109. 先手必勝 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
戦術スクリーン上の異常区域を見つめれば見つめるほど、胃のあたりが気持ち悪くなっていった。
それは単なる「ノイズが多い」状態ではない。機材の老朽化でも、信号の気まぐれでも、当直員の見間違いでも、どこかの不運なエンジニアが昨夜ボルトを一本締め忘れたせいでもない。
あの黒さは、整いすぎている。乱れ方が、規則的すぎる。誰かが意図的に星図を塗り潰し、その上から汚れた指で適当に塗り戻したような不自然さだ。妨害だと言われれば信じよう。だが「ただの」妨害だと言うなら、それは火山の噴火を「地面がちょっと熱いですね」と評するのと同じくらい、面の皮が厚い。
データレイヤーをもう一段拡大し、投影インターフェース上を指が滑る。自分が思っていたより一歩早く、声が出ていた。
「艦長、この妨害区域——」
「見えている、中尉」
飛田艦長が直接引き取った。
「うんうん、聞いてるから落ち着け」式の宥め方じゃない。歴戦の軍人がキーワードを耳にした瞬間、言語処理を飛ばして直接判断モードへ入る、あの食い気味の応答だ。
飛田艦長はその異常区域を主戦術スクリーンから抜き出し、中央のメイン画面へ単独展開すると、フィルタリングとエコー照合を素早く何層か切り替えた。冷たい白光が、元からろくな知らせを持ってこなさそうな飛田の顔をさらに硬く照らす。撤退命令は下せても、自分だけは絶対に退かない鉄の像のような男だった。
次の瞬間、飛田艦長の眉間がわずかに沈んだ。
ごく軽く。
だがその一瞬の沈みは、「まずい」と大声で叫ばれるより、ずっと説得力があった。
「まずいな」飛田艦長が低く言った。「蘭少尉、今すぐ水無月と筑摩に繋げ」
「はい」
蘭の指が通信卓の上を飛ぶように走った。速さが美しかった。派手さではなく、正確さゆえの美しさだ。すべてのキーの位置を骨の髄まで刻み込んでいる人間の速さだった。
通信インターフェースが瞬時に複数のサブウィンドウへ分裂し、連邦軍暗号チャンネルの識別標識が層を重ねて点灯していく。リンク確立のハンドシェイク信号が、冷たい細い糸のように外へ伸びていった。
「接続完了」
主スクリーンに二つの映像が跳び出す。
大島艦長、中田艦長。
両方の背景が揺れていた。水無月も筑摩も、すでに高負荷機動状態に入っているのが見て取れる。大島艦長側は照明が暗く、顔の半分がコンソールの反射する青い光に沈んでいた。中田艦長は、命より長い報告書から無理やり顔を上げたばかりのような顔をしていて、目には「本当に一大事なんだろうな」という警戒がまだ残っていた。
飛田艦長は一言の無駄も使わなかった。
「大島艦長、中田艦長、直ちにその区域から離脱してください」飛田艦長の声が沈む。「あれは信号干渉では——」
私は心の中で、ほぼ同時にその先を補完していた。
遅い。
悲観じゃない。水面の下で何かが口を開けているのがすでに見えているのに、岸に立っている人間がまだ「あれ、影ですか?」と訊いている、あの種類の遅さだ。
スクリーンの二人は、疑問を最後まで口にする間もなかった。大島艦長が唇を動かしかけ、中田艦長が眉をひそめかけたその瞬間、二つの画面が同時に歪んだ。誰かが外から信号を鷲掴みにし、丸めてしまったように。スノーノイズが爆発的に増え、音声が断裂し、次の瞬間——
暗転した。
艦橋が一瞬、静まり返った。
その静けさは短かった。一息を吸い切るほどの時間もない。だが、氷の塊を肺に直接押し込まれたような硬さがあった。
飛田艦長は暗転したスクリーンを見据えたまま、歯の隙間から絞り出すような声で言った。
「……宇宙機雷群だ」
その言葉が艦橋に落ちた瞬間、背筋が一気に冷えた。
なるほど。
単なる干渉じゃない。自然の乱流でも、帝国軍が適当に撒いた電子煙幕でもない。
あの異常区域がああも醜く、不自然に見えたのは、「隠す」ためのものじゃなく、「喰う」ためのものだったからだ。電磁的な偽装で包まれた機雷群。航道の脇にわざと配置された泥濘のように、踏み込んで初めて、下にあるのが泥じゃなく牙だと分かる。
「水無月、筑摩から応答なし……」
