127.もう二度と、あなたの手を離さない 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「てめぇ……ぶっ殺す!!!」
次の瞬間、真紀が動いた。
大声を上げるわけでも、突進するわけでもない。 装甲の足裏が地面に深く沈み込み、「ドン」という鈍い音が響いたかと思うと、全身が弾かれたように一直線に飛び込んできた。
最初の一撃は、山羊髭ではなかった。 私を押さえていたデブの方だった。
斧刃が斜めに振り下ろされ、私の腕を掴んでいたそいつの腕を直接叩き潰した。切断ではない。叩き潰すのだ。動力装甲の力が戦斧全体を押し込み、装甲板、骨、テーブルの角が同時に弾け飛んだ。デブの悲鳴は半分しか出なかった。そのまま人ごとテーブルを吹き飛ばされ、後ろの補給箱に激突した。
支えを失った私は半跪きで床に落ち、掌が灰と血で汚れた床に押しつけられた。
ほぼ同じ瞬間、Dが続いた。
正面の扉からではない。突き刺さった降下艇の残骸の隙間から横に飛び込み、着地と同時に銃を上げた。
パン。パン。
銃に手を伸ばそうとした帝国兵二人が、ほぼ同時に被弾した。一人は肩が弾け飛び、もう一人は太腿に力が入らなくなって膝から崩れ落ちた。Dは二度見もせず、左手を振り、後から続いた搬送兵二人を左右に展開させた。
「右を制圧しろ!」と怒鳴る。
一人が端末テーブルの裏へ飛び込み、もう一人が脇の雑物棚を蹴り倒して、あの痩せた長身男の退路を塞いだ。ホール全体が、鉄棒でかき混ぜられた溶鉄の鍋のような混乱に陥った。
山羊髭の反応は速かった。
一気にジェスを引き起こし、刃を彼女の喉元に横に当てた。
「下がれ!」
真紀は下がらなかった。
止まりもしなかった。
ただ、もう一歩前へ踏み出した。
装甲の靴底が砕けた鉄片を踏み砕き、耳障りな金属音が響く。彼女の呼吸が拡声器を通して伝わってくる。何か硬いものを強引に押さえつけている機械の振動音のように、重かった。
山羊髭も、まさか彼女がそのまま前へ来るとは思っていなかったのだろう。手首に力が入り、刃がジェスの首筋に細い血の線を刻んだ。
「下がれと言って——」
言い終わらなかった。
ジェスが体を横に沈めた。
まだ動ける方の足で山羊髭の膝の裏を思い切り蹴り上げ、椅子の残骸ごと横に倒れ込んだ。刃が首筋を掠め、防護カラーの端を少し削り取った。
その同じ瞬間、真紀の戦斧が届いた。
振り下ろしではない。 横薙ぎだ。
斧の背が先に山羊髭のナイフを持つ手を叩き、腕全体を外側へ弾き飛ばした。続いて斧刃が捻りの勢いで戻り、肩と首の境目に深く叩き込まれた。装甲が割れ、骨が折れる音が、警報音の中でもはっきりと頭皮を粟立たせるほど聞こえた。山羊髭はその力に体ごと横へ吹き飛ばされ、壁に激突し、そのまま崩れ落ちた。
だが真紀は止まらなかった。
本当に、止まらなかった。
彼が倒れたことなど見えていないかのように、すぐに二撃目を叩き込んだ。真っ直ぐ胸元へ。三撃目はさらに重く、戦斧全体と装甲の動力補助が一緒に押し込まれ、壁まで揺れた。血と砕けた装甲の破片が彼女の胸甲とフェイスシールドの縁に飛び散り、目に痛いほど赤かった。
私は半跪きで、彼女を見ていた。
戦斧を引き抜いて、また叩き込む。 また引き抜いて。 また叩き込む。
一撃ごとに、正確だった。 一撃ごとに、意図した通りに見えた。 そして一撃ごとに、「十分」という線を越えていた。
脇では、あの痩せた長身男が横から逃げようとしたところをDが二発で脚を撃ち抜き、倒した。腰の拳銃に手を伸ばそうとする手を足で蹴り飛ばす。別の帝国兵が銃を持ち上げかけたところで、側面の扉から飛び込んできた雪風の兵士に体当たりされて倒れた。銃口が上を向いたまま暴発し、天井の照明カバーを砕いた。ガラスの破片がバラバラと降り注ぐ。
