108. 初陣 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
飛田艦長は、艦橋前方——元から「胃に穴を開けるような人間しか立つ資格のない」位置に立っていた。
あの男は普段から、雪風のど真ん中に打ち込まれた一本の鉄釘のような人間だが、今は照明が上から圧しかかり、艦橋の主スクリーンが冷たい白に染まっているせいで、なおさら「妥協を受け付けない軍法条文が立体化したもの」に見えた。
私たち十一人が艦橋に飛び込んできた様子が、まるで別々の被災地から同じ回収箱に一気に掃き込まれた残骸一式に見えたせいかもしれない。飛田艦長はいつもの形式的な場面口上すら省き、私たちが入ってくるのを一度だけ見上げて、直接切り出した。
「来たか。休暇を邪魔して悪いが、緊急事態だ」
……いや、その前半と後半、文法上は繋がっていても、意味の上では他人だろう。
「悪い」と本気で思っている人間は、こっちの靴紐もまだ結べておらず、頭の半分がいまだにラブホテルの廊下とエレベーターに引っかかった社会的死の残骸を引きずっているタイミングで、艦橋まで直接引き上げたりはしない。
この温度の「悪い」は、手術室に入る直前の医者が「ちょっと冷たいですよ」と言って、次の瞬間には腹を丸ごと開けてくる、そういう類のものだ。
飛田艦長は誰の顔色にも構わず、続けた。
「四時間前、パイク星六号が強力な電磁妨害を受けた。二時間前、回廊に展開していた無人巡回機が信号を喪失した」
艦橋が、機器の低い唸り音すら押し潰されたように静まり返った。
私は無意識に眉根を寄せた。
パイク星六号。回廊。強力な電磁妨害。ロストした無人巡回機。
一つ一つなら、当直士官がコーヒーを一杯から二杯に増やす程度の話だ。だが並べると、それは「少し面倒」では済まない。「今日の休暇は正式に死亡宣告された」レベルだ。
飛田艦長が手を上げ、後方の要員に主スクリーンを切り替えさせた。
「一時間前、遠距離監視衛星が送ってきた映像だ」
スクリーンが点いた瞬間、周囲で誰かが息を呑む音がした。
大げさな演劇的な息ではない。人間が見たくないものを見た時、脳より先に身体が反応してしまう、あの種類の吸気だ。
映像は荒れていた。遠距離監視衛星の映像で、しかも妨害を受けているせいで、縁のノイズはレンズに砂を撒いたようだった。それでも、画質がどれほど酷くても、その塊自体の存在感は少しも損なわれていなかった。
黒い、長い紡錘形の艦影。宇宙の深部からゆっくりと浮かび上がる刃の群れのように、妨害で歪んだ星図の背景に静かに張り付いている。識別輪郭が拡大され、重描され、照合された末、連邦軍標準データベースが弾き出した判定は、あっさりとしていた。平手打ちのように、あっさりと。
誰かが低く呟いた。
「……帝国軍……」
その二文字が感染するように、艦橋の中で無声のまま広がっていく。誰かが本当に囁き合ったわけじゃない。ただ、その瞬間、全員の表情が同期したのだ。さっきまで「機器の誤作動かもしれない」という僥倖を抱いていた者たちも、今は現実に頭を押さえつけられて氷水に沈められたような顔をしていた。
映像を見つめたまま、背筋を冷たいものがじわりと這い上がってくるのを感じた。
……マジか。
本当にタチが悪い。
あのステーキ屋の親父、当てやがった。
あの時は、辺境で商売をやり過ぎた結果、「とりあえず一番悪い方向に賭けておけば、当たった時に見識があるように見える」という民間の生活知恵だと思っていた。
今にして思えば、あれは生活知恵なんかじゃない。長年、現実に殴られ続けた辺境住民だけが練り上げる、野生の早期警戒レーダーだ。
さらに悪いことに、飛田艦長の次の一言が、私の「嫌な予感」センサーをその場で過負荷にさせた。
「ご存知の通り、本艦は常に定員割れの状態にある」飛田艦長は、誰もが知っているが誰も責任を取りたくない財政赤字を読み上げるような、平坦な口調で言った。「そこに加えて、あの見学の中学生たちだ。人手が極度に不足している」
上出来だ。
私の脳内警報が一斉に鳴り始めた。
定員割れ。中学生。人手不足。
この三語が同じ文脈に並んだ場合、続くのは大抵「だから今日は早めに帰っていい」ではない。「だから本来お前の仕事ではないことが、今からお前の仕事になる」だ。
案の定、飛田艦長は倉庫の隅に積まれていて、ようやく応急用途に使える部品の山を見るような目で私たちを見渡し、淡々と結論を下した。
