98. 敗北からのスタートライン 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
飛田が次に呼んだのは、ロイだった。
「操舵手」
ロイが即座に応じる。
「第一波は見事だった。第二波以降も艦を引き戻せたのは、手が安定している証拠だ」飛田はそこで、肯定のような半拍のタメを置いた。「だが、後半からある間違いを犯し始めた」
ロイが眉をひそめる。
「どんな間違いでしょうか?」
「従順すぎた」
私は危うく聞き間違えたかと思った。 ロイ自身も明らかに虚を突かれていた。 だが飛田は少しも冗談を言っているようには見えなかった。
「操舵手は舵輪を回す操り人形ではない」彼は言った。「艦体の姿勢フィードバックが明らかに追いつかず、左後舷のノズルが二基脱落し、推進軸の温度が異常を示している。ならば、この艦にあとどれだけの転舵の余力が残されているか、命令よりも早く把握していなければならなかった」
ロイは口を開きかけ、反論しようとしたようだが、結局何も言わなかった。 彼自身も、飛田の言うことが正しいとわかっていたからだ。
「後半の二回の復舵は、あまりにも教本通りすぎた」飛田は言った。「教本に載っている艦は無傷だ。先ほどの雪風はそうではなかった」
ロイの手はまだ舵輪に置かれていた。 彼がゆっくりと手を引き戻し、拳を握り、そしてまた開くのが見えた。 その沈黙は、叱責されるよりも辛いものだった。
飛田は左舷へと向き直る。
「アカリ」
「はい」
「第二波の出現を誰よりも早く捉えた。それは良い」飛田は言った。「だが、後半は焦りが出た」
アカリの眉が跳ね上がった。少し不服そうだった。
「私はただ報告を――」
「命を急かしていたんだ」飛田が静かに遮った。
艦橋が静まり返る。 私は息をするのを忘れかけた。 アカリ自身も言葉を失っていた。
飛田は畳み掛けるような真似はせず、ただ言葉をより明確にした。
「レーダー長の実務は、拡声器になることではない」
「見たものをすべて、一息に上にぶちまけることではない」
「第二波の出現点が近すぎると報告したのは間違っていない。間違っていたのは、どの情報が一番先に人を殺すかを、最初に言わなかったことだ」
アカリは唇を噛み締めた。 飛田は宙で指を二回叩き、彼女が先ほど発した数秒間の情報を並べ直すような仕草をした。
「『第二波再出現。左後方。近すぎる』――それで十分だ」
「お前のその後の驚きや、判読のプロセス、感情の起伏は、艦橋の反応時間を食い潰す」
アカリはもう反論しなかった。 不本意そうではあったが、ひどく素直に、低い声で言った。
「……了解」
飛田は蘭を見た。
「通信」
蘭が顔を上げる。
「降伏勧告のシグナルを切断したのは正しい。静黙を保ったのも正しい」彼は言った。「だが、後半に一つ問題があった」
蘭は声を出さず、彼が言い終えるのを待った。
「外部シグナルを、綺麗に処理しすぎた」飛田は言った。
その言葉に、私も一瞬呆気にとられた。 綺麗すぎる?
