97. 対艦戦闘シミュレーション 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
序盤は退屈なほど平穏な航行シミュレーションだった。 第三航路中継エリア。民間船のシグナル。
連邦識別ポイント。デブリ帯。中継ブイ。すべての画面が教科書のように綺麗で、その綺麗さが私をひどく不快にさせた。 飛田は何も言わない。 それがかえって罠のように思える。 案の定、まもなくアカリが眉をひそめた。
「右前方七時方向、熱源異常」
彼女の話し方は相変わらず起伏がなく、感情のない買い出しリストを読み上げているようだ。
「あ――熱源、また増加」
私は即座に顔を上げた。 戦術マップ上、右前方の元々空白だったエリアに、一つ、また一つと光点が灯り始める。唐突に現れたのではない。元々画面の端に潜んでいて、今になってゆっくりと自分たちをこちらの視界に押し込んできたような動きだ。 三秒後、アカリの声が再び響いた。
「IFF判定完了。銀河帝国軍、艦影三。艦型は……標準駆逐艦二、軽巡洋艦一」
艦橋全体の空気が一瞬で引き絞られた。 先ほどまでの「まだ授業中」という緩んだ空気は、この一言で綺麗に切り捨てられた。
「相手から降伏勧告のシグナル」蘭はパネルを見たまま、相変わらず平坦な声で言う。「応答する?」
「通信を切断しろ。向こうが侵入してくるのを防げ」
アッシュはほとんど即座に答えた。 そこに躊躇いはない。 素晴らしい。 少なくとも私たちの臨時艦長は、戦場で最も恐ろしいものの一つが「相手が唐突に礼儀正しくなること」だと理解しているらしい。 彼は真紀を振り返った。
「副長、命令を。全艦に赤色警報を発令」
真紀は頷き、壁に掛けられた内線通話器を手に取った。彼女の声は高くないが、艦橋全体がそれに同調して静まり返るほどの安定感があった。
「艦橋シャッター閉鎖! 全艦、第一種戦闘配置!」
「了解」
彼女は通話ボタンを押し、全艦に向けて下令した。
「戦闘命令発布。全艦に赤色警報発令!」
次の瞬間、艦橋の照明が再び切り替わった。 赤色の警報灯が艦内構造に沿って次々と点灯し、メインスクリーンの縁を半透明のシャッターが覆い尽くす。
戦術表示の優先順位が直接最上位へと跳ね上がった。シミュレーションシステムは実際に全艦の火器を放つわけでも、船体を振動させるわけでもないが、第一種戦闘配置が発令された際のあのリズム感は、やはり冷たい手となって、空間全体の喉を直接締め上げてきた。
「兵装システム、ロック解除」アッシュが私を一瞥した。「艦長より火器管制権を委譲する」
喉が引きつったが、手は思考よりも早く動いていた。
「戦術長、引き継ぎます」
権限を承認すると、目の前の火器管制インターフェースが一瞬にしてすべて点灯した。
艦首主砲、垂直発射モジュール、魚雷、近接防御マトリクス、対空散布チェーン。横一列に並んだ緑色のランプが一斉に跳ね起きる。昨晩のあの兵装資料の山が、死後に集団で私に命を奪いに来たかのような眩しさだ。
「兵装システム、オールグリーン」私は言った。「ロック解除完了」
「敵艦発砲!」アカリが唐突に叫んだ。「強熱源を探知!」
昨晩の飛田の「暗唱できるくらい叩き込んでおけ」という言葉が、頭の中で一瞬にして蘇る。 アッシュが口を開くより早く、脅威解算パネルの文字が自動的に切り替わるのが見えた。
高エネルギー束流。 第一波の牽制。 迎撃可能。
「反ビーム爆雷、発射」アッシュが下令する。
「反ビーム爆雷、発射!」
復唱すると同時に、私はボタンを叩き込んだ。 シミュレーション画面上、雪風の前方に点滅する迎撃光点が即座に展開される。それは砲火というより、「敵の高エネルギー束流を目の前で強引に解体する」ものに近い。結果として、私がボタンを押し込んだのとほぼ同時に、前方の敵火は画面上で真っ白に中和された。
「戦術長、敵艦が射程に入り次第、自由発砲を許可する」アッシュが言った。
「了解」
ならば、まずは私の武器に馴染ませてもらおう。 あるいはもっと正確に言えば―― 昨晩、深夜まで暗記させられたあの膨大な兵装資料が、今日、命を救うのか、それとも命を奪うのかを確認させてもらおう。
「敵艦、光学捕捉圏内に進入」アカリが報告する。「敵艦、射程内」
「主砲、陽電子衝撃砲――イゾルデ」
