109. 先手必勝 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
続いて、彼は前方の舵手席へ視線を固定した。
「ロイ、手を震わせるな。渡した航路に沿って、ゆっくり進め」
一拍置いて、非常に性格の悪い一言を付け加えた。
「横にあるのは、ただの機雷群だけだ」
危うく噴き出しそうになった。
ただの機雷群?
その言い方は「横にちょっと雲がある」とか「左は公園の花壇だから踏まないように」とでも言うような軽さだった。問題は、私たちの横にある代物が花壇ではなく、雪風を連邦軍の教訓事例に変えてしまう、宇宙規模の地雷原だということだ。
舵手席のロイは、芸術的な白さの顔をしていた。
「自動航法は……使えませんか」
その声には、極めて正直で、極めて情けない葛藤が滲んでいた。額の水滴が汗なのか涙なのか、あるいは高圧下でその両者が戦略的同盟を結んだ結果なのか、判別がつかなかった。
「使えん」飛田艦長は即答した。同情の欠片もなかった。「自動航法は死を恐れない。だから、いつ恐れるべきかも知らないのだ」
……その理屈が、腹立たしいほど筋が通っていた。
雪風はロイの操艦のもと、機雷群の外縁に沿って、ゆっくりと滑り始めた。
突進じゃない。潜り込むでもない。熱血作品でBGMと共に「俺を信じろ!」と叫んで突っ込む、あの愚かな前進方式でもない。
滑る。刃の側面が、もう一枚の刃の峰をなぞるように。角度が少しでも狂えば、それは偏航ではなく、夜空でもっとも高価な花火になる。
戦術スクリーン上の雪風の航跡を見つめながら、胃が絞られるのを感じた。
その線は大きく湾曲していた。撤退にも、単純な回避にも見えない。機雷区の縁に張り付きながら、帝国艦隊の跳躍点の側外周を、ゆっくりと切り込んでいく。誰かが敵の背中に針で縫い目を入れているような軌跡だった。まだ血は出ていないのに、痛みだけが先に伝わってくる。
そこで、理解した。
……なるほど。
飛田は逃げる気などさらさらない。
回り込もうとしているのだ。
帝国軍の背後へ回り込み、彼ら自身も嫌がるであろう類の奇襲を叩き込むために。
この瞬間、さっきの笑いの意味が、嫌でも腑に落ちた。
普通の人間が見るのは「一対十」だ。狂人が見るのは、「十隻が跳躍直後で隊形が固まっておらず、火力展開も限定的で、しかも横には自分たちも触れたくない機雷群がある」という状況だ。前者はどう見苦しくなく死ぬかを考える。後者は、相手が体勢を立て直す前にどこから蹴りを入れるかを考える。
今の雪風は、刃の上を歩く道化師のようなものだ。
一度でも足を滑らせれば、戦術的奇襲はそのまま後世の笑い話に転落する。
だが——
この手、本当に通る余地がある。
艦橋では誰も余計な言葉を挟まなかった。システムの応答音、席位の操作音、機関の低周波振動、そしてロイの、ますます慎重で、ますます遅い、外科医が血管を切るような操艦のリズムだけが続いた。
アカリが低い声で敵艦陣列の変化を報告し始め、蘭は帝国軍通信鎖のノイズと暗号化された跳躍残波を一本ずつ拾い上げていく。ジェスは何か言いかけたが、前方の雷区の輪郭を見た後は賢明にも口を閉じ、武器管制の予備インターフェース脇に指を置いたまま静止した。普段はうるさい鳥が、今鳴けば撃ち落とされると理解しているようだった。
真紀は副長席に立ち、航路を一瞥し、艦体姿勢を確認し、各席の報告へと視線を戻す。多くは語らない。ただ時折、これ以上短くできない指示を一言二言落とすだけで、そのすべてが最も致命的なポイントを押さえていた。
「左舷、外へ振れすぎ。半度戻せ」
「通信遅延の記録を残せ」
「CIC、見物するな。データを見ろ」
最後の一言は、十中八九、緊張を見物気分と混同しかけていた誰かに向けたものだろう。
真紀はやはり真紀だった。
こんな時でも、一言で人を魂の抜けた状態から直接引き戻せる。
雪風が最後の大回り機動を終えた瞬間、飛田艦長が再び口を開いた。
「星野中尉」
「はい」
「頭が出たら——遠慮なく叩け」
飛田艦長はこちらを見もせず、視線は前方の敵艦陣列投影に固定したままだった。だがその声には、初弾の着弾点をすでに脳内で並べ終えた人間特有の凄みがあった。