アカリの声から、あの半死半生の厭世感が初めて消えた。一瞬止まってから、話速が急に上がる。
「艦長、前方に大規模な時空歪曲発生!!艦隊規模の跳躍です!」
艦橋全体が、一気に張り詰めた。
活気づいたんじゃない。全員の神経が、誰かに一斉に引っ張られたようだった。
主戦術スクリーン右上の空域監視画面が狂ったように更新を始める。元から醜かったエコーが、瞬時に煮崩れたスープのように乱れ、深宇宙の背景に不自然な歪み点が、傷口のように次々と裂けていった。
隕石じゃない。普通の商船でもない。物好きな観光客が私用艇で迷い込んだわけでもない。これは大型艦艇群の跳躍前兆として、これ以上ないほど教科書通りの映像だった。
しかも一隻じゃない。
群れだ。
アカリの指がパネルの上を飛び回り、カーソルとデータが、元から徹夜七日目のような彼女の顔を、さらに幽鬼めいて照らし出す。
「IFF確認……」アカリが息を吸い、声が乾き始めた。「少なくとも十隻、銀河帝国高速巡洋艦」
少なくとも。
その言葉が、殊更たちが悪かった。
「少なくとも」とはつまり、今見えているものだけで悪夢を見るには十分だが、それが全部だという保証はない、という意味だ。
「光学捕捉完了」蘭が冷たい声で補足した。「帝国軍、確認」
艦橋前方の主スクリーンが三分割され、その一面に遠距離光学捕捉の映像が入った。
深黒の宇宙を背景に、十の艦影が歪んだ光の中から一隻ずつ浮かび上がっていく。銀灰色の艦腹、細長く侵略的な艦首の輪郭、舷側装甲帯の、抑制されているからこそかえって不快なライン。そして、「来たぞ、遠慮はしない」を設計言語そのものに溶かし込んだような帝国軍特有の美学——データベースの判定など要らない。肉眼で見るだけで、夕食を戻したくなるには十分だった。
結構だ。
緒戦にして、一対十。
連邦軍が若手士官候補生向けに「初の正式乗艦で絶望とは何かを速やかに理解させる」実習を組んでいるなら、この一コマは本当に力が入っている。教材まで本物の艦隊だ。
その画面を見つめながら、頭に最初に浮かんだのは戦術分析ではなく、あのステーキ屋の親父の、辺境の民間知恵に満ちた、腹立たしい顔だった。
……あの大将、本業は牛肉焼きなのか、それとも副業で占い師をやっているのか。
だが飛田艦長は、誰にも半秒たりとも呆然とする権利を与えなかった。
「舵手」飛田艦長が口を開いた。
声は大きくない。だがこの状況で異常なほど安定していた。釘が木に打ち込まれる音のように、散りかけていた艦橋の意識を一撃で持ち場へ釘付けにした。
「送った座標へ向かえ」
ロイの側は、おそらく〇コンマ何秒か固まった。
反抗じゃない。純粋な人間の本能だ。「前方に少なくとも十隻の帝国高速巡洋艦」と聞いた後、まともな人間の頭に優先的に浮かぶのは、撤退、回避、退避、離れろ、宇宙よ今日は見逃してくれ——であって、「了解、新しい座標へ」ではないはずだ。
だが飛田艦長の端末は、すでにロイの航法システムへデータを送り込んでいた。
新航路が点灯した瞬間、危うく悪態をつきそうになった。
敵艦から遠ざかる道じゃない。
普通の人間が「活路」と呼ぶものですらない。
その線は機雷群の縁を掠めるように切り込んでいた。自分の手の甲の血管に沿って刃を走らせるような角度だ。少しでもずれれば、前は帝国軍の砲火、横は宇宙機雷の穴、後ろにはたった今音信を絶った連邦の友艦。これは航路じゃない。重度の精神異常者だけが描ける生存テストの解答用紙だ。
そして、飛田艦長が笑うのを見た。
大笑いじゃない。徴兵ポスターに使えそうな豪快な熱血の笑いでもない。
口角がわずかに上がる。短く、薄く、背筋が寒くなるほど愉快そうな笑い。あの笑い方をする人間は二種類だけだ。獲物の隙を見つけた狂人か、盤面がついに望む形になったことに気づいた達人か。
……くそ。
この人、本当に狂ってる。
いや、ただの狂人じゃない。
一番厄介なタイプの狂人だ——普段は言葉数を節約しているように見えて、局面が十分に腐って挑戦的になった瞬間、逆に生き生きしてくる。
ひどく不吉で、しかし否定しがたい予感が湧いた。
飛田艦長は闇雲に突っ込もうとしているんじゃない。
あの原型を留めないほど腐りきった戦場の中に、狂人にしか道として見えない隙間を、すでに見つけているのだ。
