117. 存在してはならないもの 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
後になって真面目に考えてみたのだが、雪風という艦は本当に人を選ぶのが上手いらしい。 そうでなければ、毎回こういう「ちょっとした雑用」が、最終的に「見てはいけないものに遭遇し、ついでに自分まで新しい厄介事に巻き込まれる」という魔法のような展開になるはずがない。 もはや運の問題ではない。 呪いに近い。
事の発端は、表面上は極めて無害なものだった。 私は真紀の代わりに、資材の照合に走っただけだ。 本当に、ただの資材照合だった。
副長殿――つまり九島真紀は――帳簿烏のところで再発行された代替パーツのリストを私に投げつけ、機関区と中段生命維持システムの互換性タグを照合し、ついでに計上漏れしていた冷却カートリッジ一式を追加してこいと命じた。
いかにも熱血とは無縁で、ロマンもなく、主人公らしさの欠片もない仕事だ。物語の中で自ら進んでこんなことをやる人間がいるとすれば、そいつは余程頼りになるか、余程運が悪いかのどちらかだ。 そして不幸なことに、私はその両方の要素を少しずつ持ち合わせている。
その日のローレンス修理廠は、数日前よりもさらに慌ただしかった。 雪風が正式に入港して以来、このステーションの私たちに対する態度は「入り口でとりあえず銃を突きつける」から「よし、お前らは金が払える厄介者だ」へと昇格した。その結果、係留エリア周辺の人流は明らかに増えていた。
マザー・アイアン派の修理工たちが、切断機と封鎖用モジュールを抱えて私たちの外板のあたりを這い回り、まるで熟練した金属ヤドカリの群れのようになっている。帳簿烏のところの運搬工たちは、パーツに見せかけて三割のゴミと二割の嘘を混ぜ込んでいるかもしれない資材箱を押し、通路を行き来していた。
少し離れた取引エリアからは、溶接の火花、値切り交渉の声、安っぽいプレイヤーから流れる俗悪な音楽、そして時折、保安部の威圧的な怒声が聞こえてくる。
この場所の秩序は、実に興味深い。 軍隊のような整然さでもなければ、都市のような文明的なものでもない。 油と血と借金と銃で共同して平らに押し潰された後、辛うじて文字が書けるようになった帳簿のようなものだ。
ここに立つと、目につくものすべてがその場しのぎの寄せ集めに見える。だが、いざ手を伸ばして解体しようとすれば、どの隙間の下にも独自の掟が潜んでいることに気づく。 マザー・アイアンの連中は重機係留区と溶接ラインを占拠し、口は悪いが、いざ作業が始まれば誰も手出しできない。
帳簿烏の物流とパーツのラインはネズミの穴のようで、どこにでも入り込み、どこにでもツケがある。親方側の窓口は表向きの顔に見えて、実際は鍵を握り、誰をゆっくり屠るかを決める門番だ。 そして、さらにその上の一層に、レジャーのような人間がいる。
私は今、レジャーのあの水のように平らな目を思い出すだけで、背筋が微かに冷える。 彼が凶暴だからではない。 ああいう人間は、凶暴である必要がないからだ。 一度顔を覚えられただけで、夜も眠れなくなる。
そんなことを考えながら、メイン通路に沿って資材の受け渡しエリアへと歩いていた。すると、道の半ばでまたしても通行止めにぶつかった。 機械の故障で全員が迂回するようなものではない。二組のステーション保安員が、本来なら内環へ直通する通路を塞ぎ、一人だけが通れる側面の狭い隙間だけを残していたのだ。
立っている二人は統一された制服ではなく、装甲も新旧入り混じり、腰の武器に至っては各自の人生で拾い集めてきたコレクションのようだった。だが、彼らの立ち位置は隙がなく、目つきも据わっていた。つまり、これはただの工事規制ではない。 中で何をしているのか、あまり多くの人間に知られたくない者がいるということだ。
