114. 隠蔽 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
アイダの切断刃がまずロイの左手のバックルを断ち切り、蘭が撃った固定パイルが右側の硬い氷層に正確に突き刺さり、ロープが張って、ロイの落下を半秒だけ引き延ばした。
ジェスは珍しく事態をさらに大きな災害にしなかった。バックパックの短噴口がパンッと鳴り、側後方からロイに当たって、わずかに右へ押しずらした。
そして私は、そのわずかなずれの中で、ロイの手首を掴んだ。
衝撃が手首から肩まで一気に走り、危うく私まで亀裂に引きずり込まれそうになった。安全索が激しく張り、腰が二つに折れそうなほど締まった。歯を食いしばり、もう一方の手を氷面の縁に引っかけ、足をばたつかせて、どうにか自分を安定させた。
「ロイ!」私は叫んだ。
「いる!」ロイの声が裏返った。
「よし、まだ言い返せる。死んでない。右足を上げろ!」
「頑張ってます!」
「もっと頑張れ、お前は重い!」
「〇・〇四Gで重いとか言うんですか、人でなし!」
「今さら私の人間性に気づいてどうするの!」
亀裂の下でまた細かな崩落音がした。蘭はすでに体を低くして、牽引索に沿ってゆっくり力を引き戻している。アイダは第二の安全索を留めて、私の左側から補助に入った。
ジェスはおそらくアドレナリンが出すぎていて、「この話、帰ったら絶対全艦に話す、最高にスリリングだった」と通信でぶつぶつ言いながら、手はロイのバックパックのハンドルを掴んで引っ張り上げていた。
三秒。
あるいは五秒。
こういう時、時間の単位はまったく意味をなさない。
ようやくロイを完全な氷面まで引き上げると、全員が後ろへ倒れ込んだ――正確には、〇・〇四Gで「倒れ込む」とは言えない。ゆっくりと情けなく漂い倒れた、と言うべきだ。
ロイは氷の上に横たわり、ヘルメットの反射に自分の青ざめた顔が映っていた。
私の胸はまだ激しく上下し、腕は痛みで痺れていたが、最初に確認したのはロイの骨折ではなかった。
「第二陣の氷は放棄する」私は言った。
ヘルメットのチャンネルが一瞬静まった。
ジェスが最初に反応した。「了解」
アイダも頷いた。「同意する。地盤がすでに不安定だ。この一袋のために危険を冒す価値はない」
ロイは氷の上で二口息をつき、声は少し虚ろだったが、それでも片手を上げて賛成を示した。
「俺も……非常に、非常に同意する」
蘭は分析器を起こし、亀裂が前方へ延伸する方向を見ながら、一言補足した。
「あと三分引き延ばしたら、この一帯の表層全体が崩落していた可能性がある」
深く息を吸い、心拍を落ち着かせた。
「全員撤収。回収済みのサンプル、第一陣の回収氷、氷晶サンプルは保持。第二陣エリアは危険マーク。ロイは中央を歩け、ジェスは左後方を見ろ、アイダはデータを持て、蘭は殿後。今から先、英雄病の発作は一切受け付けない」
「じゃあさっきのあんたは何?」ジェスが訊いた。
「業務上の負傷だ」
帰路は行きよりずっと静かだった。
雰囲気が悪いからではない。全員が、さっき亀裂の縁に落としかけた魂を、少しずつ体に詰め戻しているところだったからだ。
ロイは以前より安定して歩いていた。ほとんど恭しいほどに安定していた。ジェスは明らかに後怖れをおしゃべりのエネルギーに変換していて、通信の中で自分がいかに勇敢にロイを押したかを大げさな修辞で語り続けた。蘭は訂正する気にもなれず、ジェスが自分を伝説の空挺兵と呼んだ時だけ、淡々と「実際には暴走した荷物に近かった」と補足した。アイダはサンプルボックスを抱えて時々頭を下げ、氷晶のエネルギー値を確認していた。その目に研究者特有の冷たい光がだんだん強くなっていて、艦に戻った後、最初に氷晶を切り開いて調べたいのは科学部ではなくアイダ本人ではないかと心配になり始めた。
