104. 不眠の夜 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
休息ではない。 ご褒美でもない。 戦備の合間にたまたま拾えた、ちょっとした特典でもない。 生活そのものだ。
私は膝の上の薄い毛布を見つめ、急に言葉が出てこなくなった。
これは珍しいことだ。 普段の私に最も欠けていないのが、口だからだ。
「シモ」
「ん?」
「今日、ちゃんとご飯を食べて、買い物もして、入港のときも自分を追い詰めすぎて切れなかった」
彼女はそれを、いくつかの客観的な事実を列挙しているだけのような語気で言った。
だが、その平坦さが、かえって厄介だった。
「それでいい」
……これは反則だ。
耳を一気に熱くするような言葉と比べると、こういう低い温度の肯定は、時として余計に手に負えない。明火ではないから、一瞬で燃え上がりはしない。どちらかといえば熾火に近い。外側は静かで、内側からじわじわと骨を温めていく。
私はひとつ空咳をして、自分がまだ基本的な機能を保っているふりをした。
「あなた、今日はどうして急に、普通の人間みたいになってるの?」
真紀は私を見た。
「普段は違うの?」
「普段は、自力で歩く風紀規程の付録みたいよ」
彼女の目の奥に、笑いに近い何かがかすかに浮かんだ。
「それでも、私と一緒にホテルに来たのね」
「……」
その言葉は大きくない。 口説きでもない。 だがなぜか、彼女の口から出ると、どこから反論すればいいのかわからなくなる種類の威力があった。
私は二秒黙り、強引に話題を引っ張っていくことにした。
「ジェスは今頃、港区を全部ひっくり返してるでしょうね」
「しない」
「そんなに確信を持って言える?」
「彼女の体力と行動力は、文句を言うのには足りるけど、捜索には足りない」
「毒のある精確さね」
「それはあなたの専門だと思ってたけど」
「私はもっと文学的よ」
「ジェスに文学性は要らない」
私は危うく笑い出しそうになった。
「その言い方、本人が聞いたら、その場で倒れて、魂を踏み躙られたって言うわよ」
「彼女の魂の耐久性は高い」
「サボテンみたいに?」
「それよりもう少し厄介」
私は顔のシートマスクを軽く押さえ、ふと思い出した。
「そういえば、ロイと蘭、本当に何かあると思う?」
真紀は少し間を置いた。
「ないとは言えない」
「ずいぶん慎重な言い方ね」
「情報が足りないから」
「直接結論を出すかと思ってた」
「それはジェスの仕事よ」
そうだ。 ジェスは証拠が不十分なとき、自分で物語を補完する担当だ。 真紀は、物語が暴走しかけたとき、刃を持って余分な部分を削り落とす担当だ。
「ただ」真紀は少し間を置いた。「ロイは、理由もなく姿を消すような人間じゃない」
「蘭も、誰かとふらふらするような人間じゃない」
「だから、問題になる」
「……その言い方、犯人を尋問してるみたいよ」
「職業病ね」
「十五歳でその職業病があるなら、連邦は教育方針を少し見直した方がいいと思う」
真紀はそれには返さず、手元で時間を確認した。
「そろそろね」
「何が?」
「シートマスク」
私は一拍置いてから、まだ状況を飲み込めていないうちに、彼女はすでに立ち上がってこちらへ歩いてきた。
たった二、三歩の距離だ。
艦橋ではどうということもない距離で、安全距離とすら呼べない。だが今は部屋が静かすぎて、照明が柔らかすぎて、ベッドが近すぎて、人が少なすぎて。彼女が一歩近づくたびに、私の警戒線が、役に立たない紙の扉のように、バタバタと後ろへ倒れていった。
「自分でできる——」
言い終わらないうちに、真紀はすでに私のベッドの横に立っていた。
「動かないで」
彼女は言った。 声は重くない。
だが私は、本当に動かなかった。
……これは情けない。
彼女はかがみ込み、手を伸ばして、私の顔のシートマスクの端をゆっくりと剥がし始めた。動作は軽く、まるで痛くしないよう気を遣っているかのようだった。冷たく湿ったシートマスクが肌から離れていく感覚の中で、彼女の指先が時折私の頬の側面を掠めるのが、はっきりとわかった。その触感は一瞬で消えたが、清潔なほど正確だった。
わざとらしい滞留はない。 余分な曖昧さもない。 非常に正当だ、とすら言える。
だが正当であればあるほど、始末が悪かった。 この心拍を、他の何かのせいにできる理由が、まったく見つからないのだから。
「終わった」
真紀は使い終えたシートマスクを折りたたんで、横のゴミ箱に捨て、それから私を見た。
「髪、まだ全部乾いてない」
私は無意識に手を伸ばし、毛先に触れた。
「そう?」
「そう」
彼女はさっき机の上に置いていたタオルを手に取り、ごく自然に私の後ろに回った。
私は固まった。
「真紀」
「ん?」
「これは本当に自分で——」
「知ってる」
そう言いながら、手は止まらなかった。
タオルが被さってきた瞬間、私の全身がひとつ静まった。
