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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:ロスト
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124. 高温のカドミウム惑星  3

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

「全員、距離を維持。まずは外周の数値を取る。D――」


彼女が言いかけたところで、チャンネルから軽く、しかし絶対に喜ばしくない笑い声が聞こえた。


「了解了解、まずは突っ込まずに、外周確認して、数値取って、良い子にしてるって――」


私の中で警鐘が鳴り響いた。 こういうことを言う人間は、大抵、次の瞬間には良い子でなくなるからだ。


「ジェス、」私は即座に口を開いた。「やめ――」


遅すぎた。 左側の高台で黒い影が揺れたかと思うと、彼女はすでに焦黒色の岩の尾根を踏み越えて駆け下りていた。


高熱防護服が暗赤色の空の下で、あまりにも鮮やかな一本の線を描く。誰かが言うことを聞かないナイフを、あの半分埋もれた人工建築物に向けて直接投げつけたかのようだった。


「私が先に、入り口の様子を見てきてあげる!」


彼女の声にはまだ笑いが混じっていた。 私はその場で、手にしていた記録板を握り潰しそうになった。


「ジェス・マッカロウ!」


真紀の声が、この上陸任務で初めて、明確に温度を下げた。


だがジェスはもう止まらなかった。 彼女は先陣を切り、焦黒色の地表と冷却河道の縁を踏み越え、ほとんど瞬きする間にその建築物の入り口に迫り、そして躊躇うことなく、あの半ば崩落したアーチ状のフレームの下へ飛び込んでいった。


一秒の猶予もなかった。


私の頭に最初に浮かんだのは戦術でも、規律でも、「この女は本当にしつけがなってない」でもなかった。


ただ一言、――終わった。


なぜなら、こういう場所で「先に中に入って様子を見てくる」と言いたくなるような場所は、たいていの場合、人に「ちょっと様子を見させる」ために設計されてなどいないからだ。


「ジェス、戻って!」私は通信に向かって叫んだ。


応答はない。 ただ短いノイズだけが残った。彼女がさっき突入した時に巻き上げた粉塵と、施設内部の残留信号が外部通信に衝突したような音だった。


真紀が即座に一歩前へ出た。 「D、外周を詰めなさい! 下士官二名で入り口の左右を固めろ、散開は許可しない!」彼女の早口は、刃がテーブルの上を滑るようだった。「シモ、私と――」


彼女の言葉は最後まで続かなかった。 建築物の内側から、まず短く金属がぶつかる音が聞こえた。


次に、ジェスの悲鳴が響いた。


普段の、世界中に自分が騒いでいることを知らせるための、わざとらしい大声ではない。 火傷した、つまずいた、と適当に悪態をついて終わるような小さな失態でもない。


それは、無理やり絞り出されたような惨鳴だった。短く、甲高く、割れていて、肺から空気が直接絞り切られたように、語尾には制御不能な震えが混じっていた。


私の背筋が、一瞬で凍りついた。


あれはジェスが普段出すような声ではない。 言い換えれば―― 中には、本当に何かがいる。


これ以上考える暇はなかった。足が先に動いていた。


「シモ!」真紀が後ろで私を呼んだ。


「分かってる!」


自分が一体何を分かっているのかすら分からなかった。ただあの叫び声が耳に突き刺さった瞬間、身体が脳よりも先に決定を下していた。熱く焼けた焦黒色の地表を踏み越える。


ブーツの底と砕けた金属の砂が擦れ合い、乾いた耳障りな音を立てる。入り口に飛び込んだ瞬間、バイザー内の環境数値が一気に跳ね上がった。


内外の異常な温度差。 局所的な微弱電力反応。 空気中に高濃度の有機腐敗物と未知の生体粒子。


上等だ。 地表の外はオーブン。 中は、実験室版の悪夢だ。


飛び込んだ途端、まず光の落差に視界を圧迫された。 外の世界は暗赤色と焦黒色で、空全体が発熱しているようだった。しかし内側は、まったく別の、吐き気を催すような寒々しさがあった。


壁面には低出力の青白い非常灯が残っており、明滅する光が内部の通路全体を、まだ完全に電源が落ちていない死体のように切り刻んでいた。


床には濡れた光沢がある。結露液か、栄養液か、それとも一生成分を知りたくないような粘性の液体か。


壁際には半透明の標本槽がいくつか埋め込まれていた。すでにひび割れているものもあり、まだ幽かな青い残光を放っているものもある。


槽の中には輪郭の定かでない黒い影が漂っていた。さらに奥の壁には、色褪せた軍需企業のロゴが微かに残っており、その横の文字は半分欠け落ちて、部隊か研究機関の末尾のコードらしきものだけが残っていた。


