107. 緊急招集 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
廊下は相変わらずあの廊下だった。下心満載の分厚いカーペット、羞恥心のかけらもない暖かな壁灯。ただ今は、昨夜は共犯者のように見えたその内装の細部が、すべて力を失っていた。残るのは切迫した時間だけだ。
エレベーターの方へ向かおうとした、その時——
「ガチャ」
隣の部屋のドアも開いた。
見るつもりはなかった。
本当に。
緊急召集がかかっている状況で、隣室にどんな社会教育の敗北者カップルが泊まっていようと、まともな人間ならそんなことを気にする余裕はない。
だが問題は、ドアが開いて出てきたのが、少し着崩れた男と、綺麗なショートヘアの——
私はその場で足を止めた。
待って。
ちょっと待って。
おかしい。
頭をスパナで一発殴られたような気分だった。視線がまず止まり、それから猛烈な勢いで引き戻される。
少し着崩れた男。
綺麗なショートヘアの——
は?
待って待って待って待って。
ほとんど反射的に、口から出た。
「ロイ? 蘭?」
前の二つの背中が、同時にビクッと震えた。
夢遊状態からその場で魂を呼び戻されたような震え方だった。
やがて、二人はゆっくりとこちらを振り向いた。
顔を確認した瞬間、頭に残ったのは一言だけだった。
マジか、本当にこの二人か。
ロイ・ハルトマンがドアの前に立っていた。襟元は明らかに乱れていて、普段の、呼吸すら予定通りにこなしていそうなあの整然とした雰囲気が、今日は誰かに一度ぐしゃぐしゃに丸められたようになっていた。
蘭・ヴァイスといえば——もともと小気味よく整っていたショートヘアが、今は不自然なほど乱れている。顔色は目に見える速度で赤方向へ全力疾走しており、視線の置き場が見つからないのか、最後には床を見ることにしたらしい。
この絵面は完成度が高すぎた。
驚く暇もないほど完璧すぎて、自分の中の「悪意」を司る領域が、極めて危険な速度で覚醒していくのを感じた。
その場でほとんどジェスが憑依したようになった。
「あら、お二人とも奇遇ね」
自分の声が、殴りたくなるほど甘いのが分かった。
「偶然ね、隣の部屋だったなんて」
ロイは雷に打たれたように一瞬表情が空白になり、その後突然、廊下の天井のダウンライトに高い関心を示し始めた。仰いで見つめること、非常に真剣。まるでそれがただの照明ではなく、連邦工学の最高結晶であり、この場で八千字の観察レポートを書く価値があるとでも言いたげだった。
蘭は顔中が赤くなっていた。
ほんのり赤いのではない。
普段は人を凍傷にしそうなほど冷たいくせに、今は一気に発火したような赤だ。彼女は絨毯を穴が開くほど睨みつけている。視線の圧力だけで床が裂けてくれれば、その隙間に消えられるとでも思っているようだった。
口元の笑いを抑えきれなくなりそうだった。
「で?」極めて友好的に二の矢を放った。「昨夜のあの——あぁんっ——って声、ずいぶん響いてたけど」
語尾には、社会的な死に十分な間を、丁寧に残してやった。
蘭が弾かれたように顔を上げた。
「あ、あんた——」
反撃の構えは確かにあった。ただ、この戦場は今の彼女にとってあまりに不利すぎた。普段のあの切れ味のいい冷たい火力も、「隣室の当事者本人に現場を押さえられた」という状況下では、明らかに三割程度まで落ち込んでいる。
「あ、あんたたちだって……!」
彼女は頑張った。
本当に。
だが、その言葉の後半はうまく形にならなかった。
こんな時に他人に噛みついても、装甲車に紙のナイフで突撃するようなものだと、彼女自身が一番よく分かっていたからだ。
