117. 存在してはならないもの 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
副長自ら「外部の工数と資材の流れを照合する」ために私を同行させると指名してきた時、私はてっきり、少なくとも表面上はまともな業務に似たものになるだろうと思っていた。
だが事実が証明した。実行者が九島真紀であり、場所がローレンス修理廠である限り、どれほど真っ当な任務名がついていようと、最後には自動的に「実は下見と裏取りをしている」という犯罪の匂いが漂い始めるのだ。 そして不幸なことに、私はそれに慣れ始めていた。
ローレンス修理廠の内環は、ここ数日よりも明るく、そして汚かった。 今、私は真紀と共に、この巨大な獣の胃袋の中へと足を踏み入れようとしている。
「持って」彼女が権限ボードを私に手渡した。
受け取って見ると、そこには本日の外部工数照合表、資材流向の署名欄、二つの係留エリアの移管コード、そしてロマンチックな幻想を殺すに十分なほど退屈な備考事項が並んでいた。完璧だ。退屈であればあるほど、口実には見えなくなる。
「今日は本当に工数の確認だけ?」私は声を潜めて尋ねた。 真紀は前を歩きながら、淡々と答える。 「表向きは、そう」 「じゃあ実際は?」 「実際は、あなたは目を光らせて、口を少し慎むこと」 「……その言い方、いつも私が普段口先だけで生き延びてるみたいに聞こえるんだけど」
彼女は横顔を向けて私を一瞥した。 「違うの?」
私はその場で咽せ返りそうになった。 忌々しいことに、少しばかり図星だったからだ。
私はそのボードを抱えて彼女の後を追うしかなかった。今日の真紀は目立つ勤務用コートではなく、ステーション内での活動に適したダークグレーのショートジャケットに着替えていた。ウエストのラインは絞られ、袖口は手首まで留められている。まるで「私に構うな」という言葉を生地で体に縫い付けているかのようだ。
彼女が前を歩く時、その足取りは速くないが、極めて明確な方向感覚を持っている。ローレンス修理廠のあの混沌としたパイプ、吊り橋、補強梁、そしてグレーな掟が、彼女の目には自動的に解読可能な線として再配列されているようだった。
彼女の傍を歩いていると、ひどく安心することがある。 と同時に、自分が書類を抱えただけのただの付き人のように見えているのではないかと、猛烈に抗議したくなることもある。 ……もちろん、抗議したところで無駄なのだが。
内環の人流は外環よりもさらに雑多だった。 外環はまだ、「あちらは船の修理、そちらは資材の補給、あそこは係留エリアの警戒」といった基本的な秩序が多少なりとも見て取れる。だが、内環はまったく別の生態系だ。
マザー・アイアン派の修理工たちは重機通路と大型設備ラインを占拠し、風を切って歩き、文明的な場には相応しくないスパナや切断機を常にぶら下げている。帳簿烏の連中はゴキブリと算盤を掛け合わせたような生物で、あちこちを這い回り、台車を押し、伝票を回し、タグを貼り替える。彼らは常に、どのロットが名目上は誰のもので、実際にはどの角を曲がったところでこっそりコネクタが二つ減るかを把握している。 親方側の人間は散り散りに見えて、実はドア、通路、そして本当に重要な出入口のすべてを押さえている。牙を剥くのは面倒だが、一線を越えれば容赦なく足首を噛みちぎる番犬の群れだ。
さらに奥には、私が最も好まない類の人間がいる。 静かで、清潔で、特に目立った服装をしているわけではないが、周囲の人間が自然と道を譲る者たち。 レジャーのラインだ。
こういう人間が一番厄介だ。「俺が仕切っている」と顔に書いて歩かなくても、他人が勝手に空気を読んでくれるからだ。
私と真紀が三つ目の分岐点を通り過ぎようとした時、左側でマザー・アイアンの連中と帳簿烏の運搬頭が揉めていた。金の話ではない。耐熱シールリングのセットを、どの作業ラインに先へ送るかで言い争っているのだ。
