106. 雨とラブホテル 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
真紀が先にシャワーを浴びに行くと、部屋は一気に不健全なほど静かになった。
普通のホテルの静けさではない。 壁も、照明も、ベッドシーツの色も、全部が連帯して「ここは普段、眠るために使われる場所ではない」と暗示してくる種類の不真面目な静けさだ。
私は部屋の真ん中に立ち、まだ放し忘れた袋を提げたまま、初めて真剣にある問いを考え始めた――
この部屋は、どうやってこれだけのものを詰め込んでいるのか。
窓なし。 狭い。 なのに、真ん中には傲慢なまでに大きなベッドが一台据えられていて、部屋はそのベッドのために存在しているかのようだった。横の小テーブルとソファも怪しく、設計者が最初から客が長く座ることを期待していないかのように小さく、全員の注意をできるだけ早くこの部屋唯一の真の主役へ向けさせたがっているようだった。
あの立体投影テレビについては――
私は顔を上げてそれを見た。
壁に掛かり、黒い鏡面スクリーンが室内の曖昧な前科のある照明を反射しながら、静かに、十五歳の軍校生が接触すべきでない機能が起動されるのを待っているかのようだった。
私はすぐに視線を外した。
よろしい。 昨晩は普通のビジネスホテルでシートマスクを貼っていたのに、今夜はすでに連邦の風紀啓発映像の反面教材に出てきそうな部屋に閉じ込められている。
人間の運命の転換というのは、本当に理不尽だ。
バスルームから水音がした。
ザアアアと、急かすことなく、タイルとガラスを打つ音がこの密閉空間で拡大されると、心理的に非常によくない種類の存在感として耳に届いた。
私は二秒ほど天井を見つめ、心の中で自分に命令した。
考えるな。 真紀が中にいることを考えるな。 この部屋の防音は悪くないのに、なぜバスルームの水音がこんなにはっきり聞こえるのかを考えるな。 このラブホテルの設計者が、すべてをちょうどいい加減に処理していて、明言はしないが、完全に無視することもできないようにしていることを、絶対に考えるな。
深呼吸をして、袋を小テーブルに置き、何か手を動かすことを探した。脳みそが間違った方向に暴走しないように。
そのとき、端末が光った。
開いてみる。
案の定、ジェスだった。
彼女はグループチャットで盛大な感情とともに愚痴を書き連ねていた。遊んでいる最中に突然雨が降り、ゲームセンターでハーヴィーと遭遇したこと。その流れで、ロイと蘭が行方不明になったことへの失踪届も出していて、その語気は、あの二人が自分から消えたのではなく、彼女という美しく心優しくおしゃべりな友人を連帯して見捨てたかのようだった。
最後に、彼女は私を名指しでタグ付けした。
「頑張って」という絵文字スタンプ付きで。
……うん。
コメントは差し控える。
そのスタンプを二秒ほど眺め、最終的に返信しないことにした。
後ろめたいからではない。 少なくとも、それだけが理由ではない。 純粋に、今の私の生存環境は文字を打つのに適していない。もし手が滑って、外に漏らすべきでない場面描写を書いてしまったら、雪風号での私の名誉は黒い箱に入れて永久封印するしかなくなる。
端末をテーブルに伏せ、「普通の宿泊客に見える」という大して意味のない任務を続けた。
たとえば、冷蔵庫を探すこと。
ホテルの部屋に冷蔵庫がある、これは合理的だ。 ラブホテルであっても、冷蔵庫くらいはあるはずだ。 どんな場所でも、人間は冷たい飲み物を必要とするのだから。
探し回った結果、この部屋に冷蔵庫はなかった。
本来冷蔵庫が置かれるはずの場所に、小型の自動販売機のようなものが鎮座していた。
私はその機械の前に立ち、三秒ほど沈黙した。
ガラスの向こうに、きれいに整列した商品が並んでいた。飲み物もある。スナックもある。そして、パッケージを一目見ただけで字が読めないふりをしたくなるような謎の物品も混ざっていた。