さらに悪いことに——
戦術席に座り、座標線が機雷帯と帝国艦隊の跳躍点に重なる図を見ているうちに、飛田艦長が何をしようとしているのか、私にもうっすら分かり始めてしまった。
こういう時、長官の意図が読めるというのは、少しも喜ばしくない。
なぜならそれは大抵——
これから自分も一緒に狂わなければならないことを意味するからだ。
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「全員、戦闘配置につけ!」
飛田艦長の声は大きくなかった。だが鉄釘のように、艦橋全体へ乾いた正確さで突き刺さった。
「艦橋シャッター閉鎖!火器管制、全系統解除!!副長!」
「はい」
真紀は半秒も止まらなかった。
慣れた手つきで艦内放送のハンドセットを掴み、もう一方の手で電子戦闘警報を叩いた。次の瞬間、雪風の深部から、重く低い電子の打撃音が響き渡った——
ガン、ガン、ガン、ガン——
単に「大きい」だけの音じゃない。金属の槌で、艦内の全員の神経を一発ずつ叩き潰していくような音だった。血液の中にまだ残っていた休暇の気分、眠気、混乱、「私たち死ぬんじゃないか」という雑念の残骸が、その打撃音でまとめて砕かれていく。
同時に、艦橋前方の透明な観測パネルの外側で、何層もの分厚い遮蔽装甲板が順に滑り落ちた。冷たい外光が断ち切られ、艦内照明は即座に暗めの戦闘色階へ切り替わる。メインコンソールと戦術スクリーンの輝度が自動で再分配され、艦橋全体が一瞬で顔を変えた。ただの軍艦から、本当に血を見る準備を整えた一本の刃へ。
真紀が深く息を吸い、全艦放送を通して声を送り出した。
「戦闘配置、戦闘配置。全員、第一種戦闘配置に付け」
一拍も置かず、続ける。声には余計な起伏が一切ない。冷酷に近いほど平坦だが、その平坦さこそが背筋を緊張させた。
「走路は、右舷が前方上方、左舷が後方下方。全艦、気密閉鎖状態へ移行」
そして、声をわずかに落とし、はっきりと最後の一句を告げた。
「これは演習ではない」
たった一言。
艦内でまだ状況に追いついていなかった者たちも、これで直接横面を張られたように覚醒したはずだ。
私は戦術席からその様子を見ていた。真紀がハンドセットを戻す横顔が、コンソールの冷たい光に切り取られ、鋭く清潔な輪郭線を描いている。その瞬間の彼女は、学生にも、臨時徴用された大尉にも見えなかった。この艦にもともと組み込まれていた何か——冷たく、安定していて、硬く、一切の交渉を受け付けない圧迫感そのもののように見えた。
……くそ。
こんな時にここまで格好いいのは、戦時公平原則に違反している。
飛田艦長がCICの方向へ一瞥を飛ばし、指揮系統の全体を脳内で最終確認するようにしてから、口を開いた。
「エヴリン・サド少尉。お前が今からCICを指揮しろ」
「はい!」
エヴリンの返答はほぼ即座だった。緊張は聞き取れたが、震えてはいなかった。それだけで十分だ。全員まだ若く、どう見ても「学生に練習させてみる」代物ではない本物の戦場に、無理やり押し込まれているのだから。
私は無意識に飛田艦長を見上げた。
反抗じゃない。ただ、少し訊きたかった——エレナは?
飛田艦長は、部下の疑問を処理する専用の読心レーダーでも積んでいるのか、完全に振り向く前に先手を打ってきた。
「星野中尉、私をじろじろ見るな」冷たく言った。「何を訊きたいかは分かっている。エレナは本艦の交戦官じゃない。別の部隊へ異動済みだ」
口元がぴくりと引きつった。
おいおい、冗談だろう。
連邦のこの人員配置は、東の壁を崩して西の壁を補修し、最後には壁を壁とも思わなくなって、テーブルの板とドアの板で凌ぐ、その典型的なやり口だ。
学校で教官が「連邦軍の後方支援体制は厳密かつ完備、指揮運用は柔軟かつ効率的である」と語るのを聞く時、私はまだ表面上の敬意を保っていた。今にして思えば、あの言葉は観光パンフレットの「治安良好、夜間の散策も安心」と同じ文学ジャンルだったのだ。
「よし、全員気を引き締めろ」
飛田艦長の声が落ちると、艦橋の空気がさらに一段、内側へ収縮した。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