私は手にしたリストの板を胸の前で少し高く抱え直し、通り過ぎるふりをして、ごく自然に中をちらりと覗き込んだ。
保安員の一人が手を伸ばして私を遮った。 「物流は二番支路へ回れ」 「標識を見ていただけよ」と私。 「ならもう見ただろう。回れ」
……実に不親切な物言いだ。 だが、この不親切さは逆に裏があることの証明でもある。 私は彼と言い争うことはしなかった。何しろ今の私は、ただ資材リストを走らせている連邦の中尉にすぎず、違法修理ドックの現場で陰謀を暴こうとする探偵少女ではないのだから。後者は響きこそ格好いいが、前者の方が長生きできる。
というわけで、私は彼の指差す方向に従い、二番支路へと曲がった。 その道はメインの環状通路よりも古く、照明も少なく、岩壁がより露骨に剥き出しになっていた。足元のグレーチングは一歩踏み出すごとに、「この場所の年齢は、お前の祖父の悪い癖より古いかもしれないぞ」と警告してくるようだった。
道の半ばで、マザー・アイアン派の修理工二人と、帳簿烏の耳札をつけた運搬工三人が分岐点で睨み合っているのを目にした。 そう、睨み合いだ。 内容はちっともロマンチックではないが。
一方は「この熱交換パイプは重機ドックに先へ回す」と言い、もう一方は「帳場が別の伝票に先にサインしたから、上層の保税倉へ持っていく」と言い張っている。大の大人五人が、パーツを積んだ台車を囲んで遺産相続のように言い争い、傍らでは保安員が壁にもたれ、「今日は報告書を書くのが面倒だから、頼むから殴り合わないでくれ」という顔をしていた。
私が通り過ぎようとした時、飛んできそうになったスパナの柄が肩を掠めた。 「通して」と私。 「暇じゃねえ」運搬工の一人が振り向きもせずに言った。 「連邦艦の人間よ」私はリストの板を少し高く掲げた。
彼はようやくこちらを向き、その表情が「誰だお前」から「ああ、金払いのいい厄介な船の奴か」へと変わった。 「ならさっさと失せな」
非常に地元色の強い対応だ。 彼らの横をすり抜けながら、私はこの光景を頭の片隅に記録した。 マザー・アイアンと帳簿烏の間に、摩擦がある。しかも小さな摩擦ではない。これは、資材の流れと工数の流れの間にある帳尻が、表面上ほど合っていないことを意味する。闇市のような場所では、パーツの奪い合いは決して単なるパーツの奪い合いではない。その背後には常に「誰が先に手を動かせるか、誰が先に金を取れるか、どの客が割り込ませる価値があるか」という思惑がある。
つまり、私たちの雪風は今、ボロ船のように見えて、実際にはこのステーション内で「奪い合う価値のある魚」として扱われているということだ。 別に喜ばしいことではない。 魚が奪い合われるのは、魚に尊厳があるからではない。 魚に肉があるからだ。
私はさらに先へ進んだ。 資材の照合自体は、拍子抜けするほど順調だった。窓口の担当者は工具箱より四角四面な話し方をする老技師で、私がリストを一つ一つ読み上げると、彼も一つ一つ修正し、余計な言葉を口にする手間すら惜しんでいた。最後に顔を上げて私の軍章を見た時、その目に極めて短い品定めの色がよぎらなければ、今日は本当に何事もなく平穏に終わるのだと錯覚していただろう。
だが、雪風はそんな甘さを許してはくれない。
帰路、私は来た道を戻らなかった。 理由は正当だ。さっきの喧嘩の連中がまだあそこに塞がっていて、二本目のスパナで顔を掠められたくなかったからだ。そこで私は老技師が指差した通り、少し内側を通る、古い保守区画への折り返し通路に入った。
そして、見てしまった。
いきなり全貌が見えたわけではない。 まずは音が聞こえた。 重く、鈍く、普通の修理区画には到底そぐわない音だ。大型のスライドレールが荷重に耐えながらゆっくりと動く音、油圧ロックが一段ずつ噛み合う音、巨大な金属骨格の塊が吊り上げられ、裏返され、別の身体に嵌め込まれていくような音。