私はそれを見つめながら、ただ一つのことを思った――
この部屋の設計思想は、おそらくこうだ。
もしお客様が、外に買いに行くのが不便なものを急に必要になったとき、私たちはすべて用意しています。
これは気遣いではない。 これは計画犯罪だ。
私は無表情で視線を外し、ベッドサイドテーブルの確認に移った。
一目見て、後悔した。
ベッドサイドには、よくわからない機能の照明コントロールボタンが並んでいるほか、小さな収納スペースがあった。中にはいくつかのアメニティが入っていて、包装はシンプルだが、名称は相当に疑わしかった。その中の一つに、大きく印字された文字があった。
超薄タイプ
私はそれを二秒ほど見つめた。
もう二秒見つめた。
それから、ゆっくりと眉をひそめた。
「……この超薄タイプって、何?」
独り言のつもりだった。
次の瞬間、バスルームのドアが開き、真紀が髪を拭きながら出てきた。すでにルームウェアに着替えていて、湯気と熱気が彼女の方から漂い出し、もとから安全ではなかった部屋の空気をさらに厄介なものにした。
彼女は私の視線の先をちらりと見た。
一瞬だけ。
それから、ひどく平静に言った。
「私たちには必要ないもの」
私は全身が一瞬止まった。
わからないからではない。 わかるからこそ、その場で記憶を消去したかった。
「……うん」
私は最終的に、完全に栄養のない単音節を一つだけ発し、人生最速の動きでその収納スペースを閉じた。まるで動作が十分に速ければ、さっきのやり取りが本当には起きなかったことになるかのように。
真紀は私を一瞥したが、追撃はしなかった。
この点だけは、彼女にもまだ良心があると思う。
問題は、彼女が追撃しないほど、私が自分でその一連の出来事を頭の中で三回リプレイし、余計な注釈まで加えてしまうということだ。
私は着替えを取り、熱いシャワーを浴びに行くだけのように見せかけながら、実際には熱水で頭の中の正規航路を外れかけた思考を洗い流そうとして、浴室へ向かった。
だが浴室に入る直前、最後にもう一度振り返った。
真紀はあの小型自販機の前に立っていた。
少し頭を下げて、真剣に操作方法を研究していた。馴染みのない軍用補給端末を確認しているかのような顔で。
私はその場に立ち止まり、頭が一拍空白になった。
「……何を見てるの?」
真紀は振り返らなかった。
「飲み物」
「本当に飲み物だけ?」
「他に何があるの?」
私は二秒間黙った。
合理的だ。 あまりにも合理的だ。 だからこそ、今の私の頭を占めているあの防衛的な邪推が、ひどく情けなく見えてくる。
これは彼女の問題ではない。 この部屋が毒なのだ。
あの大きなベッドに問題がある。 窓がないのに、あらゆるものが「早く眠るな」と暗示してくる空間に問題がある。 水音も、暖房も、照明も、自販機も、ベッドサイドの収納も、そして今の「私たちには必要ないもの」という一言が全部連帯して、私の精神衛生に対して非人道的な包囲戦を仕掛けているのだ。
私は衣服を抱えて浴室の入り口に立ち、突然自分のために弁明したくなった――
おかしなことを考えているわけではない。 ただ、この部屋の中のすべてのものが、おかしなことを考えさせようとしているだけだ。
最悪なのは、真紀本人はまだ何事もなかったかのように平静に見えることだった。
彼女は片手に自販機から取り出したミネラルウォーターを持ち、もう一方の手で機械の側面の商品リストを軽く押しながら、次の瞬間に「前線臨時宿泊補給設備使用評価報告書」を書き始めそうなほど集中した顔をしていた。
私は突然、少し腹が立った。
彼女に対してではない。 この世界に対してだ。
なぜ彼女はこんなに落ち着いていられて、私は自分の頭の中で路地戦を繰り広げなければならないのか。
私は数秒立ったまま、最終的に少し意地になって言った。