次の瞬間にはボルトレンチで互いの頭蓋骨を殴り合いそうな剣幕だったが、傍らにいる二人のステーション保安員は瞬き一つしなかった。明らかに、ローレンス修理廠においてこれは「通常の営業ノイズ」に分類されるらしい。
私は堪えきれず小声で言った。「ここは毎日こんなに賑やかなの?」 「賑やかだということは、物が流れているということ。物が流れているということは、ここがまだ生きているということよ」と真紀。 「闇市の観光ガイドでも書いてるみたいな言い方ね」 「闇市から生きて帰りたいなら、まずは小汚いと文句を言うのをやめることね」 「……妙に説得力があって腹が立つ」
彼女の口角がごく微かに動いたが、それが笑いだったのかどうかは分からない。
だが次の瞬間、前方から金属製の樽を積んだ台車が私にぶつかりそうになった。私は反射的に横へ避けようとしたが、足元がちょうど冷凝水で濡れたグレーチングを捉えてしまい、そのまま横へ滑りそうになった。
私の心に浮かんだのはただ一言――上等だ、星野 シモ。今日ついに、こんな闇市の廊下で間抜けな死に方をする日が来たのね。
そして、私の手首が誰かにガシッと掴まれた。
真紀は歩みを完全に止めることすらなく、ただ極めて滑らかに手首を返し、私を彼女の側へと引き寄せた。その動作は本能のように速く、しかし力加減は異常なほど安定していた。
彼女の肩口にぶつかった時、私は彼女の襟元から漂う、ごく淡く、冷たい匂いを感じ取った。雪風の医務室前の廊下を夜勤で歩いている時の空気、あるいは、こんな薄汚い場所には到底似つかわしくない、澄み切った冷気のような匂い。
「前を見て」彼女は言った。 「……見てる」 「さっき見ていたのは道じゃなくて、喧嘩でしょ」 「だって、すごく生命力にあふれた喧嘩をしてたから」 「次転んだら、マザー・アイアンのところの救急工数がどう計算されるか、至近距離で体験させてあげる」
私はすぐに姿勢を正した。 「副長、私、突然自分のバランス感覚が極めて優秀に思えてきました」
彼女は手を離し、何事もなかったかのように再び前へと歩き出した。 私はその後ろで、こっそりと手首をさすりながら、ひどく情けなく認めるしかなかった。
――可悪。さっきのは少し反則だ。
三流の恋愛小説にそのまま書き写せるほど甘い雰囲気があったからではない。 こんな場所で、彼女が私を掴むこと自体が、あまりにも理不尽なほど「当然」の行為として行われたからだ。まるで、私が最初から彼女の手の届く範囲にいるのが当たり前であるかのように。
こういう細部が一番致命的だ。 突っ込む隙さえ与えてくれないのだから。
私たちはさらに奥へと進み、道すがら名目上確認できるポイントを本当に一つ一つチェックしていった。 これも、私が後になって心底感服した点だ。真紀は、何か別の目的を隠れ蓑にして、本来の仕事を放り出すような人間ではない。彼女は本当に調べるのだ。
ある係留エリアの外板補修パーツの工数、水循環フィルターの転売伝票番号、二台の冷却カートリッジが内環でなぜ四十分も余計に停滞したのか、さらには雪風へ送られるべき医療資材のセットが、途中でなぜもう一度転送コードを貼り直されたのか。彼女は一つ一つ問い詰め、一つ一つ記録した。 窓口の担当者たちは最初は鬱陶しがり、次に恐れを抱き、最後には大人しくデータを揃えて提出した。
傍らでそれを見ている私は、心の中で感嘆するしかなかった。 副長という生き物が普段恐れられている理由は、決して怒鳴るからではない。彼女がいざ本気で仕事に取り組むと決めたら、こちらがサボる時に頭の中で思い描いた言い訳すら、すべて表にして叩き返してくるからなのだ。
そして、この外出の本当の目的は、その山のような正規の業務の間に、ごく自然に挟み込まれていた。
「キャプテン・ハックの船は、この二日で何度バースを動かした?」 真紀が外環の重機用クレーンの使用伝票を照合している時、まるで世間話のように尋ねた。
