↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:ロスト
374/647

119. ロングレンジ・レコノサンス 2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

景雲二一型のコクピット内部は、機庫から遠目に見ていた時よりも、人の理性をゆっくり削り取っていく高級な棺桶に近かった。


縦列複座。空間効率がいいと言えば聞こえはいいが、実際にはひどく素直に狭い。前席は機長席、後席は偵察員兼補助制御席。二つの席は前後にぴったりと嵌まり合い、余計なスペースはどこにもない。艙内のあらゆるパネル、あらゆる固定ベルト、あらゆる折り畳み式の収納が、一つの事実を大声で主張していた。ここは人を快適にするための場所ではなく、生きて任務を完了するための場所なのだと。


後席に収まると、肩と両側の艙壁の間には、礼儀とは言えない程度の余裕しか残されていなかった。左手側は受動レーダーと通信、右手側は環境管理と後席インターフェース、さらに後方には、資料でしか見たことのなかった休息艙モジュールと低消費電力の冬眠艙が埋め込まれている。


キャノピーがまだ完全に閉じていない段階で、隣の循環式ミニ厨房・洗面所の折り畳みドアと、壁に掛けられた二組のVRゴーグルまで見えた。設計者が最初からこの機体を「ちょっとした出張」用ではなく、深宇宙で二人の哀れな搭乗員が交代で目を覚まし、交代で発狂するための箱だと理解していたことを示す配置だった。


「気に入った?」真紀が前席に滑り込み、慣れた動作でショルダーハーネスを締めながら、振り返らずに聞いた。 「このコクピットのことなら」私は自分のベルトを締めながら言った。「高級な軍用缶詰の中身になった気分」 「褒め言葉として受け取っておく」 「二人まとめて金属の棺桶に詰めて規律を鍛える施設、って言ったら?」 「それも褒め言葉」


私は舌打ちした。 この女は本当に、こういう機体を操るのに向いている。会話をしている時でさえ、艙内の設備と同じくらい冷静で、無駄のない効率感を漂わせているからだ。


彼女がメインコントロールを起動すると、艙内の照明が一段落ち、複数のディスプレイが同時に点灯した。景雲のシステム音は、熱血を演出するような起動音ではなく、ごく短く、抑制の効いた低周波のパルス音だった。誰かが耳元で「よし、生きて帰れ」と静かに囁くような音。


アカリの声が外部通信から入ってきた。 「姿勢制御ノズル、ゼロ調整完了。被動アレイ自己診断オールグリーン。冷体回路の温度降下、正常。二人とも、今日どうしても外で惚気るつもりなら、お願いだから私の機体を舞台にしないで」


私は自分の唾で噎せそうになった。 「誰がこんな時に――」


真紀はすでに平然と答えていた。 「彼女にそんな体力はないわ」


「副長?」私は後席で目を見開いた。「今、ついでに私の尊厳まで予熱した?」


アカリが外で冷たく笑った。 「結構。まだ精神は保ってるみたいね」


通信が切れた。


私は後席で一瞬顔が熱くなったが、これ以上の反論も思いつかず、大人しくヘルメットを被って、自分の系統確認に取り掛かった。


「後席モジュール、オンライン。ニュートリノ被動アレイ、スタンバイ。重力波補償マスト、帰還正常。通信、サイレントチャンネル準備完了」私は一項目ずつ読み上げ、頭を無理やり任務の軌道へ戻した。


真紀は前席で、安定したペースで確認を進めていた。 「メインコントロール、オンライン。流星低輻射パルスイオン推進器、スタンバイ。迴天RCS三十二点、自己診断完了。冷体匿蹤回路、予冷段階へ移行」


彼女の話す速度は速くないが、正確だ。一語一語が、あらかじめ決められた軌道にきっちりと落ちていく。不思議なことに、彼女のチェックを聞いているだけで、寝不足やジェスの奇襲、一晩かけても消化しきれなかった感情の毛羽立ちが、少しずつ均されていくのを感じた。


これはおそらく、あまり健全ではない依存だ。 だが今は反省している時間ではない。


外部の固定クランプが外れ、機庫の地上要員の指示灯が緑に変わった。


アッシュの最後の通信が入った。 「景雲、離艙後はメイン航路には乗らず、雪風右舷の遮蔽層に沿って抜けろ。キャプテン・ハックはまだ自分の後ろに尾がついているとは知らない。彼をがっかりさせるな」