空間全体が銃声、警報音、荒い息、金属の衝突音に満ちていた。
それでも私の耳の中で一番はっきり聞こえたのは、真紀の斧が落ちる音だった。
重い。 鈍い。 一撃ごとに、深く。
「真紀!」
呼んだ。
聞こえていないのか。 あるいは聞こえていて、止まれないのか。
Dが振り返り、顔色を変えた。すぐに走り寄り、戦斧の柄の後半を掴んだ。
「もう十分だ!」
真紀が強引に振り払った。その力でDまで持っていかれそうになる。よろめいた半歩。彼は低く舌打ちし、今度は横から肩甲ごと体当たりして彼女を押し退けた。
「九島! 終わりだ! 死んでる!」
戦斧が宙で止まった。
真紀はそのまま立っていた。まだ振り下ろそうとしていた姿勢のまま、胸が激しく上下している。動力装甲の排熱口が開いたり閉じたりして、焼けた白い蒸気を吹き出し続けていた。斧の柄を握る手は死ぬほど強く、手甲の関節部分から微かな摩擦音が聞こえるほどだった。
ゆっくりと、頭を向けた。
まるでこの瞬間になって初めて、ここには敵だけがいるわけではないと、ようやく見えてきたように。
まずDを見た。 次に、床の血を見た。 そして、私を見た。
私はまだ床に座っていた。片手で体を支え、もう片手で強く押さえつけられて痺れた肩を押さえている。口元は切れていて、顔もたぶん相当な有様だ。ジェスは反対側の壁際に寄りかかっていた。防護カラーが一か所切り裂かれ、首筋に細い血の筋。怪我した方の足がまだ震えていて、顔色は基地の冷たい照明に半分命を吸い取られたように白かった。
真紀は、すぐには近づいてこなかった。
その場に立ち尽くした。まるで全身が突然、固まってしまったように。
一秒前まで人を叩き込んでいたあの勢いが、誰かに電源を引き抜かれたように消えていた。だが電源を引き抜かれた機械は、すぐに元に戻るわけではない。まず空回りして、熱を持って、震えて、それからようやく一拍遅れて、自分が止まったと気づく。
斧はまだ持ち上がったまま。 でも、目がもう違った。
人を殺す目ではなかった。
怒りと恐怖だけで突き進んで、本当に救い出した後になって初めて、自分もあと一歩で一緒に飛び込むところだったと気づいた人間の目だった。
「……シモ」
口を開いた時、声が酷くしゃがれていた。喉を紙ヤスリで削られた後のように。
一歩前へ踏み出した。 また止まった。
私の口元の血と、デブに掴まれた手首の痣が、ようやく見えたのだろう。視線が私の上で二秒も止まらないうちに、すぐにジェスの首筋の血の筋と、腫れ上がった足首へ移った。
その瞬間の真紀の表情は、うまく言い表せない。
単純な怒りでも、単純な恐怖でもない。誰かが彼女の頭の中に突然一本の亀裂を入れたような、そういう顔だった。さっきまで強引に押さえ込んでいたすべてのもの——後からくる恐怖、怒り、自責、そして彼女が普段は絶対に自分に触れさせない何か——が一気に押し寄せて、同じ一つの顔にぶつかり合い、だから逆に、一瞬何の表情も作れなくなっていた。
Dが先に銃を収め、周囲を一通り見渡した。
「制圧完了」と低い声で言う。「生存者二名、重傷一名、その他は全員倒れた。外では上層を掃討中」
誰も返事をしなかった。
というより、この小さな空気の中では、今は戦術報告を聞く余裕のある人間が一人もいなかった。
真紀はゆっくりと斧を下げた。
刃が床を引きずり、耳障りな金属音が走る。彼女は私の前まで歩いてきた。さっきより何世界分も遅い動作で。一歩近づくごとに、自分の手にもう人を傷つける力が残っていないことを確認してから踏み出しているようだった。