対応していたステーションの記録員は、最初は気乗りのしない態度だったが、「ハック」という二文字を聞いて明らかに目つきが変わった。 「なんでそんなことを聞く?」 「彼が、本来なら雪風の補修ラインに回されるはずだった重機用クレーンを占有しているからよ」真紀は言った。「もし今日の夜までに彼が席を空けないなら、私は三本の修理ラインのスケジュールを引き直さなければならない。そうなればマザー・アイアンの連中も機嫌を損ねるでしょうね。私は海賊のスケジュールのために泥を被る気はないわ」
この台詞の見事さには、そのまま教材に書き留めたいほどだった。 相手は即座に口を閉じ、手元のデータを繰った。
「昨日の夜勤帯で一度。今日の午前中にも、エネルギープラントの点検ラインを追加申請してる」彼は言った。「トラブルがなければ、明日の夜までに離港するはずだ」
明日の夜までに。 私と真紀は視線を交わした。 ほんの一瞬。 だが、その一瞬に込められた意味は明白だった。タイムラインが噛み合ったのだ。
続いて私たちは、別の二つの転送ノードを通じて、キャプテン・ハックの略奪船が現在どの古い改修ドックに係留されているか、そしてそのラインが最近誰によって一時的に厳重に封鎖されているかを確認した。
最後に、真紀は私を連れて、前回よりもさらに人目につかない古い保守区画へと曲がった。 今回は明らかに運任せではない。線に沿って道を辿っているのだ。
奥へ進むにつれ、逆に音は少なくなっていった。静寂ではない。雑多な人声が、金属のドアや岩盤、分厚い作業壁によって幾重にも遮断され、より深く、より重い、何かの巨大な機構が呼吸しているような低周波の振動だけが残っているのだ。
私はたまらず声を潜めた。 「あの場所がただの普通の改修ドックじゃないって、最初から予想してた?」 「一部はね」と彼女。 「じゃあ今は?」 「今は、それがただの普通じゃないことを確認しに来た、というところかしら」 「……それ、全然安心できない言い方なんだけど」 「あなたを安心させるために連れてきたわけじゃないわ」
上等だ。 極めて副長らしい。
私たちは、廃棄された貨物ラックと半開きの隔壁に隠された角で立ち止まった。この角度からなら、二層の構造の隙間を縫って、前方の深層改修区画の視野の半分をちょうど覗き込むことができる。
そして今回、私は前回よりもずっとはっきりとそれを見た。 あの略奪船が、半開放式の内部ドックの中央に固定されている。
艦全体のフォルムは、前回急いで一瞥した時よりもさらに露骨だった。艏は細長く鋭く、まるでわざと刃のように研ぎ澄まされている。船腹は分厚く、高速で突破した後に傷を負ったまま離脱できる構造に偏っている。左右の外付けモジュールは非対称で、片側は火器管制の強化ポッドのようであり、もう片側は臨時で追加された貨物倉か、あるいは強襲用の乗艦ポッドのように見えた。 口悪く言えば、真っ当な船の形などしていない。「奪って逃げる」という四文字を、そのまま船体設計に溶接したような代物だ。
そしてあの新型ヘリウム・水素駆動炉は今、外部の重荷重ラックの上に静かに横たわっていた。 前回見た時よりも、さらに完全な姿を露わにしている。
外殻は冷たい銀色だ。安っぽい研磨の輝きではなく、極めて工業的で、精密で、そしてこのような場所には到底似つかわしくない金属の質感を持っている。 環状のメインコネクタが中央の炉心ブロックを幾重にも包み込み、その外周には熱交換と磁場安定用と思われる六組のサブノードが配置されている。構造は極限まで引き締まっており、あまりにも清潔で、ある錯覚すら抱かせるほどだった。 ――この代物は、海賊船にもローレンス修理廠にも属していない。どこかの設計図、どこかの工場、本来ならもっと高級で、正規で、闇市などとは絶対に関わりたくないような場所に属しているのだと。
そしてあの四文字が、メインシェルの側面に印字されていた。
九島重工。
私は無意識に真紀へ視線を向けた。
彼女は何も言わなかった。 だが、その目はもはや「使えそうな機材を見ている」目ではなかった。読んでいたのだ。外殻の溶接点を、露出したノードを、コネクタの配列を、どこが元の製造ままで、どこが後から補われたか、どこが一度分解されてから封じ直された痕跡があるかを。