揚陸艇の艙門が閉まり、艙内の気圧が戻ってきて、全員がヘルメットを外した瞬間、私はようやく人の匂いを嗅いだ。
汗、消毒剤、冷たい金属、循環空気、そして生きて戻ってきた後にだけ急に濃くなる、あの弛緩の匂い。
ジェスはヘルメットを膝の上に置き、長く息を吐き出した。
「今夜の配給水がまだ半杯なら、人生に全然尊重されていないと感じると正式に宣言する」
「さっき死にかけたのに、最初に思うのが水なの?」私は言った。
「分かってない。深淵を見た後は、液体への愛が純化されるんだ」
ロイはまだ椅子に寄りかかっていたが、顔色は悪いながらも笑えるようになっていた。
「俺は顔を洗いたい」
「消毒タオル半枚でその夢は実現できる」私は言った。
「代理艦長、最近どんどん艦上の悪政の象徴になってきてますよね」
「ありがとう。副長が直接育てた成果だ」
この言葉が口から出た後、私は自分で半秒黙った。
真紀の名前が出た途端、ずっと張り続けていた心の中の一本の糸が、また軽く引っ張られた。
不安からではない。もっと面倒な何かだ。命すら危うくなるほど忙しいのに、一番タイミングの悪い瞬間に、あの「戻ったら報告しなさい」という言葉を思い出してしまう。
鬱陶しい。
でも、役に立つ。
なぜなら、それが生きて帰りたいと思わせるからだ。
雪風が私たちを腹部整備艙へ収容した時、艦上の出迎えは英雄凱旋ほど大げさではなかったが、出発時より確かに人の気配が増していた。
整備兵が先に回収氷と装備箱を引き取り、医療兵がロイを連れて簡単な検査へ向かった。アイダは氷晶サンプルと水質報告を抱えて分析区へ直行し、蘭は地表スキャンと危険区域マークのデータ連携のために残った。
ジェスは「あなたたち、危うくこの美しい顔を永遠に見られなくなるところだったんだよ」と劇的に言おうとしたが、横にいた医療兵に体温測定パッチを口元に当てられて、あっさり沈黙した。
外出服を脱いでいる時、右手の親指の付け根から手首にかけて、ずっと震えていることに気づいた。
大怪我ではない。さっきロイを引き上げた時、筋肉を限界まで使いすぎただけだ。緊張が解けてから、痛みが礼儀正しく順番待ちをして押し寄せてきた。更衣艙の金属の壁に向かって息を吐き、代理艦長という職位の隠れた職種には、無料の肉体労働も含まれていたのだと悟った。
艦内服に着替え、簡単な消毒を終えてから、私が最初に向かった場所は艦橋ではなかった。
医務室だ。
報告すると約束したから。
病室の照明は外より少し柔らかく、静けさも少し普通の世界に近かった。艦橋や整備甲板の、意志と電線で支えているような雰囲気とは違い、ここには少なくとも「人が怪我をしたら横になるべきだ」という常識がまだ生きていた。雪風では今やその常識の多くが破産しかけているが、医務室は辛うじてそれを保っていた。
真紀は病床の縁に座っていた。肩に上着を掛け、手元には飲みかけの栄養液が置いてある。
アッシュは反対側の病床に寄りかかっていた。腹部と肩側をしっかり固定されているが、顔色は数日前よりずっと良くなっていた。少なくとも「いつでも急患に逆戻り」という状態から、「人の粗探しをする気力がある」状態まで回復しているように見えた。
医官は私が入ってくるのを見て、先に回復の進捗を伝えてきた。
「真紀大尉は無茶をしなければ、予定より早く復帰できます。アッシュ三等大尉も同様です。Dとハーヴィーは明日退院、軽作業は問題ありません。エヴリンの骨折は少し複雑で、もうしばらく安静が必要です」
「エヴリンはそれを知っていますか?」私は訊いた。
「知っています。三分間罵倒しました」医官は言った。「感情は安定しており、回復の見込みあり」
この描写は十分に説得力があり、私は安心した。