私の前でしゃがんだ。
動力装甲が大きすぎて、この動作は少し不格好で、どこか滑稽でさえあった。本来ならここで一言くらい嘴を挟むべきだろう。たとえば「今のあんた、急にひざまずくのを覚えた重機みたいに見える」とか。でも口を開いても、喉の中には血の味しかなく、何も出てこなかった。
真紀の手が途中まで上がって、また止まった。
どこに触れればいいか分からないのだ。 痛いところに触れてしまうのが怖い。 それとも、自分の手にまだあの時のものが残っているのが怖いのか。
最後に、指先だけで私の頬の脇を、ごく軽く触れた。打たれて赤くなっているところに届く前に、素早く引き戻した。
「……ごめん」と言った。
その二言は、聞こえるかどうかというほど軽かった。
私は彼女を見て、しゃがれた声で返した。
「人をあんな状態にしてから言う謝罪として、順番がちょっとおかしくない?」
真紀の呼吸が一瞬詰まった。
笑いでもなく、泣きでもない。息が上にも下にも行けず、ただ胸の中で硬く止まってしまった、あの感じだ。
隣でジェスが壁に寄りかかったまま、病床のシーツと同じ色の顔色をしながら、それでも口を開いた。
「同意する」彼女は息を吸い、少し歪んだ笑みを作った。「それに……あと十秒遅かったら、雪風の救助効率に正式にクレームを入れるところだった」
真紀がすぐに振り向いた。
「あんた——」
言いかけて、止まった。
ジェスの足の状態が、ようやく本当に見えたのだ。
その断絶は、この一秒に起きた。
戦斧を持って人を一撃一撃床に叩き込んでいたあの真紀が、まるで自分の体から引き抜かれたように消えた。残ったのは別のバージョンの彼女だった。顔色は蒼白で、目の底にはまだ引かない殺気の残滓があり、それでも目の前の現実に追いつかれ始めていた。
シモの口元には血がある。 ジェスの首には傷があり、足は見るも無残に腫れている。 床には死体と、まだ呻いている生存者が転がっている。 空気は熱した金属と血と消毒液の臭いで満ちている。 そして彼女はその中心に立っていて、戦斧からはまだ血が滴っている。
彼女は初めて、自分がどんな姿で飛び込んできたかを、ようやく意識したようだった。
喉が動くのが見えた。
斧の柄を握る手がゆっくりと開き、また握り直す。震えない角度を探すように。
Dが歩み寄り、ジェスの傷の状態を確認するためにしゃがんだ。何も見ていないかのように、淡々と。
「歩けるか?」 「無理」ジェスは正直に答えた。 「結構。なら無理するな」
Dが私の方を向いた。「お前は?」
「死なない」
「なら立て」Dが手を伸ばして引き起こした。視線はそのまま私を越えて真紀に向かった。「九島、斧を収めろ。今は呆けている時間じゃない」
真紀はその一言で引き戻されたように、指先が震え、ようやく戦斧を磁気ホルダーに掛けた。
でも、すぐには立ち上がらなかった。
私を見て、またジェスを見て、唇をきつく噛んでいた。制御を失った後に無理やり理性へ切り戻そうとする亀裂が、目の底にまだはっきりと残っていた。
私は不意に思った。さっき彼女が人を斬っていた姿より、この瞬間の方がずっと見ていられない。
あの時は、少なくとも自分が何をしているか分かっていたから。 今は、分からなくなっている。
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帰り道、誰も口を利かなかった。
私だけじゃない。ジェスまで黙っていた。それだけで、事態の深刻さが分かる。ジェスが静かな時は大抵二つのどちらかだ。眠っているか、痛みで口を動かす気力もなくなっているか。残念ながら今は明らかに後者だった。