こういう時、私は自分と彼女が根本的に異なる種類の人間だということを、はっきりと自覚させられる。 私は危険を嗅ぎ取れる。場面を記憶できる。混乱の中で「何かがおかしい」という感覚を掴まえられる。だが真紀にできるのは、そのおかしさを分解して、その内側にある論理を見通すことだ。
恐ろしい。 そして、格好いい。
口を開こうとした瞬間、下から粗い怒鳴り声が響いてきた。 自称キャプテン・ハックの海賊船長が現れたのだ。
今日の彼の格好は、前回よりもさらに「もし宇宙に安っぽい野心を売る専門店があったら、間違いなく会員カードを作っている」風情だった。ロングブーツ、ショートコート、帽子の縁にはどこかの不運な船から剥ぎ取ってきたらしい骨片の飾り。自分の略奪船の下に仁王立ちになり、ドック全体が彼のプライドに配慮すべきとでも言いたげな態度だ。
「言っただろうが、そっちのラインじゃねえ!」キャプテン・ハックが技師に怒鳴った。「メイン回路は先に封鎖するな、もう一回安定化テストを走らせる! マザー・アイアンのところの連中は溶接しかできないのか、人の話は聞けないのか!」
向かいの技師は、瞼を上げる気にもなれないようだった。 「金払う人間の言うことしか聞かないんで」 「俺が金を払ってんだよ!」 「違う」傍らの別の人間が冷たく口を挟んだ。「あんたがここで大声を出せるのは、レジャーのところがまだ首を縦に振ってるからだ」
キャプテン・ハックの顔が、一瞬露骨に歪んだ。
……面白い。 あれだけ大物ぶっているキャプテン・ハックでさえ、ここでは他人の顔色を窺わなければならないのか。
私は声を落とした。「あいつのここでの立場、思ったより弱いのね」 真紀が淡々と返す。「強いのは船の方で、人間の方とは限らない」 「その言い方、色々な場面で使えそうね」
彼女は無視した。 明らかに、脱線した無駄話に付き合う気がないのだ。
下では作業が続いている。吊架がゆっくりと回転し、あのヘリウム・水素駆動炉が少し手前へと送られてきた。ちょうどその時、私はその傍らに、今まで見かけなかった二人が立っているのに気づいた。
一人は濃い色のゴーグルをかけた長身の女で、手に記録板を持ち、動きは無駄がない。修理工でも船員でもなく、ステーション内で荷の鑑定や仲介を専門に請け負う掮客のような雰囲気だ。もう一人はかなりの年長の男で、白髪交じりの短髪、シンプルな上着、指が細く長い。目立つ立ち位置ではないが、周囲の数人が自然と半歩ずつ距離を空けていた。
私の心臓が、微かに沈んだ。 レジャーのラインの人間だ。 レジャー本人とは限らないが、あの空気の匂いは間違えようがない。
そして次の瞬間、私の読みが外れていなかったことが分かった。 ゴーグルの女が手を伸ばし、炉殻の外側を軽く叩いた。声は高くないが、明瞭だった。
「出所の方、まだ確証は取れてないの?」 灰髪の男が平坦に答える。 「親方は、まず様子を見ろ、急いで食いつくなと言っている」 「急ぐな?」キャプテン・ハックが即座に振り向いた。「あの連邦のボロ船が本当に安定した氷原の品を持ってるなら、今動かなきゃ誰かに先を越されるだろうが!」
背中に冷たいものが走った。 氷原の品。 またその言葉だ。 しかも今回は、こっそり探っているのではなく、面と向かって口に出している。
真紀の目も一段冷えたが、それでも彼女は動かなかった。ただ極めて低い声で私に問う。 「前回あなたが聞いたのも、この流れ?」 「そう」私も声を落とした。「キャプテン・ハックの傍にいた人間は別だったけど、方向は同じ。レジャーのところは、もう氷晶が偶然拾った綺麗な石じゃないと分かってる」
下では、灰髪の男がキャプテン・ハックの焦りを受け流していた。 「食いつけるかどうかは、まず骨があるかどうかを確かめてからだ」 「そんな話はもう聞き飽きた」キャプテン・ハックが舌打ちした。「俺が知ってるのは、あの船が実際にあの品物で支払いをしたってことと、あれが最後の一ロットには見えないってことだけだ。ルートさえ掴めれば――」 ゴーグルの女が遮った。 「ルートを探るのはいい。でも今は動くな。連邦の軍艦がまだステーション内に停泊してる。親方は今この時期に波風を立てることを好まない」 「親方が好まないことなんて山ほどある」キャプテン・ハックは冷笑した。「でも、誰かにあの供給ルートを先に持っていかれた後で、俺に早く動けばよかったと文句を言うのだけはやめてくれよ」
