120. 複雑な心境 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
秘密の中には、暗闇に隠れているのではなく、「いかにも普通に見える」ものの中に隠れているものがある。
深宇宙はもともと暗い。公平に暗く、一視同仁に暗く、宇宙そのものが生きているあらゆるものに何の関心も持っていないかのように暗い。本当に厄介なのは暗闇そのものではない。その暗闇に紛れ込みながら、わざわざ自分は合法で、無害で、手順を踏んでいると装う連中だ。ローレンス修理廠で、教科書よりも整然とした帳簿を作る闇市の帳場のように。いつでも笑っているように見えて、実際はこちらの骨がいくらで売れるかを計算しているキャプテン・ハックの顔のように。そして――
「……見えた?」
前席の真紀は振り返らなかった。声は抑えられ、艙内の気圧のように平らだった。 それでも私には分かった。 単なる確認ではない。 寒気よりも薄く、鋭い何かを口に含み、それが漏れ出さないよう全力で抑え込んでいる声だ。
私は前方の観測スクリーンを見据え、喉の奥が少し乾くのを感じた。 「見えた」
キャプテン・ハックの船は減速し、姿勢を調整した。そして、たまたま通りかかっただけを装う老いた魚のように、デブリ帯の影の縁に浮かぶ大型商船へ、ゆっくりと近づいていった。
その商船は標準の識別灯列を点けていなかった。船体外殻も目立たないように処理され、本来あるはずの塗装と登録コードは薄く塗り潰されていた。貴族の礼服を裏返しに着て、内側の裏地だけを見せ、ただの通りすがりの苦力を演じているようだった。だが、どれほど隠そうとしても、骨格はそこにある。
キャプテン・ハックの船のような、あちこちからかき集めたパーツを、酔ったエンジニアが遺書代わりに溶接したような船ではない。本物の大型商船だ――外殻の曲線は整然とまとまり、側腹の貨物艙は標準的な重輸送物流の配置、係留リングと放熱フィンの設計には、老舗の大企業だけが持つ、いやらしいほどの自信が滲んでいた。
美しいというわけではない。金のかかった醜さだ。こだわり抜かれた醜さだ。「我々が違法行為をする立場にあるのは承知している。だが我々の違法コストは、お前たちの遵法コストより高い」と言いたげな醜さだった。
そして最も忌々しいことに、デブリ帯の反射光の中でその船体がわずかに角度を変えた時、私と真紀は同時にそれを見てしまった。
左舷前段、副艙門のすぐ下に近い位置。意図的に塗り潰されているが、それでも完全には隠しきれていない家紋があった。
九島家の紋章。
氷の針が、目から後頭部へと直接突き刺さったようだった。
私は反射的に息を吸い込んだが、ここが景雲の艙内であり、好き勝手に驚きの声を上げていい舞台ではないことを忘れていた。吸い込んだ息が半分で喉に詰まり、危うく自分で自分を噎せ死なせるところだった。深宇宙の潜行任務中に豪門の家紋を見て咳き込んで窒息死するなど、死因としてあまりにも体裁が悪い。私は必死に声を押し殺し、見苦しい掠れ声だけを漏らした。
「……あれ、まさか――」 「そう」
真紀の答えは早すぎた。二度確認する必要などまったくない速さだった。
彼女の手はしっかりと操縦桿を握ったまま、姿勢は乱れず、呼吸も変わらず、景雲の尾行姿勢も教範の挿絵のように美しいままだった。彼女のすぐ後ろに座るこの不運な私だけが知っている。今の彼女がこれほど安定して見えるのは、何も起きていないからではない。事態が大きすぎて、かえって自分から先に動くことを許していないからだ。
この感覚には心当たりがある。 人が本当に急所を突かれた時、最初の反応は怒鳴ることでも、罵ることでも、テーブルを叩くことでもない。 まず、静かになるのだ。 骨を一本ずつ、順に締め直すように、静かになる。
キャプテン・ハックの船は、すでに係留アームを伸ばしていた。
正規の港区にあるような、明るく、全宇宙に「手順通りにやっている」と見せつけたい標準的な係留ではない。短く、硬く、速く、明らかに臨時改造の痕跡が残る私設式だ。二隻は完全には噛み合わず、最低限の安定連結だけを取っていた。自分たちが密会していると互いに承知していながら、抱擁すら半分しかできない二人組のようだった。
私は画面を見つめ、思わず低く言った。 「これは荷渡しじゃない」 「ええ」
真紀の声はさらに低くなった。 「引き渡しよ。キャプテン・ハックはただの運び屋」
