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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:ロスト
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119. ロングレンジ・レコノサンス 3

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

尾行が第二輪番に入った頃、私はついに真紀に、まったく交渉の余地のない口調で仮眠を命じられた。


景雲の休息艙は、その名の通り、少し理不尽なほど暖かかった。


外は死んだように静まり返った深宇宙で、歴史書に「消息不明」と書かれるような船と同じくらい冷たい。それでも内側には一定の温度があり、微かな光があり、低ノイズの循環風があり、上下段の寝台と低消費電力の冬眠艙が細長い艙壁に整然と嵌め込まれている。


側面のスロットに収まった付属のVRゴーグルは、地球環境のシミュレーション、感情の安定化、浅い眠りの誘導、長時間の閉鎖飛行によるストレスの軽減を謳っていた。聞こえはいいが、要するに、発狂しかけた宇宙飛行士に、あまり見苦しくない崩れ方を提供するための道具だ。


私は下段に潜り込み、VRゴーグルを装着した。 視界が明るくなり、シミュレーションプログラムがゆっくりと展開していく。


普段なら、一番退屈なものを選ぶ。風の弱い草原、誰も話さない海辺、あるいは水漏れも爆発もせず、誰かが突然告白してくることもない、普通の部屋。残念ながら、人類の科学技術は今日になっても、「脳が勝手に逃げ出す」という根本的な問題を解決できていない。


だから、最終的に私が見た夢は、当然、海でも草原でもなかった。


ジェスだった。


夢の中の光景は理不尽だった。 半分は雪風の通路で、半分は景雲の休息艙のようなのに、壁だけはどこかの金持ちの休暇艦みたいに、やたらと綺麗だった。


私はそこに立っていた。フライトスーツ姿のまま。これが夢だと頭では分かっているのに、身体は少しも起きようとしなかった。ジェスは照明の下に立ち、いつもの、今にも何か仕掛けそうな大げさな笑い方はせず、ただ私を見て、私が先に口を開くのを待っていた。


夢の中の私は、現実よりもさらに役に立たなかった。


「……何しに来たの」 「あの一発で壊れてないか、見に来たのよ」ジェスは言った。 「そんなことにもアフターサービスがあるの?」 「もちろん。私、すごく責任感があるから」 「その責任感、闇市の保証書みたいに聞こえるんだけど」


ジェスは少し笑い、一歩前へ出た。その一歩は軽かったが、私の眠気を全部踏み散らかすには十分だった。彼女が近づいてきた時、金属と洗剤の混じった淡い匂いがした。艦内の作業区から来たばかりのような匂いだった。


この細部が最悪だった。夢は人が本当に覚えているものを拡大するものだから、それはつまり、私が確かにあの匂いを記憶していたと、自分で認めてしまったことになる。


「シモ」ジェスが低く言った。「友情のキス一発で、そこまで困ってるの?」


反論したかった。 夢の中でも、反論したいと本気で思っていた。 だが口を開く前に、彼女が手を伸ばして私の唇の端に触れた。


その一瞬は、本物のキスよりずっとタチが悪かった。 夢の中の羞恥心には、物理的な上限がないからだ。


私はほとんど休息艙から跳ね起きるように目を覚ました。 VRゴーグルが横にずれ、呼吸がしばらく追いつかなかった。目を開けて最初に見えたのは休息艙の暖色の天井灯で、次に見えたのは――艙の外の対面に静かに座り、こちらを見ている真紀だった。


その場で、魂だけもう一度眠りに戻したくなった。


「……何してるの?」声はまだ掠れていた。


真紀は背筋を伸ばして座り、膝の上に資料板を広げていた。前方のモニターにはキャプテン・ハックの船がまだ巡航中と表示されていたが、彼女の視線は明らかに資料には向いていなかった。


「当直よ」と彼女は言った。 「そっちを聞いてるんじゃない」 「ついでに、あなたが眠っている間に自分の首を絞めていないか確認していた」 「私の寝相、あなたに一体どんな印象を与えたわけ?」 「あまりおとなしくない」