私は奥歯を噛みしめた。 これは単なる「霜晶に興味がある人間がいる」という話では、もうない。 雪風号に直接手を出すかどうかを評価している者がいる。あるいは少なくとも、私たちを辿って、あの氷の惑星まで遡ろうとしている者がいる。
雪風が苦労して修理を受けて、ようやく一息つけると思ったところで、氷晶の匂いを辿った辺境のハイエナの群れに嗅ぎつけられる――それだけは何としても避けたかった。
真紀の視線が、ようやく駆動炉から離れて私の顔に落ちた。 「あの二人を覚えておいて」と彼女は言った。 「もう覚えた」 「それと、キャプテン・ハックの船のコネクタ配置、外付けポッドの位置、主機関の起動シーケンスも」
私は一瞬固まった。 「私が?」 「じゃあ私があなたをここへ連れてきたのは、海賊船の外観を鑑賞させるためだとでも?」 「……分かった、副長、それはあまりにも風情がない」 「今必要なのは記憶であって、風情じゃない」 「その台詞、別の状況で言ったら相当傷つく言葉よ」
この時、彼女はようやく私を一瞥した。 極めて短い。 だが、その一瞥の中に、はっきりとした、ほぼ無声の意味が込められていた。 ――終わったら、続きを話す。
こういう、戯れ合いすら軍令の執行猶予みたいに扱われる感覚が、どうしてこんなに癖になってしまうのだろう。
私はどうにか気持ちを切り替え、再び下に視線を戻した。 キャプテン・ハックの略奪船、外付け火器管制ポッドの位置、駆動炉の組み込み進捗、ゴーグルの女の記録フォーマット、灰髪の男が立つと周囲が自然と半歩引く様子……一つ一つを頭に叩き込み、まず記録機になれと自分に言い聞かせた。気が散りやすい娘の部分は、後回しにしろと。
正直に言えば、真紀が私のすぐ隣に立っていて、少し体を傾けるだけで彼女の肘に触れそうな距離にある状態で、完全に集中しろというのは、最初から無理な注文なのだが。
その時、下の炉体の傍らで新たな動きがあった。 二名の技師が外部の点検パネルを取り外し、その奥にあるコネクタブロックを露出させた。 真紀の呼吸が、その一瞬だけ、聞き取れないほど細くなった。
たった一瞬だ。 だが、私はそれを感じ取っていた。
「どうしたの?」気音で問う。 彼女はすぐには答えなかった。 二秒後、低く口を開いた。
「民生規格の出口じゃない」
頭皮がざわりとした。 「どういう意味?」 「つまり」真紀はそのコネクタブロックを見据えたまま、声は低く、刃の背のように冷たかった。「あれは海賊船に積まれるべきでないというだけじゃない。そもそも海賊船向けに作られたものじゃない」
私の中の糸が、ぱちんと一段階きつく張り詰めた。 上等だ。 最初は「この炉は高価かもしれない、使えるかもしれない、雪風の命綱になるかもしれない」と思っていたのが、副長の口から直接「高級品というだけでなく、もっと厄介な出自を持つ」と確認された。
つまり、これは単純な闇市の横流し品ではない。 もっと汚い手が背後にある可能性が高い。 そして私たちは、よりにもよってこのタイミングでそれを目撃してしまった。
さらに問い返そうとした瞬間、前方の通路の角から、金属がわずかに触れ合うような音が聞こえた。 下の改修ドックからではない。 私たちと同じ階層からだ。
真紀の反応は私より半拍早かった。 手を伸ばして私を引き戻し、二人でそのさらに深い影の中へと退いた。彼女の片手が私の肩口の前に当てられ、体を微かに傾けて、私の輪郭をほぼ完全に覆い隠す角度を作った。 その瞬間、彼女の呼吸が私の耳の脇を掠めるのを感じた。短く、静かで、安定している。
……こんな状況で、心臓の音がうるさいと感じてしまうのは、本当に救いようがない。
外から足音が近づいてきた。 二人分だ。 一人は声が太く、もう一人はしゃがれている。
