな血の匂いがした。
いい匂いではない。
なのに、妙に落ち着く匂いだった。
しばらく泣いているうちに、声がようやく少しずつ収まっていき、時折しゃくり上げる余波だけになった。アイダは必要な処置を終え、毛布を整え直し、赤く腫れた顔と手首を確認して、他に急性の傷がないことを確かめた。
「よし」彼女は器具を片付けながら言った。「精神的な傷は今日の工数には含めない。システムがフリーズすると困るから。身体検査の正式なレポートは後で補完する。結論としては——どこも折れてない。でも今夜、一人で強がるのは禁止」
その一言に、私と真紀は同時に彼女を見上げた。
アイダは表情一つ変えなかった。
「何、その顔」使い終わった医療パックを脇に置きながら続けた。「私は医者であって、木の人形じゃない。今の彼女の状態で一人にするのは不適切。もし『大丈夫』なんて言ったら、そのままベッドに縛り付けるから」
私は口を開きかけた。
真紀が先に言った。
「彼女は一人にしない」
アイダが片方の眉を上げた。心の中で「非常に興味深い臨床例」とでもメモしたような顔だった。
「結構」彼女は言った。「じゃあ私は、まだゴミみたいなことを言う気力が残っていそうな方を見てくる。ここは一時的に任せる」
ドアの前まで歩いて、少し立ち止まり、振り返らずに付け足した。
「それと、シモ」
「……何?」
「あの下着の件は、一生根に持っていいと思う」
そう言い残して、彼女は出て行った。
私はベッドの上で、目も鼻もまだ真っ赤なまま、その一言のせいで泣きたいのか笑いたいのか分からなくなった。
真紀が私を見下ろし、ようやく小さく息を吐いた。
「新しいの、また選んであげる」
鼻をすすり上げて、彼女を睨んだ。
「そこが重要なわけじゃない」
「分かってる」
「それに今度は、自分で選ぶ」
「……分かった」
「でも、あんたも一緒に来て」
真紀が一瞬固まった。
それから、さっきまで張り詰めて今にも裂けそうだった顔が、ほんの少しだけ緩んだ。
「分かった」もう一度、そう言った。
今度のその言葉は、少しだけ生きている人間の声に近かった。
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医療区画の照明が落ちると、雪風は不自然なほど静かだった。
もちろん、厳密に言えば完全な無音というわけではない。生命監視モニターが規則的に電子音を刻み、循環ファンが天井の裏で低く回り、艦体の深部からは時折、ごく微かな振動が伝わってくる。巨大な金属の鯨が、眠りの中で寝返りを打っているような音だった。
でも私にとって、それらの音はむしろ背景幕のようなものだった。人が黙ると、昼間考えたくなかったものが、隙間から自分で這い出してくることを際立たせるための。
そのまま疲れ切って意識を失うだろうと思っていた。
そうはならなかった。
眠りは眠った。でも生きているのか死んでいるのか分からない、妙な夾層に挟まったような眠り方だった。あの扉を夢に見て、山羊髭がジェスの足を踏む音を夢に見て、真紀が戦斧を提げて前へ進む夢を見た。赤色警報灯が明滅し、彼女の影を壁一面に引き伸ばしていた。
一番厄介だったのは、その合間に理不尽なほど些細な細部が紛れ込んでくることだった——破れた服、引きちぎられた肩紐、そしてあのデブの、胃ごと吐き出したくなるような顔。
私は勢いよく目を開けた。
胸を誰かに押さえつけられたような感覚で、呼吸が一瞬繋がらなかった。全身が先に強張って、二秒ほどして、ようやく自分の喉から乾いてしゃがれた息が絞り出された。
医療区画は暗かった。
完全な暗闇ではない。夜間当直モードの暗さだ。ベッドの頭元に小さな暖色の灯りが一つ残っていて、傍らのいくつかの機器のインジケーターが緑や青に時折明滅し、ベッドの縁と毛布と金属の手すりを薄く照らしていた。私の目が焦点を合わせるのに数秒かかり、それから彼女が見えた。
真紀はまだベッドの傍らに座っていた。
帰っていなかった。
椅子はごく近くに引き寄せられていて、私が手を伸ばせば、指先が彼女の膝の脇に届くほどの距離だった。血のついていた外側の戦術ジャケットはもう脱いでいて、濃い色の内側の制服だけを着ていた。袖口は肘まで捲り上げられ、手の甲には新しい白い医療テープが一枚貼られていた。