指先で兵装メニューをタップした瞬間、高級レストランで客に本日のシェフのおすすめを紹介しているような馬鹿げた感覚にすら陥った。
「発射」
画面上、雪風の艦首主砲から圧縮された高エネルギー束流が噴出し、最前方の駆逐艦へと一直線に襲い掛かる。 ジェスがほぼ同時に光学照準儀に飛びつき、ナイフのような鋭い声で告げた。
「観測――命中。ただし、敵艦も反ビーム爆雷を発射」
つまり、中和されたということだ。 私は奥歯を噛み締めた。 よし、わかった。 相手は的になりに来たわけではない。
「戦術長、次善策は?」アッシュが問う。
敵の艦型、距離、角度、速度、そして向こうの軽巡洋艦がゆっくりと距離を取ろうとする姿勢を見つめながら、昨晩のあの分類群が頭の中を高速で駆け巡る。
エネルギー兵器は反ビーム爆雷で中和される。 なら、ああいうもので中和されない代物を叩きつければいい。
「実体弾の使用を具申。同時にミサイルを発射します」私は言った。自分の想像以上に声は安定していた。「相手が先に反ビーム爆雷を切ったのなら、実体質量と後続の誘導脅威を同時に喰らわせます」
本日は金曜日。 シェフのおすすめは、対艦大型誘導弾と実体徹甲弾のダブルコンボ。 付け合わせは、敵艦長の胃痛だ。
「実行しろ」アッシュが言った。
「敵艦、対艦ミサイル発射!」アカリが立て続けに叫ぶ。「八秒後に命中!」
「九六式近接防御『火牛』マトリクス、起動。自動迎撃を開始」
私は自動迎撃ボタンを押し込んだ後、即座に画面を上の階層へと切り替えた。 近接防御にミサイルを食い破らせる。 私は、向こうの口を先に粉砕する。
「対艦大型誘導弾『パルジファル』、発射!」
もう一度メニューを切り替える。 昨晩、壁に頭を打ち付けたくなったあの大量の名称が、今この瞬間、本当に赤く焼けた鉄線のように、一本一本神経を伝って指先へと滑り込んでくる。
「モード切り替え完了。砲塔実体弾砲『トリスタン』、発射!」
二つの攻撃がほぼ同時に放たれた。 一方は長い火線の尾を引いて飛び出す大型対艦誘導弾。一方は、主砲が実体質量投射へと切り替わってから噴き出した重徹甲弾の弾道。 私は画面を睨みつけた。喉がひどく乾いている。 ジェスが私より一足早く結果を叫んだ。
「命中!」
彼女の声から、初めて冗談の響きが消えていた。
「駆逐一、機能停止。航行不能。駆逐二――実体弾により貫通!」
DがCIC側で机を叩いた。
「見事!」
「騒がないで」エヴリンが言う。
だが彼女自身の声も、明らかに先ほどより引き締まっていた。 戦闘が一旦始まれば、人は本能的にそれに引きずり込まれる。 たとえそれが単なるシミュレーションだと頭でわかっていても。
「巡洋艦から艦載機発進!」アカリが叫ぶ。「六機、高速で接近!」
私は無意識に首を向けて飛田を見た。
「本艦の艦載機は?」
飛田は腕を組んだまま、人間性の欠片もない声で答えた。
「ないものと仮定しろ」
くそ。 実に飛田らしく、かつ飛田らしくないほど汚い言葉を吐きたくなる回答だ。 よし、艦載機はない。 ならば本艦自身でこの群れを細切れにするしかない。
「『火牛』、迎撃を継続」
私はまず近接防御マトリクスの自動迎撃を維持したまま、上の階層の対空メニューへと切り替える。 昨晩暗記した文字列が、亡霊のように勝手に浮かび上がってくる。 『ウォンバット』。 上等だ。 一番ぬいぐるみのような名前をしていて、用途はちっとも可愛くないお前の出番だ。
「対空散弾『ウォンバット』、発射!」
画面上、雪風の舷側から瞬時に密集した短時間の迎撃火幕がばら撒かれる。それは優雅な光線ではない。極めて連邦らしく、極めて理不尽で、空中で鉄ブラシを容赦なくこすりつけたような散布弾幕だ。 アカリが、ほぼ次の瞬間には私に向かって親指を立てた。
「迎撃成功!」
「トリスタン発射!!」
相手が完全に息を吹き返すのを待たず、私は直接第二射の実体弾を叩き込んだ。 トリスタンの弾道は、前方の機能停止した駆逐艦の残骸の映像を掠めるようにしてすり抜け、軽巡洋艦の中央部へと容赦なく突き刺さった。
光点が一度瞬く。 もう一度閃く。 そして、敵のシグナルが一つ、また一つと暗転していく。 最初はあの重傷を負った駆逐艦。 続いて二隻目。 最後は、艦載機で場を持たせようとしたあの軽巡洋艦だ。 戦術マップ上で赤く輝いていた敵影は、最終的に意味を失った残留ノイズの塊と化した。
