100.超光速航行 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
最初に動いたのは飛田だった。
彼は「各員配置につけ」と怒鳴ることも、校史館の壁に刻めそうな美文を口にすることもなかった。ただ制服の内ポケットから細長い認証カードを取り出し、もう一方の手でコンソール側面の保護カバーをひねって開けた。
カチリ、という音がした。 大きな音ではない。だが、どんな警報よりも警報らしく響いた。
「よく見ておけ」飛田が言った。
彼は認証カードをメインコンソールに差し込み、続いて金属製の短い鍵を挿入した。鍵を半回転させると、シリンダーの奥から重く鈍い噛み合いの音がした。次の瞬間、艦橋のすべてのサブスクリーンが同期して更新される。
私の目の前の戦術パネルも点灯した。 左上に常時表示され、保育園バスの安全ベルトのように安心感を与えてくれていた文字列が、一度点滅する。
【模擬 → 本番】
その下に、ほぼ同時に別の一行が現れた。
【安全 → 解除】
その二行を見つめながら、最初に頭に浮かんだのは、昨日『雪風号艦橋実務』を暗記させられたのは、飛田が学生の睡眠リズムを矯正する拷問道具だったわけではなく、本当に使うためのものだったのだ、という認識だった。
二番目の感想は、もっと情けないものだった。
終わった。
比喩ではない。「数日前までチェリーコーラをベッドの下のどの段に隠すか悩んでいた自分が、今日から軍艦に実弾を装填する担当になる」という種類の終わりだ。人生の転換が急すぎると、人間は成長しない。ただ眩暈がするだけだ。
「これより艦橋は実戦航行準備に入る」飛田は認証台から手を離し、夕食が少し硬いパンに変更されたと告げるような口調で言った。「学生みたいな失敗をした者は、学生として処理する」
実に飛田らしい言葉だ。 脅しには聞こえないのに、どんな脅しよりも具体的だ。私たちは元々学生であり、彼は「学生」という身分を、さらに一段階刑法寄りの分類に落とすことができそうだった。
「ロイ、操舵につけ」
「了解」
ロイは即座に前方右側の操舵席へ戻り、舵輪とテレグラフに手を置いた。昨日のシミュレーション時に残っていた「演習中だ」という余裕の肩の線は、今日は完全に消えていた。彼は安定して立っていた。緊張すらボルトで骨に締め付けてしまったかのような安定感だった。
「蘭、対外航路の通信を開け。受信優先で維持」
「了解」
「アカリ、レーダーと熱源のクロス照合。長距離索敵モードへ移行」
「了解」
アカリの声はいつも通り無駄がない。彼女が本来マニー大尉の席だった場所に座ったとき、昨日は子供が大人の椅子にこっそり座っているように見えた。今はそう見えない。むしろ、その椅子がようやくコーヒーをパネルにこぼさない人間を見つけた、という感じだった。
「ジェス、戦術補助」
「あら、やっと口だけの仕事じゃなくなったのね」
ジェスの口調は相変わらず命取りになりそうな軽さだったが、手は速かった。左側の情報フローを三層のタブに分け、航路、敵情、火力ウィンドウを一気に整理した。その手際は、一部の成年軍官の頭の中よりも綺麗だった。腹立たしいのは、彼女が本気のときは本当に格好いいと認めざるを得ないことだ。装飾品としての格好良さではない。抜き身の刃が薄く空気を切るような、あの種の格好良さだ。
私は即座に視線を自分のパネルへと戻した。 これ以上見ていると、百合ではなく事故になる。
「九島真紀、副長の位置につけ」飛田は言った。
「了解」真紀が答えた。
真紀はロイの右斜め後ろに立ち、背筋を伸ばした。前方のメインスクリーン、操舵手の動作、艦橋中枢のすべてを同時に視野に収められる位置だ。その立ち位置は、柔らかい人間のためのものではない。副長とは突き詰めれば、艦長が怒鳴る前に、どこを燃やすべきかを先に判断する役割だ。真紀がそこに立つ様子を見ると、私は妙に安心する。あまりにも鋭い手術刀を隣に置かれているようで、理性的には怖いはずなのに、感情的には、少なくともことが彼女の手に渡れば、切り口がずれることはないと思えてしまう。
「アイダ、ダメージコントロールの統括で待機」
「了解」
アイダは艦内の損管区画図を開いた。普段は標準解答が人間になったような雰囲気の彼女だが、こういうときにはそれがかえって役に立つ。損管という仕事の本質は、「最悪の事態」を「まだ対処できる」と「とりあえず死なない」に分解することだからだ。
