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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
士官学校編
35/65

10. 実験体 1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

目を覚ましたとき、天井は白かった。


艦橋みたいに煙で半分煤けて、照明がちかちかしている白じゃない。


医療艙みたいに消毒しすぎて、人の魂ごと漂白してしまいそうな白でもない。


私の高級個室宿舎の天井だ。


三秒ほど眺めていた。頭の中は昨夜火を消し忘れた濃いスープみたいに、どろどろと重く、嫌な後味が残っている。後頸が鈍く痛み、背中の深いところには鋼線で神経を擦られたような幻痛がまだ残っていて、指を動かすだけで関節が抗議してくる。


そのまま横になっていた。


最初の考えは——まだ生きている。


二番目の考えは——くそ、惜しい。


死にたいわけじゃない。


ただ、昨日あの金属プラットフォームの上で本当に死んでいたなら、堂々と第一特別運用科の門前に立つ怨霊になれたのに、という話だ。毎晩深夜三時にハインリヒ博士のベッドの横に立って、注射器を持ち、最も標準的な連邦語で問いかけてやれる。


「博士、本日は薬物アレルギーのご予定は?」


残念ながら、そうはならなかった。


ごく普通に生き延びた。


しかも頭は、ドゥナン十二基の天幕に順番に轢かれたみたいに痛い。


ゆっくり体を起こすと、布団が滑り落ちた。気づけば清潔な濃いグレーの寝間着に着替えさせられていた。腕の注射痕には小さな医療パッチが貼られ、背中側にも感応パッチを剥がした後の薄赤い跡がいくつか残っている。


……上等だ。


気絶しただけじゃなく、あの連中に実験動物みたいに処理されて宿舎まで運ばれ、おまけにきれいに片付けられていた。


最悪な気分だ。


路上で車に跳ね飛ばされて、目が覚めたら加害者が家まで送り届けてくれていて、しかも布団まで掛けてくれていて、枕元にメモが一枚。


回復良好。明日も引き続き轢きます


布団を剥いでベッドを降りる。足が床についた瞬間、膝がかすかに揺れた。


足がふらついたわけじゃない。


そんなことは認めない。


あれは単に、私の下半身が連邦医学教育体制に対して異議申し立てをしているだけだ。


ベッドサイドの低いテーブルに、紙の書類が置いてあった。


電子パッドでも光幕通知でもない。


本物の紙だ。


人間の命すらデータの欄に圧縮できるこの時代に、紙で残されるものには大体二種類しかない。


特別に正式なものか。


特別に頭がおかしいものか。


近づいて拾い上げる。


タイトルはすっきりしていた。


第一特別運用科/基礎適応性テスト報告(暫定版)


以下、冷たい箇条書きが続く。


受検者:星野霜 一等兵

年齢:14

検査分類:薬物耐性/痛覚反応/神経ストレス適応


神経促進類薬物:使用可

代謝安定類薬物:一部過敏、第三類複合剤は回避要

ストレス反応抑制類:低用量適合

疼痛耐性:平均値以上

神経崩壊閾値:遅延型

強制刺激後回復能力:優秀

情動表現:攻撃性安定

羞恥心:残存

所見:第一段階塑型訓練への投入可


付記:

受検者は明確な言語的抵抗傾向を示すが、高圧・疼痛環境下においても観察・分析・口答えの能力を維持する。作戦適応可塑性は相当高い。

—— ハインリヒ・フォン・シュタイナー


「羞恥心:残存」という行を、三秒見つめた。


紙を置いて、また拾い上げて、もう一度読む。


「……このくそじじい、こんなこと正式報告書に書いていい権限、どこから手に入れたんだ」


それに「口答えの能力」って何だ。


どこの軍事用語だそれは。


裏返すと、手書きの補足があった。筆跡が病的なほど整っている。


追加観察:

受検者は強い自己維持傾向を持ち、観察対象の前での失態を避けようとする。

適切に運用すれば、長期的な耐圧優位に転換できる。

不適切に運用すれば、不必要な強がりと遅延性崩壊を招く。

—— H.v.S.