私の頭は瞬時に回転し直した。 そうだ。もしキャプテン・ハックが本当の主役なら、こんな場所で、こんな姿勢で、こんなこそこそしたリズムで接舷などしない。あの種の人間が一番好むのは、自分をテーブルのど真ん中に置くことだ。薄汚くて騒がしいオークショニアのように、価格も規則も自分が仕切っていると全員に知らしめたがる。
だが今は違う。今のキャプテン・ハックは配達人だ。主人ではなく、脚だ。大魚ではなく、大魚のために餌を運ぶ小鮫だ。
そして九島家の紋章を掲げたあの商船――いや、正しく言うなら、九島重工の系列に属しながら、こっそりと海賊船に接舷しに来たあの商船こそが、この芝居で本当に頭皮が痺れる部分だった。
真紀の表情は見えない。ただ、首筋の線がわずかに張っているのだけが見えた。その緊張の弧は非常に細く、注意しなければ気づかないほどだが、私はそれを見てしまった。その瞬間、私はかつてないほど明確に理解した。彼女が見ているのは単なる「疑わしい標的」ではない。
彼女は自分の家のものを見ている。 それどころか、自分の家の中の誰かの手を見ているのかもしれない。
名家、軍需産業、秘密取引、海賊への外注、違法接舷。上等だ。このメニューはもはや普通に不味いという程度ではない。軍法会議、取締役会、そして死体安置所を三点セットで送り届けるのに十分な内容だ。
私は低く尋ねた。 「誰だと思う?」 「分からない」彼女は言った。「でも、小者じゃない」
その言葉は冷たかった。真空をそのまま語気にしたような冷たさだった。
私はそれ以上追及しなかった。知りたくないからではない。今が、九島真紀にこの狭いコクピットの中で家族の内紛について所感を述べさせる場面ではないと、よく分かっているからだ。彼女が話したいことなら必ず話す。話さないことは、聞いてはいけないからではなく、聞いたところで自分が物分かりの悪いドリルのように、額で装甲板に突撃するだけだからだ。
前方の二隻が、同期して姿勢の微調整を始めた。景雲の被動ニュートリノ受信、微光望遠モジュール、熱源差分イメージングが一斉に稼働し、その密かな接触を分析可能な断片へと切り分けていく。外部艙門が開く角度、係留リングの咬合タイミング、貨物クレーンが起動しているかどうか、相手の放熱曲線が通常か意図的に抑えられているか――一つ一つの細部が、「彼らが会っている」という事実そのものより、はるかに価値がある。
細部は言い訳をしないからだ。
私は記録しながら、画面を複数のレイヤーに切り分けた。 「左舷の近距離は私が押さえる。あなたは姿勢を保って」私は言った。 「逆よ」真紀が淡々と返した。「私は元から姿勢を保ってる。あなたは何も見落とさないことに集中して」 「……はい、副長」
彼女は訂正しなかった。 最近、景雲の中にいる時の彼女は、時折ひどく刃に似ている。抜いて人を斬る刃ではなく、まだ鞘に収まっているが、一度抜かれれば皮肉だけでは済まないと誰もが知っている、そういう刃だ。
私は呼吸を落ち着かせ、余計なことを考えないよう自分に強い、手元の作業だけに集中した。
倍率を上げると、さらに見なくていいものが見えてきた。
その商船の舷腹後方に近い位置に、新しく補修された装甲の色差があった。表面は通常のメンテナンスに見せかけているが、内層の支持構造は明らかに厚くなっている。副貨物艙の外側には、取り外し可能なエネルギー安定化モジュールが二組懸架されていた。規格は一般商用ではなく、何らかの高出力・高感度機器を短期的に保護するためのものに見える。何より、接舷後にキャプテン・ハック側から送られたのは、普通の散貨コンテナではなく、三個の小型密封艙だった。
小さすぎる。バッチごとの密輸品には見えない。サンプル、コア、あるいは高価値の重要部品――そのどれかにしか見えなかった。
私は画面を静止させ、標記を打った。 「ここを見て」 真紀は一瞥しただけで理解した。 「大口の貨物じゃないわね」 「そう」私はもう一層の熱成像を重ねた。「しかも相手はメインクレーンを起動していない。近接収納口だけを開けてる。普通の積み下ろしじゃない。露見を恐れているのよ」 「自分が何を受け取ったか、他人に見られるのを恐れてる」 「あるいは、何を渡したかを記録されるのを恐れてる」
真紀は何も言わなかった。艙内が二秒ほど、ひどく静まり返った。それから彼女は、先ほどよりさらに平らな声で言った。
「家の中で、誰かが横流しをしている」