真紀が答えた。 「了解」


私は後席から付け加えた。 「もし本当に帝国の巡防艦に出くわしたら?」


アッシュの返答は、ちっともロマンチックではなかった。 「その時は、まず奴らが誰に噛みつくのかを見ていろ」


私は笑った。 上等だ。 実に雪風らしい。


次の瞬間、景雲二一型が軽く震え、息を潜めた魚が深みから滑り出るように動き出した。雪風の機庫を離れる時、側面の観測窓越しに、私たちの老いた艦が係留区に静かに浮かんでいるのが見えた。外見はまだ修理中の狼狽を纏い、古い病人のようだ。だが私は知っている。それはただの表皮だ。彼女は今、自分を影の中に縮め、もっと適切な瞬間に口を開くのを待っている。


そして私たちは、その影の中の刃だ。


景雲はメイン推進器を焚かず、冷ガスノズルと低輻射モードだけで、係留区の外層に沿って音もなく滑っていった。ローレンス修理廠の、鉄の箍とパイプラインに縛られた小惑星の心臓が、観測窓の外をゆっくりと回っていく。巨大で、粗野で、闇市の匂いに満ちた、眠ったふりをしている怪物のようだ。この角度から見ると、停泊していた時よりもさらに、秘密を何層にも腹の中へ飲み込んでいく何かのように見えた。


私たちはその影に沿って抜けていく。 静かに。冷たく。ほとんど熱痕を残さず。


システム画面の中の景雲は、宇宙をゆっくり漂う一片の氷のように映っていた。


「キャプテン・ハック艦、捕捉」私は後席のセンサー画面を見つめ、声が自然と低くなった。「距離一・八天文単位内。主炉の熱徴は不安定、副推進で二回の微調整あり。針路は灰航道の外縁へ向けて偏移中」


真紀はすぐには答えず、姿勢をほんの少し修正した。


景雲の機体が、彼女の指先につままれたかのように、暗闇の中でほとんど音もなく半度向きを変えた。その感覚は奇妙だった。突進でも強引な操舵でもなく、彼女がどこかに見えない隙間があると知っていて、景雲はそこを通るべきだ、というような動き方だった。


「距離を〇・三広げて」と彼女。 「了解」


私は感測ウィンドウを微調整し、標記をつけながら、ふと非常にはっきりと一つのことを自覚した。


昨夜の乱れた感情も、睡眠不足による頭の重さも、この瞬間にはもう別のものに上書きされていた。


消えたわけではない。 強制的に席を譲らされたのだ。


暗闇に、任務に、キャプテン・ハックの船尾から伸びる細い線に、そして前席で景雲全体を一本の冷たい刃のように操るこの女に。


私は深く息を吸い、修理ステーションから遠ざかりながら、まだ自分が咬まれていることに気づいていない目標を見据えた。


*


景雲二一型の後席は狭い。 この一文は、「宇宙は暗い」や「雪風はよく漏れる」と同じ種類の、知ったところで人生は大して良くならない常識だが、人は実際に座ってみて初めて、その「狭さ」がどれほど具体的かを理解する。


それは非常に誠実な狭さだ。 肩を開きすぎれば側板にぶつかり、膝の角度を間違えれば下方の機器キャビネットに当たる。疲れを全身に投げ出すことすら許されない。


前席は真紀、後席は私。その間には、忌々しいほど頼りになる観測・火器管制支援モジュールが挟まっている。冷静で、理性的で、一切の同情心を持たない立会人のように、私が今、睡眠不足の状態で、価値ある強偵察機の後席に座り、私たちを殺す可能性がある海賊船を尾行しているという事実を、黙々と証明していた。


客観的に言えば、これは不健全だ。 雪風の日常基準で言えば、上位五位にも入らないだろう。


額をヘルメット後部のクッションに軽く預け、被動ニュートリノ監視画面を視野の右側で点滅させたまま、私はキャプテン・ハックの船を見ていた。距離は見事なほどに保たれていて、その見事さに真紀の腕を称えたくなり、そしてこんな時にそんなことを考えている自分に、すぐさま絶望した。


――違う。そういう問題じゃない。


私は強く目を閉じた。 問題は真紀の手ではない。 問題はジェスだ。 訂正、問題はジェスのあの一瞬だ。


人間の唇というのは、本当に理不尽だ。普段は食べ、飲み、喋り、歯を食いしばり、悪態をつくのに使われていて、誰もその存在を特別に意識しない。だが一度、誰かに泥棒のように軽く触れられると、途端に全身で一番存在感のある器官に変わる。存在感が強すぎて、ほとんど政治的陰謀のレベルだ。今の私は尾行任務を遂行しているのではなく、後席で自分の唇の定期メンテナンスをしているのではないか、と錯覚するほどに。


これが馬鹿げていることは分かっている。 もし今の内心の独白をそのまま任務報告書に書いたら、アッシュは報告書を一度置き、眉間を揉んで、「私が代理艦長を引き継いだ時、雪風の精神状態はすでにここまで崩れていたのか」という顔で私を見るだろう。


