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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:ロスト
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115.整備工場 2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。


二日後、九島真紀大尉とアッシュ・ヴァンダー三等大尉が正式に勤務序列へ復帰した。


その日、私は生まれて初めて、艦橋の空気がこんなに美味いと感じた。


真紀が戻ってきた時、傷はまだ完治していなかった。動きも普段より少し抑えぎみだった。それでも、場を制圧する感覚は一ミリも削れていなかった。彼女が艦橋に立った瞬間、空間全体が自動的に「代理の過渡期」から「本当にこの連中を管理できる人間がいる」モードへ切り替わった。


輪番と航路修正について短く二、三問いただけで、声の調子を特に強めたわけでもないのに、舵手席のロイの背筋が気づけば三割増しで伸びていた。


そしてアッシュ―― 彼の復帰の仕方は、また別の意味で微妙な存在感だった。


アッシュ・ヴァンダーという男の、平時で最も面倒くさいところはこうだ。声を張る必要もなく、権威を演じる必要もない。ただそこに立っているだけで、この人間は場の大半より頭が速く回っていて、何を見て、何を計算して、何を敢えて言わないかを完全に把握していると、周囲に思い知らされる。 簡単に言えば、好かれるタイプではないが、爛れた後始末を任せるには非常に向いている幹部気質だ。


だからこそ、艦橋の臨時引き継ぎ会議が始まり、あの正式な口頭辞令を聞いた時、私は軍容に反する幸福な表情をその場で晒しそうになった。


「ただいまより」真紀が副長席の脇に立ち、澄んで無駄のない声で言った。「飛田艦長が勤務に復帰するまでの間、アッシュ・ヴァンダー三等大尉が雪風代理艦長に就任する。私は副長に就任する。前代理指揮権の移譲、完了」


私は今すぐ立ち上がって拍手したかった。 心の底から。 本当に、心の底から。 艦橋に人が多すぎなければ、艦長席のクッションごと両手で差し出して、「ご武運を」と一言添えていたかもしれない。


アッシュが一度、私を見た。 私の顔からあまりにも率直な解放感を読み取ったのだろう。口の端がわずかに動いた。


「ご苦労だったな、星野中尉」 「代理艦長に申告します」私は非常に誠実に答えた。「苦労しなかったとは言えませんが、これでようやく、少しは楽ができそうです」


後ろでジェスが顔を背け、肩を分かりやすく震わせていた。 真紀は私を淡々と一瞥した。


「軍容」


「……はい、副長」


……ああ、帰ってきた。 特に怒鳴られたわけでもないのに、一言で脊椎を元の位置に戻される、あの感覚。本当に帰ってきたのだ。


引き継ぎの後、艦内の編成も正式に再構築が始まった。


CICは依然封鎖されたままで、進駐は許されていない。あそこの損傷は、気合いと仮のガムテープでどうにかなるものじゃない。少なくともローレンス修理廠に着くまでは、あそこを正常な戦術中枢に戻せると考える者は誰もいなかった。


だから人を動かす必要があった。


ハーヴィーは医務室を出た翌日、ヴィクトルに輪機室へ引っ張り込まれ「調教」された。この単語はヴィクトル自身が口にしたものであって、私の作り話ではない。しかも彼がその言葉を発した時の顔には、ようやく使える手が増えたとしたり顔を隠さない、食えない古参技師らしい満足がにじんでいたので、ハーヴィーの顔は一段青ざめた。 私はハーヴィーのために、もう少し人間らしい配置を交渉しようかとも思ったが、ヴィクトルの「ついに手が使える」というあの顔を見た瞬間、彼の運命は天に委ねることにした。


Dはそのまま保安部に引き抜かれた。 理由は単純だ。CICが封鎖されている以上、座って頭を使っても、立って不機嫌にしていても同じくらい目立つDのようなタイプは、病室の外で埃を被らせておくより、艦内巡回と出入り管理、封鎖区画の監視に回した方がいい。少なくともあちらなら、何かあった時に合法的に仏頂面ができる。