雪風の回収ハッチが目の前で開いた時、私はその扉が艦の扉というより、地獄から現実へ一時的に引きずり戻すための隙間みたいに見えた。
気密ロックが閉まる音、減圧音、内部照明が一つずつ点いていく。見慣れた光景のはずなのに、笑いたいような、笑う力もないような気分だった。雪風の甲板に靴底が触れた瞬間、膝が抜けそうになった。隣で真紀がまだ支えていてくれなかったら、全艦の前で非常に格好悪い姿で膝をついていただろう。
今日は正直、格好悪い場面がもう十分すぎるほどあったが。
減圧扉が開くと、アッシュがほぼ最初に飛び込んできた。
本当に飛び込んできた。
あの男は普段、艦橋が炎上しても、反応炉が不調でも、帝国艦隊が外でノックしていても、まず袖口を正してから口を開くような人間だ。それが今は歩調まで乱れていて、顔色も悪い。理性を推進剤にして何とかここまで辿り着いたような顔をしていた。
「星野、怪我は——」
言いかけて、彼の動きが止まった。まるで誰かに見えない棒で横から一発殴られたように、勢いよく顔を背けた。
しかも非常に狼狽した、彼らしくない背け方だった。
私は半秒固まって、自分を見下ろした。すぐに理解した。
……ああ。
服が破れている。
比喩ではなく、文字通りの意味で。
外層の防護服は乱闘の最中に既に引き裂かれ、その後も引っ張られ、押さえつけられ、ぶつかり続けた結果、帰還した時にはかろうじて体に引っかかっているだけの状態だった。
嵐の中でも、血と灰と警報灯の下でも、そんなことに気を回す余裕はなかった。でも雪風の清潔な白い照明の下に入った途端、惨状が一目で分かってしまう。胸元の布地はほぼ戦死状態で、千切れた固定帯と内側のアンダーウェアだけが、最後の尊厳を辛うじて守っていた。
……守れていなかったが。
アイダが私の方を一瞥しただけで、医療AIより速く反応した。
「男は全員、出て」
声を張り上げるわけでも、テーブルを叩くわけでもない。それでも殺傷力は完全だった。アッシュが即座に一歩後退し、Dはジェスを支えて入ってきたところで、その言葉を聞くなり彼女を中へ渡し、一言も言わずに踵を返した。後から続いて入ってきた回収小隊の男性兵二人は、もっと素直だった。ほぼ反射的に後退し、向き直り、扉を閉める。一連の動作が滑らかすぎて、アイダにこう言われ慣れているのが丸分かりだった。
アッシュだけ、出て行く前に一度振り返って私を見た。
その一瞥は短かった。
本人は誰にも気づかれていないと思っていたかもしれないほど短かった。
でもその中には、確認と、怒りと、後からくる恐怖と、少しだけ、非常に微妙な狼狽が混じっていた。普通の艦長として傷の確認をして命令を下して状況を処理しようと準備していたのに、現実が「まず目を逸らせ、さもなくば次に死ぬのはお前かもしれない」という高難度の場面を突きつけてきた、そういう顔だった。
本来なら笑うところだ。
笑えなかった。
アイダはすでに歩み寄っていた。どこから出てきたのか、毛布を一枚手にしていて、動作は慣れた手つきで素早かった。まるで甲板の端で人間としての尊厳を配給しているかのように。
毛布を私の肩から膝まで全部包んだ。しっかりと、きつく。さっきの場所から、あの視線から、あの手から、丸ごと包み直してくれているような包み方だった。
「立ってないで」彼女は言った。「真紀、彼女を医療室へ連れて行って。今すぐ」
「分かった」真紀の声は低かった。
ほとんど迷わなかった。
次の瞬間、私は抱き上げられていた。
支えられたのではない。本当に、抱き上げられた。
抗議しようとした。脚は折れていないし、少なくとも体重の半分以上は自分で動ける人間の範疇にあるはずだ。でもその考えが浮かびかけた瞬間、体が非常に正直に否定した。