無意識に足取りが遅くなる。 前方の通路の角に、半開きの古いハッチがあった。ドア脇の識別灯は完全には点灯しておらず、故障しているようにも、誰かが意図的に故障させているようにも見えた。中から漏れ出す光は、一般の修理区画のような黄ばんだ工業灯ではなく、白く冷たい、照度の集中した作業灯だった。
直感が、ここは見るべきではないと告げていた。 そして私の人生における数多の経験が証明している。直感がそう警告する時こそ、大抵は「少なくとも一目だけは盗み見ておくべき時」なのだと。 ……仕方ない。生存本能と命知らずな好奇心は、私の中で常に敵対的共生関係にあるのだ。
私は身を横にし、ハッチの脇の影に張り付いて中を覗き込んだ。 最初に視界に飛び込んできたのは、黒だ。 空虚な黒ではない。 艦殻だ。
艦体外側の塗装の大半は削り落とされ、再溶接や継ぎ接ぎされた区画が斑な傷跡のようになっている。船腹には明らかに古い砲撃の痕が幾つかあり、艏のラインは過剰なまでに鋭角に作られていた。連邦艦が保つような「正規軍の体面」をわきまえた鋭さではない。衝突、突破、そして急速離脱を赤裸々に追求した凶悪さだ。船体の両側には非対称なモジュールポッドが懸架されており、左が長く、右が短い。一目で正規の設計ではなく、実用性のために後から魔改造されたものだと分かる。甲板の上には半分取り外された砲塔の基座があり、その脇には半分組み込まれたエネルギーカートリッジの列が吊り下げられていた。
二秒ほど見つめて、私の頭の中に極めてシンプルで、かつ正確な結論が浮かび上がった。
これは略奪船だ。 聞こえよく言えば、辺境私掠艦。 単刀直入に言えば、海賊船だ。
しかも、小説に出てくるような、派手な服を着て船首で高笑いするロマンチックな海賊ではない。貨物倉をこじ開け、乗員を拉致し、ついでにエンジンを半分引っぺがして売り払うような、正真正銘の海賊だ。
私は喉を微かに鳴らした。 さらに奥を見ると、光景はさらに見応えのあるものになった。
数名の技師が外付けの作業足場にぶら下がり、円柱形の大型モジュールを船腹の内側へと送り込もうとしていた。その物体は半分取り外された防震シェルに包まれ、露出したコア構造は冷たい銀色の金属光沢を放っている。コネクタの配列は驚くほど緻密で、外周には整然とした製造刻印がぐるりと一周刻まれていた。
その傍らに、ロングブーツにショートコートを羽織り、古い航路標識の骨片を斜めに留めた帽子を被った男が立っていた。腰に手を当てて身振り手振りで指示を出している。ここは彼の縄張りではないだろうが、少なくとも今の彼にとっては、自分の船が全宇宙で最も手厚く扱われるべき存在であるようだった。
「そっちじゃねえ! 内側にもう半フィート送れって言ってんだよ、半フィートだ!」男は怒鳴った。「てめえら溶接工は、新型の炉心ってモンを見たことがねえのか? 散装貨物船を直すような手つきで、俺の宝物に触るんじゃねえ!」
……上等だ。 いかにも海賊の船長らしい気質だ。 特に「俺の宝物」という言い回しが、できることなら夜はその反応炉を抱いて寝たいとでも思っていそうな響きだった。
傍らの技師が冷たく言い返す。 「もう一度急かしたら、先にこいつをあんたの足の上に落としてやるよ、船長」
男は鼻を鳴らし、あろうことか得意げに顎をしゃくった。 「キャプテン・ハックと呼べ」 「あんたの身分証にはそんな名前は書いてないだろうが」と技師。 「身分証なんざ官僚に見せるためのモンだ。名乗りってのは、商売が分かる奴に覚えさせるためのモンなんだよ」自称キャプテン・ハックの海賊船長は、手を振って急かした。「さっさとやれ。この新型ヘリウム・水素駆動炉には大枚叩いてんだ。組み上がりが一時間遅れりゃ、俺がこいつを使って商売敵を脅し上げる時間が一時間減るんだよ」