「……シャワー浴びてくる」
真紀は顔を上げた。
「うん」
◇
浴室のドアを閉め、鍵をかけ、鏡の中の、明らかに精神的に疲弊している自分の顔を二秒ほど見つめた。熱いお湯が落ちてきた瞬間、ようやく耳元のあの雑多なものたちが少しだけ退いていくのを感じた。
雨音、部屋のあの過剰に柔らかい香り、ベッドサイドの収納の中のあの「超薄タイプ」、そして真紀のあのひどく平坦な一言――私たちには必要ないもの。
顔を熱水の中に沈め、二秒間黙った。
……自然すぎる。
彼女が自然であればあるほど、私が雑音だらけの間抜けに見えてくる。
彼女は何もしていない。
いや、していた。
部屋を選び、バスタオルを取り、自販機を調べ、お湯が熱いと注意してくれた。ベッドサイドの収納の中のものを見たときも、ちらりと一瞥しただけで、応急物資を確認するかのように平静だった。
問題はそこにある。
彼女が何も深く考えていないように見えるほど、 私のあちら側の意識がより鮮明になっていく。
シャワーを終えて、鏡の前で数秒黙り、今の自分がまともに浴室から出られる人間に見えるよう、自分を整えようとした。髪を半乾きにして、ルームウェアに着替えた。耳の裏の熱さは少し引いたはずだ――少なくとも、そう願った。
ドアを開けて出ると、部屋は先ほどより少し整っていた。
真紀は私たちの濡れた外套を浴室外の乾燥ラックに掛け、テーブルの上には水が二本増え、遊園地から持ち帰った袋まで分類して片付けていた。
あの、全力でブサイクなプニプニマウスのストラップが、今はテーブルの角に何の恥もなく吊り下がり、今日のすべての災難の目撃者として鎮座していた。
**真紀はベッドの端に座り**、端末を手に持ち、おそらく明日の交通か天気を確認していた。私が出てくる音を聞いて、顔を上げた。
たった一瞥だった。短かった。だがなぜか、その一瞥で部屋全体が少し狭くなったように感じた。
「終わった?」彼女は聞いた。
「うん」
私はその場に立ち、どこへ向かえば普通の人間らしく見えるかわからなくなった。
テーブルへ行くのは、わざとらしい。ソファへ行くのは、取調室の椅子に座らされる受刑者のようだ。直接ベッドに上がるのは、この部屋の犯罪的な空気に**加勢している**ような気がする。
真紀は私を一秒見つめ、頭の中のその完全に不要な**戦術シミュレーション**を読み取ったかのようだった。
**「髪、まだ少し濡れてる」**
「知ってる」
「ドライヤーはあそこ」
「見えてる」
「じゃあ、なんで立ってるの?」
……この問いは致命的だ。
まさか「あなたと二人きりでこのラブホテルにいることで**動揺して、いつもの自分でいようと必死だったから**」とは答えられない。
私は腹を括ってドライヤーを取りに行った。
コードを引き出したら、引っかかった。
深刻なものではない。 コードがテーブルの脚に絡んでいて、うまく引けないだけだ。頭を下げて解こうとすると、真紀はすでに端末を置いて歩いてきていた。
「引っ張らないで。余計に絡まる」
「わかってる」
「わかってない」
「……あなた、いちいちそんなに的確じゃないと気が済まないの?」
真紀は答えず、しゃがんで、絡まった部分をゆっくりと解き始めた。彼女はシャワーを浴びたばかりで、髪にまだわずかな湿り気があり、ルームウェアの袖口を肘まで折り上げていて、指がテーブルの脚に触れるときの動作は安定していた。
部屋は静かで、雨音と空調と、プラスチックのコードが軽く引かれる細かな摩擦音だけがあった。
私は彼女を見下ろし、突然、少し腹が立った。
彼女に対してではない。 この状況全体に対してだ。
なぜいつも彼女がこんなに落ち着いているのか。 なぜいつも私が心の中で戦っているのか。 なぜ彼女は何事もなかったかのように、私のためにこういうくだらない小さなことを一つ一つ片付けて、それでも当たり前の顔をしていられるのか。