彼女は背筋を伸ばして座っていたが、それは元気だから真っ直ぐなわけではない。長すぎる時間張り詰めていて、少しでも緩めれば崩れそうだから、骨を臨時の支柱にして何とか自分を支えている、そういう真っ直ぐさだった。
彼女を二秒ほど見てから、しゃがれた声で口を開いた。
「……なんで、まだいるの」
真紀はそれまで目を伏せていた。私のベッドサイドの数値を見ていたのか、ただ呆けていたのか分からない。私の声を聞いて顔を上げた瞬間、いつもの冷静さとは少し違う、現行犯を見つかったような表情が一瞬浮かんだ。
「起きたのね」
「聞いてるのは」喉を動かすと、砂紙を飲み込んだみたいに乾いていた。「なんでまだここにいるのか、ってこと」
「アイダが言ってた」彼女は少し間を置いた。「夜中に、驚いて目が覚めるかもしれないって」
「それで、ここで待ち伏せ?」
「あんたを兎に例えるなら、異論はない」
笑いそうになったが、口角を動かすと少し痛くて、やめた。
「あんたの慰め方、相変わらずコスパが悪い」
「慰めてるつもりはない」
「へえ」
わざと語尾を伸ばして、彼女を見た。
「じゃあ何してるの? 夜間監視? 人体観察? 九島家最新型PTSD付き添いサービス?」
真紀はすぐには答えなかった。
ただ、こちらをじっと見ていた。目はとても静かだった。医療区画の夜灯が彼女の輪郭を昼間より少し柔らかく照らしていたが、それは彼女が本当に緩んでいるということを意味しない。
むしろ逆だった。今の彼女は、無理やり鞘に押し込まれた刀に近かった。表面は収まっているが、中はまだ熱を持っている。
数秒経ってから、彼女は低く言った。
「あんたが目を覚ました時、誰もいなかったら嫌だろうと思って」
その一言で、医療区画全体がもう一段静かになったような気がした。
私は何か軽口を挟んで、せめて空気を少し人間の日常に近い場所へ引き戻そうとした。でも口を開いてみて、それを簡単に冗談として飲み込めないことに気づいた。
彼女が何を言っているか、分かったからだ。
目が覚めた時に医者が見つからないことを心配しているのでも、水が見つからないことを心配しているのでもない。
私が目を開けた瞬間、また、あの場所に戻ったと勘違いすることを——あの扉。あの連中。あの空気——それを恐れているのだ。
毛布を少し上に引き上げて、軽く息を吸った。
「今は見えてる」私は言った。
真紀のまつ毛が一度動いた。
「……うん」
「だから、もう帰って寝ていいよ」
彼女は動かなかった。
姿勢すら変えなかった。
しばらく彼女を見つめてから、思わず眉をひそめた。
「まさか、そのまま朝まで座ってるつもりじゃないでしょ」
「必要なら」
「何が必要なの」
「また飛び起きたら」
「さっき一回起きた」
「知ってる」
「見ての通り、生きてるし、喋れるし、あんたに文句を言う元気もある」
「知ってる」
「……あんた今日、その言葉しか知らないの?」
真紀はそこで、ようやく小さく息を吐いた。
「シモ」彼女は私を見て、いつもより声を低く落とした。「あんたが生きてるのを疑ってるわけじゃない」
そこで少し言葉を切った。
「ただ、あんたを失いかけたという事実を、まだ『なかったこと』として扱えないだけ」
私の呼吸が、一瞬詰まった。
短い間だった。
でも、確かに詰まった。
雪風の外では、今もあのろくでもない惑星の周りを飛んでいるだろう。反応炉は真面目に仕事をしている。帝国のろくでもない事情も、今日私たちが不運だったからといって半分に減るわけでもない。
理屈の上では、この艦の上のすべては通常通りに進んでいる。でも彼女のこの一言が落ちた瞬間、世界全体がこのベッドの方へ少し縮んだような錯覚があった。
私は懸命に、いつも命を守るために使っている口を拾い上げた。
「その言い方」天井を見つめながら言った。「夜中の医療区画で口にすると、非常によろしくないタイプの台詞なんだけど」
「台詞なんて用意してない」
「だから余計に危ないの」
「そう?」
「普段は報告書みたいな喋り方するくせに、今日に限って人間みたいな言葉を使い始めるとか、こっちの身がもたないんだけど」