ここはやはり、ただの採掘前哨基地ではない。 ここは、高熱の惑星に半分埋もれながらも、まだ完全に死に絶えていない廃棄された実験施設だったのだ。


そして、私はジェスを見つけた。


彼女はすぐ前方にいた。 より正確に言えば――彼女は、ある化け物に絡みつかれていた。


その代物は、異常なほど巨大だった。 単なる「巨大な虫」ではない。「この生物をデザインした人間は、自分の作品と一緒に一週間同居させられるべきだ」と思わせるような怪物だった。


胴体は何本もの工業用パイプをねじり合わせたように太く、表皮は深紫から黒に近い、濡れて光る質感だった。その表面には、極めて不快な黄白色の発光嚢胞が点在している。


前半身を高く持ち上げた姿は、蠕虫のようでもあり、節足動物のようでもあり、交配させるべきではない実験の産物のようでもあった。口器は何重にも開く硬質の骨歯で構成され、その内側ではさらに細く短い触手が濡れた音を立てて蠢いていた。


そして今、その怪物は、生きた蛇のように太く力強い数本の付属肢で、ジェスの半身を死に物狂いで締め上げていた。


「クソ――!」


ジェスの罵り声は途中で悲鳴に変わった。 怪物の鋭い前脚の一本が、金属の鉤爪のように彼女の肩口から腰腹部にかけて横たわり、がっちりと食い込んでいる。ジェスは両手で必死に、締め付けてくる肉質の肢節の一本を押し返そうとしていた。防護服の外層はすでに長く引き裂かれ、熱エネルギー隔離層が裏返って露出している。その表面には、怪物が分泌する粘液によって腐食した焦黒色の痕跡すらあった。


私の心臓は一瞬で沈み込んだ。


距離が近すぎる。 本当に近すぎる。


私は反射的に熱線銃を抜いたが、次の瞬間にはそれが使えないと悟った。ジェスは怪物とほぼ密着している。絡みつき方がきつすぎ、角度が悪すぎる。この距離で発砲すれば、運が良くて怪物とジェスを一緒に撃ち抜くことになる。


運が悪ければ、未知の残留エネルギー設備がどれだけ詰まっているか分からないこの場所で、二次爆発を引き起こしかねない。


「シモ!」ジェスがもがきながら吠えた。声には明らかに痛みが混じっていた。「これ以上見物してるなら、私、本気で怒るからね――」 「私が先にあなたを殴り飛ばすべきよ!」


私はほとんど怒鳴り返していた。 頭の中に高度な判断などない。ただ原始的で、極めて不格好な直感だけがあった。撃ってはいけない。遅れてはいけない。これ以上締め付けさせてはいけない。


私は腰の側面に手を伸ばした。 銃剣。 普段はただのアクセサリーであり、装備していると「ちゃんと訓練を受けた人類文明の遺物」っぽく見えるだけの代物が、今、ジェスを道連れにしない唯一の選択肢となった。


私は躊躇うことなく、それを引き抜いた。


鞘から抜ける音は、この狭く、湿り気を帯び、青い光が乱反射する空間で、冷たく短く響いた。


怪物の濡れて光る頭部が、猛烈な勢いでこちらへ向いた。


口器の骨歯が一斉に開き、粘つく糸が引き伸ばされ、酸の匂いを帯びた唾液が奥から垂れ下がるのが見えた。昨夜消化しきれなかった疲労と一緒に、胃の中のものをすべて吐き出したくなるような光景だった。


だが、足は止めない。


第一撃。私はジェスの上半身に巻きついている肉質の肢節に向かって突き立てた。


手応えは最悪だった。 肉に刺さったというより、高圧の濡れたケーブルと腐ったゴムの混合物にナイフを無理やりねじ込んだような感触だ。外層は粘ついて滑るが、内部には弾力がある。刃先が食い込んだ瞬間、極めて悪臭を放つ熱い生臭さが噴き出した。金属、生物の粘液、そして高温で変質したタンパク質が混ざったような匂いが、バイザーの前で炸裂したかのようだった。