……アッシュのことを考えると、むしろ眠気が増した。 あの男は指揮系統に戻ってから、明らかに「運命に無理やり机へ押し戻された被害者」の顔をしている。交渉、見積もり、資材の流れ、工数のトラブル、ステーション内の闇市のルール、外にはとぼけ、内には落ち着いているふりをする――彼は一日に最低でも七種類の「事態はまだ掌握下にある」を演じ分けているに違いない。


以前はただ「回りくどい男」だと思っていたが、今は評価を改めている。彼は回りくどいのではない。道そのものを折り紙の鶴に折っているのだ。


前席から真紀の落ち着いた声が飛んできた。 「シモ、後方姿勢修正値」


私は反射的に我に返り、副画面を見た。 「右舷に少し流れてる、〇・〇三。キャプテン・ハックの主炉出力はまだ不安定、尾炎のリズムが酔っ払いみたい」


「了解」


景雲はほとんど揺れない。 真紀がこの機体を操る時、いつも彼女は操縦桿を機械として扱っているのではなく、性格の悪い楽器として扱っているのではないかと疑いたくなる。推力の調整はどれも不快なほど精確で、飛行機を操っているというより、宇宙そのものの襟元を整えているかのようだ。


前方のぼやけた熱源の輪郭を見つめながら、私は思わず、ジェスが抱きついてきた時の、背中に回った腕の力のことを思い出していた。あれはふざけでも、いつもの「回収槽に放り込んで冷静にさせたい」と思わせる類の悪ふざけでもなかった。あの抱擁は真剣すぎた。彼女が普段まとっている道化の部品を一度全部外して、その内側にある、それなりにまともな心を晒したみたいだった。


そしてあのキス。 友情のキス。 まだそう言い張るつもりらしい。


その言い訳は、海賊が「ちょっと借りるだけ」と言い、闇市が「保管料をいただくだけ」と言い、雪風が「ちょっとした構造疲労があるだけ」と言うのと同じだ。言葉自体は何一つ間違っていない。間違っているのは、その言葉を口にした人間と、その場の文脈のほうだ。


考えれば考えるほど脱線していき、最終的には、ジェスがあれを衝動でやったのか、事前に計画していたのかの分析にまで手を伸ばしていた。計画的だったなら、一体どこで仕入れた知識なのか。衝動的だったなら、その直感は危険すぎないか。一人でここまで他人の頭をかき乱せる人間は、理論上は監視対象に入れるべきだ。


尾行任務を恋愛事故の鑑識報告書に書き換えかけていたその時、真紀が唐突に口を開いた。


「シモ、そのまま自分の唇を見つめてぼんやりしているなら、酸欠と判断するわよ」


安全ベルトの中で、私は身をすくめた。 「見つめてなんか――」 「見つめてる」 「あれは戦術的思考よ」 「唇に関する?」 「思考しているのは……」私は言葉を切った。これ以上言い訳を重ねても事態が悪化するだけだと気づいたからだ。「人間関係のリスクマネジメント」


前席が二秒黙った。


真紀が声を出して笑うことは滅多にない。だから彼女がごく淡く、喉の奥で息を弾ませるような音を立てた時、その音は警報よりもよほど怖かった。 なぜなら、それは彼女が完全に状況を理解した、という証拠だからだ。


「なるほど」と彼女は言った。「で、どんな結論が出た?」


私は前方の熱信号を見つめたまま、喉の渇きを覚えた。 「結論は、雪風は私が思っていたより危険だということ」


「それは正しいわ」


彼女の声はあくまで航路確認のように平坦だったが、睡眠不足のせいなのかどうか分からないが、語尾にほんのわずか――本当にわずかだけ――純粋な公務ではない何かが混じっているように感じた。氷の下を細い水流が流れているような、目立たないが確かに存在する何か。


追及する気にはなれなかった。 深宇宙での尾行任務中に、人間がやってはいけないことの一つは、九島真紀のような人間に「今の、それ以外の意味は?」と問うことだ。


彼女が「ない」と答えれば、自分から艙壁に頭をぶつけたようなものだし、「ある」と答えれば、もっと強くぶつけたくなるだけだ。


私は大人しく意識を任務に戻し、キャプテン・ハックの艦の航跡変化を追った。


前方の老いた狐は、静かに闇の奥へ潜っていく。私は後席に座り、自分が高級な乾燥機に放り込まれた一枚の洗濯物になったような気分だった。


景雲のライフサポートはよくできているし、休息艙も先進的だ。問題は、人間の脳という器官が、科学技術の進歩に一切協力しないことだ。清醒すべき時に眠りたがり、集中すべき時にキスを思い出し、忘れるべきことほど鮮明に覚えている。


宇宙はこんなに広いのに。 私はいつまでも、一人の唇と、もう一人の声のことばかり考えている。


ひどく見苦しい。 そして、ひどく私らしい。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。