「エヴリン、D、ハーヴィー、CICは戦備プロセスへ」
「了解」
「わかった」
「行こう」
Dの声が出た瞬間、艦橋全体が少し人間の住む場所らしくなった。彼の、どれだけ空気が悪くても軍事の現場を青春小説の下限まで引き戻せる能力は、ある意味で驚くべき破壊的才能だ。
「星野」
私の全身の神経が即座に引き絞られた。飛田は声を上げてもいないのに、私には教壇に呼ばれて暗記した課文を読み上げさせられるような本能的な恐怖があった。
「はい」
「兵装管制はお前が引き受けろ。今から、雪風号の火力は投影でも教材でもない。人間を宇宙の塵に変える本物だ。わかったか?」
「……了解です」
本当はわかっていなかった。 字面の意味はわかる。だが精神的な距離が突然遠くなった。本で「海は深い」と読むのと、実際に船の縁に立って下を覗き込むのが別物であるように。
私は両手を戦術席のコントロールリングに置いた。識別インターフェースが目の前で一層ずつ展開される。主砲、副砲、ミサイルウェル、近接防御マトリクス、妨害弾薬庫、魚雷管制、エネルギー分配、冷却制限、弾種メニュー、射界インターロック、友軍識別ロック……昨日暗記していたとき、これらはすべて文字だった。今日は、ボタンの一つ一つの下に事故が埋まっているように見える。
画面の中央に認証プロンプトが浮かび上がった。
【火器管制席認証確認】
私は息を吸い込み、指を当てた。
【確認】
続いて次の層が現れた。
【実弾庫接続:待機】 【弾薬庫安全ロック:解除可】 【初期戦備基数の装填を実施するか】
私はその文字列を見つめ、喉がわずかに乾いた。
これが私の、兵装システムへの最初の実弾装填だ。 ただのキー操作だ。ただの文字だ。ただのシステムのプロセスだ。だが「模擬」という二文字が消えた後、この動作には突然重みが生じた。文学的な重みではない。もし私が操作を誤れば、未来において遺体の一部すら繋ぎ合わせられない人間が出るかもしれない、という種類の重みだ。
この感覚が嫌いだ。 なぜなら、それは私が実は勇敢ではなく、ただ自分が何を恐れているかを知らされる機会がなかっただけだと気づかせるからだ。
「手が震えてる?」
ジェスが振り返りもせずに言った。自分の戦術補助フローを見ているくせに、私が醜態をさらすのを監視する専用の器官が背中に生えているらしい。
「震えていない」私は言った。
「じゃあ、魂が震えてるのね」
「黙れ」
「いいけど、ウォンバットと秋水を逆に装填したら、定年まで笑い続けるわよ」
睨みつけた。本当に彼女を一回限りの弾頭に組み込んで発射したい。回収不要で。
残念ながら、それはできない。
私は改めて画面に向き直った。標準戦備基数の最上部に、昨日吐き出しそうになるまで暗記した三つの名前が並んでいた。
秋水――対空誘導弾。 ウォンバット――近距離散布迎撃弾。 パルジファル――大型対艦誘導弾。
さらに下層には主砲の予備充電オプションがある。エンジニアが青春期に何らかの傷を負ったとしか思えない長さの名前の主砲――超高エネルギー正負電子対消滅崩壊砲。タンホイザー。
今でも、一門の主砲がオペラの悪役の通り名みたいな名前を持つ必要があるとは思っていない。兵装の命名は実用的であるべきで、操作員が死ぬ前に読解テストを受けさせるべきではない。
「シモ」
前から真紀の声が届いた。高くはないが、安定していた。
「手順通りに動け。基数を先に確認して、最悪の場合を先に考えるな」
私は一瞬止まった。
彼女は私を振り返らなかった。ただロイの横に立ち、視線は前方の航路と艦橋総合図に向けたままだった。それでも、私が詰まっていることを彼女はわかっていた。この事実自体がひどく理不尽だ。今は心臓が余分に半拍打っていい場面ではないのに、その一瞬、胸のどこかをごく軽く触れられた気がした。
本当に鬱陶しい。 そして、本当に効く。
私は改めて呼吸を整え、標準装填を開いた。
「秋水、待機」私は報告した。
「了解」システムが応じた。
「ウォンバット、近接防御艙、全列接続」
「了解」
「パルジファル、封鎖待機を維持。艦長命令まで最終ロック解除を保留」
「了解」
「主砲、第一段階予備充電待機。エネルギー消費制限は黄色域手前に設定」
「了解」
命令を一つ送るたびに、パネル下部の弾薬とエネルギーのゲージが灰から青へ、そして青から警告色の実色へと変わっていった。遠くの弾薬庫から低い機械的な移動音が伝わってきた。大きくはない。だが甲板の骨格を伝って上まで届き、見えない金属の生き物の群れが艦体の奥深くで身を動かしているかのようだった。