彼女の腕が私の膝の裏と背中を通り、体ごと持ち上げた時、自分にほとんど力が残っていないことに初めて気づいたからだ。
毛布が肩から少しずれた。私は無意識に端を掴んだ。
真紀が少し抱き直して、私を見ずに、低く言った。「私が持つ」
その四文字は平坦だった。
でも、彼女の腕が震えていた。
重すぎるわけではない。さっきの状態から、まだ完全に戻れていないのだ。
動力装甲はすでに半分外してあり、上半身は内側の戦術服だけだった。袖と肩口にはまだ拭いきれていない血が残っている。帝国兵のものが一部、私たちのものが一部。彼女の胸に寄りかかると、心臓の音が聞こえた。速かった。あの、いつも瞬きさえ計算してから行うような九島真紀とは、とても思えないほど速く。
廊下は静かだった。
彼女の足音と、前を行くアイダの速く安定したヒールの音と、私自身の少し乱れた呼吸だけが聞こえた。
ジェスは別の搬送ベッドで隣の医療室へ運ばれていった。通り過ぎる時、停電した培養槽から引き上げたような顔色をしていたが、それでも私に向かって無理やり口の端を引き上げた。
「今のあんた……ひどい脚本に虐められてる女主人公みたい」
私は彼女を見て、半秒置いてから返した。「黙って……あんたの方が、作り直し失敗した悪役みたいに見える」
「それはそれで悪くない……少なくとも出番がある……」
そう言い終わる前に、ベッドが遠ざかっていった。
死んでも性分が変わらない人間だ。
でも、彼女がまだ口を動かせる力があると分かった瞬間、ずっと胸に詰まっていた息が、ほんの少しだけ抜けた。
医療室に入り、扉が後ろで閉まって初めて、私は本当に震え始めた。
大げさな、ドラマチックな震えではない。筋肉の中を細い糸が一本ずつ引き攣るような、体がようやく「あ、危険は一時的に過ぎた、そろそろ崩れていい」と気づいたような震えだ。
アイダがベッドを水平に調整し、真紀が私を横たえた。動作はひどく慎重で、触れただけで崩れてしまうものを扱うように。でも慎重にされるほど、逆に吐き気がした。
横になった瞬間、移動中に強引に押さえ込んでいたものが全部戻ってきた。
あのデブの顔。 あの手。 あの息遣い。 そして、あいつが手を伸ばして胸元のそれを引きちぎろうとした時の、今思い出しただけでも吐き気がする感触。
胃が一気に縮み、反射的に横を向いて空嘔吐した。
アイダの反応は速く、すぐに処置用の受け皿を差し出した。でも実際には何も出なかった。胃はとっくに空で、残ったのは空嘔吐と、喉を何度も波のように上がってくる酸だけだった。
「ゆっくり」アイダが私の背中に手を当てた。「呼吸して」
毛布を握る指が白くなった。
真紀はベッドの傍らに立ったまま、釘を打ち込まれたように動かなかった。触れてこない。でも体中から滲み出てくるような張り詰め方が、空気まで硬くするほど強かった。
目を閉じて、何度か息を吸ってから、ようやく一言を絞り出した。
「……あのデブが私のブラジャーを外そうとしたことを思い出したら、吐きそうになる」
部屋が二秒間、静かになった。
アイダの表情が一瞬空白になり、それから非常に軽く「ああ」と言った。専門性と怒りが同時に接続されたような声だった。真紀の方を向き、その目が非常に明確なことを伝えていた。今すぐ引き返してもう一度やり直したいなら、完全に理解できる。
真紀は何も言わなかった。
ただでさえ悪かった顔色が、その瞬間さらに一段沈んだ。
私は口を拭い、喉はまだ乾いて痛く、頭は突然、この上なく場違いで、でもどうしても一番気になる一点に引っかかっていた。
