101. 寄港 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
超光速航行の感覚は、ひどく奇妙だった。
無理に言葉にするなら、こうだ――誰かが全宇宙の再生速度をスローモーションに切り替え、ついでにこちらの頭を水の中に強引に押し込んだような感覚。
痛いわけではない。単なる眩暈とも違う。 どちらかといえば、本来正常に働くべき体内のすべての器官が、一斉にエラー通知を受け取ったような感じだ。心臓は動いているし、肺も完全に止まったわけではない。だが脳だけが、ごく短い間、ある一つの事実を信じ込んでしまう。
――私は今、溺れ死ぬのかもしれない。
しかも、真空の中で。
こんな死に方が訃報に書かれたとしても、読んだ人間は「連邦軍の教育体制は、新兵の魂を使って時空実験をしなければならないほど財政が逼迫しているのか」としか思わないだろう。
自分の心音がはっきりと聞こえた。 ドクン。 ドクン。 水越しに聞くような、こもった音だった。
胸が締め付けられ、喉にも何かが詰まったような気がした。視界には白光ともノイズともつかない薄膜が張っている。安全帯が肩に食い込み、シートが私を戦術席に押さえつけていた。この状態が数秒しか続かないことは理屈ではわかっていたが、その数秒間、時間という概念自体が明らかに壊れていた。
幸い、壊れていたのは本当に数秒だけだった。
瞬きするほどの間に、白く歪んでいた前方の視界が再び安定を取り戻した。誰かが突然、宇宙全体を水から掬い上げ、水気を切り、私たちの目の前に投げ返したかのようだった。
雪風号はすでに元の宙域を離れていた。 メインスクリーンの外には、まったく見覚えのない星空が広がっていた。
星の配置、密度、色合い。すべてが先ほどまでとは違う。 美しいかどうかの問題ではない。「自分は今、船ごと魂まで別の場所に放り出されたのだ」と実感させられる、圧倒的な見知らぬ景色だった。宇宙は広大だが、本当に見知らぬ暗闇に投げ込まれたとき、最初に浮かぶ感想は決して壮大なものではない。ひどく現実的なものだ。
――よし、今すぐ吐きたくなったとしても、もう元の星空には吐き戻せない。
飛田はあの数秒の時空の歪みにまったく影響されなかったかのように、少し揺れる廊下を通り抜けてきたばかりのような平坦な声を出した。
「システム、天体航法システムを用いて本艦の現在位置を測定しろ」
いささか過剰なほど柔らかな合成音声が即座に響いた。
「本艦は現在――オリオン座・α宙域に位置しています」
私は無意識に瞬きをした。 よし。 少なくともシステムの口調は、私たちの内臓よりもはるかに安定しているらしい。
「航法誤差は?」飛田が問う。
「現在の計算誤差は許容範囲内です。修正中」
「続けろ」
「了解」
艦橋が通常運用を取り戻す速度は異常なほど速かった。先ほどの数秒、私の魂を両目から引きずり出そうとしたあの現象に対し、まるで溺れかけた哀れな犠牲者のように振る舞ったのは私一人だけだったのではないかと疑いたくなるほどに。
私はコントロールリングに押し付けていた手を放そうとし、掌が汗でびっしょりであることに気づいた。
隣でジェスが余視で私を観察していた。
「生きてる? 戦術席」
「少なくとも、あんたの想像よりはしぶといわ」
「それは残念。遺言の代筆をしてあげようかと思ってたのに」
「なら、第一文は『連邦軍の高品質な輸送サービスにより死亡』って書くことをお勧めするわ」
ジェスの口角が上がった。その答えにはまあ満足したらしい。彼女は、他人が溺れ死にかけているとき、まず相手の口がまだ動くかを確認するタイプの人間だ。厳密に言えば悪趣味だが、艦橋という場所においては、悪趣味は往々にして優しさよりも役に立つ。
「艦長、筑摩から発光信号を受信」
蘭の声が私を現実に引き戻した。
彼女の前の通信パネルに、エンコード圧縮された光点シグナルの羅列が高速で流れていく。 彼女はたった数秒でその翻訳を完了させた。あまりの効率の良さに、他人の嫌味なリズムまで通信フォーマットとして脳に直接インストールしているのではないかと疑いたくなる。
そして、彼女の表情が明らかに変わった。 ごくわずかだ。 本当に一瞬だけ。 だが、それで十分だった。
「内容は――」蘭は半秒にも満たない間を置いた。そのゴミのような文字列を少しでもマイルドに意訳すべきか判断していたのだろう。だが結局、彼女は非常にプロフェッショナルに、意訳しないことを選んだ。「『少年団もなかなかやるじゃないか、ははは』」
艦橋全体が一拍、静まり返った。
そのときの蘭の表情を形容するのは難しい。 無理に言うなら、一番綺麗に片付けていた引き出しに、泥だらけの雑巾をねじ込まれ、それでも職務上、その雑巾の備品登録を行わなければならない人間の顔だった。
私は突然、彼女の気持ちが痛いほど理解できた。