吹き出しそうになった。
ただの笑いじゃない。「今日、緊急召集がなければ、絶対にここで三分間じっくり鑑賞してやったのに」という種類の笑いだ。
三の矢を放とうとした瞬間、真紀が口を開いた。
「ロイ」
声は高くなかったが、それだけで廊下全体の狂ったリズムが一気に正しい位置へ引き戻された。
ロイはこの一声をずっと待っていたかのように、命綱のダウンライトから視線を引き剥がし、真紀を見た。その目には、瀕死の兵士がようやく救助艇を見つけたような、痛切な感謝の色すら浮かんでいた。
真紀は表情一つ変えず、標準作業手順書を読み上げるような平坦な口調で言った。
「私たち、電子街から宇宙港へ向かう途中で、たまたま出くわしたのよ。そうでしょ?」
空気が一拍、静止した。
そしてロイは瞬時に理解し、首がもげそうな勢いで頷いた。
「そう、そうです。た、たまたま出くわしたんです」
声まで少し裏返った。
見事な現場口裏合わせだ。
こんな場面でも、彼は帳簿に瑕疵を見つけられて必死に書式を修正しようとする、模範的な文書官のようだった。
蘭は口を開きかけ、何か言おうとしたが、結局かすかな吸気音を漏らしただけだった。顔の赤みはまだ引いておらず、視線が私と真紀とロイの間を一往復し、最後は賢明にも口を閉ざした。
そのとき、エレベーターが「チン」と鳴って到着した。
救いの鐘だ。
真紀は半秒も無駄にせず、私の手首を掴んでエレベーターへ引き込んだ。
引かれながらも、私はしっかり振り返り、ドアの外に残った二人に、自分でもジェス精神の精髄と思える、理解と悪意ある気遣いに満ちた笑顔を送った。
「じゃあ、お邪魔しないでおくわ——その『たまたま出くわした現場』の邪魔はね」
蘭の耳の根が、目に見えてさらに赤くなった。
ロイは今すぐ私に「お慈悲を」という申請書を提出したそうな顔をしていた。
次の瞬間、エレベーターの扉が閉まった。
金属の扉が、外にいるあの実に不運な隣室の二人と、その場に積み上がっていた社会的死亡を、まとめて切り離した。
中に残ったのは私と真紀、それから手首でまだ不気味な赤い光を放ち続けている通信機二つだけだった。
私はとうとう堪えきれず、低く笑い声を漏らした。
「……今なら、ジェスの楽しみがちょっと分かる気がする」
真紀は隣に立っていて、表情はもう標準の冷静モードに戻っていた。ただ目の奥に、ごく薄い諦めのようなものがよぎる。
「あんた、さっき喋りすぎ」
「かなり自制したほうよ」
「もっと言いたかったでしょ」
「当然でしょ」私は堂々と言った。「あの史上最高の現場、ジェスがいたら今頃もう調書を取り始めてるわよ」
真紀は半秒沈黙した。
「だから、あんたが先に見つけてよかった」
私は彼女を振り返った。
「それ、褒めてる?」
「違う」
「じゃあ何?」
「損害管制」
二秒ほど彼女を見つめ、結局また吹き出してしまった。
「真紀」
「ん?」
「さっきロイを救ったあれ、完全に戦場の生存者に避難ルートを配ってるみたいだった」
「じゃあどうしろって言うの」彼女はこちらを見もせずに言った。「あんたにそのまま尋問を続けさせておけばよかった?」
「私はただ同期を気遣ってただけ」
「それを落とし穴に蹴り込むって言うのよ」
「『情動確認』って呼びたいんだけど」
真紀が軽く息を吐いた。
「艦に戻ったら、ジェスの前でさっきみたいな顔をしないこと」
私は一瞬止まった。
「どんな顔?」
「『とんでもないことを知ってしまった』顔」
「……そんなに分かりやすかった?」
真紀がこちらに視線を向けた。
その目が言っていることは、だいたいこうだ——自覚、ないの?
