107. 緊急招集 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
呼吸が一気に乱れた。手は彼女に握られたまま、もう片方の手で無意識に彼女のルームウェアの袖口を掴んでいた。布団の中の温度が一気に跳ね上がり、部屋のあの甘すぎる芳香までが、さらに粘り気を増したように感じた。
次の瞬間、私たちは同時に止まった。
どちらかが突き放したわけじゃない。
これ以上進めば本当にまずいと、互いに分かっていたからだ。
なのに、止まった後も距離は開かなかった。
彼女はまだ近い。
私も彼女を見たままだ。
呼吸は乱れているのに、どちらも先には口を開かない。
この静けさが一番最悪だった。
もしさっき、どちらかがもう少し動いていたら、今夜は本当にすべてが制御不能になっていたんじゃないか。そう疑うほどに。
そして、そんな危うい瞬間に——
壁の向こうから、はっきりと声が響いた。
「あぁんっ——」
私と真紀は、同時に固まった。
隣の部屋は、世界に対する体面を保つ気など微塵もないらしい。その声は容赦なく直接的で、語尾が異様に長く引き伸ばされ、説明不要なベッドの軋み音まで伴っていた。羞恥心というものを持ち合わせている人間なら、その場で自分の耳をもぎ取りたくなるような破壊力だ。
私は一秒ほど呆け、真紀も完全に動きを止めた。
そして、私たちは視線を合わせた。
あまりにも馬鹿げた状況だった。
張り詰めていた神経が、突然別の方向へぷつりと切れるほどに。私は先に顔を背け、肩を震わせた。真紀の方も、明らかに一瞬の間があった。
次の瞬間、私たちはなんと、一緒に吹き出してしまったのだ。
大笑いではない。
外部の世界から無理やり割り込まれたせいで、堪えきれずに漏れた笑いだ。
私は額を枕に押し付け、全身を震わせて笑った。
「なにこれ……」
真紀の声にも、抑えきれない笑いが混ざっていた。
「だから言ったでしょ、この部屋はおかしいって」
「部屋じゃなくて、」私は笑い喘ぎながら言った。「隣が頑張りすぎてるだけ」
「よく評論する余裕があるわね」
「じゃあどうしろって? 点数でもつけてあげる?」
「あんたが望むなら、私が採点表を作ってあげてもいいけど」
「……クソ、あんた本当に頭おかしい」
そう言い捨てて、私はまた堪えきれずに吹き出した。
燃え上がりかけていた緊張は、さっきのひどく品のない外からの一声に、無理やりざっくりと切り裂かれた。だが妙なことに、それは完全には散らなかった。代わりに、もっと柔らかく、もっと近くて、なかったことにしにくい何かに変わって、そこに残った。
笑いがゆっくり引いていくと、真紀がふいに手を伸ばし、私を少しだけ自分の方へ引き寄せた。
そして、抱きしめた。
押し付けるでもない。
からかうでもない。
ただ実直に、静かに、私を腕の中へ収めた。
私はしばらく動けなかった。
いつもより少し強く抱かれているのに、不快ではない。布団の中の熱、腕の回ってくる力、それに洗ったばかりの髪のあの薄い匂いが、一気にまだ収まりきっていなかった心拍を低く押さえ込んでいく。
額を彼女の肩に押し当て、しばらくして、低く口を開いた。
「今のあんた、本当にタチが悪い」
真紀は手を緩めなかった。
ただ少し頭を下げて、耳元に落ちるような軽い声で言った。
「寝なさい、シモ」
……たったそれだけ。
なのに、さっきのどんな接近よりも胸が熱くなる。
上手いからじゃない。
それが、彼女だからだ。
さっきの線がもう十分危険だったと分かっているから、今はそれを引き戻す。
私がまだ乱れていると分かっているから、これ以上は踏み込まない。
彼女も本当は私とそう変わらないくせに、最後にペースを立て直すのはいつも彼女なのだ。
私は長く黙っていて、結局情けなく彼女の背中の布地をひとつかみした。
「……明日になって、何もなかった顔しないでよ」
真紀が一瞬止まった。
「うん」
「先に暴走したとかも言わないで」
「先に暴走したのはあんたでしょ」
「真紀」
「ん」
「今は本当に喧嘩したくない」
「じゃあしなきゃいい」
そう言って、腕がもう少しだけ強くなった。
本当に、ほんの少しだけ。
それだけで、さっきまでの乱れた思考が静かに押さえ込まれていく。外の雨はまだ降っていて、壁の向こうからは時々、教育上よろしくないぼんやりした音が漏れてくるが、それらが急に遠く感じられた。
残るのは、布団の中の暖かさ。
彼女の呼吸。
彼女の匂い。
そして、あの低い一言——
寝なさい、シモ。
私は目を閉じた。