飛田は彼女を一瞥した。
「戦場における通信士官は、オフィスの整理整頓をしているのではない。ノイズを排除するだけでなく、『どのノイズが敵のリズムに変わる可能性があるか』を、先にマーキングしておかなければならない」
「第二波の前に残っていた、敵の降伏勧告と追撃艦の通信の残滓。あれはすでに、『奴らは単に圧力をかけているのではなく、我々に航速の維持を強要している』ということを告げていた」
蘭は自分のパネルに目を落とし、半秒間沈黙した。
「……雑音として処理しました」
「そうだ」飛田は言った。「見事に消し去った。だが、綺麗かどうかが重要なのではない。重要なのは、その雑音の中に刃が隠されているかもしれないということだ」
蘭は頷いた。 彼女はそういう人間だ。 自分の問題だと確認すれば、無駄な口答えは一切しない。
飛田の視線が、私の左斜め後ろへと滑った。
「ジェス」
ジェスは腕を組んで背もたれに寄りかかっていたが、名前を呼ばれて少し姿勢を正した。
「前半は悪くなかった」飛田は言った。「データの追随も、火器管制の修正も速かった」
ジェスは瞬きをした。
「後半への布石に聞こえますね」
「当然だ」飛田は言った。
……この二人は、ある意味でよく似ている。気安い口調で相手を落とし穴に突き落とすのが、ひどく上手い。
「お前の最大の問題は、『戦術長と一緒に殴り合う』モードから『戦術長と一緒に逃げ回る』モードへの切り替えが遅すぎたことだ」
ジェスの口角に浮かんでいたいつもの笑みが、ゆっくりと薄れていく。
飛田は止まらない。
「後半、お前はまだ彼女のために反撃の選択肢を整理していた」
「リストアップは速かったし、間違ってもいなかった」
「問題は、あの時点でそれほど多くの選択肢は必要なかったということだ」
私の胸が、軽く締め付けられた。 なぜならその刃は、ある意味で私にも一緒に振り下ろされていたからだ。
ジェスもそれを理解していた。 彼女は二秒沈黙し、低い声で言った。
「……まだ自分を戦術員だと思っていました。撤退の助手ではなく」
飛田は頷いた。
「戦術員は副砲塔ではない」
「戦術長が最初に切り捨てるべき考えを、一番に切り落としてやるための刃だ」
ジェスはそれ以上何も言わず、ただひどく珍しいことに、背もたれから背中を離し、少し前のめりに座り直した。 小さな動作だ。 だが私にはわかる。彼女が本当に本気になったのだと。
飛田が次に呼んだのはCICだった。
「エヴリン、D、ハーヴィー」
下の三人が同時に顔を上げる。 そして飛田は、あろうことか最初にDを見た。 D自身も意外だったのか、眉を跳ね上げた。
「前半は口が減らなかったが、後半で一番最初に気づいたのはお前だったな――我々は誰が格好良く撃つかを競っているのではなく、誰が一番長く生き延びるかを競っているのだと」飛田は言った。
Dは口を開きかけたが、珍しく即座に茶化すことはしなかった。
「だがお前の問題は、黙るのが遅すぎることだ」飛田は続けた。
……よし、これでこそだ。 Dは「やっぱりそう来るか」という顔をした。
「CICはチャットルームではない」飛田は言った。「後半のお前の発言のいくつかは間違っていなかったが、あの瞬間に口に出す必要はなかった。情報量が艦橋の処理能力を超えているとき、些末な結論を一つ減らすことが、命を一つ増やすことに繋がる」
Dは手を上げて頭を掻いた。 今回はニヤニヤすることもなく、ただ小さく「了解」とだけ言った。
飛田はハーヴィーに向き直る。
「お前の数字が一番正確だった」
ハーヴィーは頷いた。それが称賛の終着点ではないと、最初から知っているかのように。
「だが、お前が一番、訃報を読み上げているようだった」
……その一言には、私も危うく吹き出しそうになった。 ハーヴィー本人は至って平静だった。
飛田は彼を見て言った。
「数字が正確だからといって、報告の仕方が正しいとは限らない。『一〇八パーセント』『九十秒』『左推進軸過熱』、すべてその通りだ。間違っていない」
「問題は、お前が艦橋の代わりに結論を圧縮してやらなかったことだ」
「CICはデータを上に運ぶ人間ではない。データを決断可能な形に変換する人間だ」