真紀が立ち上がり、ドライヤーを私に差し出した。
「はい」
私は受け取らなかった。
彼女は私を見た。
「シモ?」
私はやはり受け取らなかった。
この瞬間、自分がひどく理不尽なことをしているとわかっていた。 駄々をこねているようだ。 難癖をつけているようだ。 自分が先に炸裂しておいて、相手が落ち着きすぎていると文句を言う猫のようだ。
だが私はどうしても、そのドライヤーをこれ以上受け取りたくなかった。
私は手を上げ、彼女の手首を直接掴んだ。
真紀は動かなかった。
ただ、私が掴んだ手を見下ろし、目はひどく静かで、静かすぎて心が乱れるほどだった。
「シモ」彼女は低く聞いた。「どうしたの?」
「……ちょっと、毎回毎回そうやって……」
この言葉が口から出た瞬間、私自身が少し驚いた。
愚痴に聞こえる。 しかも、ひどく幼稚な愚痴だ。
だが真紀は笑わなかった。手も引かなかった。
「どうこう?」
「何でも普通みたいにしてるところ」
私は言った。
声は思っていたより低かった。
部屋が静かすぎて、この程度の語気の変化も、ひどく明確に響いた。雨音はまだある。でも今はもう背景のように聞こえる。本当にうるさいのは、自分の胸の中のあの情けない心拍だった。
真紀は私を見て、二秒間黙った。
「私は、本当に慌てることは何もないと思ってるから」
「……わかってる」
わかっているからこそ、余計に腹が立つのだ。
私は彼女の手首を放し、代わりに彼女のルームウェアの袖口を掴み、自分の方へ少し引き寄せた。
大きな動作ではない。 不器用とすら言えるほどだった。 だがその一瞬で縮まった距離は、空気が一拍止まるほど明確だった。
真紀は退かなかった。
ただ、少し低い位置から私を見て、呼吸が少しだけ重くなった。
本当に少しだけだ。
でも、私は聞いた。
そしてその瞬間、ひどく根拠のない、賭けに出るような衝動が生まれた。
もし今、何もしないまま終わったら、この部屋も、この雨も、このベッドも、今日一日ずっと彼女に引っ張られてきたあの流れも、全部彼女の側に計上されてしまう気がした。私はずっと世話をされ、見透かされ、一言一言封じられてきた間抜けのままで終わる。
その感覚が嫌だった。
だから私は、もう一方の手を上げて、彼女の顔の側面に触れた。
ごく軽い一瞬だった。
彼女の肌はシャワーを浴びた後の微かな熱を帯びていて、髪の毛先が首筋に落ちていて、少し湿っていた。私の指先が触れた瞬間、自分の方が先に半拍固まった。
真紀は避けなかった。
ただ、目の色が少し変わった。
より深く、より静かになった。
「今のあんた、」
真紀が口を開いた。さっきより低い声だった。
「ずいぶん、度胸があるじゃない」
「……悪い?」
強がって返したつもりだった。
だが口に出すと、語尾がわずかに揺れていた。
真紀が私を見ている。
近い。
洗ったばかりの髪の、あの薄い清潔な匂いがはっきり分かるほど近い。そこに部屋の妙に濃い香りが混ざって、清潔さと危うさがひとつに絡みついてくる。冷静でいられるはずがなかった。
「いいよ」
彼女は言った。
いい、と言った。
それでも、真紀は先に動かない。
押し返してもこないし、これ以上近づいてもこない。
その場に留まって、選ぶ権利だけをこちらに渡してくる——このやり方が一番厄介だった。
追い詰めてなんかいないくせに、かえって退けなくさせる。
負けたくないからなのか、それともこの態度が反則なだけなのか、自分でも分からなかった。とにかく次の瞬間、私は本当に少し前へ出ていた。額が触れそうなところまで寄って、呼吸も乱れた。
「後悔しないでよ」
小声で言った。
真紀が私を見て、まつ毛がかすかに動いた。
「そっちこそ、先に後悔しないで」
……くそ。
いかにも彼女らしい返しだった。
もう自分に考える時間を与えなかった。
私はそのまま、口づけた。
強くはない。
