112. 給水問題 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
雪風の水処理区は中段の下層にある。普段は存在感が薄く、誰も特に思い出さないが、何かあった瞬間に全員が文明の脆さを理解させられる場所だ。
廊下の照明はいくつかまだ点滅していて、損管兵が艙壁の脇にしゃがみ、ずれた電缆トレーを修理していた。一層下へ降りると、空気に金属の湿気と消毒剤の匂いが混じり始めた。新鮮な水の匂いではない。尿、冷凝水、洗浄廃液、その他の人間が口にしにくい液体を「飲料水」に洗い直そうとしている、工業的な良心の匂いだ。
ここは、艦全体の体裁ある生存の最後の防衛線だ。
アイダは歩きながら携帯端末を開き、損傷区画と循環配管を艙内構造図に重ねていた。
「先に結論だけ言う」顔も上げずに言った。「さっき艦橋で言ったより、状況は悪い」
「今日は『悪い』を聞きすぎた」私は言った。「詳細は?」
「浄化モジュールが二基、固定座から外れた」アイダは図の赤い区域を指した。「膜コンポーネントが割れて、紫外線殺菌アレイが一基ショートして、冷凝回収側の還流ポンプが一基、詰まって動かない。一番厄介なのは、貯水自体は大量には失っていないが、汚れた水をきれいにする能力が、今は著しく低下しているということだ」
「……さすが、文明の最も脆い部分だ」
主水処理区に入った。
中は思っていたより少し酷かった。
円筒形の浄化槽がいくつか並んでいる。整然としているが、そのうち二基は明らかに、出荷時の「信頼できる工業製品」という面影を失っていた。固定フレームが傾き、点検パネルが振動で開いて、継ぎ目から薄白い蒸気が細く漏れ出している。床には完全に排水しきれなかった回収液が少し溜まり、応急照明に照らされて、SF作品には似つかわしくない安っぽいスープのように見えた。
「直せる?」私は訊いた。
「直せる」アイダは言った。
私は彼を一瞥した。
「その言葉を聞くと、もう怖くなってきた。だいたい次に『基地があれば』が続くから」
アイダはようやく顔を上げ、笑いたいが笑えない表情をした。
「だいたいそうだ」彼は言った。「一基は何とか動かせる。回収効率は七割前後まで引き上げられる。ただし完全回復は、艦上では無理だ」
操作台に近づき、まだ下がり続けている数字の並びを見た。
純水備蓄、回収効率、不可逆損失、医療優先予留。
どの数字も、今日の私の気分を楽にしようとはしていなかった。
「通常の使用量なら?」
アイダは率直だった。
「三日は持たない」
少し黙った。
「節約すれば?」
「風呂なし、洗髪なし、尊厳のある料理に余分な水を使うことを考えるな。医療用以外の清潔は全面的に消毒タオルで代替、温水は医務室優先」アイダは指を下へ滑らせ、別の計算表を呼び出した。「第一回配給を実施すれば、全艦を五日前後は持たせられる。前提は、誰も水で馬鹿なことをしないこと」
頭に最初に浮かんだのは、ジェスだった。
いや、違う。
ジェスは自撮りに使うかもしれないが、水を本当に無駄にはしないだろう。本当に危険なのは、プレッシャーがかかると水を飲み続けるロイのような人間や、修理の途中で本能的に顔を洗って頭を覚まそうとする損管兵の類だ。戦時配給の最も厄介な点はそこだ。算数の問題ではなく、人間が崩壊しかけている時、非効率な選択をしやすい生き物だということを先に認めなければならない。
主コンソールに手を当てた。
「よし、第一回配給を始める」
アイダが私を見た。
「本当に? これを発表したら、全艦が、さっきの放送で言った以上に状況が悪いと知ることになるぞ」
「どれだけ遠くにいるか、知らせなくていい」私は言った。「でも、もう一回手を洗うことが、誰かの命で石鹸を泡立てることかもしれないと、知らせないわけにはいかない」
アイダは頷いた。
今度は早かった。無駄口はなかった。
こういう実務派と仕事をするのが好きな理由はそこだ。普段は口が少し固くて、顔が少し暗くても、問題が表に出てきたら、口だけで理想を叫ぶ人間よりずっと頼りになる。
艦橋通信へ切り替え、艙内優先チャンネルでジェスを呼んだ。
「ジェス」
向こうはほぼ即座に出た。声には、プロらしく振る舞おうとしすぎた硬さがまだ残っていた。
「代理の代理艦長、応答中」
「よし、それじゃあ代理の代理艦長は、第一級水配給の公告を発布する準備をしてくれ」
向こうが一秒、静まった。
「……もうそんなに追い詰められてるの?」
「ああ」
「分かった」ジェスの声がわずかに沈んだ。「内容は?」
アイダが整理した項目を、一つずつ読み上げた。
飲料水の配給量を削減。
入浴を全面停止。
医療用以外の清潔は乾式消毒に切り替え。
厨房は低水消費口糧モードへ移行。
全区画での給湯の無許可接続および不要な液体排出は、一律違反とする。
ジェスは聞き終えて、二秒間黙った。
「さっき跳躍の中で死にかけた方が、まだロマンチックだった気がしてきたんだけど」
「くだらないことを言うな、そのまま読め」
「了解」
通信を切ると、数秒後に艦内放送が流れた。
ジェスは普段の、活発すぎて、騒ぎすぎて、真剣な場面にもくだらないネタを差し込もうとするあの口調を、かなり上手く抑えていた。効果は悪くなかった。少なくとも公告らしく聞こえた。インフルエンサーが災害開封動画を撮っているような雰囲気はなかった。