真紀の視線が私の手首から顔へと移り、眉尻がわずかに動いた。
「怪我をした」
疑問形ではなかった。
「小さな傷だ」私はすぐに言った。「業務上の負傷。堂々とサボれるほどじゃない」
アッシュは私を見て、相変わらず腹立たしいほど理性的な口調で言った。
「その言い方は、たいてい事態が小さくないことを意味する。採水で問題が起きたか?」
「少しだけ」椅子を引いて座り、今日の外勤の経緯を最初から話した。第一陣の氷の回収成功、第二採集ポイントでの氷晶の異常反応の発見、採取成功、第二陣の回収中の地盤崩落、ロイが落ちかけたこと、最終的に人員と第一陣の成果を保持し、第二陣の氷は放棄したこと。
「落ちかけた」のところまで話した時、真紀の顔色が明らかに一度冷えた。
「氷晶のサンプルを先に取ると決めた」のところで、アッシュが軽く眉を上げた。
話し終えると、病室がしばらく静まり返った。
真紀が先に口を開いた。
「用途不明の異常結晶に触れた」
「完全な制御条件の下で」私は言った。
「地盤が不安定な場所で第二陣の回収を続けた」
「あれはサンプル採取の後で場所を変えていたから、理論上は――」
「人を救出するために飛び出した」
「……それは飛び出さなければ、ロイが今頃氷原の地質と一緒に眠っていたかもしれない」
真紀は私を見つめた。
私も見つめ返した。
数秒後、アッシュが場違いなタイミングで口を開き、何か別のものに育ちかけていたその視線を、病室らしい空気に引き戻した。
「水はどれだけ持ち帰れた?」アッシュが訊いた。
数字を報告し、推定浄化回収率を加え、アイダの氷晶サンプルの暫定評価も伝えた。エネルギー蓄積だけでなく、水精製モジュールへの補助効果がある可能性もある。ただし、先に実験室を爆発させないことが前提だ。
アッシュは聞き終えて、頷いた。
「なら、一部のリスクは取る価値があった」
真紀はアッシュに顔を向けた。
「彼女の悪い癖を助長しないで」
「結果を認めているだけだ」アッシュは言った。「そして結果は悪くない」
「人が落ちていたら、結果は非常に悪かった」
「だから人は落ちなかった」
私は二人の病人の間に座りながら、両方まとめて医療艙に押し込んで再起動させたくなった。
「二人とも」私は言った。「私がいない時に、私が英明果断だったのか頭がおかしいのかを議論してもらえますか?」
ジェスがいつの間にか病室の入口に現れていた。手には配給より二十ミリリットル多く特別承認された飲料を持ち、ちょうど話に乗ってきた。
「三番目の選択肢を提案する」
私は警戒して見た。
「何?」
「美少女の冒険心が過剰」
「今日は暇なの?」
「亀裂に落ちかけたのは俺じゃないから、心的外傷が少ない」
病室でようやく誰かが笑った。
軽く、でも本物の笑いだった。
真紀の口元にあの、ほとんど見えないほどの弧が一瞬浮かんだ。錯覚かと思うほど素早かったが、私には見えた。あの一瞬は、どんな医療報告よりも安心させてくれた。
少なくとも真紀が、あの血まみれで担架に横たわっていた姿から、私の知っている姿へと、少しずつ戻ってきていることを意味していたから。
採水の結果と艦の最新の物資修正を伝え終えて、立ち上がった時、真紀はただ一言だけ言った。
「次に危険を冒す前に、先に退路を考えておきなさい」
「考えた」私は言った。
「考えが足りなかった」
「……了解、副長」
アッシュは私が振り向く前に一言付け加えた。
「艦の空気を見ておけ。水が戻ってきたから、士気は変わる。だが良い方向だけに変わるとは限らない」
「その言い方、故意に残業させようとしているように聞こえる」
「代理指揮は最初から残業中だ」
この一言も、非常に説得力があった。
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