でも分かっていた。私たちは、どちらも本当にはまだ眠っていない。
ただ、どちらもそれを口にしなかった。
そうして部屋全体が、この夜ごと、ゆっくりと暗闇に沈んでいった。
私は眠った。
しかも、ぐっすりと。
後になって思い返しても、あのラブホテルの空調に何か安眠成分でも混ぜられていたんじゃないかと疑いたくなるほどだった。あんな部屋で、あんな雨夜で、あんな空気のあとなら、理屈の上では不眠になるはずだ。少なくとも夜明けまで寝返りを打ち続けて、これまでの人生でやってきたすべての愚行を一つずつ裁判にかけるくらいはするはずだった。
なのに、そうはならなかった。
眠っただけでなく、認めたくないほど快適な姿勢で眠っていた。
意識が浮かび上がってきたとき、最初に感じたのは光でも寒さでもなく、誰かに揺すられている感覚だった。
軽く、急かさず、でも確固として。
「シモ、起きて」
やけに近い声だった。普段はほとんど見せない、かすかな焦りが混じっている。
眉をひそめ、顔を枕に埋めて、現実ともう三十秒だけ交渉を試みた。だが現実に交渉の余地はなく、その手はもう一度、私の肩を押した。
しぶしぶ、目を開けた。
視界が一瞬ぼやけ、それからゆっくりと焦点が合っていく。最初に映ったのは真紀の顔だった。彼女は身を乗り出してこちらを見ていて、髪の一房が頬に垂れ、表情はいつもほど安定していない。それどころか珍しく、ごくわずかな慌てた色が滲んでいた。
その程度の慌てぶりなら、他人の顔にあればただの普通の緊張だ。
だが、九島真紀の顔にあるとなれば、それはもう防空警報と同義だった。
半分寝ぼけたまま二秒ほど彼女を見つめ、口元に違和感を覚えて手で拭った——
上出来だ。
よだれまで垂れていた。
連邦軍事学院が、手塩にかけて育てた学生の、ラブホテルでの緊急召集直前の最後の姿が「よだれを垂らした寝顔」だと知ったら、私の制服を回収して作り直すことを検討するかもしれない。
「……なによ、」しゃがれた声で言った。まだ寝起きの粘りが残っている。「今、何時?」
真紀は時間を答えず、ただ一言だけ言った。
「通信機」
その二言が出た瞬間、頭の中に残っていた眠気に一気に亀裂が走った。
彼女の視線を追ってテーブルを見る。
次の瞬間、完全に目が覚めた。
テーブルに置かれた二つの腕時計型通信機が、同時に細かく、絶え間なく震えていた。いつものメッセージ着信や通話要求の通知ではない。明らかに日常の範囲を超えた、本能的に神経を尖らせたくなる振動だった。
さらに悪いことに、文字盤全体から不気味な赤い光が滲み出ていた。
柔らかな通知の光じゃない。
一目で「まずい」と分かる、あの赤だ。
ほとんどベッドから跳ね起きた。
布団を跳ね除け、片足をカーペットに下ろす。急すぎる動きで、自分で自分に躓きかけた。昨夜の雨音も、抱擁も、呼吸も、寝る前のあの乱れた心拍も、すべてがその赤い光の中で頭の外へ蹴り出された。
通信機の一つをひったくった。
画面には四文字だけ。
【緊急召集】
赤地に黒字、点滅。
「今すぐ戻ってこい」という言葉を直接網膜に焼き付けてくるような点滅だった。
その四文字を半秒も見ないうちに、胃が一段沈んだ。
「ちょっと面倒」というレベルじゃない。
誰もが一斉に口をつぐみ、表情を消して、即座に軍人の顔へ戻るべき事態だ。
「行くよ」
自分でも分かるほど、声が変わっていた。
真紀はとっくに動いていた。
私より手際がいい。私を起こす前に、少なくとも一通りの状況判断は済ませていたのだろう。通信機、上着、財布、端末、昨夜整理した荷物——取るべきものを取り、詰めるべきものを詰める。こんな緊急撤収を生涯で三十回はこなしてきたような、迷いのなさだった。
私もぐずぐずしていられない。自分の荷物を掴んで身につける。
ルームウェアを脱ぎ、制服の上着を羽織り直し、髪を手で押さえつけ、通信機を手首に留める。今の見た目がまともかどうかなんて、正直もうどうでもよかった。
このレベルの召集なら、プニプニネズミランドの限定パジャマで集合場所に飛び込んでも、最後尾でなければ教官もとりあえず生かしておいてくれるだろう。
二分もかからず、私と真紀はドアの前に立っていた。
真紀が先にカードキーを抜き、室内の照明が一段暗くなった。あの不真面目な暖光と香りはまだそこにあるが、今はすべて昨日の幻のように見える。緊急召集の赤い文字は氷水のように、長居すべきでなかったものを全部洗い流していった。
真紀がドアを開ける。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