彼女は少し黙った。
それから、とても軽く言った。
「じゃあ、戻す」
「戻さないで」
あまりにも早く答えてしまったので、自分でもその言葉を喉の奥に押し戻したくなった。
真紀が目を上げて私を見た。
仕方なく、言葉を継いだ。
「……少なくとも今夜は」
彼女は笑わなかった。
ただ、目の奥でずっと張り詰めていた何かが、ようやくほんの少しだけ緩んだ。
ゆっくりと彼女の方に顔を向けた。
「あんた……」少し迷ってから、やっぱり聞いた。「自分は怪我してないの?」
「大きいのはない」
「小さいのは?」
「擦り傷、打撲。それと、これ以上休まないと脳が先に壊れるって、アイダに言われた」
「彼女、あんたへの評価に関してはかなり楽観的だね」
「私もそう思う」
「さっきのあんた」私は彼女の手の甲を見ながら言った。斧が落ちる音を思い出して、喉がまた少し締まった。「本当に、ちょっと怖かった」
真紀はすぐには言い訳しなかった。
ただ目を伏せて、医療テープの貼られた自分の手の甲を見た。私にそう言われて、初めて自分が先ほど何をしたのかを、改めて見直させられているようだった。
「分かってる」彼女は言った。
「間違ってたって言いたいわけじゃない」
「分かってる」
「ただ……」
言葉が、途中で止まった。
ただ、何だ。
ただ、あんな彼女を見たことがなかった。
ただ、あの時ホッとするのと同時に、目の前にいるこの人が、近くにいるのに少し知らない誰かに見えた。
ただ、今でもはっきり思い出せる。私の口元の血を見た時の、彼女の目の中の、全部が裂けそうな何かを。
これを全部言葉にしてしまえば、多すぎる気がした。
満ちすぎる。
そして、あと一歩踏み出せば、もう二度と引き返せない何かに、限りなく近づきすぎる気がした。
だから、最後に一番どうでもよさそうな一言だけを選んだ。
「……あんたがああいう状態になるの、あまり好きじゃない」
真紀の指が、ほんの少し強く握り込まれた。
「どういう状態」
「なんか……」眉をひそめて、自分の気持ちにもっと格好悪くない言い方を探した。「もし私が本当にやられてたら、あんたも半分は壊れる、そういう状態」
今度は、それまで以上に長い沈黙が落ちた。
もう答えないのかと思うほど経ってから、彼女はようやく低く言った。
「半分じゃ、足りないかもしれない」
心臓を、誰かに軽く小突かれたような感覚だった。
たった一度。
でも、それだけで、しばらくの間、呼吸するのが先か罵倒するのが先か分からなくなるには十分だった。
「九島真紀」彼女を見つめて言った。「夜中に病人のベッド脇でその台詞を言うの、医療倫理的にアウトじゃない?」
「明日アイダに追加の誓約書を出す」
「内容は?」
「『患者の隙を狙う意図はありません』」
「じゃあ今やってるのは何」
彼女はそこで、かすかに、短く笑った。
「自分の制御に、失敗してる」
これはまずい。
前のどの台詞より、始末が悪い。
冗談にも、強がりにも聞こえなかった。むしろ、絶対に渡すつもりはなかったのに、疲れすぎて、怖すぎて、鎧を着直す時間が間に合わなくて、うっかりこぼれてしまった本心の一部、そういう感じがした。
視線を逸らして、毛布の端をじっと見つめたまま、随分してからやっと一言絞り出した。
「今日のあんた、本気で反則が多すぎ」
「昼間にも一回言われた」
「何度でも抗議する」
「じゃあ、全部受理する」
「あんたのせいで眠れないんだけど」
「じゃあ、出ようか」
「……そんなこと言ってない」
真紀はそれ以上追及しなかった。
ただ手を伸ばして、私の腰の辺りまでずれた毛布を引き上げてくれた。その手つきはひどく繊細だった。人に毛布を掛けているのではなく、少し力を入れただけで壊れる精密機器を扱っているような、そんな手つきだった。
その手を見下ろしながら、ふと聞いた。
「あんた、さっきから一睡もしてない?」
「うん」
「どれくらい?」
「シモが寝た後から」
「つまり、全然寝てないってこと」
「似たようなもの」
「頭おかしいんじゃない」
「今日は少し」
「普段からだと思ってたけど」
「それなら、私の病状は安定してるってことだ」
今度は、本当に声を出して笑った。