急に大人しくなったからではない。 こういうとき、どうすればいいのかが本当にわからなかったからだ。
彼女が髪を拭く力加減は重くなく、辛抱強いとすら言えた。毛先から後ろ首へ、残った水分を少しずつ吸い取っていく。タオルの布地は柔らかく、髪と肌を隔てていても、彼女の手のひらの安定した温度が伝わってくるのがわかった。
この動作そのものは、何も劇的ではない。 だが劇的な多くのことよりも、ずっと人を危うくさせる。
私はベッドの端に座り、背筋を伸ばしたまま、まったく不要なのに動いてはいけない戦場での応急処置でも受けているかのように、じっとしていた。耳の裏はきっと恥ずかしいほど熱くなっているが、今は背中を向けているせいで、表情を管理することすら意味を失っていた。
「……怪我してるわけじゃないのに」私は小さく言った。
「知ってる」
「術後処置みたいにしてるじゃない」
「放っておいたら、明日頭が痛くなるから」
「なんでそんなことまで知ってるの?」
「常識よ」
また、この言葉だ。
この女が最も得意とすることは、私の心拍を乱すすべての行動を、まるごと常識に分類してしまうことだ。
まったく卑怯だ。
タオルが離れたとき、私はようやくゆっくりと息を吐いた。見えない深みから浮かび上がってきたような感覚だった。
「終わった」彼女は言った。
私は振り返って彼女を見た。
彼女は近かった。もう少し前に傾けば、彼女の腕に当たってしまうほどに。髪は半乾きで、ルームウェアの襟元は清潔で、目は相変わらず、腹が立つほど静かだった。
だが今の私が最も嫌いなのは、まさにその静けさだった。
私がこんなに乱れているのに、彼女は何事もなかったかのように見えるからだ。
「あなたのそういうところ」私は彼女を見つめ、なんとか声が崩れないように保った。「誤解されやすいと思わない?」
真紀はすぐには退かなかった。
ただ、少し低い位置から私を見て、二秒間止まった。
「あなたは、誤解するの?」
……この問いは、ひどく性質が悪かった。
静かに性質が悪い。 笑みもなく性質が悪い。 問題がどこにあるかをわかっていながら、私自身に口にさせようとしている。
私は喉が一瞬詰まった。
「そういう意味じゃない」
「知ってる」
彼女はようやく半歩下がり、タオルを椅子の背にかけた。
「ただ、髪は乾かして」
「……うん」
この返答は間抜けに聞こえた。 だが今の私の語彙能力は、この程度が限界だった。
真紀は私をちらりと見た。今の私の知的水準に対して、何らかの留保付きの評価を下しているようだった。最終的に、ただ静かに一言だけ言った。
「寝なさい、シモ」
声は低くも特別に柔らかくもなかった。
だが彼女が私の名前を呼ぶ方法は、どうしても心臓に素直に従わせてしまう。
私は数秒黙り、最終的に素直にベッドに横になった。
真紀は大きな照明を消し、ベッドサイドの小さな灯りだけを残した。部屋は一気に沈み込み、静けさが拡大された。窓の外の港区のネオンの光がカーテンの端から滲み込み、壁の角に淡い光の線を一本切り出していた。
彼女も自分のベッドに戻り、通信器のアラームと翌朝の時間を確認しているようだった。
私は横向きに寝て、その光の線を見つめながら、今日は本当に長かったのだと思った。
二日分くらいの長さがあった。 なのに、消化しきれていない場面がいくつもあるほど、速くもあった。
ステーキハウス、店主、帝国マルク、百貨店、ホテルのロボット、シートマスク、そして今のタオル。
一番おかしいのは、この山積みの出来事の中で、今なお私を目覚めさせているのが、前線でも戦争でもなく、九島真紀が私の髪を拭いたときの、あの過剰なほど普通の手つきだということだ。
連邦がこれを知ったら、学費の返還を求めてくるかもしれない。
ベッドの向こうから、布がこすれる小さな音がした。 続いて、彼女があちら側のベッドサイドランプを消す音がした。
部屋が完全に暗くなった。
残るのはかすかな夜の色と、お互いがまだ起きているとき、どれだけ隠そうとしても隠しきれない、呼吸の音だけだった。
私は目を閉じた。こうすれば少しは早く眠れると思っていた。
だが次の瞬間、真紀の声が暗闇の中にひどく軽く落ちてきた。
「今日、あなたと出てきて、悪くなかった」
私は目を開いた。
全身が、二秒間静まり返った。
それから、ゆっくりと顔を枕に少し埋めた。今の自分のこの情けない表情を、暗闇にすら見られたくなかったからだ。
「……その一言」私は小さな声で口を開いた。「眠れなくなるじゃない」
暗闇の中で、真紀はすぐには返さなかった。
しばらくして、ようやく彼女のひどく淡い声が返ってきた。
「じゃあ、ゆっくり眠って」
……終わった。
今夜は、早く眠れるとは思わない方がいいだろう。
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