私はその機械構造の山を、半ば理解できないまま見つめていた。 あの「新型ヘリウム・水素駆動炉」という言葉が飛び出すまでは。
動力炉という代物の技術的な詳細について、正直言って私はそれほど詳しくない。アイダやヴィクトルと比べるまでもなく、今ならハーヴィーにすら専門用語でマウントを取られるだろう。だが、専門家でなくても分かることが一つある。
雪風が現在使っているのは、思わずお辞儀をしたくなるほど時代遅れの核融合反応炉システムだ。 古くて、重くて、安定していることだけが取り柄だが、効率も出力もとうの昔に最新の規格には追いつけなくなっている。単により良い選択肢がないから、修理と気合いで無理やり持たせているだけだ。
だから、「新型ヘリウム・水素駆動炉」という六文字を聞いた時、私の脳裏に最初に浮かんだのは技術的な判読ではなかった。 それは――待て、その代物は、雪風のあの老いぼれた骨組みの中にある心臓を、丸ごとすげ替えられる代物のように聞こえるぞ、という直感だ。
直後、私の視線はついに、その炉体の外殻の一面に落ちた。 そこに、文字があった。 手書きではない。その場しのぎで刻まれた修理マークでもない。 工業用の印字だ。 四つの文字。清潔な黒で、目を刺すほどに整然としている。
九島重工。
私はその場で半秒ほど硬直した。 突然、動力の専門家になったからではない。 その理由は――その四文字を、私がよく知っていたからだ。 嫌というほどに。
「ああ、どこかで見たことがあるな」というレベルではない。 九島真紀の苗字は九島であり、九島重工は決して小さな町工場などではない。正真正銘の巨大ブランドだ。海賊船の腹の中にあって、市場の豚肉のように値切り交渉の対象にされるべき代物ではないのだ。
私の脳内に、瞬時に三つの思考が閃いた。
第一に、もしあれが本当に新型ヘリウム・水素駆動炉であり、規格が特定の艦級に適合するなら、その価値は「外板を何枚か補修する」程度のレベルではない。 第二に、ローレンス修理廠はやはりただ闇市の船を直すだけでなく、この等級の動力コアを横流しし、搭載し、改造する度胸がある。 第三に――そしてこれが最も直接的で本能的なものだが――今すぐ真紀のところへ行かなければならない。
アッシュではない。 アイダでもない。 真紀だ。
私は炉心の構造も、コネクタの規格も、出力モデルも分からない。だが、あの四文字は分かる。そして雪風の全乗員の中で、あれが手出しする価値のあるものか、手を出せるのか、手を出したらどうなるのかを一目で判断できる人間がいるとすれば、それは十中八九、九島真紀だ。
私がドアの脇の影で立ち止まっていたその一瞬、中から別の声が聞こえた。 キャプテン・ハックではない。 彼の傍らに立つ、濃い色のゴーグルをかけた、仲買人のように見える女が低い声で尋ねたのだ。
「あの氷原の品の出所が、奴らの船にあるって確証はあるのかい?」
私の背筋が、ぞっと冷たくなった。 キャプテン・ハックは鼻を鳴らした。
「確証はねえ。だが、レジャーのところの連中が探りを入れてきたってことは、こいつはただ金になるってだけじゃなく、後につながる道があるかもしれないってことだ。あの連邦のボロ船が、本当に安定した出所を持ってるなら――」
彼の言葉の後半は、クレーンの警報音と金属の衝突音に掻き消された。 だが、もうこれ以上聞く必要はなかった。 十分だ。 完全に十分だ。
異常な関心。それは確定だ。 しかも、個人の単なる強欲ではない。ステーション内の誰かがすでに、氷晶の出所を「もっと長く使えるルート」として見始めている。レジャーの側が知り、キャプテン・ハックのような海賊までが匂いを嗅ぎつけている。これは、情報がどこかの黒く、素早いネットワークを伝って外部に漏れ出している証拠だ。