それは否定できない。 ゴーグルを額から引き剥がした。こめかみには汗がびっしょりと滲んでいた。休息艙は本来ひどく配慮の行き届いた設計のはずなのに、今の私には、人の秘密を蒸し出すための尋問室のように感じられた。


さっき寝言を言っていなかったか、ジェスの名前を叫んでいなかったか、確認する勇気はなかった。どちらの答えであっても、この先まともな軍人として生きていくには不都合だからだ。


真紀は数秒私を見つめ、唐突に口を開いた。 「顔が赤い」 「ここが暑いだけ」 「心拍も速い」 「起き抜けはみんなそうよ」 「まだシーツを握りしめてるわよ」


下を見ると、本当に握りしめていた。しかもかなりの力で。 上等だ。証拠の連鎖は完璧。犯行現場の成立だ。


私は反撃に出ることにした。たとえ戦術的な悪あがきに過ぎなくても。 「人が寝てるのをずっと見てる方に、他人を評論する資格はないと思うけど」


真紀は微かに首を傾げた。 「ずっと見ていたわけじゃない」 「じゃあ、見てたことは見てたのね」 「ええ」


あまりにもあっさり認められて、逆に言葉に詰まった。


景雲の休息艙は狭い。狭すぎて、沈黙にも逃げ場がないほどだ。私は下段に座り、髪は少し乱れ、襟元は寝皺で歪み、夢に思い切り殴られた直後のような有様だった。彼女は向かいに座り、フライトスーツを鎖骨まで引き上げ、まるでこの宇宙に夢などという安っぽくも致命的なものが存在しないかのように、平然とした顔をしていた。


「シモ」真紀が資料板を差し出した。「キャプテン・ハックの船の姿勢に変化があった。第三段追尾に入る。まだやれる?」


私は資料板を受け取り、そこに並ぶ推進数値を見つめながら、「ジェスの夢を見て、その起床の現場を真紀に押さえられる」という災難から、もう少しまともな種類の災難へ、意識を無理やり引き戻そうとした。


「行ける」私は言った。


真紀は私を見つめ、少し間を置いてから、もう一言付け加えた。 「夢の中で誰かに本当にキスされたとしても、少なくとも、そのせいで死なないようにして」


私は顔を上げて彼女を見た。 表情はひどく平坦で、まるで任務上のリスクを淡々と列挙しているだけのようだった。だが、この人間の一番恐ろしいところはまさにここにある――彼女は気遣いを警告のように言い、警告を天気予報のように言う。だから言われた側は、赤面すべきなのか、気をつけの姿勢を取るべきなのか、まったく判断のしようがなくなるのだ。


私は低く答えるしかなかった。 「……分かった」


真紀が立ち上がり、ずれていたVRゴーグルを側面のスロットへ掛け直してくれた。指先が私の耳の脇をかすめた。短く、軽く、まるで装備の縁に偶然触れただけのように。それでもその一瞬、私は、夢より現実の方がずっと始末が悪いと痛感した。


夢の中のジェスは、ただ人を乱すだけだ。 現実の真紀は、乱れていながらも乱れていないふりをしたくなるほど、人を乱す。


「三分後に持ち場へ戻って」彼女は言った。 「はい」


彼女が前艙へ戻っていく背中を見ながら、私は資料板を抱えたまま下段に座り、人類文明に向けて苦情の手紙を書きたくなった。 私たちはすでに冷体匿蹤システムも、被動ニュートリノレーダーも、低消費電力の冬眠艙も、量子跳躍脱出モジュールも作れるようになった。 それなのに、深宇宙で二人の異なる女に頭をかき乱された女一人の脳内配線を、綺麗に組み直してくれる装置だけは、いまだに誰も発明していない。 技術ツリーの伸び方が、あまりにも偏りすぎている。


*


第三段追尾に入って間もなく、キャプテン・ハックの船が減速した。


エンジンの劣化や配管の圧漏れ、老朽船が今にも崩れそうな自然な減速ではない。極めて意識的なスロットルダウンだった。大通りを歩いていたスリが不意に歩調を緩め、路地の角に私服がいないか目の端で確かめ始めるような動きだった。