「したがって、連邦軍法に基づき、雪風艦長たる私は、ただいまより貴様ら十一名の士官候補生を即時徴用する」
一瞬、本当に手を挙げて質問したくなった。
法律そのものに異議があるわけじゃない。ただ確認したかった。連邦軍法のどこかのページに、こう書かれてはいないだろうか——「正規人員が不足し、かつ敵軍が宇宙の暗がりから顔を出した場合、休暇と社会的羞恥事故から呼び戻されたばかりの学生を合法的に徴用し、成人の責任というものを即座に叩き込むことができる」と。
だが、艦橋は法条文の語句の精度にツッコミを入れる場所ではなかった。
飛田艦長が話している間に、傍らの勤務要員たちがすでに動き出し、装備箱を次々と私たちの前に運んでくる。あまりにも手際が良すぎて、最初から準備されていたとしか思えなかった。
その瞬間、飛田艦長の「休暇を邪魔して悪いが」という一言は、礼儀を装ったただの詐欺だったと確信した。
「今この時から、」飛田艦長は言った。「貴様らには戦時階級と軍服が与えられる」
隣でジェスが小さく息を呑んだ。
ロイが無意識に背筋を伸ばした。
蘭の顎のラインが、わずかに引き締まった。
真紀はただ飛田艦長を見つめていた。表情はあまりにも冷静で、心拍すら他人より半拍遅れて打っているのではないかと疑いたくなるほどだった。
手元の装備箱を一瞥し、顔を上げ、やはり堪えきれずに訊いた。
「元々いた、眼鏡のレーダー員は?」
飛田艦長が私を一瞥した。
「マニー大尉は……腹を壊して、入院した」
艦橋が半秒、静まり返った。
私も半秒、静まり返った。
……いや、待って。
腹を壊して、入院?
単語一つ一つは至極まともなのに、組み合わさると妙に問い詰めたくなる荒唐無稽さが漂う。
マニー大尉は一体何を食べたら、こんなタイミングで勤務表から蒸発できるのか。変異したゴジラの尻尾肉か。それとも屋台の親父が軍用濃縮燃料をスープに間違えて入れたのか。
だが飛田艦長の顔を見た瞬間、今は「医療レベルの下痢」の細部を掘る場面ではないと悟った。
「よし、問題なければ十分間やる」飛田艦長は、荒唐無稽すぎて笑う暇もない締め切りを、事務的に告げた。「制服に着替えたら、直ちに艦橋へ戻れ。雪風は出撃する」
その一言が落ちた瞬間、艦橋にわずかに残っていた「学生」という身分は、誰かに真空の中へ蹴り込まれたように消え去った。
演習ではない。
見学でもない。
「先輩のやり方を見て学ぶ」でもない。
出撃だ。
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更衣室の照明は、目が痛くなるほど白かった。
あの手の照明には、性格の悪い作用がある——部屋を明るくするだけでなく、そこにいる全員の表情まで余計に照らし出して、「冷静を装う」ためのフィルターを一枚剥ぎ取ってしまうのだ。
装備箱を長椅子に置き、深呼吸をして蓋を開けた。
中には連邦軍士官制服が一式、整然と収まっていた。濃紺の地に銀の縁取り。布地は学校の制服より硬く、張りがあり、そして容赦がない。横にはベルト、手袋、識別胸章、そして——
目の端がぴくりと跳ねた。
そして、前回中二病を発症して一度だけ被り、後であまりの恥ずかしさに自分を埋めたくなった、あの制帽まで入っていた。
なぜ。
連邦軍にはそんな精密なデータ管理システムがあるのか。私がどんな恥をかいたかまで、ご丁寧に梱包して送り返してくるというのか。これはもう後方支援の充実などではない。人格への追跡攻撃だ。
制帽を摘み上げ、一瞥した。帽子の方も私を見返している気がした——少なくとも、そう感じた。
「……あんた、本当にしぶといわね」
「わあ、みんな見て——」
ジェスの声が横で炸裂した。新大陸を発見したか、あるいはもっと悪い、他人の黒歴史を合法的に公開展示できると気づいた時のような興奮だった。
彼女はずいっと身を乗り出し、「これを見逃したら自分に申し訳が立たない」という態度全開で、私の装備箱にある二枚の肩章を指差した。
「中尉の肩章もらってる人がいるー!」
視線を落とす。
……本当だ。
銀色の肩章が二枚。紋様も条数もはっきりしていて、「見間違いかもしれない」という現実逃避の余地は一切なかった。
顔を上げる。最初の反応は喜びではなく、警戒だった。
「みんな同じ階級じゃないの?」