私の心の中には、ただ一つの念しか残っていなかった――今、すぐに、直ちに、戻る。
私は極めて果断に背を向けた。 そして、気品も何もなく、「今後ろから誰かに呼ばれても、耳が聞こえないふりをする」速度で、ひたすら早歩きで外へ向かった。早歩きは小走りに変わり、小走りは半ばダッシュに変わった。
ローレンス修理廠の、あの曲がりくねった、見知らぬ人間を迷わせるためにわざと設計されたような通路の構造が、この時ばかりは異常に恨めしかった。私は資材の板を抱えたまま、運搬箱を二つひっくり返しそうになり、片付けられていない溶接ケーブルを踏みつけ、ステーション内のガキに「前見て歩けよ軍官のお姉ちゃん」と罵られながらも、言い返す暇さえなかった。
頭の中では、ただ二つの事柄だけが反復されていた。 九島重工。新型ヘリウム・水素駆動炉。
もしあれが、本当に雪風の現在の核融合反応炉の代替になり得るなら―― いや、待て、勝手に妄想を膨らませてはいけない。 だが、考えれば考えるほど、胃がせり上がってくるのを感じた。
なぜなら、雪風の現在の最大の問題の一つは、外板が破れていることでも、補給が厳しいことでもなく、あの老朽化した心臓が艦全体の足を引っ張りすぎていることだからだ。もしあの新型炉心が――たとえ理論上だけでも――使える可能性があるなら、これはもう単なる闇市の見聞録ではない。私たちがこの先どれだけ遠くまで行けるか、どう進むか、そしてこれからも命を懸けて戦い続けられるかどうかを、直接的に変えてしまう代物なのだ。
私が一気に雪風の係留エリアの外環まで駆け戻った時、保安員は私が後ろから誰かに追われていると勘違いしそうになっていた。
「識別!」ステーションの警備員が手を挙げて私を制止した。 「雪風、星野 シモ中尉!」私はほとんど息を切らしながら名乗った。「副長に! 今すぐ! 至急!」
相手は、火事場から帳簿をひったくってきたような私の顔つきに驚いたのか、本当にそれ以上は遮らず、腕章を素早く照合して通してくれた。
私はそのまま雪風の中段メイン通路を駆け上がり、臨時の行政区画へと曲がった。 ドアが完全にスライドして開く前に、中に立つ真紀の姿が見えた。
彼女は新しい修理スケジュールを見下ろしており、傍らには記録兵一人と当直の下士官二人が立っていた。照明が彼女の制服の肩のラインを照らし出している。その冷静で、無駄がなく、すべてを一度脳内に収めてからどう出力するかを決めるような気迫は、まるで私の命を管理するために専用設計されたかのようだった。 そして今の私は、本当に彼女の管理を必要としていた。
「あなたたちは外へ」真紀は顔も上げずに言った。
彼女は私が口を開くのを待たなかった。私が飛び込んできた様子を見ただけで、まず他の人間を払い除けたのだ。 この瞬時の状況判断能力は、時として本当に恐ろしい。 そして、ひどく安心する。
ドアが閉まっても、私はまだ息を切らしていた。 真紀が顔を上げて私を見た。 視線はまず私の乱れた呼吸をなぞり、次に、私が握り潰さんばかりにしている資材の板へと落ちた。
「どうしたの?」彼女が問う。
私は二歩前に出た。頭はまだ高速で回転しているのに、口は珍しく普段より半拍遅れた。
「さ、さっきステーションの深層にある古い保守区画で……略奪船に遭遇した」 真紀の眉間が、気づかないほど微かに動いた。 「海賊船?」 「ええ、口悪く言えば海賊船」私は一気に言葉を紡いだ。「船長はキャプテン・ハックと名乗ってた。新型ヘリウム・水素駆動炉を積もうとしてて。私はあんなものの詳細は分からないけど、でも――」
私は資材の板を脇に放り出し、彼女を真っ直ぐに見た。
「外殻に『九島重工』と印字されているのを見た」