怪物が激しく痙攣した。 通路全体がそれに合わせて揺れた。


ジェスは歯を食いしばり、その一瞬の緩みを利用して強引に外へ身を捩った。だが、別の付属肢が即座に巻きつき、彼女の太ももと腰の側面を締め上げ、再び怪物の主体の方向へ引きずり込もうとした。


「お前、一体何を食って育ったのよ!」私は二撃目を、怪物の頸部に近い位置へ容赦なく突き立てた。


今回はさらに力を込めた。 刃の半分が完全に埋まり、金属光沢を帯びた黄白色の体液が一気に噴き出して、私のガントレットと床に飛び散った。バイザーの警告が即座に点灯し、外来生物の液体に腐食性があることを示し、直接の接触を避けるよう推奨してきた。


私はその場で笑いそうになった。 推奨だと。 こんな時にシステムがこれほど礼儀正しいなんて、戦場で公務マニュアルを渡されたような気分だ。


怪物が奇妙な音を発した。 咆哮でもなく、虫の鳴き声でもない。 数十本の金属線を束ねて、逆方向に力任せに引き裂いた時のような、甲高く鋭い摩擦音だった。


怪物の前半身全体が私に向かって飛びかかり、ジェスも引きずられて前へ揺れた。


「シモ、左!」


私は本能的に左へ身をかわした。 次の瞬間、あの鋭い前脚が私のバイザーの縁をかすめ、横の金属の壁板をこすって、長い火花を散らした。もし半拍遅れていたら、今引き裂かれていたのはジェスの耐熱服ではなく、私の頭蓋骨だった。


「ありがと!」 「無駄口叩かない!」


私は横に倒れていた金属箱を踏み台にして体を前へ送り、三撃目を、半ば飛びかかり、半ば叩きつけるようにして、眼球のような器官が密集している位置へ突き立てた。


今度はついに効いた。


怪物は全体を激しく縮ませ、ジェスに巻きついていた肢節もきつく締まってから一気に緩み、神経の接続を間違えたように制御不能にのたうち回った。ジェスはその半秒の隙を突いて強引に後ろへ身を引き、肩口の防護服がさらに少し引き裂かれたが、少なくとも上半身は抜け出した。


私は彼女の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。


だが怪物は、死の淵で激しく痙攣した。


それは攻撃ではない。 本能的な、最後の足掻きに近いものだった。


その巨大で滑りのある体躯が、狭い通路の中で狂ったようにのたうち回り、尾部が入り口の半ば崩落していたアーチ状のフレームに重く叩きつけられた。前脚が乱れ飛び、口器からは歯の根が浮くような嘶きが漏れる。次の瞬間、入り口上部の構造パネルが、ついに最後の骨を蹴り折られたかのように、轟音を立てて崩れ落ちた。


私とジェスは同時にその震動で身を低くした。


大量の焦黒色の外壁の破片、金属の梁、そして半分溶け落ちた支持架が、入り口に向かって一斉に崩れ落ちてくる。外の暗赤色の空の光が目の前で激しく一本の裂け目に縮み、そして土煙、熱気、崩落物によって完全に塞がれた。


私は心の中で、最も素朴な罵り言葉を吐き出すことしかできなかった。


――クソッ。


次の瞬間、HUDが悲鳴を上げ始めた。 比喩ではない。 本当に悲鳴を上げたのだ。


バイザー内周の警告枠が一気に刺々しいオレンジレッドに跳ね上がり、システムの女声が通信チャンネルを直接上書きした。その早口は、システム自体が恐怖を感じているかのようだった。


「警告! 局地的な天候の激しい変化を検知!」


「超高温嵐の接近を検知!」


「到達予想時間:六十秒」


「地表温度、まもなく三百度を突破!」


崩落による粉塵がまだ完全に収まらないうちに、外から真紀の声が聞こえた。


「シモ!!」


彼女が私をこんな風に呼ぶことは、滅多にない。 普段の、声を低く抑えた、少し冷たい「シモ」ではない。仕事の時の、乾いてきびきびとした点呼でもない。その一言は、ほとんど喉の奥から無理やり引き剥がされたような声だった。崩れた入り口と通信のノイズ越しでも、私をその場に釘付けにするには十分だった。


私は片手でまだ立ち上がりきれていないジェスをしっかりと掴み、もう片方の手で銃剣を振り払って怪物の残骸の粘液を飛ばしながら、通信に向かって叫び返した。


「真紀!」


外のノイズはひどかった。 嵐がまだここまで到達していないのに、熱波と粉塵がすでに信号全体をかき回している。それでも、彼女が向こうで息を呑む音が聞こえた。次の瞬間には、素手で入り口を掘り開けようとしているかのようだった。