「最低でも四隻は落とせ」
口元がわずかに引きつった。
「了解」
帝国軍を殺すことにもKPIがあるとは、今日初めて知った。
もちろん、意図は分かる。
四隻という数字は思いつきじゃない。十隻の高速巡洋艦の隊列から四隻が強制脱落すれば——沈もうと、行動不能になろうと、単に火力のリズムを失うだけでも——帝国艦隊の後段展開は必ず狂う。火制チェーン、旋回空間、支援角度、心理的圧力。すべてが一斉に乱れる。飛田が求めているのは単に「派手に撃つ」ことじゃない。最初の一噛みで相手の陣形そのものを噛み崩すことだ。
理屈では分かる。
感情的には、このノルマは鬼畜すぎると言いたい。
戦術席の火制優先シーケンスを組み直し、指を敵艦識別マーカーの上で一つずつなぞる。高速巡洋艦の艦影が投影上に並んでいた。前列、側列、後列——十本の抜き身の刃が、前へ圧力をかけようとしている。だが今、私たちはその最も見られたくない盲側を、滑るように通り過ぎている。
もう少し。
もう少しで、私たちは奴らの背後から頭を出す。
その瞬間、先に火を吹いた方が、最初の死者を決める。
ゆっくりと息を吸い、掌をメインコンソールに当てた。自分の心拍が速くなっているのがはっきり分かる。
怖くないわけじゃない。
……いや、正直、少しは怖い。
だがそれ以上に、崖から突き落とされた後、落下の途中で自分の手にちゃんと刃があると気づいた時のような、形容しがたい感覚があった。
雪風の艦首が、帝国艦隊背後の暗がりへ向けて、音もなく滑り込んでいく。
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武器インターフェースを全展開した。指はほとんど反射で動いていた。
ミサイル、予装填。
エネルギー、予充填。
射角、同期。
火制優先シーケンス、再編成。
戦術席前方のHUDが層を重ねて点灯していく。人を殺すための楽器を一式目の前に並べられ、「さあ、お前が指揮官だ」と言われているようだった。
そしてこの時、雪風の操作マニュアルに書き加える価値のある、いや、私個人の功労簿に書き込んでもいい事実に気づいた——
光束砲塔と実体砲塔は、並存できる。
切り替え不要。
つまり、「先に光束か、先に実弾か」という間抜けな迷いで時間を無駄にしなくていい。二系統を同時に噛みつかせられる。一口で、連邦軍は人手不足で、編制はデタラメで、艦長の精神状態も怪しいが、牙だけは鋭いと相手に理解させられる。
「……この設計、悪くない」
低く呟き、全火器の発射シーケンスを素早く組み直す。
手を返すと、掌が汗でびっしょりだった。
正直な湿り方だ。
人間は手汗をかくほど緊張しながらでも、ミサイルの発射ウィンドウをきれいに設定できるらしい。軍校教育の最も偉大な点はそこだ。恐怖を取り除くとは誰も言っていない。ただ、怖くても先に手を動かせと叩き込んでくれる。
前方のロイが、航道と艦姿修正を見つめたまま、低い声を漂わせた。
「回り込みます……」
全艦への通告でもあり、自分の心臓への言い聞かせでもあるような声だった。これ以上情けない真似をしたら、次はないぞ、と。
「うん」
短く応え、それ以上は言わず、意識をHUDへ沈めた。
戦術スクリーンが秒単位で更新されていく。帝国巡洋艦の艦尾輪郭、熱源分布、火制死角、推進尾流、機雷群の縁、こちらの射界重複区……すべてが、あの瞬間へ収束していく。
もうすぐだ。
あと少し。
今の雪風は、刃の峰を伝って滑り出た薄刃のようなものだ。機雷群の外側に張り付き、帝国艦隊の後方を回り込む。スクリーン上の相対距離から、その常軌を逸した近さが伝わってきた——遠くから覗いているんじゃない。相手の背後から顔を寄せている。推進器の排気の焦げた匂いすら嗅ぎ取れそうな距離だった。
アカリの声が突然響いた。
「敵艦、発見!」センサースクリーンから目を離さず、あの厭世感が半層削れた声で言った。「星野、連中、こっちにケツ向けてるよ」
……報告の作法としては、極めて非公式だ。
だが、悪くない。