「それに……」鼻を啜り、声がひどくしゃがれていた。「そのブラジャー、真紀が選んでくれたやつなんだけど」
真紀がようやく動いた。
顔を下げて私を見た。聞き取れなかったような、聞き取れたけれどどこから返せばいいか分からないような、そういう顔だった。
口に出してから、自分でも馬鹿みたいだと思った。
本当に馬鹿みたいだ。
帝国の地下生物兵器研究施設、怪物の襲撃、拉致、もう少しで取り返しのつかないことになるところ、最後は動力装甲で扉を破って救出された——それだけのことを経験した後で、今私が最初に崩れた理由が、
あのブラジャーは真紀と一緒に選んだものだということ。
雪風が出発する前、彼女が補給リストの前に平然と立って、同じくらい実用一辺倒な何着かの中から、最後に「これが一番肩のラインに当たりにくくて、防護服を長時間着ても楽だから」と言って選んでくれた、あの一枚だった。
あの時、私は文句を言った。「あんた、私の下着選んでるんだか、装甲パーツのスペーサー選んでるんだか、どっち?」
真紀は一言だけ返した。「少なくとも、あんたが適当に掴んでくるよりはマシ」
今思い出すと、その分だけ余計に胸がつかえる。
物が高かったからでも、それが特別可愛かったからでもない。
あれは本来、とても普通で、とても小さくて、とても生活の一部で、とても雪風らしい出来事だったからだ。小さすぎて、誰もわざわざ覚えていないような。
でも一度あんなクズに触られると、その「普通」さえも汚された気がする。
私は毛布をきつく握った。視界が熱を帯び始める。
「私自身、まだ『着心地悪い』って文句をつける余裕もなかったのに……」毛布の縁を睨みつけたまま、小さな声で言った。「あのクソ野郎に、何の権利があって触るのよ」
真紀の喉が動いた。
何か言おうとしたようだったが、唇をごく軽く結んだだけで、結局一言も出てこなかった。
アイダが小さくため息をついて、手首の痣に温熱パッチを貼りながら、いつもより随分柔らかい声で言った。
「シモ、まずこの件はリストに入れておいて」彼女は言った。「後でゆっくり取り返せばいい。今はまず、自分を回収することを考えて」
その言葉は、本来なら効くはずだった。
でも、彼女があまりにも本気に聞こえたせいか、それとも「回収する」という言葉がちょうどどこかに当たったせいか、鼻の奥が急に痛くなった。
それまでは、まだ耐えられていた。
本当に。
あの場所で、私は泣かなかった。
殴られた時も泣かなかった。 押さえつけられた時も泣かなかった。 ジェスの足を踏まれたのを見た時も泣かなかった。 真紀があの連中を叩き潰した時も、ただ呆然としていただけだった。
なのに今、雪風の医療ベッドに横になって、毛布を掛けられて、アイダが横で処置をしていて、真紀がベッドの傍に立っていて、手を伸ばせば届く距離にいる——そんな状況に置かれて、初めて耐えられなくなった。
崩れ方は一気に爆発するようなものではない。
まず喉が詰まり、次に目が熱くなり、それから胸全体が縮み上がる。さっきまで無理やり張り付けていた殻を、誰かがそっと指先で突いた拍子に、全部砕け散ったみたいに。
顔を横に向け、唇を噛んだ。それでも、その震えを押し込めることはできなかった。
最初に声が漏れた時、自分でも聞きたくないほど酷い音だった。
情けない。 遅すぎる。 それはまるで、事故現場の後片付けをしながら、やっと「あの時は本当に怖かった」と認める、そういう類いの音だった。
手の甲で目を押さえて、声を全部その中に押し込んだ。
「……気持ち悪い」
今度は、誰も冗談で受けてくれなかった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




