103. 戦争の不条理 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
私と真紀が宇宙港の外周セキュリティゲートを抜けて、最初に目に入ったのは、自由でも、休暇でも、連邦と帝国が百年にわたって続けてきた泥沼の戦争を、十代の軍校生に一時的に忘れさせてくれるような人間的な希望でもなかった。
一枚の看板だった。
観光客を専門に狩り、ついでに感情的な傷まで処理してやろうという意図を隠す気すらない、巨大な看板。電球は今にも息絶えそうに点滅し、文字は酔っ払いが溶接ペンで書いたかのように歪んでいる。それでいて内容だけは、やたらと自信満々だった。
「銀河一の格安食堂・本日お得セット」
私は足を止め、その店を一瞥し、それから隣の真紀を見た。
そして堪えきれず、笑った。
行儀のいい笑い方ではない。 誰かがぼったくられているかもしれないと思うと、私の良心が三秒ほど休暇を取ってしまう、そういう種類の笑いだ。
真紀が横顔を向けて私を見た。
「シモ?」
彼女が私の名前を呼ぶとき、声はひどく平坦だ。 だが私は今、少しわかってきている――彼女のその平坦さは、感情がないからではない。ただ彼女は感情を刀の鞘に収める習慣があるだけだ。十分に近づいて初めて、その刃が実は熱を帯びていることに気づく。
「なんでもない」
私は顎で前の店をしゃくった。
「竹中曹長みたいな人がここでぼったくられてる様子を想像したら、明日の朝まで笑えそうだなって思っただけ」
真紀は一瞬固まり、それから口角をほんのわずかに動かした。
声を立てて笑ったわけではない。 表情を滅多に浪費しない人間が、私の低俗な趣味に対して、限定的な寛容として、ほんの少しだけ承認を与えてくれた、という感じだ。
「性格が悪いわね」
「普通のユーモアセンスがあるだけよ」
「いいえ、悪い」
「……まあいいわ。そう評価されたのは初めてじゃないし」
「しかも、たいてい正しい評価だって言おうとしてたのに」――そう続けようとした瞬間、腕の通信器が澄んだ音を立てた。
ピッ。
大きな音ではない。だがいかにも軍用機器らしい響きだった。 つまり、こちらが何を考えていようが、命を取りに来るように正確に割り込んでくる音だ。
私は視線を落として画面を確認した。
着信表示:ジェス・マッカロウ。
私は三秒間、黙った。 真紀は私を見ていたが、何も言わなかった。
その三秒間、私は実に真剣に一つのことを考えていた―― 今気づかなかったふりをするのは、友情における戦術的回避として許容されるのだろうか、と。
残念ながら、私はまだそこまで堕落しきれていなかった。 あるいは、一部の上院出身者のように、「構う気がない」ことを高等な教養として言い換える術を、まだ身につけていなかったのかもしれない。
だから私は、通信を繋いだ。
ジェスの顔が飛び込んできた。 背景は激しく揺れている。歩きながら通信しているのは明らかだ。その表情は、世界中から結託して見捨てられたばかりのように恨みがましかった。
「今どこにいるの?」
開口一番、怨霊の巡行かと思うような気迫だった。
私は考える前に、口が先に業を積んだ。
「あなたの心の中」
通信の向こうが、半秒ほど静まり返った。
ジェスは笑みの欠片もない乾いた笑い声を漏らした。
「はは……全然面白くない」
「ほら、そこが問題なのよ」私は真面目な顔で言った。「あなたには高度なユーモアを鑑賞する能力が欠けている」
「あなたには友達が欠けてると思うけど」
「その二つは矛盾しないわ」
真紀は横で何も言わなかったが、余視に映る彼女の肩が、ごく軽く動いた。
よろしい。 彼女は笑っている。 連邦政府が気まぐれに善意を発揮したくらいの幅しかないが、私は確かに見た。
今日の港の外の空気は、艦の中よりも明らかに新鮮だった。
「大勢と一緒に出たんじゃなかった?」私はジェスに尋ねた。「なんでそんなに早く世界への信頼を失ってるの?」
「港を出た瞬間に、鳥獣散よ」
ジェスはその一言を、何か大規模な集団的裏切りを告発するような語気で言った。