二秒、黙った。


それから、その紙に向かって非常に誠実に言った。


「頭がおかしいだけじゃなくて、字まで綺麗なのが本当に腹立つ」


そのタイミングで、ドアチャイムが鳴った。


システム通知じゃない。


本物のドアチャイムだ。


反射的に報告書をテーブルに叩きつけ、ドアの方を向く。


「入れ」


ドアが滑り開いた。


入ってきたのは十文字・レオン大佐だった。


今日は昨日の純黒の制服上着ではなく、シャツと軍用ベストだけで、袖口を一折り上げている。昨日の高級刃物の見本市みたいな冷たい硬さが少し薄れて、「今日は本当に仕事をしている」雰囲気が出ていた。


……くそ。


こういう人間は、袖をまくっただけでも、何かの募兵ポスターに使えそうな画になる。


その栄養ゼロの考えを、すぐ踏み潰す。


入ってきた彼の視線が、まずテーブルの報告書を一瞥し、それから私に落ちた。


「目が覚めたようだな」


「残念ながら」私はテーブルの端に背を預け、腕を組んだ。「植物人間になってくれた方が、訓練が静かで良かったんじゃないですか」


「違う」彼はドアを閉め、淡々と言う。「目が覚めてこういう口が利けることを期待していた。昨日の強度が無駄じゃなかったということだ」


……なるほど。


この男、博士と一緒に地獄へ落ちるのが本当によく似合う。


手にした報告書を少し持ち上げる。


「これは何ですか。入学成績表?」


レオンが紙を一瞥する。


「初期評価だ」


「『羞恥心:残存』も評価の一部ですか」


「博士にとっては、そうだ」


「じゃあ死んでいいですよ、あの人」


「それは現時点では承認できない」


睨みつける。


すると彼は、ごくわずかに口の端を動かした。笑いとは言えない。せいぜい、何か極めて軽い緩みのようなもの。氷の表面に細い亀裂が一本入ったような。


それがよけいに腹立たしかった。


わざと話に乗ってきているからだ。


「何の用ですか」私は聞いた。「まさか被害者の見舞いに来たわけじゃないですよね」


「昨日の君は被害者じゃない」レオンは言う。「受検者だ」


「よけいに気持ち悪い」


否定せず、電子パッドをテーブルに置いた。


「来たのは、昨日はまともな話ができなかったからだ」


私は彼を見て、何も返さなかった。


彼もすぐには続けず、先に部屋を見渡した。


リビング。


バーカウンター。


ソファ。


冷蔵庫。


それから、昨夜私が連邦に一秒だけ感謝しそうになったバスタブ。


「住み心地はどうだ」と彼は聞いた。


表情は動かさない。


「六A倉よりずっと格が高くて、静かで、合法的な飼育施設に近い、という意味なら、まあ慣れてきました」


「よく眠れたか」


眉をひそめる。


ごく普通の質問に聞こえる。


普通すぎて、少しおかしい。


「第一特別運用科って、メンタルケアも業務に含まれるんですか」


「含まれない」彼は言う。「ただ、快適すぎて気が緩んでいないか確認したかっただけだ」


……くそ。


そうか、これが普通だ。


これが私の知っている十文字・レオン大佐だ。


崖っぷちに追い込まなければ今夜眠れない、という人間。


「ご安心ください、長官」私は冷笑した。「コーラもバスタブも牛肉も、タダじゃないとわかっています。連邦のただ飯なんてものは存在しない」


「いい」彼は言う。「環境に買収されていないということだ」


思わず目を剥く。


「買収されかけましたけど」


レオンが、意外にもうなずいた。


「それも正常だ。誘惑を認識できる方が、まったく感じないよりずっといい」


……この言い方、どこか馬鹿にしているようでもあり、褒めているようでもある。


こういう、よく考えるとなぜか一理ある曖昧な言い方が、いちばん腹立つ。


彼は窓際に歩いて、ドゥナンの白い地平線を少し眺めてから口を開いた。


「なぜ個室なのか、わかるか」


「私が夜中に室友を絞め殺すかもしれないから?」


「違う」彼は振り向いた。「君が第一特別運用科に編入された時点で、もう一般兵と同じ場所に置けなくなったからだ」


少し黙った。


わかりやすい話だ。


わかりやすすぎるくらい。


格上げじゃない。


褒賞でもない。


隔離だ。


彼は私を見て、続けた。


「ここでの訓練、投薬、生活リズム、任務形式は、一般部隊とは別物だ。君がこれから触れるものは、一般兵舎に持ち帰るべきでもなく、一般の人間に見せるべきでもない」


