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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:士官学校
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97. 対艦戦闘シミュレーション 1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

艦橋に入って、最初に目に飛び込んできたのはアッシュだった。 彼はすでに到着していた。


飛田艦長の予備の制帽に呪いじみたバフでもかかっているのか、上院の制服を着たアッシュが艦橋後方中央の一番高い艦長席に端然と座っている姿は、遠目に見ると、いっそ様になっていた。


映画のポスターにあるような、風にマントをなびかせるような格好良さではない。 そうではなく――「ああ、この人が今『面舵いっぱい!』と叫んだら、とりあえず全員がその通りに動くだろうな」と思わせるような、説得力のある佇まいだ。


私はその場に立ち止まって二秒ほど見つめ、ひどく微妙な悔しさを覚えた。 この世界は本当に不公平だ。


帽子を一つ被っただけで、オーラがその場で三十分増しになる人間がいる。 一方、昨晩は魂が分離しかけるほど暗記に苦しんだ私が、今日受ける待遇といえば――


「……」


私は前方左側の自分の席を見下ろした。 上等だ。本当に素晴らしい。 誰かが――飛田本人か、あるいはジェスが共犯だと合理的に疑っているが――ご丁寧に白い紙とペンでメモを書き、操作コンソールの正面にきっちりと貼り付けていたのだ。


『戦術長』


紙は普通の白紙で、文字はやけに几帳面だった。 その几帳面さが、剥がして丸めて誰かの口にねじ込みたくなる衝動を煽る。


「どうしたの、戦術長閣下?」


ジェスの声が左斜め後ろから悠然と漂ってきた。早朝限定の、ひどく殴りたくなる響きを伴って。 私は振り返りもしなかった。


「今、お前と口論する気力はない」


「なら、昨夜の特訓は本当に効果があったみたいね」彼女は機嫌よく自分の席に座った。「今日のあなたの隈、すごくプロフェッショナルな感じがするわ」


「どうも。私がこのあと過労死したら、遺書の筆頭にお前の名前を書いてやる」


「それは感動するわね」


この女にはやはり心がない。


私はデータパッドを自分の席に置き、改めて艦橋全体の配置を見渡した。


ロイは座っていなかった。 彼の操舵席は元々艦長席の右前方にあり、半ば立ち姿勢で操作するように設計されている。


今、彼は片手を舵輪に添え、もう片手を機関テレグラフの横に置き、肩の線を真っ直ぐに張っていた。試験開始三十分前に会場に引きずり込まれたのに、とりあえず鉛筆を真っ直ぐに置くことを決意した模範受験生のような姿だ。


そして彼の横には―― 真紀がいる。 彼女は副長席には座らず、ロイの右斜め後ろ、半歩ほど下がった位置に静かに立っていた。


前方メインスクリーン、操舵コンソール、そして後方の艦長席を同時に視界に収められる絶妙な立ち位置だ。 その立ち位置は完璧だった。


出しゃばらず、邪魔にならず、余計な動きもない。 だが、あまりにも自然にそこにいるため、一目見ただけで「ああ、副長は元々ここに立つべきなのだ」と納得させられる。


左舷側は、前から順にレーダー、通信、そして戦術員席が並んでいる。 本来のレーダー手であるマニー大尉は、予想通り今日は姿を見せなかった。


シミュレーション演習のプロセスから外され、休暇を与えられたのだろう。あるいはもっと正確に言えば、私たち学生が「本物のプロフェッショナルが隣に立つと、呼吸の音すら勝手に小さくなる」という感覚を、早々に味わわずに済むように配慮されたのだ。 だから今、その席に座っているのは――アカリだ。


彼女が座るのを見た瞬間、私の最初の反応は意外にも「安堵」だった。 よし。 Dでさえなければ。 誰でもいい。


Dに個人的な恨みがあるわけではない。 ……いや、文句は山ほどある。 だが、警報が鳴った瞬間にまず口笛を吹くような人間にレーダー席を任せれば、雪風全体が精神的な意味で半分沈没するような気がするのだ。


蘭が通信席に座る際、ほとんど音はしなかった。ただうつむいてヘッドセットと周波数パネルを調整する動作は、彼女が元々そこに属しているかのように手慣れていた。


対照的に、ジェスが戦術員席に座るときは、わざわざ椅子を後ろに引いてから、悠然と滑らせて戻った。


その一連の動作には、「あなたが今緊張しているのは知っているから、私はリラックスして座ってあなたを苛立たせてあげる」という忌々しい余裕が透けて見えた。


CIC側はすでに稼働を始めている。 エヴリン、D、ハーヴィーが三角形の陣形を組み、アカリはレーダー席にいるためそちらには加わっていないが、情報リンク全体からはすでに非常に危険な活性が漂っていた。