熟練しているとも言えない。
キスというより、意地と、確認と、負けを認めたくない気持ちが混ざった接触だった。唇が触れた瞬間、心臓が馬鹿みたいに跳ねているのがはっきり分かって、指先まで強張った。
真紀は避けなかった。
本当に、避けなかった。
彼女はただ静かにそれを受け止め、呼吸を半拍止めてから、ゆっくりと応えてきた。主導権を奪うような応え方でも、わざと乱そうとする挑発でもない。ただ確かにそこで受け止めて、拒んでいないことだけを伝えてくる。
それが、どんな反応よりも堪えた。
一瞬触れたらすぐ引くつもりだった。
なのに実際に触れると、その一秒は思っていたよりずっと長かった。
雨音が遠のく。
空調も、消えたように感じた。
残るのは近すぎる呼吸と、自分の情けない心拍だけ。
先に離れたのは、私のほうだった。
嫌になったからじゃない。
これ以上離れなければ、次にどうすればいいのか本当に分からなくなると思ったからだ。
それでもまだ近い。
鼻先が触れそうなほど近い。
真紀の瞳の奥に、まだ引ききれていない暗い色が見えるほど近かった。
彼女はすぐには何も言わなかった。
私も言わなかった。
さっきの一瞬が部屋の音を全部持っていったように静かで、残っているのは互いの少し乱れた呼吸だけだった。
先に口を開いたのは、真紀だった。
声は軽かった。それなのに、私が一番認めたくない場所に真っ直ぐ落ちてきた。
「シモ」
「……うん」
「手、震えてる」
その場で現行犯逮捕されたような気分になって、耳の裏まで一気に熱くなった。
「この部屋が暑いだけ」
「そう?」
「そう」
「でも、さっき触れてきたときは、あんなに強気だったのに」
言葉が出なかった。
よくもまあ、そんなことをこんな無邪気に近い声で言えるものだ。
この女は本当に性格が悪い。
歯を食いしばって何か言い返そうとしたが、結局出てきたのはこれだけだった。
「……うるさい」
真紀が私を見て、うっすらと笑った。
はっきりとした笑みじゃない。
でも、その薄さが一番たちが悪かった。
私を笑っているわけじゃない。彼女も私とそう変わらないくせに、ただ制御が上手いだけ——そんな笑い方だった。
彼女が手を上げて、指先で私の下唇に軽く触れた。
「ここで止めておく」
全身が、一瞬固まった。
触れられたからじゃない。
彼女が言ったのが——ここで止めておく、だったからだ。
拒絶じゃない。
逃げでもない。
さっきのが何だったのかを分かっていて、この先に進めばどうなるかも分かっていて、だから今は止める——それだけを、はっきり伝えてきた。
突き放されるより、よほど堪えた。
続けるより、よほど始末に負えなかった。
二秒ほど彼女を見つめて、結局情けなく視線を逸らすしかなかった。
「……別に、続けたいなんて言ってないし」
真紀が「うん」と返した。
その「うん」は、明らかに信じていない響きだった。
本当に、この部屋から彼女を追い出したかった。
いっそ自分が出ていくか。
それか、あのプニプニネズミを身代わりにして一発殴ってやりたい気分だった。
けれど、そのどれも、今この胸を締めつけている厄介な熱をどうにかできそうにない。
結局、私は彼女の手からドライヤーをひったくって、背を向けた。
「髪、乾かすから」
真紀は少し間を置いて、静かに答えた。
「うん」
それ以上、近づいてはこなかった。
それ以上、何も言わなかった。
でも分かっていた。さっきの一瞬は、もう戻れない。
雨はまだ降っている。
部屋は相変わらず落ち着かない。
あの大きなベッドも、相変わらず腹立たしいくらいそこにある。
でも一番厄介なのは、もう部屋の問題じゃなかった。
目を閉じるだけで、彼女が避けなかったことを思い出してしまう。
……本当に、まずい。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