咳払いして、なんとか口元を引き締めた。
もっとも、それも二秒しか持たなかった。
次の瞬間、頭の中にロイが天井のダウンライトを仰ぎ見る絵と、蘭が真っ赤な顔で床を睨む絵が浮かんできて、昨夜のあの妙に聞き覚えのある「あぁんっ——」まで一緒に蘇ってきたからだ。
駄目だ。
本当に性格が悪すぎる。
指先で眉間を押さえ、強引に笑いを押し込めた。良心が痛んだわけじゃない。エレベーターは下降中で、手首の赤い光がまだ点滅していて、本当の厄介事はまだこれからだと思い出したからだ。
笑いが引いていくと、箱の中に残ったのは、もっと重い何かだった。
手首の赤い文字を見下ろす。
【緊急召集】
昨夜の雨も、このラブホテルも、隣室のロイと蘭も、プニプニネズミランドも、さっきのジェス顔負けの毒舌も、全部がその四文字の下に押し込まれて二番手に退いた。
これはまずい。
普通のまずさじゃない。
エレベーターはさらに下降していく。
ふと、妙な感覚に襲われた。
数分前まで、私は口元によだれを垂らしたまま眠り、目が覚めても頭が半分しか動いていなかった。それが今は、あの見慣れた嫌になるほど馴染みのある線の上に、もう一度立ち戻っている——艦へ帰れ、頭を切り替えろ、警報なのか事故なのか、それとも何か別のもっと大きな厄介事なのかを、これから直視しろ。
ただ、今回は違う。
少し横を向けば、隣に立つ真紀が見えるから。
昨夜のことは消えていない。
今朝、彼女に抱かれて目を覚めたあの感覚も、本当には消えていない。
ただ私たちは、それをひとまず仕舞い込んだ。刀を鞘に押し戻すように。抜くかどうかは、また後で決める。
真紀が私の視線に気づいたのか、わずかに頭を傾けた。
「なに?」
二秒ほど彼女を見て、首を振った。
「なんでもない」
信じていないだろう。
でも、追いかけてはこなかった。
エレベーターが一階に着き、扉が開く。外は雨上がりの湿った冷気だった。
一歩踏み出して、水溜まりに足を突っ込んだ。跳ねた水が脛を打ち、冷たさで全身がぶるっと震えた。
「……ここは別れの挨拶まで粘着質ね」
小声で呟きながら、上着の裾を引き上げる。隣の真紀は振り向きもせず、大通りへ向かって足を速めていた。その動きは、ラブホテルから飛び出してきた人間のものではなく、模擬戦術演習の裏口から退場してきた人間のそれだった。
ああいう人間が一番厄介だ。
普通なら、あんな場所から出てきたら、人間らしい狼狽の一つや二つ、あるいはせめて「今日は天気が悪いですね」程度の逃避的な発言くらいあるものだ。真紀にはそれがない。
端末を腰に戻し、赤い召集通知を一度確認して、淡々と言い捨てた。
「急いで。普通の集合じゃない」
普通じゃないのは、見れば分かる。
街の空気が変わっていた。
来た時には、この一帯はいつもの辺境都市らしい顔をしていた——安っぽい娯楽と高値の危険が混在して、コンビニの照明は惜しみなく煌々と灯き、バーの前には笑顔の安い、化粧の高い人間が立ち、路上の屋台は揚げ物と出所不明の軍規格部品を並べて売っていた。街全体が、酔っぱらいながら仕事を続ける人間のようだった。目はとっくに焦点を失っているのに、手だけは止まらない。
今は違う。
道路上空で夜間割引と遊園地の広告を流し続けていた大型投影板が、すべて統一フォーマットの公共警告に切り替わっていた。全面警報は鳴っていない。なのに、画面上の文字はどんな警報よりも不快だった——港区一部航路管制、非作業員は外縁部より速やかに退避、交通ノードは軍優先運用に移行。文字に感情はない。感情がないからこそ、検査結果を持った医者が「まず座ってください」と言う時のような圧迫感がある。
路肩の店が次々と半開きのシャッターを下ろし始めた。空車の無人タクシーが何台か疾走していく。社名の広告灯は消えて、ナビゲーション灯だけが冷たく光っている。高架道路の上には、くすんだ塗装の港湾防衛車が列をなして走り抜けた。サイレンはない。サイレンがないから、かえって落ち着かない——まだ叫ぶ段階じゃないが、叫ぶ必要もない段階まで来ているということだからだ。
こういう静けさが嫌いだ。
辺境の兵士が一番怖れるのは、騒音ではない。元々うるさかった場所が、急に自律し始めることだ。
それはたいてい、何かが本当に来る前触れだ。
「宇宙港は?」真紀の後を追いながら訊いた。
「外周車道を二層封鎖」真紀は端末の港区情報を一瞥し、朝食のメニューを読み上げるような口調で言った。「内部識別権限が引き上げられた。雪風は艦内待機モードに切り替え済み」
その一言は、雨より冷たかった。