Dが投影パネルを眺め、ハーヴィーがパラメーターを照合している。エヴリンはまだ一言も発していないが、そこに立っているだけで「今日、この区画が静かになることは絶対にない」と思わせる威圧感があった。


上等だ。 本当に様になるのは、決して設備そのものではない。 人がそこに立った瞬間、そのポジションが唐突に人を喰らいそうな圧力を放ち始めるのだ。


「よろしい、様になってきたな」


飛田艦長は中央に立ち、ぐるりと周囲を見渡し、自分が組み上げたばかりの高危険度教育機材を鑑賞するかのように満足げに頷いた。


彼の目には、今の私たちが学生ではなく、電源を入れたばかりの新型模擬受難システムに見えていると合理的に疑わざるを得ない。 彼は顔を上げ、メインシステムに向かって口を開いた。


「コンピューター、本艦はこれよりシミュレーション演習を開始する。I-1558プランを適用」


艦橋の天井から、無機質なシステムの合成音声が即座に返ってきた。


「了解しました。I-1558プランを実行します」


次の瞬間、艦橋全体の照明がわずかに落とされた。 メインスクリーンの前方に広がる星海の投影が一度リセットされ、平穏だった外部空域が淡い青色のグリッドで覆われ、瞬時に戦術マップへと展開される。


複数の友軍識別ポイントが点灯し、いくつかの民間航路が同期して浮かび上がる。遠方には希薄なデブリ帯が、怠惰に漂う灰の層のように広がっていた。 アッシュは明らかにまだ慣れていない制帽を軽く押さえ、いつもより少し低く、落ち着いた声で口を開いた。


「総員、配置につけ」


よし。 本当に始まった。 私は戦術長席に身を沈めた。目の前で火器管制、兵装、脅威解算のインターフェースが次々と展開されていく。


昨晩私を棺桶に送りかけたあの兵装名たちが、今は教本の上の単なる文字列ではなく、システムのリストの中に大人しく収まっている。


なぜか、それらが実際に操作パネル上に現れたのを見て、私はかえって少し安心した。 人を害するような代物でも、ボタンとパラメーターという具体的な形になれば、教本の中で呪文のように並んでいる時よりもずっと親しみやすく感じるからだろう。


「シミュレーション開始」システム音声が響く。「本艦は現在、第三航路中継エリアに接近中。周辺空域は正常。民間船のシグナル八、連邦識別シグナル三、中継ブイ二を探知」


「レーダーエコー確認」アカリが最初に声を出した。語気は極めて乾いている。「近距離に異常な高速接近物なし。デブリ帯は安定。航路クリア」


「通信正常」蘭が言う。「民間航路情報の同期完了。友軍識別コード照合中」


「CIC、戦術マップを確認」エヴリンが続く。


序盤がスムーズすぎて、現実味がない。 そう思っていた矢先、飛田が横で口を開いた。その語気には、ひどく殴りたくなるような悠長さが混じっていた。


「喜ぶのは早いぞ。I-1558はサービス問題ではない」


心臓が嫌な音を立てた。 やはり。 この男が本当に正常なスタートを用意してくれるなら、そっちの方が異常だ。


次の瞬間、警報音が鳴った。 全艦に響き渡る赤色警報のような耳障りな長音ではない。 短く、甲高く、聞いていると背筋が粟立つような音だ。


「異常シグナル発生」システムの合成音声が報告する。「右前方七時方向、中距離識別シグナルが二つ追加されました。連邦補給護衛部隊と標識。IFF検証中」


「待って」蘭が即座に眉をひそめる。「補給護衛部隊? この航路に今日、予定された補給の移動はないわ」


「レーダーで捕捉した」アカリの指がパネル上を高速で滑る。「でも、変」


アッシュがすかさず問う。


「何が変だ?」


アカリの声は低く平坦だった。


「エコーはある。熱源もある。でも質量曲線がおかしい。本物の船のようでもあり……誰かが意図的に捏造した本物の船のようでもある」


「シグナル欺瞞だ」CIC側で、ハーヴィーが素早く最初の判断を下した。「IFFフォーマットは表面上は正しいが、パケットの送信リズムが綺麗すぎる。教科書みたいで、生きた人間らしくない」


Dが即座に口を挟む。


「要するに、本物っぽすぎて逆に胡散臭いってことか?」


「よく理解できたな」ハーヴィーが言う。


「俺だってたまには頭を使うんだよ」


「静かに」


真紀が一言で制圧した。 声は高くないが、十分に重い。 艦橋は即座に作業状態に戻った。


私は戦術スクリーンを睨みつけた。新たに追加された二つの識別ポイントは、右前方にしっかりと張り付いている。


航行速度は遅く、進路も攻撃的ではない。それどころか、わざと「ただ通り過ぎるだけです」という安全な姿勢を維持している。 だからこそ厄介なのだ。


本物の敵が堂々と突っ込んでくるなら、判断に迷うことはない。 一番腹立たしいのはこういう手合いだ―― 何一つ間違ったことはしていないのに、あらゆる行動が「正しすぎる」ように見える。