「Dとハーヴィーは二人で駆け落ちしたし、上院組は自分たちだけで固まってるし。残されたのは私と、死んだ魚みたいな目の子だけ」
私は危うく噴き出しそうになった。
「死んだ魚みたいな目の子って誰?」
「アカリよ」
「あなた、死にたいの?」私は誠実に言った。「その言い方、本人の前では絶対にしない方がいいわよ。彼女はあなたを殺しはしないだろうけど、視線だけで生き埋めにする可能性はある」
「もう生き埋めにされてるようなものよ」
ジェスはカメラを引き寄せ、戦地のプロパガンダポスターに使えそうなほど恨めしい顔を、画面いっぱいに押し込んできた。
「ここまでの道中、彼女が私に言った言葉は四つだけ」
「四つなら、実は少なくないと思うけど」
「そのうちの二つが『どいて』と『前を見て』だったのよ」
「それは確かに、厳しい状況ね」
ジェスは深々とため息をついた。
「それに、ロイのことなんだけど――」
彼女の語気が突然変わり、声を落とした。ゴシップレーダーが全開になったその表情を見るだけで、ろくな話ではないとわかる。
「彼と蘭、絶対に何かあると思う」
私は瞬きをした。
「何かって?」
「振り向いたら、二人一緒に消えてたのよ」
「……」
その一言の情報量は少なくなかった。
私は無意識に真紀を見た。 真紀も私を見た。
その瞬間、私たちはどちらも何も言わなかったが、頭に浮かんでいるものはほぼ同じだと確信していた。
ロイ・ハルトマンという人間は、普段は自力で歩く会計規則補遺のような男だ。 蘭・ヴァイスは、「私の時間を無駄にするな」を魂の表面に直接刻み込んだ、戦地施工図のような人間だ。
この二人が一緒に消えた―― どう言えばいいか。 何もなければそれでいいが、もし「何か」があるなら、それはとても普通の「何か」では済まないだろう。
私は乾いた笑いを一つ漏らした。
「彼らが単に、あなたと一緒にいたくなかった、という可能性はない?」
ジェスは目を見開いた。
「そんなわけないでしょ。私はおしゃべりで、心も清らかで、美しいのに」
「おしゃべりなのは否定しない」
私は言った。
「でも清らかさと美しさについては、まだ議論の余地が大いにあるわ」
「星野 シモ、あなた今日、私という友達を失いたいの?」
「今日に限った話じゃない。長期プロジェクトよ」
「真紀! あなたからも何か言ってやって!」
ジェスは突然矛先を横へ向けた。明らかに「場外支援を呼ぶ」ことを戦術マニュアルに組み込んでいる。
真紀は私の腕の画面をじっと見つめた。
「ジェス、今のあなた、街で迷子になった子供みたいよ」
「……それ、助け舟のつもり? それとも追い打ち?」
「事実の陳述」
「あなたたちみたいな冷静派、嫌い」
「お互い様ね」私は言った。
ジェスは深呼吸を一つし、私の喉を絞めたい衝動をかろうじて抑えて、話題を元に戻した。
「それで? 二人はどこにいるの?」
港区の外の街路が、私たちの目の前に広がっていた。
高架の物流ラインが金属の骨組みのように空を横切り、遠くの商業区の立体看板が次々と点灯し始めている。都市全体が制服を脱ぎ捨て、休暇専用のけばけばしい化粧に着替えていくようだった。
街路の人波は艦内とは比べものにならないほど賑やかだった。私服の人間、スーツケースを引く人間、腕を組む恋人たち、船を降りた途端に揚げ物の匂いに一直線で突っ込んでいく人間――誰もが私たちよりずっと普通の人間に見えた。
私の隣で、真紀は背筋を伸ばしたまま、淡々とした表情で立っていた。制服のジャケットのラインは、離艦した今でも規律を一緒に持ち出してきたかのように清潔だった。
なぜか、私はとっさに自分たちの現在位置を告げる気になれなかった。
正確に言えば、この通信が休暇一日目の集合予告に変わってしまうのが嫌だったのだ。
私は咳払いをした。
「ジェス……私たち……夜になったらまた連絡するから――」
言い終わらないうちに、真紀が手を伸ばし、私の手首を掴んだ。
彼女の指先は少し冷たく、力は強くないが、ずっと前に可決されているべきだった作戦決議を、今この瞬間に代わりに執行しているような、そういう迷いのない潔さがあった。