「つまり私は機密資産ですか」


「そう呼びたければ」


「じゃあ、悪い方の言い方は?」


レオンが半秒止まった。


「特別規格の消耗品だ」


二秒、目を合わせた。


それから、笑った。


本当に笑えた。


「……くそ、そっちの方が好きです」


少なくとも正直だから。


正直さは親切より希少だ。


特にドゥナンみたいな場所では。


博士の報告書を見下ろして、指で紙面を軽く叩く。


「昨日、あなたはここには規則の綻びを自分で塞げる人間が必要だと言った」私は顔を上げて彼を見た。「じゃあ今は? 私を何に仕上げようとしているんですか」


レオンはすぐに答えなかった。


視線が私の上に落ちて、静止する。その静けさが居心地悪い。


冷え切った沈黙じゃない。


評価だ。


頭の中で一度分解して、また組み直して、さらに部品を二、三個替えようか考えている、そういう静けさ。


「仕上げようとしているわけじゃない」彼はようやく言った。「本当に使い物になるものに磨かれるだけの耐久性があるか、確認したいだけだ」


「最高に感じの悪い言い方ですね」


「好かれに来たわけじゃない」


「それはよく見えています」


彼は私の言葉を受け流し、電子パッドを少し手前に押した。


そこには、これから七日分の訓練スケジュールが入っていた。


朝から晩まで、隙間なく詰まっている。


疼痛管理、耐G適応、薬物安定、戦術判読、近接反応、短時間睡眠制御、ストレス記録、回復評価。


その表を見た瞬間、魂がゆっくり体から抜け出していく感覚があった。


「これがスケジュール?」


「第一週だ」


「『人間として生きる』という項目、削除されましたか」


「ここでは、まず生き延びることを覚えてから、人間の話をしろ」


数秒黙って、最後に一つだけ聞いた。


「もし生き延びられなかったら?」


部屋が静まった。


窓の外のドゥナンは相変わらず、作り物みたいに白い。


冷蔵庫が動いている。


リビングは、最初から誰も住んでいなかったみたいに静かだ。


レオンは私を見た。灰色の瞳に、慰めも励ましも、安っぽい熱血もない。


ただ、乾いて、残酷なほど、現実だけがある。


「外される」と彼は言った。


「どこへ?」


「一般序列に戻る」一拍置いて、彼は付け加えた。「あるいは、体袋の中に」


……ああ。


そうか。


その一言で、部屋の空気がかえって澄んだ。


夢もない。


未来もない。


子供を騙すための大義名分もない。


ただ一つの、シンプルな規則だけ。


生き延びろ。


さもなければ、くたばって帰れ。


七日間のスケジュール表を引き寄せて、一通り目を通した。


それから、ごく静かに息を吐いた。


「六A倉の臭い靴下が恋しくなってきました」


レオンはその場に立ったまま、一瞬黙った。


「懐かしく思うのは正常だ」


顔を上げる。


「だが、もう戻れない」と彼は言った。


その言葉は、平坦だった。


一枚の紙みたいに、平坦だった。


だからこそ、よけいに腹立つ。


自分でわかっていることを、他人の口から言われるのが嫌いだ。


胸のまだ瘡蓋もできていない場所を真っ直ぐ押されて、そこが痛いと客観的に告げられるような感覚。


口の端を引いて、できるだけ憎たらしく聞こえるように言った。


「わかりました、長官。これだけ高級に飼ってもらったんです。せめて、あまり安く死なないようにはします」


レオンは私を見て、ようやくうなずいた。


「それで十分だ」


そう言って、踵を返した。


ドアの手前まで来たとき、何かを思い出したように立ち止まった。振り返らない。


「ああ、そうだ」


「何ですか」


「博士が今朝、君の評価にもう一項目追加した」


眉が跳ね上がる。


「何ですか、それ」


レオンは淡々と言った。


「『昏倒直前まで罵倒能力を維持。可塑性高い』」


三秒、黙った。


それから手元の報告書を掴んで、ドアに向かって投げつけた。


「二人まとめて地獄に落ちろ——!」


ドアはとっくに閉まっていた。


報告書がドア板を叩いて、ぺたりと滑り落ちる。


いい。


今日の最初の朝の運動は完了した。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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