ハーヴィーは二秒沈黙し、眼鏡を押し上げた。
「……自分をセンサーだと思っていました。判読器ではなく」
「そうだ」飛田は言った。「それは機械がやることだ。人間がやることではない」
最後はエヴリンだ。 飛田は彼女を見て、珍しくそれほど鋭い語気を使わなかった。
「収束のさせ方は悪くなかった」彼は言った。「問題は、傍観者すぎるということだ」
エヴリンが目を上げて彼を見る。
「CICは統合を担当するのであって、ナレーションを担当するのではない」飛田は言った。「エンペラー級が圧力をかけていることも、護衛艦が切り込んできていることも、第二波が離脱ラインを先読みしていることも、君はわかっていた。だが君のその言葉は、授業で生徒に聞かせているようで、生きている人間に向けて言っているようには聞こえなかった」
エヴリンの指先が、パネルを軽く一度叩いた。 ごく軽い音だ。 だがその一打で、彼女が認めたことが私にはわかった。 彼女には確かにその悪癖があるからだ。 正確すぎ、そして冷たすぎる。まるで局外に立っているかのように冷たいのだ。
飛田はついに、右側の技術席へと視線を移した。
「アイダ」
アイダが顔を上げる。 この場の中で、彼女が最も「負けた」ようには見えなかった。先ほどの艦内ダメージコントロールのほぼすべてを彼女が一人で背負い、その一つ一つの命令の安定感は、ただ安定しているだけでなく、見事とすら言えたからだ。 だが飛田は彼女を見て、それでも首を振った。
「お前が最も正しかったのは、船のすべてを救おうとしなかったことだ」
その言葉は重かった。 私も思わず顔を上げて彼を見たほどに。
アイダ本人は、ただひどく平坦に言った。
「救いきれないからです」
「そうだ」飛田は言った。「だからお前は、給電を保ち、姿勢を保ち、主幹線を保つことを優先した。それは正しい」
彼は一拍置いた。
「だが後半、お前は主任機関長として最も危険な間違いを犯し始めた」
アイダの目つきが、ようやく少し動いた。
「『もう少し時間があれば、この局面を縫い合わせられる』と考え始めていたな」飛田は言った。
アイダは反論しなかった。 彼女自身も、それが事実だとわかっていたのだろう。
飛田は彼女を見た。
「戦損時において、主任機関長は船の修繕工ではない」
「法医学者だ」
「お前は誰よりも早く、どの部位はもう救えないかを判断して、切り捨てなければならない」
艦橋は静寂に包まれた。 私は、この言葉がアイダだけに向けられたものではないと感じた。 雪風が先ほどどうやって死んだのか、その全体を語っているのだと。 誰も仕事をしなかったからではない。 誰もが、少しでも多く救おうとし、少しでも多く保とうとし、少しでも長く引き延ばそうとしたからだ。
アイダはひどくゆっくりと、一度だけ頷いた。
「……理解しました」
最後に、飛田はようやく私を見た。 その瞬間、背筋が反射的に硬直した。 彼は最初から最後まで、誰のことも怒鳴っていない。 それでも、自分の番になって見つめられるのは、罵倒されるよりもずっと居心地が悪かった。
「星野シモ」
「……はい」
自分の声が意外なほどしっかりしていたことに、私自身が一番驚いていた。
飛田は腕を組み、私の目の前の火器管制コンソールを見た。
「ずいぶん上達したな」
私は呆然とした。 私だけでなく、隣のジェスも首を向けて彼を一瞥した。 ――この男が、先に人を褒めるだと? 今日、世界はまた少し壊れてしまったのだろうか。
「第一波の妨害散布は適切だったし、火器管制の切り替えも十分速かった。いつ何を使うべきか、名前を暗記しているだけではなく、きちんと理解していた」飛田は言った。
喉が引きつった。 言葉だけ聞けば称賛のようだ。 だが私は誰よりもよく知っている。こういう時の称賛は、刃が振り下ろされる前の位置決めに過ぎないということを。
案の定だ。
「だが、君の本当の問題もそこにある」彼は言った。
私は声を出さなかった。 飛田はひどく平坦な語気で、その刃をゆっくりと押し込んできた。
「君はまだ、自分を『発砲する人間』だと思っている」
「『いつ発砲しないかを決める人間』ではなく」