「家」という言葉を口にした時、彼女の語気には一切の起伏がなかった。まるで私の知らない資材番号を読み上げているだけのようだった。だが、あまりに平坦だったからこそ、私は背筋が冷えるのを感じた。
九島真紀という人間は、その場で怒鳴ってくれた方が、まだ扱いやすい。今の彼女のような状態こそが、本当に危険だ。
私は静かに聞いた。 「雪風に先に報告する?」 「する。でも、公開回線では駄目」 「私もそう思ってた」
この情報は重すぎるからだ。傍受される可能性のある公開リンクで、「九島家の商船が海賊と違法接舷しています。ちなみにキャプテン・ハックはただの雇われでした」などと直接言うわけにはいかない。そんな通報は報告とは呼ばない。自殺予告だ。
私は左手を側面のエンコードパネルへ伸ばし、あらかじめ取り決めていた暗号モードに切り替えた。雪風側の低出力被動受信ウインドウは非常に短い。宇宙の中で身内に向けてウインクをするようなものだ。一度でも間違えれば、敵に流し目を送ることになりかねない。結末はたいてい、ロマンとは正反対のものになる。
「暗号セット三?」私は聞いた。 「足りない」真紀が言った。「セット五を使って。重点シフトコードも乗せて」
一瞬止まり、すぐに理解した。セット五は高危険情報だ。シフトコードは「表面上の目標は核心目標ではない」を意味する。つまり、真紀の判断は私と一致していた――キャプテン・ハックは主体ではなく、外注だ。
私は打鍵を始めた。指がエンコードパネルの上を素早く動く。リズムは普段より少し速い。一秒でも遅れれば、目の前のこの醜聞がもう一枚、隠れ蓑を纏うことを恐れるように。
目標接触、成立。 次目標に家系の紋章あり。 主客の位置、逆転。 ハック、主体にあらず。 内部の横流しの疑いあり。 証拠取得、継続。 暴露、保留。
情報は圧縮され、細分化され、背景ノイズのパケットに混入させられ、景雲の低出力指向性ビームで発信された。全工程はまばたき一度分ほど短かったが、送信し終えた後、自分の肩がひどく凝っていることに気づいた。緊張というものも、なかなか物理法則に忠実らしい。
前方では、二隻がまだ接舷を続けている。私たちは撮り続け、記録し続け、呼吸を機械の中に隠した覗き魔になり続けた。しかも軍規格の覗き魔だ。
言い方は最悪だが、正確だ。深宇宙偵察とは、時としてそういうものだ。英雄でも正義の使者でもない。ただ、他の誰よりも早く、「体裁のいい看板の裏には、本当にカビだらけの壁が隠れている」ことを見てしまう存在だ。
第二のレンズ角度を調整していた時、前席から不意にごく淡い一言が飛んできた。 「シモ」 「なに?」 「今日は、ぼんやりしてない」
私は手を止めた。この言葉が他の誰かの口から出たなら、私はそれを普通の褒め言葉として受け取っただろう。だが九島真紀の口から出ると、彼女が意図的に、柔らかくすべきでないこのタイミングで、わざと一段だけ語気を落としたように聞こえた。その幅は錯覚と言っていいほど小さい。だが彼女は確かにそうした。
私はスクリーンを見つめたまま、耳の付け根が情けなくも熱くなった。 「今回は十分に怖い案件だからね」私は言った。 「他には?」 「……あなたが前にいるから」
彼女はすぐには何も言わなかった。私も大したことを言うつもりはなかった。その言葉は、疲労と張り詰めた神経の間から自然にこぼれ落ちたに過ぎない。言った直後に後悔した。景雲のサブバッテリー艙に自分を埋めて、最初から一人しか出撃していなかったふりをしたくなった。
結局、真紀はただごく軽く「ええ」とだけ答えた。おざなりでもなく、疑っているのでもない。ただ、その言葉を受け取ったのだ。
くそ。彼女は、どんな外敵よりも人を乱す術をよく知っている。
その時、通信パネルが一度点滅した。私は気を取り直し、すぐに雪風側の受信ウインドウへ切り替えた。信号は短く、深宇宙そのものに聞かれることを恐れているかのようだった。暗号を解くと、最初にアッシュの識別コードが飛び出してきた。
そのコードを見た瞬間、私は半分ほど肩の力を抜いていた。男というのは時に不思議な生き物だ。普段そばにいる時は、言葉がナイフとフォーク並みに空気を切っているとしか思えないのに、盤面が「名家の内通者+海賊への外注+不明な取引」という方向へ転がり始めると、心の底から、この艦にろくでなしとも賢い人間とも話せる奴がまだ生きていてよかったと安堵する。
私はメッセージを読み取った。
現位置で待機。 接近せず、暴露せず。 巡邏の影、出現。 帝国軍、少なくとも一組。 静粛を維持せよ。