こういう時に突然高い階級を与えられるのは、重視されているからじゃない。たいてい二つの意味しかない。一つ、運が悪い。二つ、飛んでくる鍋の数が増える。
ジェスはそれを聞いて、ふふんと笑った。その笑いには、刃をゆっくり突き立てようとする悪趣味がたっぷり詰まっていた。自分の肩章を摘み上げ、私の目の前でひらひらと揺らしてみせる。
「少尉よ」
「……」
他の面々を見回す。
エヴリンは少尉。アイダも少尉。アカリも少尉。蘭も少尉。隣のロッカーの数人はまだ開けきっていないが、表情から結果はだいたい読めた。
上出来だ。
これは間違いなく飛田の仕業だ。
名簿の前で戦時階級を割り振る時のあの男の顔まで想像できる。補給伝票にサインするのと同じ調子でペン先を滑らせ、私の運命を一段押し上げながら、心の中でこう補足したに違いない——こいつは口答えが多いから、中尉くらいがちょうどいい。
軍隊というのは時々本当に不思議な組織だ。効率と秩序を重んじているはずなのに、肝心な時だけ人事配置を私的な報復のようにやってのける。
「そういえば、真紀は——」
最後の希望——「せめてここには、まともな基準値があるはずだ」——にすがって、猛然と振り返った。
次の瞬間、その希望は一踏みで踏み潰された。
九島真紀は、すでに軍服を着終えていた。
いや、「着終えていた」というより、その制服は最初から彼女のために設計されたもののように見えた。
濃紺の軍装が真っ直ぐな肩のラインに沿って落ち、腰帯はきっちりと締められ、高い位置で結い直したポニーテールが、後頸から顎のラインまでを、冷たく刃のように露わにしていた。
更衣区の奥からこちらへ歩いてくる彼女を見た瞬間、私は一瞬、まったく理屈に合わない錯覚に囚われた——次の瞬間彼女が刀を抜き、この更衣室で効率を落としている人間を全員、まとめて真っ二つに斬り捨てるんじゃないかと。
軍服を着て、軍人らしく見える人間がいる。
真紀が軍服を着ると、軍服の方が彼女の付属品に見えた。
反則だ。
さらに反則なのは、彼女の肩の階級章が照明を受けて光ったことだった。
大尉。
喉まで出かかっていた言葉を、その場で飲み込んだ。
隣でジェスが、大げさで、腹立たしくて、それでいて本気の吸気をした。
「わお」
エヴリンも明らかに一瞬固まった。アイダは自分の肩を見てから真紀を見て、「世界の格差」という言葉を一瞬で理解したような顔をした。蘭ですらそちらへ視線を向け、短く、だがはっきりとした認容の色を目に走らせた。
私はその場で、頭の中の何かがぱきんと折れる音を聞いた。
理性じゃない。
理性はまだある。
折れたのは、「どうせ全員急遽かき集められた頭数合わせ、だいたい平等なはず」という、甘い幻想の方だった。
真紀は更衣室に走った細かいざわめきなど、まるで気にしていないようだった。あるいは気づいていても、構う気がないのか。袖口のボタンを留めながら、私たちの間を真っ直ぐに横切っていく。その足取りは、任務がすでに目の前に展開されているかのように迷いがなかった。
「急いで」彼女は言った。「もたもたしている時間はない」
声は大きくなかったが、天然の透過力があった。それが軽く落ちただけで、更衣室に残っていた散漫な空気が一気に締め直された。
私の前を通り過ぎていく濃紺が、視界の端を掠める。洗剤の薄い匂い、硬い布地の擦れる音、そしてひどく理不尽な存在感が、まとめて付いてくる。
正直に言えば、その瞬間、手の中の中尉肩章をどこかに隠して、「もらってません」の顔をしたくなった。
怖いからじゃない。
……いや、全く怖くないとは言わない。
でもそれ以上に厄介なのは、こういうことだ。口答えが得意で、吐き捨てが得意で、荒唐無稽な現実を切り刻んで生き延びてきた人間が、ある日突然戦時軍服を着せられ、臨時の指揮系統に組み込まれ、こんな場面で、あの人の後ろに立って任務をこなさなければならない。
その感覚は、何に似ているか。
観客のつもりで見に来ただけなのに、芝居の途中で演出家が客席から立ち上がり、こちらを指差して言うようなものだ。そう、君だ。第三幕から軍人役を演じてくれ。台詞は自分で覚えろ、死んでもNGは出さない。
装備箱の中の中尉肩章を見下ろし、二秒沈黙して、結局手に取った。
……まあいい。
どのみち雪風は、上から下まで、後悔する余地を与える艦じゃない。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