指先が微かに縮こまった。 艦橋全体が、呼吸の音すら壁にぶつかりそうなほど静まり返っていた。
飛田は続けた。
「後半の君の操作は、でたらめではなかった。むしろ、すべての選択が合理的だった」
「実体弾も、牽制も、対ミサイル迎撃も、妨害散布も、すべて合理的だった」
「問題は――君が合理的すぎるほど完璧だったことだ」
私は顔を上げて彼を見た。 胸の奥が少し息苦しかった。 彼がどの瞬間のことを言っているのか、わかっていたからだ。 アッシュが「牽制するなら、どれくらい稼げる?」と聞いた、あの瞬間だ。 あの時、私の頭に最初に浮かんだのは「無理だ」ではなかった。 「撃つなら、どう撃つか」だった。
飛田は、その一瞬を直接見透かしたようだった。
「進攻戦において、戦術長はすべての刀を正しく使いこなさなければならない」
「だが撤退戦において、戦術長はより早く、刀の半分を鞘に収めることを学ばなければならない」
彼は手を上げ、私の目の前の火器管制コンソールを軽く叩いた。
「君は撃ち方がわからなくて死んだのではない」
「君は――『もう少し綺麗に撃てるのではないか』と考えたせいで死んだのだ」
私はその場で固まった。 反論しなかった。 反論できなかったからだ。 あの時の私は、確かにそう考えていた。 ほんの一瞬であっても。 口では「二十秒から三十秒」と言いながら。 だがその二十秒から三十秒という数字自体が、私がまだ「もう一太刀浴びせる」という想像を捨てきれていなかった証拠だ。 そして撤退戦において、その想像自体が刃となる。 自分自身の腹に突き立てる刃に。
飛田は最後に私を一瞥し、それ以上は何も言わなかった。 ただ平坦な声で、全体を総括した。
「お前たちは先ほど、勝てなくて死んだのではない」
彼は艦橋の中央に立ち、再び全員に視線を走らせた。
「お前たちは――撤退の最中にもかかわらず、すべての物事をうまくやろうとしたせいで死んだのだ」
誰も言葉を発しなかった。 反論できる言葉が一つもなかったからだ。
アッシュは速度と反撃の可能性を残そうとした。 真紀は艦長の思考の余地を残そうとした。 ロイは最も標準的な操舵で艦を引き戻そうとした。 アカリはすべての危険を第一時間で明確に伝えようとした。 蘭は雑音を綺麗に整理しようとした。 ジェスはすべての有効な選択肢を私の手元に揃えようとした。 CICは情報を完璧に伝えようとした。 アイダは少しでも時間を稼ぎ、船を縫い合わせようとした。 そして私は―― 私はまだ、鮮やかに一刀浴びせられるのではないかと考えていた。
だから、私たちは死んだ。 誰かが特別に愚かだったわけではない。 誰かが特別に弱かったわけでもない。 全員が少しずつ足りなくて、それを合わせたら、ちょうど一隻の船が死ぬのに十分な量になっただけだ。
飛田は私たちを見て、相変わらず平坦な語気で言った。
「本物の撤退は、綺麗ではない」
「みっともなく、物資を捨て、区画を封鎖し、傷の深すぎる箇所を見捨て、決して振り返らず、まるで負け犬のように見えるものだ」
「だが、生き残れる」
彼は一拍置いた。
「雪風は墓標にするためのものではない」
「雪風に求められているのは、全身ボロボロの無様な姿になっても、帰還することだ」
その言葉が落ちた後、艦橋はさらに静まり返った。 先ほどのシミュレーションが本当に私たちに残したものは、撃沈された映像ではないのだと、そう思えるほどの静けさだった。 残されたのは、その言葉だ。
全身ボロボロの無様な姿になっても、帰還すること。
数秒後、飛田はようやく手を下ろした。
「よろしい」
彼は言った。
「少なくとも今日は、シミュレーションの中で死んだだけだ」
私は危うく、これでその場解散になるのかと勘違いしかけた。 私が馬鹿だった。
次の瞬間、彼は身を翻してメインコンソールへ歩き出し、振り返りもせずに一言投げ捨てた。
「十分間休憩」
彼はシステムの入力パネルに指を置き、次の自習の開始を告げるような平坦な語気で言った。
「十分後、再開する」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