そして艦橋―― 新たな七人の艦橋チームが、こうして正式に発足した。


代理艦長、アッシュ・ヴァンダー。副長、九島真紀。アイダ・ローゼン。蘭。アカリ。ジェス。そして私、星野 シモ。


名簿を聞いた時、最初に浮かんだのは豪情でも使命感でもなく、極めて現実的な感想だった。 この配置は、精鋭の艦橋チームには聞こえない。 会議の途中で殴り合いになっても不思議じゃないのに、全員が本当に有能な、問題児オールスターズだ。


アッシュもそれを分かっていたらしい。 最初の正式なチーム会議で、彼が口にした第一声は、士気を高める綺麗な言葉ではなく、これだった。


「先に言っておく。これから五日間、喧嘩したいなら順番を取れ」


私は危うく吹き出しそうになった。 真紀が彼の左側に立ち、無表情のまま補足した。


「不必要な感情的発言は禁止。必要な場合も、先に要点を言うこと」


ジェスが小声で私に言った。「ねえ、この二人並んでると、なんか高効率の冷凍装置みたいじゃない?」 「分かる」私も小声で返した。「しかも私は、もうその真ん中で凍らなくていい」


アカリは航電・センサー・火器管制リソースの調整、蘭は通信・外部識別・進入交渉補助、ジェスは戦術支援と艦内調整を担当し、私は自分に近い位置――戦術席と臨場判断、時折割を食う最前線の決断執行者を兼ねる位置へ戻った。 アイダの配置は、これまで最も見苦しく空いていた艦橋中段の演算とプロセス接続を埋め、寄せ集めのチームを「かろうじて本物のチームらしい」レベルへ引き上げた。


会議の途中で意見が割れた時、もう全員が一斉に私を見なくなった――それが私にとって、本当にほっとできることだった。 爆発寸前の手榴弾を、それを扱うのにもっと適した人間の手に返せたような感覚だ。 実にいい気分だった。


*


五日間の航程は長くない。 ただし、半壊した連邦軍艦に乗っていて、目指す先が「違法営業」かつ「修理はしてくれるかもしれないが、まず銃を向けて身分を尋ねてくるかもしれない」ドックでなければ、という条件つきだ。 不幸なことに、私たちはまさにその状況にあった。


ローレンス修理廠に接近する最後の十二時間、雪風の艦内照明は全体的に落とされ、外部識別信号は許容下限まで絞られ、艦体の熱排出には保守的な遮蔽処理が施された。 隠れるためだけじゃない――少なくとも、それだけが理由じゃない。連邦軍籍を掲げ、外殻に戦損の痕を残した艦が、荷物の配達のように真っ直ぐ突っ込んでいくのを、相手に遠目から見られること自体を、アッシュは嫌がっていた。


「今の私たちの立場はかなり微妙だ」代理艦長席に座ったアッシュが、雑音と光の破片に包まれた隠蔽航路の入口をメインスクリーン越しに見つめながら言った。「相手は違法営業、こちらは登録済みの連邦軍艦。この二つを並べて、自然に信頼が生まれることはまずない」 「自然に生まれるのは武器ロックのほうですね」アカリが言った。 「正解」


私は戦術席にもたれ、前方にゆっくりと姿を現す外周識別ブイを見ていた。 ローレンス修理廠の隠れ方には独特の美意識があった。岩盤に秘密基地を埋め込むような軍事式の隠蔽ではなく、もっと市井的で、海千山千の隠し方だ。砕氷帯、廃棄された軌道ステーションの残骸、乱れた重力残波――そういう「どれも通路には見えない」ものの中に、本物の進入口だけを紛れ込ませてある。ヴィクトルが持ってきた出所不明の私製図がなければ、私たちはこの一帯を三周ほど回った末に、ようやく監視されていたことに気づく羽目になっていただろう。


蘭が進入用の通信文を整えていた。 「外周が静かすぎます」彼女は言った。「無人なんじゃなくて、わざと先に喋らないんです」 「こっちが先に底を見せるのを待ってる」 「そうです」