小さかったが、本物の笑いだった。
笑い終わると、医療区画にまた静けさが戻った。
その静けさは、さっきまでとは少し違った。さっきの静けさは、二人ともこれ以上喋ったら線を越えてしまうことを恐れているような静けさだった。今の静けさは——線はまだそこにあるけれど、二人でその隣に座っていて、誰も見て見ぬふりをしていない、そういう静けさだった。
少し眠くなってきた。
意識を失うような眠気ではない。ようやく肩を少し下ろせるような眠気だ。
ちょうど目を閉じかけた時、隣のベッドの方から小さな咳が聞こえた。
私と真紀は同時にそちらを向いた。
次の瞬間、カーテンの向こうから、少ししゃがれているが相変わらず憎たらしいジェスの声がした。
「先に言っとくけど」彼女は言った。「わざと盗み聞きしてたわけじゃないから」
彼女は一秒間を置いた。
「ただ、あんたたち二人の話し方が、ドライバーでゆっくり壁に穴を開けてるみたいで、寝たふりをするのも限界だった」
私は一瞬固まり、次にこめかみが跳ねた。
「起きてたの!?」
「途中で起きた」ジェスの声はまだ弱かったが、生まれつき人を苛立たせるあの精神が戻り始めていた。「そのまま寝ようとしたんだけど、誰かが隣で『危うくあんたを失いかけた』って臨終の遺言みたいに言うからさ、演劇的緊張感に敬意を払うことにした」
「黙って」私は言った。
「駄目。病人には発言権がある」彼女は少し間を置いて、付け足した。「しかも私は重傷患者だから、あんたより発言権が少し多いはず」
真紀は彼女を相手にせず、ただカーテンに冷たい視線を向けた。
「起きてるなら、ちゃんと休んで」
ジェスの方が二秒ほど静かになった。
それから、笑い声がした。
いつもより軽く、いつもより挑発の棘が少ない笑いだった。
「私もそのつもりだったんだけど」彼女は言った。「今日の午後、誰かが降下艇の半分をドアに突き刺して、戦斧で人を床いっぱいに叩き散らかしたのを思い出しちゃって」
そこで、声が少し遅くなった。
「正直に言うと、九島。あんたのあんな姿、初めて見た」
医療区画の空気が微かに引き締まった。
私はてっきり、彼女がまた余計な一言を足すと思っていた。「想像よりずっと凄まじかった」とか、「そのまま処刑官に転職した方がいい」とか。でも、そうはならなかった。
今度のジェスは、いつもよりずっと真面目だった。
「私はてっきり」ジェスがゆっくり言った。「あんたのことを、自分に鍵をかけるのが上手いだけの人間だと思ってた。冷静で、扱いにくくて、人を採点するみたいに喋って、誰を見ても潜在的な面倒事としか見てないような」
ベッドに横になったまま、なぜか非常に嫌な予感がした。
案の定、次の一言はこちらに向いた。
「でも今は分かった」彼女は言った。「少なくとも、シモを見る時だけは、そうじゃないんだって」
カーテンは開かなかった。
でも、ジェスが今、枕にもたれて、顔色は最悪なのに、野次馬根性丸出しの表情で喋っている姿が、容易に想像できた。
真紀は何も返さなかった。
私は自分の耳の裏が熱くなり始めるのを感じた。
「夜の鎮痛剤、飲みすぎたんじゃないの」乾いた声で言った。「幻覚でも見えてる?」
「いいや」ジェスはすぐに返した。「今日は特別に視力がいいの。特に、誰かが人を床に押さえつけていて、シモの口元に血があって、九島のあの目——うん、忘れろって言われても無理」
声が微かに止まり、次に口を開いた時は、少し調子が戻っていた。
「馬鹿にしてるんじゃないよ」
その一言で、私も真紀も黙った。
ジェスが何でも冗談にするのはいつものことだ。だからこそ、彼女が「冗談じゃない」と言った時は、冗談より重い意味を持つ。
「ただ、初めて知ったんだ」彼女は低く言った。「人って、誰か一人のせいで、あんな風になれるんだなって」
医療区画には、機器の規則的な電子音だけが残った。
私は何も言わなかった。
真紀も何も言わなかった。
でも、この言葉を聞いたのは私だけじゃないと、はっきり分かっていた。
数秒経って、ジェスは空気が重すぎると感じたのか、自分から少し緩めにかかった。