艦橋全体が一秒間静まり返った。 それから、Dが真っ先に声を爆発させた。
「見事だぜ、戦術長!」
「黙ってろ」
私は口ではそう言ったが、手のひらは汗でびっしょりだった。 真紀はロイの横に立ち、私を振り返ることもなく、ただひどく淡々と一言だけ言った。
「火力配置、正確」
その一言は、Dの大騒ぎよりもずっと効き目があった。 彼女は私を煽てているわけではない。 彼女は判定してくれたのだ。このラウンドで、私が船を沈めなかったことを。 艦長席に座るアッシュも、ようやく本当に息を吐き出せたかのように、低い声で言った。
「戦術席、警戒を維持しろ」
「了解」
私は落ち着いた声で答えたが、心の中にはひどく悲哀に満ちた感想しか残っていなかった。 昨晩のあの兵装名の山が、本当に私を救ってしまった。 いや、私だけではない。 船全体を救ったのだ――少なくとも、このシミュレーションの中では。
飛田は艦橋後方の中央に立ち、腕を組み、「まあ、教えた甲斐はあったか」という顔で戦況が収束していくのを見つめていた。 私はてっきり、このタイミングなら少なくとも「悪くない」か「上出来だ」くらいは言ってくれるものと思っていた。 だが、彼が最初に口にした言葉はこうだった。
「トリスタンの第二射が、〇・七秒遅かったな」
私は危うく席から転げ落ちそうになった。
「……あんたは鬼か?」
「違う」飛田はひどく平静だった。「私は艦長だ」
「時と場合によっては、その二つに大した違いはない」
私は小声でぼやいた。 ジェスが横で、まったく遠慮のない笑い声を上げた。
飛田には当然聞こえていただろうが、彼は追及せず、私の目の前にある火器管制コンソールを指差した。
「第一ラウンドの戦績が良かったのは、君が天才だからではない」
「……どうも」
「君が昨日、本当に頭に叩き込んだからだ」彼は言った。「それに、イゾルデの第一射が中和された後、慌ててエネルギー兵器で強引に叩き続けようとしなかった。その判断は正しい」
私は瞬きをした。 正直なところ、飛田の口から称賛に近い言葉を聞くのは、極寒の地で熱帯のフルーツが実るのを見るくらい珍しい。 そして、少し恐ろしい。
「だが、ウォンバットの散布が直線的すぎた」彼の次の一言が、その珍しさを即座に粉砕した。「相手が六機ではなく八機だったなら、右舷側を抜かれていたぞ」
……よし、やはりこの男だ。 私は一瞬にして安心した。 真紀が首を向けて私を一瞥した。口角が少し動きかけているように見える。 彼女が笑いをこらえているのではないかと、私は強く疑った。
そしてまさにその時、システムの合成音声が再び響いた。
「I-1558プラン、第一交戦ラウンド終了」
私が安堵の息を半分吐き出した直後だった。
「第二交戦ラウンドへ移行します」
その半分の息が、喉の奥で完全に詰まった。 DがCIC側で白々しい悲鳴を上げた。
「嘘だろ、まだ第二ラウンドがあるのか?」
飛田が彼の方を見た。絞首刑の執行書を差し出す直前のように、ひどく和やかな語気だ。
「それとも何か? 帝国軍がお前たちの第一ラウンドの勝利を見て、ご丁寧に一隻ずつ順番に的になりに来てくれるとでも思ったか?」
「……思いません」
「なら黙って続けろ」
艦橋全体が再び引き絞られた。 目の前で更新され、新たな敵影を生成し始めた戦術マップを見つめながら、私は唐突に、昨晩のあの隈はまだ深さが足りなかったかもしれないと思い始めた。 なぜなら、これはまだ第一試合に過ぎないのだから。
そして私はすでに理解し始めていた。 なぜ本物の戦術長が、単に兵装に詳しいだけの人間では務まらないのかを。
兵装を知っていることなど、ただの入場券に過ぎない。 本当に厄介なのは―― 全員が自分に注目し、次にどの刀を抜くかを決めるのを待っている状況下で、自分の手を震わせることなく、この席にしっかりと座り続けなければならないということだ。
私は乾いた唇を舐め、再び火器管制コンソールに手を置いた。 上等だ。 来い。 飛田がどうしても私をこの席に座らせたいというのなら、少なくとも、シミュレーションが私を殺しに来るまでは持ち堪えてやる。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