前席の真紀は即座に景雲をより静粛な尾行パラメータへ切り替えた。メイン推進の出力を落とし、イオン尾炎をほとんど背景ノイズの水準まで絞り込み、冷体匿蹤外殻を高効率の放熱抑制モードへ移行させる。機体全体が深宇宙の暗闇に張り付き、意思を持った一片の氷のようになった。


私は副面板の航跡線を見つめた。 「おかしい」と私は言った。 「そう」真紀の返答は短かった。


キャプテン・ハックの船は元々、離港後としては最も妥当なグレーの商路の外縁に沿って進んでいた。その種のルートの特徴は、妥当すぎて退屈であり、退屈すぎて誰もがそれを単なる煙幕だと知っている、という点にある。だが今、船は少しずつ偏り始め、船首を、予測表には存在しない座標へと向けつつあった。


私は局所星図を拡大し、以前ローレンス修理廠で盗み出した民間物流層のデータと闇市の係留記録を引き出し、帝国の巡邏周波帯の空白域をそこに重ねた。その方向には正規の補給ステーションも、通常の鉱道も、公開された航運ノードも存在しない。データ上ではただ、不自然なほど清潔な空域が広がっているだけだった。


この世界において、清潔というのはたいてい良いことではない。 清潔だということは、そこに何があるのかを他人に知られたくない者がいる、ということだ。


「隠し場所みたいね」と私。 「あるいは合流地点」真紀が言った。 「罠の可能性もある」 「ようやく頭を使い始めたわね」 「ずっと使ってたわよ」 「さっき夢から覚める前はノーカウント」


私は口を閉じた。 こんな正念場で彼女と言い合うのは、自分の血圧で遊んでいるようなものだ。


キャプテン・ハックの船が再び減速し、側面の姿勢を微調整した。まだ私たちの目には見えていない何かに照準を合わせているようだった。この距離を維持し続ければ安全ではあるが、輪郭レベルの変化しか読めない。距離を詰めれば、より細かい熱特性や外部モジュールの配置を読み取れる可能性があり、それが接触なのか、荷の隠匿なのか、それともあの九島重工のヘリウム・水素駆動炉を引き渡す準備なのかまで確認できるかもしれない。


問題は、距離を詰めるということは、こちらも発見されやすくなるということだ。 景雲は神ではない。 キャプテン・ハックも盲目ではない。


私は距離のデータを見つめ、手のひらにじわじわと汗をかいていくのを感じた。これは勇敢かどうかの問題ではない。命を懸けてまで情報を取る価値があるかどうかの問題だ。真紀にも分かっているし、私にも分かっている。雪風の修復はまだ完全には終わっていないし、アッシュの交渉というカードもまだテーブルの上にある。もしここでキャプテン・ハックに逆に噛みつかれれば、その後の盤面すべてが歪んでしまう。


私は息を吸い込んだ。 「どこまで詰めれば、まだ誤差の余裕があると思う?」


真紀はすぐには答えなかった。前方の希薄なデブリ帯を利用して景雲の遮蔽角を修正しながら、各種の被動読値を素早くスキャンしている。彼女が思考する時の静けさは、迷いではない。すべての可能性を並べて順に銃殺し、最後に一番マシな一本だけを残す作業なのだ。


「〇・一二AU」彼女は言った。「それより近づけば、キャプテン・ハックがまともな後方被動監視を持っているだけで、『背後の岩がやたら礼儀正しい』と気づくわ」


「〇・一二……少し賭けね」 「元から賭けよ」


あまりにも平然と言われて、私はむしろ笑いたくなった。 そう、これが今の私たちの状況だ。 戦術シミュレーションでもなければ、演習でもない。高貴で正直な連邦海軍の標準作業手順でもない。二人の女が、やましさの滲み出る偵察機に隠れ、海賊の頭目を追いかけ、彼が盗品をどこか日の当たらない場所へ届けようとしているのかどうかを見張りながら、ついでに自分たちの半死半生で気性の荒い改修駆逐艦のために、二つ目の心臓を探しているのだ。