次の瞬間、彼女はもう一方の手で、あっさりと通信を切った。
画面が暗転した。
世界が静かになった。
私は待機画面に戻った通信器を見つめ、頭が半拍ほど空白になった。
それから、ゆっくりと真紀の方を向いた。
「これって……ちょっとやりすぎじゃない?」
なにせ、どう言えばいいか。 ジェスは、私がこの学校で最初にできた友達だ。 彼女の大半の時間は、自爆する花火のようなものだ――騒がしく、眩しく、無実の人間を巻き込みやすい。だが友達は友達だ。うるさすぎるからといって、友達としての歴史的功績を丸ごと否定するわけにはいかない。
真紀は私の手首を放し、迷惑な広告を一つ消したかのような顔をしていた。
「シモ」
「何?」
「ジェスみたいな人間の生命力は、砂漠のサボテンと大差ないわ」
私は一瞬、呆気にとられた。
「……それ、慰めのつもり?」
「事実の判読よ」
彼女はそう言い終えると、手を上げて通りの前方を指し示した。
そこには、大きくはないが、ガラス窓が綺麗に磨かれた店が一軒あった。暖色の照明が内側から漏れ、入り口には今日のセットメニューの立て看板が置かれている。少なくとも文字は歪んでいないし、電球も次の瞬間に爆発しそうな様子はない。何より、店先に立っているだけで料理の香りが届いてくる。ごく普通で、ひどく人間的な、まったく軍隊らしくない香りだ。
焼いたパン、バター、温かいスープ、焼けた肉。それから、名前はわからないが、一時的に人生を許せそうな気にさせる甘い匂い。
真紀はそこを見て、私に短く告げた。
「先に食事」
不思議なものだ。これほど単純な一言なのに、「自由行動開始」という言葉よりも、ずっと艦を降りた実感が湧いてきた。
命令ではない。訓示でもない。通信で座標を報告しろと急かす声でもない。ただシンプルに、まず食べよう、という言葉だ。
腹を満たす。人間に戻る。
私は彼女の横顔を見た。夕焼けと港のネオンの光が混ざり合い、彼女の睫毛と頬の輪郭を掠め、元々冷徹なまでに冷静な顔立ちに、軍艦には属さない温もりをほんのひとすじ添えていた。
そして私は突然、あることに気づいた。
目の前の、屋台街のように賑やかな通りよりも、私は今、真紀が先ほど私の手首を掴んだときの、あのほんの一瞬の感触の方を気にしているのだと。
重くはない。ほんの一瞬だった。だが、ひどく彼女らしかった。
潔くて、説明もなく、迷いなく決める。
……これは危険だ。
私は無理やり視線を彼女の顔から引き剥がし、前方の店の看板の値段を見ているふりをした。籠から出されたばかりで基本的な判断力を失った小動物のように見えたくなかったからだ。
「いいわね」
私は通信器を腕に留め直し、わざと軽い調子で言った。
「どうせ外れだったとしても、竹中曹長だけが被害者じゃないって笑い話にできるし」
真紀が私を一瞥した。
「あなた、ずっとそのことばかり考えてるの?」
「もちろん」
私は正直に言った。
「今日ここまでで、一番娯楽価値のある想像だもの」
彼女は私の人格を評価する気力をなくしたかのように、ただ淡々と四文字を返した。
「子供っぽいわね」
「褒め言葉として受け取っておく」
こうして私たちは並んで、その店へと歩いていった。
港区の外の人の声、車の流れ、遠くの軌道輸送の低い唸り、そして都市の夜の灯りが一層また一層と点っていく色。それらすべてが混ざり合い、軍規がしばらく停止された短い恩赦のように感じられた。
歩きながら、私はひどく場違いなことを考えていた。
――もしジェスがこの後また連絡してきたら、 きっとまた出るだろう。 だが今ではない。 少なくとも、真紀が私の代わりに通信を切り、ついでに夕食の優先順位まで決めてしまったこの瞬間ではない。
ある人間は砲弾のようだ。 ある人間は帳簿のようだ。 ある人間は施工図のようだ。
そして九島真紀は、表向きは最も規則そのものに見えながら、世界の騒音に殺されそうになったとき、無表情のまま雑音のスイッチを切ってくれる、そういう人間なのだろう。
……こういう人間は、反則だ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