蘭が素早く通信記録を呼び出す。


「相手からアクティブなハンドシェイク要求を受信。連邦第七補給護衛フォーマット、当番識別コード付き」


「読め」アッシュが言った。


蘭が文字列を読み上げる。 私はそれを聞きながら、どこか気持ち悪さを感じていた。 内容ではない。 リズムだ。 その文字列はあまりにも完璧だった。あらかじめ用意された解答用紙のように。


「戦術席、意見は?」アッシュが振り返って私に問う。


上等だ。 昨日、目が落ちそうになるまで徹夜した甲斐があった。今日、最初に私に発言を求めてきたのは、飛田の帽子を被った艦長席だ。 私は息を吸い込み、視線を再び画面に戻した。


「現時点での兵装ロックオンは推奨しません」私は言った。「欺瞞シグナルであるなら、相手は今、こちらが先に焦るのを待っているはずです。まずは奴らが我々をどこへ誘導しようとしているのかを見ます」


ジェスがほぼ同時に続く。


「同意。奴らの進路は安全ですが、位置取りが意図的です。ちょうど本艦と中継ブイの間に挟まっています。我々が識別コードを追って動けば、注意力を右前方に引っ張られます」


「つまり」真紀が淡々と補足した。「問題は、その二点にあるとは限らない」


アッシュが頷く。


「ロイ、現在の速度を維持。追尾するな。進路を外れるな」


「了解」ロイの手は、舵輪に溶接されたかのように微動だにしない。


飛田は横に立って手出しはせず、ただ軽く眉を上げた。 その表情を人間の言葉に翻訳するなら、大体こんなところだ。 ――ほう、少なくとも開始早々自滅することはなかったか。


次の瞬間、CIC側で唐突に声が上がった。


「新たな接触コンタクト!」Dが叫ぶ。「左後方のデブリ帯の縁、小型目標が三つ! IFFなし、熱源極めて低い!」


「レーダーで先に捕捉できなかったのか?」アッシュが眉をひそめる。


「さっきまでデブリの背景ノイズと重なっていたから!」アカリの指が高速でエリアマップを拡大する。「くそ、シグナル遮蔽と熱源低下の組み合わせだ! 前の二隻はやっぱり囮だった!」


蘭のコンソールに、瞬時にまた別のシグナルが飛び込んでくる。


「右前方の二つの護衛シグナルが増強開始。本艦に対して優先識別要求を送信中――」


「無視しろ」真紀が言った。


「通信は録音を維持。応答するな」アッシュが命じる。


よし。 ここまで来れば、匂いがわかってきた。 これは単なる敵探しではない。 誰が先に「合理的な偽象」に振り回されるかを見ているのだ。


私は左後方に姿を現したばかりの三つの小型目標を睨みつけた。喉は少し乾いていたが、頭はかつてないほど冴え渡っている。


昨晩のあの資料の山、弾種、射界、制限事項が、今ようやく、人を苦しめるだけの古代文字ではなく、本物の思考プロセスとして組み上がり始めていたからだ。 相手が低熱源の小型機動目標で、しかも意図的にデブリの背景を利用して接近してきているなら、奴らの狙いは威嚇などではない。それは――


「近接防御、優先待機。『ウォンバット』装填」


私はほとんど本能的に口を開いていた。 言い終えてから、自分でも少し呆気にとられた。 ジェスが即座に私を振り返り、目を輝かせた。 真紀は私を見ず、ただひどく静かに一言だけ言った。


「よろしい」


……終わった。 今の彼女がこういう場面でその一言を口にするだけで、私の脳内のどこかが、ひどく情けないことに先に熱を帯びてしまうのだ。


飛田艦長は艦橋の一番後ろに立ち、腕を組み、ようやく満足したかのように笑った。 その笑みは、誰かが不幸な目に遭うのを喜ぶものではない。 別の種類の―― よし、こいつらもようやく一隻の船らしくなってきたな、という笑みだ。


その時、システムの合成音声が再び響いた。


「I-1558プラン、第二段階起動。広域スペクトル妨害の増強を探知。外部友軍識別ネットワークに遅延が発生し始めています」


艦橋全体が半秒間静まり返った。 目の前の戦術マップ上でわずかに点滅し始めたマーカーを見つめながら、私の心には一つの思いしかなかった。 ……上等だ。 どうやらこれは、まだ前菜に過ぎないらしい。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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