大島艦長という男の最も恐ろしいところは、指揮能力ではない。たった一言で、艦橋にいる全員に「この通信記録を宇宙ゴミとして分類し、直ちに焼却処分できないだろうか」という共通の願望を抱かせる才能だ。
蘭は無表情のまま付け足した。
「付記。相手の感情状態は良好と推測されます」
「見ればわかる」CIC側でハーヴィーが冷たく言った。
「俺にもわかる」Dが小声で続く。「しかも殴りたくなるくらい良好だな」
「黙って手を動かせ」エヴリンが言った。
Dは即座に口を閉じた。 よろしい。霧島少佐の先ほどの教育的指導は明らかに効果を上げている。今のDは、丸めた新聞紙で鼻面を叩かれたばかりの犬のようだ。まだ吠えたがってはいるが、少なくとも空気を読むようにはなった。
私はてっきり、飛田がその信号を完全に無視するものと思っていた。
だが驚いたことに、彼は笑ったのだ。 わかりやすい高笑いではない。口角が一センチにも満たないほど上がり、「ああ、この男は確かに笑っているが、まともな人間の顔に浮かぶべき笑いではない」と確認させる程度のものだった。
「やるじゃないか、少年団」飛田は言った。
その語気は死ぬほど平坦だった。だがその平坦さゆえに、大島の外向的な嘲笑よりもはるかに殺傷力があった。この男がもし十歳若くて下院に在籍していたら、用いる語彙が的確すぎるという理由で、高リスク人格観察リストに載っていたに違いない。
ジェスが低く鼻で笑った。
「言い返すこともあるのね」
「これは言い返したんじゃないわ」私は言った。「最低限のエネルギー消費で反撃を完了したのよ」
「戦術席、無駄口を叩くな」飛田は振り返りもせずに言った。
「……はい」
よし、前言撤回。 最低エネルギー消費ではない。ピンポイント爆撃だ。
メインスクリーンの外では、跳躍の残滓がまだ完全に散りきっていなかった。前方の長距離識別枠が、船団と護衛艦のシグナルを次々と捕捉し始める。水無月、筑摩、そして私たちより一足先に超光速へ突入した補給艦群が、この新しい星域で、再び理解可能な秩序として結像していく。
つまり、次にやるべきことは「生きて跳躍を終える」ことだけではなくなったということだ。 もっと具体的で、もっと見苦しく、そしてより技術が問われる作業。
入港だ。
海軍でなければ、入港など車を駐車スペースに入れるようなものだと思うかもしれない。静かで、平凡で、せいぜい空間認識能力が試される程度だと。
大間違いだ。
軍艦にとって、入港の本質とはこういうことだ――異常に長く、異常に高価で、中に四百五十人の命が詰まった巨大な刃物を、ぶつけてはいけない、ぶつかるべきでもない障害物の山の中にできた、「一見するとちょうど良さそう」な隙間に強引にねじ込む。しかも、行儀よくねじ込まなければならない。
少しでもずれれば、事故だ。 もう少しずれれば、軍法会議だ。 もし独創的にずれたなら、そのまま教本に載り、次世代の学生たちが教室であなたの失敗映像を見ながら「真似しないように」と学ぶことになるかもしれない。
飛田も当然、そのことを知っていた。
彼は、前方で次第に鮮明になっていく港区の誘導灯と接舷軌道を見つめ、淡々と口を開いた。
「接舷シーケンスの引き継ぎ準備」
ロイの背中が明らかに強張った。 本当にごくわずかだった。だが彼は今日すでに、飛田に対処するために全身の筋肉を使い果たしているはずだ。だから、そのわずかな強張りだけでも十分に目立った。
「ナビゲーションブイ、更新」蘭が報告する。 「港区誘導シグナル、接続正常」 「外部トラフィックコントロールより応答。雪風号、三番接舷シーケンスでの進入を許可されました」
「レーダー、近距離障害物確認」アカリが言う。 「周辺に大型艦体三、補給艦五、作業艇十二。左舷側の相対クリアランス、やや狭し」
「CIC、港区空間モデルを受信」エヴリンが引き継ぐ。 「操舵席と副長席へ転送」
「同期完了」ハーヴィーが言う。
各ステーションが歯車のように再び噛み合い始めた。
そして私は気づいた。先ほどの超光速突入のような、人間の魂を一時的に折り畳むような非人間的な感覚よりも、この入港前の手順がもたらす圧力の方が、ずっと本物の艦橋らしいと。
なぜなら、そこには一片のロマンもないからだ。
入港のために壮麗なプロパガンダポスターを描く人間はいない。白光も、時空の歪みも、詩情もない。あるのはデータ、方位、相対速度、慣性、艦体寸法、そして、一歩間違えれば港湾作業員たちの前で全艦揃って社会的に死ぬという現実だけだ。
言い換えれば、学生を苛めるにはこれ以上ないほど適している。
「ロイ」
飛田が再び彼を呼んだ。
ロイは即座に答えた。「はい」
「さっきの跳躍は、悪くなかった」飛田は言った。
私は、自分がまだ超光速の後遺症から完全に回復しておらず、幻聴を聞いたのではないかと疑いかけた。
飛田が人を褒めている? それともこれは、屠殺人が牛を撫でながら「今日は毛艶がいいな」と呟くような、より高度な処刑前の慰撫なのか?