放送が終わると、アイダはすでに損傷した浄化モジュールの脇にしゃがみ込み、点検パネルを丸ごと外していた。
「こっちを見て」
歩み寄った。
「これが回収膜コンポーネント、割れてる。ここが冷凝還流、振動で偏心した。それとこれ——」工具で歪んだ紫外線殺菌槽を叩いた。「もう一回跳躍したら、これが私たちより先に頭がおかしくなる」
「当分跳躍はない」私は言った。
「それは良かった。そうじゃなかったらロイを先に絞め殺してたかもしれない」
……この言葉には、意外な説得力があった。
損傷したモジュールの並びを見つめながら、五日という数字を頭の中でしつこく噛んだ。五日は長くもなく、短くもない。厄介なのは、希望を持てるには十分で、油断するには短すぎる、という点だ。判断を一つ誤れば、航路を少し遠回りすれば、モジュールがもう一基壊れれば、採集班が一度失敗すれば、五日はあっという間に三日半に削れる。
「艦内の水だけでは足りない」私は言った。
アイダが顔を上げた。
「同じ考えだ」
端末を横へ滑らせ、外部資源スキャンのページを呼び出した。
「この近くに氷質天体があれば、話は変わる。きれいな海洋惑星じゃなくていい。掘れて、融かせて、浄化できる水氷があればいい」
「探し始めろ」
今の雪風の最大の強みは、ぼろぼろでもセンサーが生きていることだ。計器が死んでいない限り、人間はすぐに遠くの石ころに希望を預け始める。それがおそらく、文明が今日まで続いてきた理由の一つだ。
アイダが検索条件を一つずつ引き出した。
揮発性物質。
低重力。
低暴風リスク。
大型生命反応なし。
水氷を含む。
できれば工業材料として使えるものもついでに拾えること。
外部星図が目の前で層を重ねて展開していく。宇宙の辺境の、ぼろぼろの引き出しを一段ずつ開けて、中から自分たちがあとどれだけ生きられるかを探しているようだった。
数分後、アイダが「ん」と声を出した。
「一つある」
すぐに覗き込んだ。
メイン画面に小さな青白い星体が点灯した。冷たく、静かで、友達もなく、訪問者を歓迎する気もまったくない。凍りすぎたガラス玉のように暗い背景に浮かんでいて、「ここには寒さと鉱物以外、何も提供しない」という孤独な雰囲気を全身から放っていた。
アイダがデータを投影した。
「氷封惑星。主要資源、二酸化炭素氷、水氷、活性銅。追加検出、二種の特殊物質——氷晶とコンデンスカーボン」
私は少し眉を上げた。
「氷晶?」
「名前が自分のために命名されたみたいだとか言い出す前に」アイダは言った。「重要なのは水氷が豊富だということだ」
よし、この人間は私が思っていたより完全に回復していた。すでに不要な言語攻撃を仕掛けてくる余裕がある。
環境パラメータをさらに拡大した。
「昼間気温マイナス七十八・四度。夜間マイナス百四十二・一度。大気は希薄な二酸化炭素、微量の氷晶粉塵を含む、危険度は低い。厚い大気がないため、吹雪は発生しない」
「重力は?」
「〇・〇四G」
その数字を見て、口元が引きつった。
「……つまり、床を少し強めに蹴ったら、そのまま成仏コースってこと?」
「だいたいそうだ。ただし、噴射パックの効率は三百パーセント向上する」アイダは言った。「採集作業は非常に楽になる」
「実に励みになる。凍え死にそうな惑星で、低重力のおかげでより遠くまで吹き飛べるとは」
アイダは私の発言を無視して続けた。
「植生は極めて少なく、散発的な氷晶低木のみ。動物相の生命反応は検出されず。つまり——」
「死んだ氷の世界」私が引き取った。
「そうだ」
その惑星をしばらく見つめた。
正直に言えば、長居するには向いていないが、資源だけ奪ってさっさと立ち去るには最適な場所に見えた。暴風なし、低重力、大型生命なし、水氷は豊富、活性銅と謎の氷晶まで付いてくる。これはもう「条件が悪くない」を超えている。宇宙の辺境で、まだ私たちに最低限の礼儀を示してくれる、数少ない石ころの一つだ。
「距離は?」
アイダが数値を報告した。
遠くない。
少なくとも、ローレンス修理工場よりずっと近い。
つまり、まずあの氷封惑星へ向かって水を補充し、使えそうな材料をついでに回収してから、水も足りなくて修理も必要だが当面は麻煩だけは充分な雪風を引きずって、名前からして請求書を二行余計に追加してきそうなローレンス修理工場へ向かう、ということだ。
損傷した浄化モジュールに背を預け、ゆっくりと息を吐き出した。
上出来だ。
状況は正式に、こうなった。
単純な迷子ではない。
単純な水不足でもない。
単純に修理工場を探しているわけでもない。
まず死んだ氷の星へ行き、氷の中から生き残る資格を掘り出してから、おそらく非合法で、おそらく悪徳業者だが、今のところ唯一の活路である修理工場へ向かう。
……ある意味、この話はどんどん辺境らしくなってきた。
立ち上がり、アイダに言った。
「その氷惑星の採集条件、着陸可能区域、低温作業の要件を全部まとめてくれ。艦橋へ戻ったら、第一陣の採水班の計画を立てる」
アイダは頷いた。
「真紀に知らせる?」
半秒、沈黙した。
それから言った。
「知らせる。今回は先に決めない」
そう言ってから、もう一度、星図に浮かぶその氷封惑星を見た。
白。冷たい。静か。生命なし。
水はある。
今の雪風には、それで十分だ。
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