ジェスが堪えきれず口を挟んだ。「なんかここ、入った瞬間に身体検査されて、それから売るかどうか決められる怪しい店みたいじゃない?」 「本質的には大差ないと思う」アカリが言った。


真紀が副長席で、センサー表示を見ていた。 「全艦、二級警戒を維持。保安部待機。武器システムは主動解錠しないが、火器管制の予熱は接続可能状態を保て」 「了解」私とアカリが同時に応じた。


ロイは舵手席の外側で待機支援につき、操縦桿には手を置かず、傍らで見守っていた。今回の進入は蘭とアカリが誘導修正を担当し、実際の操艦はより標準的な手順配置に戻された。見知らぬ縄張りに入る際、「喧嘩を売りに来た」と誤読されかねない動きを、アッシュは一切残す気がなかった。


そして、通信が来た。 挨拶ではない。 通常の識別照会でもない。 蘭が雪風の外部識別パッケージを送信して二秒後、極めて短く硬い暗号パルスが、逆向きにこちらの通信殻を叩いた。煙草を咥えた門番が、持ってきた箱をまず爪先で蹴ってみて、それから中身に爆薬が入っていないか尋ねてくるような態度だ。


蘭がわずかに眉をひそめ、即座に音声チャンネルを切り替えた。 次の瞬間、聞き覚えのない男の声が艦橋に割り込んだ。


太く、冷たく、苛立たしく、長年グレーゾーンで商売をしてきた人間特有の、だらしない中に警戒を含んだ声だった。


「前方の連邦登録艦、その位置で止まれ」その声は言った。「あと千キロ進めば、まず外板を一枚失う。礼儀を失うのはその後だ」


……開口一番から、実に土地柄が出ている。 ジェスが小さく息を呑んだ。 「うわ」


アッシュは表情を変えず、蘭に軽く頷いてみせた。 蘭が対外モードに切り替え、まるで脅されていないかのような平坦な声で応じた。


「前方ステーション、こちら雪風。限定進入、応急修理と補給の交渉を要請する」


向こうは二秒ほど沈黙した。 それから、鼻で笑う気配。


「連邦軍艦が、違法ステーションに応急修理の交渉に来る?」男は言った。「その台詞自体が罠みたいだな」


アッシュがついに主通信に直接入った。


「懸念は理解できる」彼は言った。「だが、もし私たちが取り締まりに来たのなら、戦損艦一隻だけを寄越したりはしないし、こんなに馬鹿正直に艦名を名乗ったりもしない」


今度の沈黙には、先ほどとは違う、本当に天秤にかけている重みがあった。


「損害状況を報告しろ」男が言った。


アッシュが顎をわずかに上げ、私とアカリに、最低限の公開損害パッケージを同期して送るよう合図した。 私は戦術パネルの上で指を素早く走らせ、あらかじめ用意していた「こちらの惨状は十分に伝わるが、どこまで惨いかは伝わりすぎない」バージョンを送った。これは非常に精妙な技術だ。少なすぎれば信じてもらえず、多すぎれば相手の悪心を刺激する。 今の雪風には、悪心を刺激する条件だけは、山ほど揃っている。


データを送った後、向こうの返答は、先ほどよりずっと長い時間がかかった。


返ってきた応答は、艦橋にいる全員の背筋を微かに強張らせた。


「……雪風」その男は私たちの艦名をゆっくりと反芻した。声の響きに、先ほどとは違う何かが混じっている。「連邦に登記された現役の戦闘艦か。いい度胸だ」 「生き残る人間というのは、大抵、規程よりも少しばかり肝が据わっているものだ」アッシュが応じた。


見事な返しだった。 思わず彼の評価にプラス一筆書き加えたくなるくらいに。


相手は笑わなかった。 だが、即座に牙を剥くこともなかった。 つまり、少なくとも交渉の余地はあるということだ。


外部メインスクリーン上、砕氷帯の奥にようやく人工構造物の影が覗いた。はっきりとした輪郭ではない。遮蔽網とデブリの影に隠された、冷たい白色灯の列。闇市の路地裏に潜む獣の牙のようだった。

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