案の定、次の一言が来た。
「次は入港だ。お前がやれ」
……よし。 正常だ。 これでこそ私の知る飛田だ。
ロイは半秒間、完全に沈黙した。
その半秒は短かったが、艦橋の全員に一つの事実を認識させるには十分な長さだった――押せば全艦四百五十の命を時空の乱気流に放り込みかねない先ほどのボタンよりも、これから行う作業が彼に与える圧力は、決して軽くはないという事実を。
跳躍は一回きりだ。 押せば、通過するか、事故が起きるかのどちらかだ。
だが入港は違う。 入港は長く、意識がはっきりした状態で、自分がどう無様を晒すかを一部始終誰かに見られ続ける技術作業だ。
しかも、隣には飛田が立っている。
つまり、刃物を正確に隙間にねじ込まなければならないだけでなく、隣でそれを見ている人間に「お前は生まれた日からハンドルを握るのに向いていない」と判定される恐怖とも戦わなければならないのだ。
「……了解しました」
ロイが口を開いたとき、声はまだ安定していた。
真紀は彼の右斜め後ろに立ち、視線はすでに同期された近距離航道モデルに落ちていた。彼女はすぐには何も言わず、進入角度、サイドスラスターの修正量、減速の推定ウィンドウを素早く一通り確認し、それから平坦な声で一言だけ付け足した。
「焦って修正量を使い切るな。まずは最初のサイドドリフトを見ろ」
ロイは頷いた。
「はい」
彼女のその言葉には何の感情もなく、純粋な技術的助言にしか聞こえなかった。
だが私にはよくわかっていた。あれが九島真紀流の「手助け」なのだと。
彼女は「緊張するな」といった無駄な慰めを口にするタイプの人間ではない。慰めるくらいなら、こちらが転落死する直前に、一番踏み外しやすい足場を先に指差し確認してみせる。冷たく、正確で、そして非常に有効だ。
……ひどく厄介だ。
なぜなら、そういう手助けのやり方こそが、よりによって一番記憶に焼き付くからだ。
私は即座に意識を自分のパネルへと引き戻した。
戦術席は入港時においては主役ではないが、完全にやることがないわけではない。近距離防護状態を監視し、周辺艦艇の動向を確認し、「今は問題なさそうだが、万一問題が起きたら大惨事になる」すべての要素を視界に収めておかなければならない。
ジェスがこちらへ身を寄せ、声を潜めて言った。
「彼、上手くやれると思う?」
「あんたが聞いてるのは、ロイの技術のこと? それとも飛田が入港のついでに彼の精神を解体するつもりかどうか?」
「両方」
「前者は技術次第だけど、後者は絶対ね」
ジェスは吹き出しそうになり、無理やり堪えた。肩だけが小刻みに揺れていた。
前方で、飛田の声が再び落ちた。
「操舵席」
「はい」
「船を入れろ」彼は言った。
ただそれだけだ。
鼓舞もない。 修辞もない。 余計な感情の装飾も一切ない。
だが、それほどシンプルだからこそ、その言葉は艦橋の中央に直接のしかかるように重かった。
ロイが舵輪を握った。
雪風号は指定された接舷シーケンスに従い、照明、鋼骨、巨大艦の影、そして人為的な秩序で構成された港区へと、ゆっくりと収まり始めた。
私は前方に迫りくる誘導灯を見つめながら、先ほどの数秒間、超光速がもたらしたあの窒息感が、実はまったく消え去っていなかったのだと感じた。
それはただ、より鮮明な形に姿を変えて、また戻ってきただけだった。
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