募兵のパンフレットに書いたとしても、一人も騙せないだろう。


「もっと悪い考えがある」私は言った。 「言って」 「もしあそこが本当に隠し場所か合流地点なら、キャプテン・ハックは単純に荷を出すだけじゃない。引き渡しをしているのか、買い手を確認しているのかもしれない。遠くから見るだけなら座標しか分からないけど、少し距離を詰めて相手の外形特徴や通信のリズムを読み取れれば、アッシュが後で交渉する時に、脅しの材料が増える」


「つまり、私たちが彼の想定以上のことを知っていると悟らせるわけね」 「そう」私は画面上で偏移していく航跡線を見た。「あの男が一番得意なのは砲撃じゃなくて値付けよ。知っていることが多いほど、あの笑顔の値段も上がる」


前席が半秒沈黙した。 「それ、褒め言葉みたいに聞こえる」 「事実の陳述よ」 「あなたも男を褒めることがあるのね」 「その男が今ここにいないなら、という前提だけど」


真紀がまた、ごく淡く喉を鳴らした。 今回はかなり確信を持てた。彼女は本当に笑っている。ただ、その笑いを表に育てさせないだけだ。


キャプテン・ハックの船が再び姿勢を修正した。 新しい座標が、より明確になった。 私はその点を見つめ、背筋がゆっくりと張っていくのを感じた。直感が告げていた。あそこはただの隠し場所ではない。清潔すぎ、静かすぎ、そして意図的すぎる。誰かが黒い布の下にナイフを置いているようなものだ。刃は見えていないのに、その布の下に何かがあると一目で分かる。


「真紀」私は口を開いた。 「ええ」 「距離を詰めよう」


彼女は振り返らなかった。 「理由」 「今きちんと見なければ、後は推測に頼るしかなくなる。それに、私は最近、別のことでもう十分に推測しすぎてるから」


彼女はおそらく理解したし、理解しなかったかもしれない。 だが最後には、右手を操縦桿に当て、左手を推力配分板の上で滑らせた。 「〇・一二AU。デブリの影に入る。被動全開、主動全閉」 「了解」


景雲は、息を殺した影のように軽く、ゆっくりと前へ貼りついていった。 私の心拍は、少しもそれに倣わなかった。


座標が近づいていく。 キャプテン・ハックの船の輪郭が、徐々に鮮明になっていく。 そして私は不意に、ひどく嫌な、しかし妙に確信めいた予感を覚えた――今回私たちが追いついた先にあるのは、海賊だけでも、駆動炉だけでもないかもしれない。


時として、予定の航路を外れた一隻の船が、本当に見せてくれるのは目的地そのものではない。 もともと巧妙に隠されていた、もう一段深い局面なのだ。


私は乾いた唇を舐め、そして即座に、こんな時に思い出すべきではない誰かのことを思い出してしまい、心の中で自分の不甲斐なさを罵った。


真紀が不意に口を開いた。 「集中して、シモ」 「……集中してる」 「だといいけど」 「今なんて、集中しすぎて吐きそうなくらいよ」 「なら我慢して。景雲の中で吐いたら、帰ってから自分で掃除して」


私は吹き出しそうになった。 緊張が消えたわけではない。ただ、彼女のあまりにも実用的な冷淡さが、そこに一本の裂け目を入れた。その裂け目から漏れ出てくるものが、安心と呼べるものかどうかは分からなかった。


前方で、キャプテン・ハックの船はさらに減速していく。 後方で、私たちは距離を少しずつ詰めていく。 宇宙は暗く、航路は外れ、私の睡眠負債と、ジェスが残した後遺症と、真紀の近すぎる存在感――この三つが、この瞬間、奇跡的にある種の均衡を保っていた。


どれも厄介だ。 だが、どれも逃げ出したくなるほど厄介ではない。


だから私はただ、シートベルトをもう一段締め直し、正体を明かそうとしている未知の座標を見据え、それが本当の顔を見せるのを待った。

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