読み終えた最初の反応は、背筋が冷えることだった。第二の反応は、危うく笑い出しそうになることだった。
「どうしたの?」真紀が問う。 「雪風側で帝国の巡邏隊を捉えたみたい」私は内容を転送した。「アッシュが待機命令。退くな、混乱に乗じて帝国軍と商船の交渉場面を追加証拠として撮れ、って」
真紀はメッセージに目を通し、眉一つ動かさなかった。 「彼らしい命令ね」 「でしょ? 典型的な『どうせもう一番危険な場所に座ってるんだから、ついでにもう一稼ぎしてこい』ってやつ」 「言い方が辛辣すぎる」 「いいえ、これは客観的な賛辞よ」
真紀がほとんど聞き取れないほど小さく息を漏らした。それが笑いかどうかは分からない。おそらく笑いだろう。彼女の感情の配給は、雪風の水備蓄よりもずっと厳しいのだから。
だが前方の状況は、私たちに男の交渉美学を語り合う余裕を与えてはくれなかった。
帝国の巡邏隊が急速に接近していた。三隻の軽型巡邏艇。細長い外形、側翼の推進パルスは工場出荷そのままの刃のようにクリーンだった。海賊船のような雑なパッチもなく、闇市改造船のような「飛べさえすれば十分」という安っぽい楽観もない。
そこには、いかにも正規で、ひどく鬱陶しい、いかにも帝国らしい気質が漂っていた。その気質の核心はおそらくこうだ――「我々が必ずしもお前たちより高潔とは限らない。ただ、我々の銃の方が合法だ」。
キャプテン・ハックも、明らかにそれを理解していた。彼の船は急激に転針し、尾部の噴流が一気に二段階明るくなった。誰かがスタンガンでその老狐の尻を突いたかのようだった。私は追跡画面を見つめ、彼がまだ完全には回収しきれていなかった密封貨艙を、腹部の外掛架から切り離したのを目撃した。
数枚の黒い貨艙が、折れた歯のように、デブリ帯の影の中へと放り出されていく。
「……荷を捨てたわね」私は言った。 「全部じゃない」真紀は熱図を一瞥した。「加速の足を引っ張る分だけ」 「容赦ないわね」 「海賊が生き延びるには、感情なんて持っていちゃ駄目よ」
彼女がそう言った時、その目は別の方を見ていた。
あの九島商船は逃げなかった。いや、「海賊のやり方では」逃げなかったと言うべきだ。まずキャプテン・ハックとの距離を鮮やかに切り離し、それから帝国の巡邏艇に向けて自ら識別シーケンスを開示した。外部灯号を協力モードへ切り替え、短促な接舷要求コードまで送信した。それは救難コードでも警告コードでもない。「我々は良民であり、協力する用意がある。まずあちらの汚い方を調べてほしい」という姿勢のコードだった。
読み取った瞬間、背骨に冷たいものが走った。 「媚びを売ってるわ」私は低く言った。 「見えてる」
真紀の声に、ついに一筋の亀裂が入った。非常に細い。今の私が彼女から半個コクピット分の距離にいなければ、まったく聞き取れないほど細い。だが、その微かな変化を感じた瞬間、私の心はむしろ重く沈んだ。
それは単純な怒りではなかった。怒りよりもずっと見苦しく、ずっと苦しい何かだった。
なぜなら彼女が見ていたのは、見知らぬ商船が仲間を売る場面ではなかったからだ。
自分の家族の紋章を掲げた船が、帝国軍の砲口の前で、汚水を他人に向けて投げつけ、自分だけを守法市民らしく見せようとしている場面――それを彼女は見ていた。
優雅。 体裁。 手慣れた。 反吐が出る。
あの船の中にいる人間が今どんな顔をしているか、容易に想像できた。おそらく背筋を伸ばして座り、衿元を一分の乱れもなく整え、「誤解です」「知りませんでした」「たまたま通りかかっただけです」「驚いております」と口にしながら、すべての責任を、最初から手配書の見本みたいな顔をしているキャプテン・ハックという老狐に押しつけているのだろう。
金持ちの生存本能は、よく礼儀正しさに似た顔をしている。 ただし、その礼儀の足元には、他人の首がある。
真紀の右手が、微かに締まった。
幅は小さく、景雲の姿勢が乱れるほどではない。それでも私は見てしまった。彼女は前方の画面を見据え、目には温度がほとんどない。もう半秒与えれば、あの九島家の紋章ごと、商船を丸ごと宇宙から削り取れそうな目だった。
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「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