この時、真紀の目の色が本当に変わった。 大きな動作ではない。 ただ、常に安定していたあの冷静さが、ある一点においてさらに深く収束したのだ。水面に波は立たないが、水面下の流れの方向が突然変わったように。
彼女はすぐには口を開かなかった。 だから私は、さっきから頭の中に押さえ込んでいたものを、すべてぶちまけることにした。
「あの炉が何の型番なのか、雪風みたいな老いぼれに使えるのかどうかは分からない。でも、廃材の寄せ集めじゃなくて、完全な新品に見えた。それに――」
私は少し間を置き、声を潜めた。
「ステーション内では、すでに氷晶の出所を探る動きがある。単にいくらになるか知りたいだけじゃなくて、その後のルートを問われてる。ハックの傍にいた人間がレジャーの名を出して、氷原の品と言ってた。私たちの船に安定した供給源があるかどうかを確認しているみたいに」
真紀は私を見つめていた。 その見方は、ただ呆然としているわけでも、単に聞いているだけでもない。 計算しているのだ。 私が口にしたすべての単語、すべての時間点、すべての糸口を回収し、配置を始め、どの駒を先に動かし、どれを後回しにするかを決めている。
私はふと、胸のつかえが少し下りたような気がした。 私が走って戻ってきたのは、これらの情報を彼女の手に委ねるためだ。 私よりもずっと、これの扱い方を心得ている人間の手に。
二秒後、真紀はようやく口を開いた。 「はっきり見たのね?」 「はっきりと」私は言った。「四文字の黒い印字が、炉体の外殻の側面にあった。見間違いじゃない」
彼女は頷き、傍らの端末を手元に引き寄せた。
「場所、通路、時間、現場の人数、聞いた会話、すべてをもう一度最初から話しなさい」 「今?」 「今よ」彼女は私を見据えた。「一言一句漏らさずに」
……ああ。 戻ってきた。 仕事モードに入った途端、空気さえも切り刻めるデータストリームに変えてしまう九島真紀が、本当に戻ってきた。
私の中に、ひどく奇妙な安心感が広がった。 爆発寸前の情報パッケージを抱えて狂ったように走ってきた私が、ようやくそれを解体できる人間を見つけたような感覚だ。
私は彼女の要求通り、一つ一つ順を追って話し直した。 道を塞いでいた保安員の位置、マザー・アイアンと帳簿烏の部下が分岐点で熱交換パイプを巡って口論していたこと、あの古い通路のハッチ、中にいた略奪船の艦型上の特徴、キャプテン・ハックの外見と自称、あの駆動炉の外観、印字の位置、ゴーグルの女の質問、そして「レジャーのところの連中が探りを入れてきた」というあの一言まで、すべてを繰り返した。
真紀は聞きながら、極めて短い記録を取っていた。 指先は安定し、語調も安定している。 だが、私には分かっていた。彼女はこれらの情報を、ステーション内の単なるゴシップとして処理しているのではない。 決裁を左右するインテリジェンスとして扱っているのだ。
私が話し終えると、真紀は端末を閉じ、顔を上げて私を見た。
「ヘリウム・水素駆動炉の件は、まだ他の誰にも話さないで」と彼女は言った。 「アッシュにも?」 彼女は一瞬だけ間を置いた。 「氷晶の出所が目を付けられている件は、すぐに彼へ伝えて」と真紀。「でも駆動炉の件は、まず私が確認する」
私は瞬きをした。 この言葉が持つ重みを、私がまったく理解していないわけではない。 少しばかり理解できるからこそ、余計に喉が渇くのを感じた。
「あんなものが、本当に――」 「今はまだ結論は出さない」彼女は私の言葉を遮り、平坦な声で言った。「でも、もしあなたがブランドのロゴを見間違えていないなら、それはローレンス修理廠が抱えているものが、私たちの当初の想定よりずっと深いということを意味するわ」
彼女はそこで言葉を切り、一拍置いた。 そして、次の言葉を継ぎ足した。
「それに、九島重工の新型ヘリウム・水素駆動システムが、略奪船なんかに積まれているはずがない」