それは駄目だ。 絶対に駄目だ。


もし彼女が今ここで無理に残れば、外にいる人間たち、降下地点全体、さらには雪風のその後の回収計画までもが一緒に巻き込まれることになる。ましてや、この超高温の嵐が本当に押し寄せてきた時、外の地表がまずどんな地獄に変わるかなど、誰にも保証できないのだ。


私は歯を食いしばり、普段よりもさらに厳しい語気で叫んだ。


「真紀! あなたとDは早く雪風に戻って!」


通信の向こうは、一秒も経たないうちに静まり返った。


そして、真紀の声が響いた。 低く。 硬く。 一文字一文字が、歯の隙間から絞り出されたようだった。


「あなたを見捨てることなんてできない」


心臓が激しく縮んだ。 こういう時、最悪なのは「了解」と言われることではない。 彼女が、どうしても頷こうとしないことだ。


ジェスが私の横で低く息を吸い込んだ。まだ締め付けられた痛みから完全に立ち直っていないのに、ひどく場違いな鼻で笑うような音を立てた。 「……ロマンチックね。後でゆっくり――」 「黙ってなさい!」私と真紀はほぼ同時に彼女を怒鳴りつけた。


上等だ。 少なくとも彼女にはまだ減らず口を叩く力がある。しばらくは死なないということだ。


だが、外にはもう時間がない。 HUDの六十秒のカウントダウンはすでに減り始めている。


四十八、四十七、四十六……一目盛り減るごとに、この星が極めて礼儀正しく、私たちのために丸焦げの予約を入れてくれているように感じた。


その時、Dの声が聞こえた。


「行くぞ!」


彼は普段から口数が少ないが、この時はさらに短く、硬く、ほとんど命令のようだった。


真紀は明らかに動いていない。 私は通信から聞こえる数回の極めて短い呼吸音だけで、今の彼女が外でどんな様子で立っているかを想像できた――おそらく、塞がれた入り口を見据え、肩は次の瞬間にでも工具で無理やりこじ開けようとするかのように張り詰め、その目は高熱の地表をもう一層凍りつかせそうなほど冷たいだろう。


「D!」私はほとんど吼えるように言った。「早く彼女を連れて行って!」


「星野!」真紀が向こうで鋭く私の名を呼んだ。


彼女がそう呼ぶことは、滅多にない。 胸の奥が痛むほどに少なかった。


だが、こんな時に選択肢はない。 本当に、選択肢などないのだ。


私はジェスを力任せに二歩後ろへ引きずり、まだ痙攣している怪物の残骸を避けた。そして、砕けた石と金属の枠で完全に塞がれた入り口を見つめ続けた。視線を外さなければ、外にいる人間が強制的に去らざるを得なかったという事実を、まだ辛うじて見ないふりができるかのように。


「行けって言ってるでしょ!」私は歯を食いしばってもう一度叫んだ。「言い争ってる場合じゃない!」


外が一瞬、静まり返った。


続いて、明らかな身体のぶつかる音と、真紀が強引に引き離される時に怒りを抑え込んだ低い喘ぎ声が聞こえた。


Dが動いたのだ。 しかも、非常にDらしいやり方で。


その光景が目に浮かぶようだった。長身で大柄な彼が、まだ入り口に向かって飛び込もうとする真紀を斜め後ろから抱え込み、崩落エリアから強引に引きずり離す。余計な慰めもなく、「落ち着いてください」というような時間を無駄にする文明的な手順もない。あと一秒遅れれば、外にいる全員が私たちと一緒にここで焼かれることになると、彼はよく分かっているからだ。


通信越しに、真紀がもがきながら声を押し殺すのが聞こえた。 「離して! D――」


そして、Dがほとんど通信機に貼りつくようにして吼える声が響いた。 「星野!! 必ず助けに戻る!」


次の瞬間、信号が激しく歪んだ。 外の嵐の前線が、ついに押し寄せてきたのだ。


施設全体が震えている。


私は崩落した入り口の内側に立ち、まだ息を荒らげているジェスを掴みながら、HUDの中で減っていくカウントダウンの音を聞いていた。胸の奥を、熱く重い手で強く握り潰されたような感覚だけが残っていた。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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