雪風は大騒ぎを好む艦じゃない。あの艦の性格は、乗っている人間の大半と同じだ——普段から毒があって、有事にはもっと毒が増す。その艦が前倒しで待機モードに入ったとなれば、当直士官が酔って誤操作したわけでも、補給士官がボルトの代わりにキャンディを発注したわけでもない。
頭の中でいくつかの可能性が素早く浮かんでは消えた。どれも、喜べるものではなかった。
「シモ」
真紀が突然呼んだ。
「ん?」
「前を見て」
顔を上げると、街角の向こうから二つの人影がこちらへ走ってきていた。
ロマンチックな走り方じゃない。映画みたいにスローモーションで、BGMが流れて、ヒロインの髪が風に靡く、そういう走り方じゃない。靴底が滑り、息が乱れ、上着のボタンが留まっておらず、顔には「今この三十秒で心の中で三十回は悪態をついた」と書いてある、そういう走り方だ。
ロイが前を走っていた。襟が曲がり、髪が乱れ、履歴書には書けない何らかの事故現場から脱出したところを、運命に首根っこを掴まれて職場に引き戻されたような、優秀な青年の顔をしていた。蘭が隣を走っていた。足取りはロイより安定しているが、耳の根にまだ残っている熱の色が、「聞くな、聞いたら殺す」という低気圧を全身から放っていた。
あの二人を見た瞬間、宇宙は案外公平だと思った。
自分だけが惨めな思いをしなくて済む、それだけで少し生きやすくなる。
ロイが先に私たちを見つけ、足を止めた。その表情が一瞬のうちに、驚愕、理解、否認、何事もなかった顔の四段階を経過した。軍校の教材に「若手士官の突発的社交危機における表情管理失敗事例」として収録できそうな完成度だった。
「……奇遇ね」私は言った。
ロイの喉仏が動いた。「そ、そうですね。奇遇で」
蘭が私を一瞥した。その目が言っていることは大体こうだ——もう一言でも余計なことを言ったら、港区のコンクリートの下に埋める。
わざわざ別の通りを回ってきたくせに、まあ付き合いがいいことで。
だから私は一つだけ笑って、程よく刃を添えた。
「辺境都市って、宿泊施設が高度に集中してるのね」
蘭の顔色がさらに冷えた。
ロイは何か言って挽回しようとしたようだが、最終的に絞り出したのはこれだけだった。「先に艦へ戻りましょう」
「そうね、先に艦へ」私はこれ以上ないほど真面目な声で答えた。真面目すぎて、自分で自分に拍手したくなった。
そこへ真紀が割って入り、発酵しかけていた空気を一刀両断した。
「移動中は無駄口を叩かない」彼女は言った。「召集の等級がおかしい」
その一言で、全員が黙った。
これが差だ。
その場をもっと面白くする人間と、その場に「自分たちはまだ戦争の中にいる」と思い出させる人間がいる。真紀は後者で、しかも猶予を一切与えないタイプだ。
四人で並んで早足に移動し、大通りで軍優先モードに切り替わった接続シャトルを捕まえた。軍籍識別スキャンが私たちのマークを読み取ると、普段なら流れる丁寧な案内音声もなく、ドアがただ開いた。機械が人に愛想を割く余裕をなくした時、事態は本当に小さくない。
シャトルが宇宙港へ向かう高架を走り始めると、私は窓に額を近づけて外を見た。
街全体が、数分のうちに誰かにそっと一層の色を抜かれたようだった。
文字通りに灰色になったわけじゃない。「人の気配」が抜かれた感じだ。広告はまだ灯いて、建物はまだ立っていて、雨はまだ降っているが、人の動きがすべて方向を持ち始めている。
さっきまで街に散らばっていた暇人たちが消え、残っているのは急いでいるか、任務を受けているか、命令で動かされているかのどれかだ。低空巡回機が何機か、ビルの隙間を掠めていく。尾灯が、ガラスを刃の背で撫でるように光った。遠い港区の空には、着陸灯が一列に順番を追って灯り始めていた。星を手術器具に並べたような、冷たい光の列だった。
昨夜のことを、いや、今日の未明のことを思い出した。
あの時はまだ、雨の中を二人でみっともなく雨宿り場所を探していた。怪しいホテルの内装に白目を剥いていた。隣の部屋の防音性能に人生を教わっていた。ほんの数時間前なのに、別の世界の話みたいだ。
平和というものは、デパートの試食コーナーに似ている——「あ、悪くないかも」と思った瞬間に、向こうが皿を引っ込める。
「何を考えてるの?」真紀がふいに訊いた。
「この街のタイミングの悪さを恨んでた」私は言った。「数時間前まで荒唐無稽なラブコメをやってたのに、いきなり戦争映画の予告編に切り替わった」
真紀が私を一瞥し、唇の端がごくわずかに動いた。
「自覚はあるのね」
「いつもある」私は言った。「誰も気にしてくれないだけで」