なぜなら、今の局勢をこれ以上なく正確に伝えているからだ。帝国軍は今、最も見せたくない場所を、無防備にこちらへ向けている。
呼吸を止め、照準枠が一つずつ緑に染まっていくのを見届ける。
よし。
今だ。
「イゾルデ、トリスタン——撃て!」
命令が口を出た瞬間、雪風の前部と舷側の火器が一斉に牙を剥いた。
イゾルデの光束が先に闇を裂く。細く灼熱する光の槍が、残酷なほどの精度で帝国艦隊の後列を掠めていった。次の瞬間、トリスタンの実体砲弾もほぼ同時に飛び出し、反動の震動が艦体の骨格を通して全身に伝わってくる。艦全体が奥歯を噛み締めたような衝撃だった。
光と鉄が同じ瞬間に飛んでいく。その光景には、理不尽なほどの美しさがあった。
もし今、真紀が振り返って「集中しろ」と言ったとしても、反論できなかっただろう。半秒だけ、これを人殺しの道具にするのは惜しいと本当に思ってしまったからだ。
帝国軍にその余裕はなかった。
最も内側の巡洋艦は、イゾルデの光束が外装甲を掠めたのとほぼ同時に、側後方に何かが現れたことに気づいた。艦尾姿勢が急激に偏り、転舵は急で、みっともなかった。深夜に幽霊に肩を叩かれ、靴も履かずに逃げようとするような動きだった。
そして、逃げる勢いが強すぎて、自分たちが埋めた穴に一歩踏み込んだ。
機雷群が右舷外側で炸裂した。
一発じゃない。連鎖的に数発が誘爆した。
偽装ノイズとして隠されていた空域が、突如、醜くも壮観な死の花火に変わった。帝国巡洋艦の艦腹はその場で捲り上がり、艦全体が爆光の中で荒唐無稽な角度にねじれた。誰かに中央から思い切り絞られたように歪み、そのまま炎と破片の塊となって転がり落ちた。
「一隻、脱落!」アカリが叫んだ。
対面の不運を悼む暇などなかった。
トリスタンの砲弾が、すでに次の標的に噛みついていたからだ。
その一発は派手な花火にはならなかった。もっと陰湿に、もっと実務的に、隣の帝国巡洋艦の推進段へ直接貫き通した。外装甲がまず裂け、内部構造が層を成して爆ける。火花と破片が破口から吹き出し、艦尾の姿勢が瞬時に崩れ、主推進の尾炎が真っ二つに断ち切られた。
即座には爆発しなかった。
だが、爆発しないことの方が、かえって死んでいるように見えた。
全力疾走の途中で脊椎を串刺しにされた獣のようだった。前半身はまだ前へ進もうとしているのに、後半身はもう言うことを聞かない。その巡洋艦はその場で一回転し、姿勢制御が急速に崩壊し、火制陣列も次々と暗くなっていった。
「二隻目、航行能力喪失。火制大幅低下!」アカリが補報した。
上出来だ。
一沈、一癱。
奇襲というものは、一口でどれだけ派手に炸裂させるかじゃない。最初の一噛みの後、相手がどれだけ反応に時間を要するかだ。
「パルジファル——全弾発射!!」
ミサイルウィンドウを全開に押し込んだ。
十数発の対艦誘導弾が雪風の弾庫から一気に脱離し、短く明るい尾光を引いて突進していく。
光束や砲弾と比べ、ミサイルという兵器には常に妙な気質がある。手元にある間は計算であり、シーケンスであり、ボタンとロックだ。だが一度放たれれば、宇宙に向かって骰子を叩きつけたようなものになる。後は、この世界が筋を通してくれるかどうかを見守るしかない。
帝国軍は、戦績を稼ぐための的ではなかった。
後列が乱れると同時に、前列と側列は即座に迎撃火網を展開した。数発のミサイルが途中で叩き落とされ、一瞬の火花となって消える。別の数発は見えない手で乱暴に押しのけられたように軌道を逸れた。
だが、混乱というものは一度転がり始めると、筋道を立てて止まらない。
そのうちの一発が、敵の迎撃火力と急転舵する艦列の間で、極めて刁鑽な角度をこじ開けた。元の標的へ真っ直ぐ向かわず、艦身を立て直そうとしていた別の帝国巡洋艦の中段へ潜り込んだ。
次の瞬間、火光が相手の艦腹から炸裂した。
それは、綺麗な一点爆破ではなかった。内部構造がまるごと引き裂かれる、そういう種類の爆発だった。外装甲がまず膨らみ、それから裂け、艦全体が内側からの圧力に耐えきれず、外へ向かって捲れ上がった。その場で粉々になったわけではない。半分燃え続ける艦体を引きずったまま、慣性に任せて横へ激しく振り飛ばされていった。