「まあ、今すぐ図星を突かれた顔をしなくてもいいけどね」彼女は言った。「私だって、そこまで血が足りなくなってるわけじゃない。とりあえず今日一日で学んだことが一つ」
「何」つい口を挟んだ。
「これからもし、シモに手を出そうとする奴がいたら」ジェスは咳払いを一つして、少しいつもの調子を取り戻した。「まずは九島の手元に斧があるかどうか確認してからにする」
毛布を引き剥がして投げつけたくなった。
でも真紀は、その瞬間だけは珍しく、すぐに冷たく否定しなかった。
ただ視線を落とし、半拍遅れてから、ごく平坦に言った。
「斧がなくてもできる」
さすがのジェスも、一瞬黙った。
私はその場で消滅したくて、目を閉じて枕に顔を埋めた。
「本当にいい加減にして……」布越しに呟いた。
カーテンの向こうで、ジェスが息を漏らすように笑った。
「じゃあ、少しは真面目な言い方に変えるか」彼女は言った。「シモ、今日私はあんたに一つ借りができた。そして、あいつにも一つ」
その一言は簡単だった。
けれど、簡単だからこそ重かった。
天井の薄い灯りを見つめ、数秒してから低く返した。
「脚を治してから、借りのことは考えなさい」
「つれないな」ジェスは言った。「せっかく今日は、ちょっとだけ真面目な路線を歩いてみようと思ったのに」
「あんたには似合わない」
「九島なら似合う?」
「彼女にも似合わない」
「おい」
さすがに真紀が口を挟んだ。声音は淡々としていたが、中にあるいつもの警告のトーンは元通りだった。
不思議なことに、その声を聞いて、かえって少し安心した。
ジェスも同じだったのだろう。
「はいはい、黙りますよ」彼女は笑いながら言った。「じゃあ本当に寝る。今度こそ。——少なくとも、これ以上ここを夜間限定の告白会場にしないならね」
「誰も告白なんかしてない」私は即座に反論した。
「うんうん」ジェスの声は、これ以上なく適当だった。「その通り。ただ、この部屋、あと一歩踏み出したらアウトみたいな空気でパンパンだってだけで」
口を開きかけて、結局、教育的指導は諦めた。
怪我人と口喧嘩で夜明かしするほど元気じゃない。
カーテンの向こうは、ようやく静かになっていった。
今度こそ、本当に静かになった。
再び真紀を見た。
彼女もこちらを見ていた。
視線がぶつかった一瞬、ジェスのさっきの数言が、本当に面倒なものをかき回してしまったのだと、唐突に理解した。
暴かれたのは秘密そのものではない。
言葉にせず、視線を逸らし、仕事と危機感で押し込めておけば、まだ誤魔化せていたものに、第三者という目撃者が増えた。知っている人間が、もう一人増えた。その時点で、これは私と真紀の間にだけ引いておけば済んだ「見ないふりの線」ではなくなってしまった。空気の中に、もう形を持って残ってしまった何かになった。
非常に厄介で。
とても、なかったことにはできない。
真紀は私を見つめ、最後に低く聞いた。
「まだ、眠れそう?」
少し考え、正直に答える。
「さっきまでは微妙。今は……さっきよりマシ」
「ジェスが黙ったから?」
「それが大きな要因の一つ」
「もう一つは?」
彼女を見た。
枕元の小さな灯りが、彼女の目をいつもより暗く見せていた。そこに、まだ口に出されていない言葉がいくつも沈んでいる——そんな感じがした。
喉が小さく動いた。
それから言った。
「まだ、あんたがここにいるから」
真紀は答えなかった。
ただ、ごく小さく、ゆっくりと、椅子をもう少しこちらへ引き寄せた。
触れてはこない。
「一緒にいる」とも言わない。
それでも、その動きだけで、多くの言葉よりもはっきりとした答えになっていた。
私は目を再び閉じた。
医療区画は相変わらず暗く、雪風は飛び続けている。外の世界が良くなったわけでもない。けれど、昼間ドアの隙間から入り込んできたものたちは、今だけは少し遠ざかった。
半分眠りに落ちかけながら、最後に聞いたのは、規則正しいモニターの音と、遠くから伝わる艦体の低い振動と、ベッドのそばにある、ひどく静かで、ひどく安定した呼吸音だった。
誰かが、本当にまだそこにいる。
そして、しばらくは、どこにも行かない。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