私の心の中の糸が、瞬時に一段階きつく張り詰めた。 上等だ。 つまり、私の被害妄想ではなかったということだ。
私は口を開きかけ、さらに質問しようとしたが、真紀が私より先に立ち上がった。 立ち上がる速度は速くない。怪我からの回復途上にあるため、動作にはまだ少し保守的なところが残っている。だが、一度立ち上がれば空間の支配権が自動的に彼女を中心に再配列されるあの感覚は、相変わらず強烈だった。
彼女は私の前に歩み寄り、走ってきたせいで歪んでいた私の襟元を、手を伸ばして平らに直した。
ただそれだけ。 ごく短い動作。 だが、理不尽なほどに短い。
「まずは息を整えて」彼女は言った。「今のあなたは、通風孔から這い出してきたばかりみたいに喋ってる」 「さっきは本当に、ずっと全速力で走ってきた」 「分かってる」
彼女は私を見つめた。その瞳の奥が、微かに沈み込んだ。
「よくやった」
……終わった。 私は本当に救いようがない。 彼女がたった四文字を口にしただけで、私はさっきの古い通路の地図を丸ごと描き出して両手で献上し、ついでに道中どのグレーチングが滑りやすかったかまでおまけで教えたくなってしまったのだから。
こんな反応、本当に情けない。 残念ながら、これが私の偽らざる本心だ。
私は、褒められて尻尾を振りたがる犬のように見えないよう、必死に取り繕った。 「じゃあ、これからどうする?」 「今から、あなたはアッシュのところへ行きなさい」真紀は言った。「氷晶の出所が目を付けられている件を彼に伝えるの。駆動炉については――」
彼女は視線を軽く横に逸らした。脳内ですでに次の一手を組み立てているかのように。
「――私が自分で見に行く」
私は呆然とした。 「自分で行くの?」 「他に誰が?」彼女は私を淡々と一瞥した。「九島重工の新型炉心の鑑定を、帳簿烏みたいな人間に任せるとでも思って?」
……なるほど、極めて合理的だ。 そしてその瞬間、私はなぜか、あの不運な海賊船とキャプテン・ハックを名乗る船長が、もうすぐある事実を思い知らされることになるだろうと確信した。
外殻に文字が印字されているからといって、それで終わりではないのだと。 特にその四文字が、ちょうど九島真紀の目の前に転がり込んできた場合には。
私は深呼吸をして、ようやく心拍数を正常な人間の周波数に押し戻した。 「了解しました」と私は言った。
そして一拍置き、それでもやはり堪えきれずに一言付け加えた。 「……真紀」
彼女が目を上げる。 「何?」 「もしあの駆動炉が、雪風の古い核融合の心臓とすげ替えられるチャンスがあるなら――」
私は半分まで言って言葉を切った。自分でも、この台詞が夢物語のように聞こえたからだ。
だが、真紀は私を笑わなかった。 彼女はただ極めて静かに私を見つめていた。細部のすべては理解していなくとも、少なくとも直感は間違っていない人間を見るような目で。
「まだ夢を見るな」と彼女は言った。「でも、夢を見る資格を放棄するには早すぎる」
……この女は。 本当に反則だ。 しかも、仕事モードのままで反則をやってのけるのだから。
私は結局、情けなく返事をするしかなく、背を向けてアッシュを探しに出た。 だが、ドアがスライドして開く前に、私の心の中はすでに確信で満たされていた。
ローレンス修理廠でのこの一件は、恐らくただの船の修理や補給、氷晶と工数の交換といった単純な話では終わらない。 私たちが遭遇したのは、ただの海賊船でも、闇市の改修でも、氷晶の出所を狙う者たちだけでもない。
もっと深い一本の線だ。 軍事、エネルギー、闇市、九島重工、そしてこの修理ステーションの真の価値へと繋がる線。 そして私たちは今、すでにその線の上に足を踏み入れている。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