「三隻目、大破!」
アカリの声は、もはや報告ではなかった。現場の死亡実況だった。
制御を失ったその帝国艦の半身が、そのまま隣の僚艦の舷側へ擦り込んだ。
正面から沈めたわけじゃない。
だが、それで十分だった。
反転してこちらに噛みつこうとしていたその巡洋艦の姿勢を、完全に崩すには十分だった。外部の火制塔が一列まるごと削り取られ、緊急偏航で回避しようとしたところへ、後方から迫る味方の残骸に押されて、さらに外側へ道を譲る羽目になる。後列全体が、蹴り飛ばされた将棋盤のように一瞬で乱れた。整然としていた推進尾炎と射界の展開は、今や互いに邪魔し合うだけの玉突き事故に変わっていた。
「四隻目、損傷により隊列脱落! 五隻目、火制解算に混乱! 後列、隊形崩壊!」
戦術スクリーンを見つめながら、一瞬、一番肝心な時に自分の運が裏切らなかったことが信じられなかった。
五隻すべてが吹き飛んだわけじゃない。
それは童話の話だ。
だが今の結果は、十分に悪辣で、十分に鋭く、十分に効いていた。
帝国艦隊の後列に、私たちは一噛みで大きな欠け目を開けたのだ。
飛田艦長は、戦術スクリーン上で次々と暗転し、逸れ、点滅し、脱落していく識別マーカーを見つめながら、それでも短い感想を述べる余裕を見せた。
「だから、戦術長という位置には、中尉のような人間を据えるべきなのだ」
一拍置いて、口角がわずかに動いたように見えた。
「運も実力のうちだ」
口元が引きつった。
これは褒め言葉なのか。それとも私を正式に、ハイリスクな賭け道具として分類したということか。
だが、今はそれに構っている暇はなかった。
帝国軍も、死人ではないからだ。
前列の艦がついに強制反転を始め、敵主火器の予熱信号が一気に跳ね上がった。複数の火制ロック警報がほぼ同時にHUDへ飛び込んでくる。画面全体を血の池に浸したような赤だった。
「敵艦、反転開始!」蘭が冷たく報告する。「複数の火制チェーンが本艦をロックオン!」
「右後方、高エネルギー反応上昇——」
アカリの声が落ちるか落ちないかのうちに、敵の光束が雪風の外側を掠めていった。
艦橋全体が激しく揺れた。
直撃ではない。だが、掠めていく時の衝撃の方が、かえって不快だった。真っ赤に焼けた刀の峰で、骨のすぐ横を撫でられたような感覚だ。警告灯が瞬時に二段跳ね上がり、艦体外層装甲とシールドインターフェースの損傷アラートが、視野の端を掠めて過ぎった。
「右舷外装甲、擦過傷! シールド外縁層、減衰!」アイダの声が後ろから切り込んできた。医療カルテを顔に叩きつけるような容赦のなさだった。「まだ死にません。各自、引き続き頑張ってください」
上出来だ。
実に雪風らしい報告スタイルだった。
飛田艦長は眉一つ動かさなかった。
「ロイ、最大戦速」彼は言った。「直ちにこの宙域から離脱する」
前方の舵手席で、ロイはほとんど全身で答えた。
「了解! 最大戦速!」
雪風の主推進尾炎が、猛烈に伸びた。
その加速は、ロマンチックなものではなかった。凶暴だった。艦全体が後ろから思い切り蹴り飛ばされたように、あらかじめ計算されていた離脱角度に沿って、猛然と飛び出していく。
ロイは両手で操舵輪を押さえ込み、人に噛みついた直後に背を向けて逃げようとしているこの鋼鉄の獣を、強引に航路上へ縛りつけた。前方には爆発の残光、側面には機雷群の境界、そして後方には、ようやく反応し始めた帝国巡洋艦群。私たちは、その入り乱れた火線と残骸の間を、一気に引き裂くように抜け出した。
殴って、逃げる。
だが、戦術スクリーン上でなお激しく点滅し続ける敵艦の識別マーカーを見つめながら、私にはよく分かっていた——
この一噛みは、確かに見事に決まった。
だが、安心して笑える段階には、まだほど遠い。
背後から思い切り一撃を叩き込まれた帝国軍は、これから間違いなく、報復とは何かを私たちに教えたくてたまらなくなるはずだ。
そして雪風は、今ようやく、最初の追撃から逃れようとしているところだった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