私は初めて、雪風号という艦が単なる移動手段ではないことを実感した。 彼女は人を噛む。 そして今、私は彼女に牙を装填している。
飛田はそんな私の内心など完全に無視するように、前方の主窓を見ていた。
「航程は?」
ロイが即座に数字を出した。
「現在の推進出力を維持した場合、第一外縁識別区域への到達まで推定四十三分。低輻射航行を維持するなら、四十七分です」
「低輻射で行く」飛田は言った。「花火を打ち上げに行くのではない。誰がすでに打ち上げているかを見に行く」
「了解」
蘭の通信盤に、遠距離ノイズと断片的な識別コードが次々と弾き出され始めた。アカリが熱源マップをメインスクリーンの左側に引き上げ、周辺空域のデブリ帯、冷却残光、航跡の残滓が一層ずつ重なっていく。雪風号は船団の座標へ向かっていた。戦術マップ上では単純に見えた――一本の線、一つの点、そして時間の経過。
だが本物の軍艦の中では、その一本の線の後ろに、全員がまず自分をしっかり固定しなければならないという現実がある。
私は改めて兵装状態を確認した。
秋水、待機正常。 ウォンバット、待機正常。 パルジファル、封鎖中。 主砲、第一段階予備充電完了。 近接防御マトリクス、連動可。 妨害弾薬庫、圧力正常。 艦内弾薬輸送路、グリーン。
すべての項目を一通り確認した。試験直前の最終チェックのように。それから気づいた。本当に私を緊張させているのは「これから戦闘になるかもしれない」ということではなく、「本当に戦闘になったとき、これらを必要な瞬間に正しく使えるか」ということだと。
シミュレーションで死んでも、照明が戻れば全員がいる。 本番で死んだら、照明が戻っても関係ない。
「星野」
霧島少佐が突然口を開いた。
「はい」
「火器管制は『発射する』仕事ではない」彼女は言った。「本当の仕事は、全員が押したいと思っているとき、どれを押してはいけないかを知っていることだ」
私は一瞬止まった。
この言葉は、どんな兵装リストより暗記しにくい。だが、どんな兵装リストよりも答えに近い。
「肝に銘じます、少佐」
霧島少佐は私を一瞥し、それ以上は何も言わず、ただ私の椅子の背もたれを軽く一度叩いた。慰めでも励ましでもない。確認に近かった――この席に座っている人間は、深夜に軽小説を読み続けるような問題学生に見えるが、今のところは壊れていない、という確認だ。
なぜかその一打が、正式な認証よりも「もう後戻りはできない」という感覚をくれた。
前方で、真紀がわずかに顔を傾けた。 私を見たのではない。ただそれほど短く、ついでのように、視線が一瞬こちらを掠めた。
それでも私は捉えた。 彼女は何も言わなかった。表情もいつも通りに静かだった。ただ目が「落ち着いたか?」と問うているように見えた。
私は返事をしなかった。艦橋では私情を撒き散らしていい場面ではないから。だから私はただ手をコントロールリングに戻し、背筋を伸ばし、戦術席に答えるように、またあの目に答えるように、座り直した。
――落ち着いた。たぶん。
雪風号の艦首が、メインスクリーンの外で音もなく暗闇を切っていく。 艦内照明はすでに戦備色温度に切り替わり、冷たい色合いが全員の顔から学生らしさをいくらか削ぎ落とし、代わりに少し見苦しいほどの現実感を乗せていた。エンジンの振動が甲板を伝い上がり、足の裏に低く圧しかかる。航路線は船団の座標へと真っ直ぐ伸びていた。書き終えた解答線のように。ただし、問題がどの欄から先に爆発するかは誰にもわからない。
飛田が艦長席に戻り、前方を平静に見つめた。
「各員注意」彼は言った。「今から、自分が授業を受けていると思うな」
その言葉が落ちると同時に、私の目の前の兵装状態表示の一番右端にある小さな実弾識別灯が、静かに赤く点灯した。
なぜかその瞬間、昨晩頭に詰め込んだものが、もはや兵装資料ではないと感じた。 今日以降、私を学生という側から完全に切り離す何かだと。
雪風号は船団の座標へ向かって進み続けた。 そして私は戦術席に座り、初めてはっきりと理解した。 もし発砲することになれば、あのボタンを押した後、宇宙は誰のためにも巻き戻さない。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