「上の帳場が、連邦の女のデータを探してるらしい」しゃがれ声が言った。 「どの女だ?」太い声が問う。 「荷物を持ってた方。星野とかいう名前だったか」しゃがれ声が続けた。「最初の取引の時にケースを抱えてたのがあいつで、その後もステーション内で伝票を走らせてたのもあいつらしい。あの氷原の品がどこから来たのか、あいつが本当に下っ端の使い走りなのか、それとも出所を知ってるのか、確認したいんだと」
全身の血液が、一瞬で半寸ほど下へ落ちた。
私を探している? アッシュではなく、真紀でもなく、雪風全体でもなく。 私を。
太い声の方が舌打ちした。 「帳場の連中は頭がおかしいんじゃないか。あの女、どう見ても船の中堅どころの使い走りだろ」 「使い走りが、あんな品物を手放さずに抱えるか?」 「それが分かってるからって、出所を知ってるとは限らないだろ」 「知ってるかどうかは、調べてから判断することだ」
足音が、ゆっくりと遠ざかっていく。
私は影の中で静かにしていたが、頭の中では罵倒の言葉が整然と行列を作っていた。
真紀はあの二人が完全に離れるまで待ち、それからゆっくりと手を離した。 彼女は私を見た。目は平静だったが、その平静の下に、何か別のものが明確に押さえ込まれているのが見えた。
「今日から、あなたが単独でステーション内を動く回数を半分に減らす」と彼女は言った。 「私が目を付けられた」 「そう」 「私って今、厄介な金庫の鍵みたいに見えてる?」 「そうは見えない」と真紀。
私は少し息をついた。 彼女はすぐに続けた。
「どちらかと言えば、人を本物の金庫の前まで案内してしまう、ドアの取っ手に近い」
……ありがとう。 金庫の鍵より、それはずっと始末が悪い。
私は額に手を当て、小声で言った。「じゃあ今、どうする? アッシュのところへ戻る?」 「戻る」と彼女。「まずアッシュに話す。二本の線は分けて処理する。氷晶の出所が外に漏れているリスクは、彼がすぐに対処すべき案件。この駆動炉とキャプテン・ハックの船については、私が判断する」 「もう判断はついてるんでしょ」
真紀は一秒黙った。 それから、下の重荷重ラックに静かに横たわるヘリウム・水素駆動炉を見つめ、低く、落ち着いた声で言った。
「ついてる」
私は彼女の横顔を見つめ、急かさなかった。 こういう時、彼女は軽々しく結論を口にしない。だが、一度口にした言葉の重さは、たいてい一隻の艦の次の一手を変えるのに十分なのだ。
やはり、次の瞬間に彼女は口を開いた。
「もしあの炉の内部規格が、キャプテン・ハックたちに取り返しのつかないほど台無しにされていないなら」彼女は言った。「雪風の今の核融合反応炉よりも、リスクを冒す価値がある」
喉が乾いた。 「つまり……」 「つまり」真紀は頭を向け、私を見た。「今この瞬間から、キャプテン・ハックの船は単なる闇市の見聞録じゃない。目標よ」
……上等だ。 この一言で、すべての色が変わった。 「海賊船が積んでいるべきでない高級品を積んでいるのを発見した」という話ではなくなった。 雪風が正式に、あの船と、あの九島重工のヘリウム・水素駆動炉と、氷晶の出所を巡る黒い線を、自分たちの戦術視野の中に取り込んだのだ。
私は深く息を吸い、胃の底から突き上げてくる昂揚感を抑え込んだ。 危険。厄介事。闇市。海賊。そして今の真紀の、冷えきっているのに、明らかにもう次の手を計算し始めている、あの表情。
これでいい。 これが私たちらしい。
「じゃあアッシュのところへ戻ろう」と私は言った。 真紀が頷く。 「行くわよ」
私たちがその影の通路を背にして踵を返す時、私は最後にもう一度だけ振り返った。
下では、キャプテン・ハックがまだ技師に向かって指図を続け、ゴーグルの女は何かを記録し、灰髪の男は波を立てない水面のように、静かにそこに立っていた。 九島重工と印字されたヘリウム・水素駆動炉は、作業灯の下で冷たい銀色の光を放っている。 この黒い泥の中に落ちてきたはずのない、一つの心臓のように。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