対面のロイが眉間を揉んだ。もう介入する気力もないらしい。蘭は腕を組んで窓の外を見ていた。横顔は、港の外縁防波壁のように冷たかった。
ただ、その冷たさは無反応じゃない。反応が多すぎて、とりあえず凍らせているだけだ。それは分かる。軍人というのは、突き詰めると缶詰に似ている——圧力がかかると先に密封する。そうしないと、中身が先に爆発するから。
高架を下りると、宇宙港の本体はすでに灯火管制前の準備状態に入っていた。
観光客が撮影スポットにするあの外部照明は大半が落とされ、ナビゲーション灯、識別灯、必要最低限の作業灯だけが残っていた。
広い荷役プラットフォームでは、人の動きが普段より速く、声が普段より少なかった。地上支援機材が往復し、磁気軌道搬運台が封緘コンテナを載せて滑っていく。各ゲートには完全武装の警備兵が並び、地面から生えた鉄杭のように立っていた。
雪風が、そこに停泊していた。
白灰色の艦体は、港灯の下で横向きに置かれた刃のように見えた。見慣れているはずなのに、今この瞬間に見ると、あれは最初から輸送手段の顔をしていなかったと気づく。「服従」という二文字を金属に鍛えたような何かだ。
艦底の整備アームはほぼ収納済みで、外部補給ホースも最後の数本が撤収中だった。舷側の識別灯は待機色に切り替わり、目を閉じているが絶対に眠っていない獣のように静かだった。
四人はほぼ同時に乗艦ゲートを越えた。
艦内の空気が、一歩踏み込んだ瞬間から違った。外の雨の匂い、油の匂い、街の疲れた匂いが、金属と洗浄剤と圧縮空気の乾いた冷気に全部置き換えられる。人情のかけらもない匂いだが、不思議と落ち着く。規則がある、編制がある、艦がある——それだけで十分だ。
主集合甲板には、ジェスとほかの七人がすでに来ていた。
指定区画に散らばった面々は全員、半正式の待機服に着替えていた。顔色の悪い者、表情の抜けた者、どう見ても睡眠の途中から引き剥がされた者——髪にまだ梳かしていない跡が残っている。
だが精神状態がどれだけ惨めでも、立ち位置は自動的に整っていた。これが軍隊の最も恐ろしく、最も頼もしいところだ——感情が崩壊していても、人生が荒れ果てていても、昨夜は先祖に夢枕で叱られそうな宿に泊まっていても、号令がかかれば線の上に戻る。
ジェスが最初に私たちを見つけた。
こんな状況でも、その顔に「おっ、面白そう」という余裕が滲んでいるのは、緊急召集制度に対して本当に申し訳ない。
視線が私、真紀、ロイ、蘭の順に素早く往復し、目が情報将校がスクープを拾った時のように輝いた。
「あれ——もしかして四人、示し合わせて——」
「黙れ、整列」
言葉が鉄棒のように空中から叩き落ちた。
竹中曹長が前方の通路口に立っていた。いつからそこにいたのか分からない。制服に一分の隙もなく、表情は艦内照明より硬く、その視線が掃けた瞬間、艦の隔壁まで自動的に気をつけをしそうだった。ジェスの四人行ネタは、翼を広げる前に空中で撃墜され、羽根一枚落とさずに消えた。
彼女はすぐさま口を閉じ、定位置に戻った。その速さは、人間の生存本能がユーモアセンスより常に上位にあることを証明していた。
私たち四人も素早く隊列に入る。
定位置に立った時、視野の端でロイが肩のラインをこっそり直しているのが見えた。蘭はすでに「世界は私に謝れ」の冷たい顔を完全に取り戻していた。
真紀はいうまでもない。艦に足を踏み入れた瞬間から、私的なモードを全部オフにしたようだった。立ち姿は真っ直ぐで、昨夜の雨の中で私の額の濡れた髪を払ってくれたあの人が一時的な幻だったんじゃないかと疑いたくなるほどだった。
少し、腹が立った。
少女漫画的な「なんで冷たいの」という苛立ちじゃない。軍用品だと分かっていて、持ち帰れないと分かっていて、それでも少し特別扱いされた瞬間があると、もう少しだけ特別扱いされたいと思ってしまう——そういう、情けない種類の苛立ちだ。
本当に、ろくでもない。
心の中で自分に悪態をついて、視線を正面に戻した。
竹中曹長が隊列の前に出て、人数を確認し、識別を確認し、全員がまだ生きていてかろうじて人間らしい格好をしていることを確認した。この沈黙は軍隊にいる者にしか分からない——話すことがないのではなく、言葉が、言われるべき時まで待っている。
集合甲板は、艦内換気システムの低い唸りだけを残して静まり返った。
竹中曹長が口を開いた。
「艦長の命令だ。貴様ら十一名、ただちに艦橋へ出頭しろ」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




