09. 痛覚耐性訓練 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
残念ながら、連邦は兵士の主観的な意思でプロセスを調整することはない。
一本目が入ったとき、左腕全体がびくりと張った。
そこまで痛いわけじゃない。戦場で飛び交う破片に比べれば、この細い針は蚊がナイフを持ってくる程度だ。ただし、問題は一刺しで終わらないことだ。薬剤が血管に入ると、まず冷たさが腕を這い上がり、続いて誰かが胸に砕いた氷を押し込んだような感覚が来て、心拍が半拍だけ跳ね上がった。
モニターに即座に数字が走る。
シュタイナー博士は身を屈めて観察し、淡々と記録する。
「心拍数九パーセント上昇。瞳孔正常。発疹なし。」
私は歯を食いしばって彼を見る。
「今の自分が、学生の作文で主人公に殺される悪役みたいな顔してるって自覚ある?」
「すなわち、連邦教育にはまだ多少の想像力が残っているということだ。」彼はそう言って、二本目を取り上げた。
「ちょっと待って、まだ——」
プス。
二本目が刺さった瞬間、今度は熱だった。
発熱の熱じゃない。誰かが脊椎の底部でマッチを擦り、神経に沿って一気に燃え上がったような熱だ。反射的に息を吸い込み、肩を動かそうとしたが、固定具にがっちり押さえつけられた。
「体温〇・六度上昇。」博士は数値を読み上げる。「軽度の震え。許容範囲内。」
「あなたたち連邦は……」私は歯をきしませながら言った。「普段、どんな基準で『許容範囲内』を決めてるんですか?」
「死ななければ、たいていは許容範囲だ。」
……なるほど。
実に連邦らしい答えだ。
三本目のあと、指先がじんじんしはじめた。四本目では視界の端がほんのり白く霞み、五本目に至っては、耳の奥で軽いハウリングが鳴り始めた。戦艦の警報を毛布でくるんで、響きだけ残した感じだ。
息を整えながら、表情だけは何とか崩さないように踏ん張る。
少女の自尊心は脆い。
特に、帝国の残党みたいな見た目で、自分の人生設計より白衣の折り目のほうが整っているキチガイ科学者の前では。
「痛みに強いな。」博士は薬剤を調整しながら淡々と言った。
「どうも。」私は冷笑した。「物心ついた頃から、一番人を痛めつけるのが帝国じゃなくて連邦だってことはよく知ってるもんで。」
彼は薬を押す手を止めもしないで、わずかに目を上げて私を見た。
「結構だ。喋れるということは、意識はまだはっきりしている。」
「私を何だと思ってるの、医学生の教材?」
「より正確に言うなら、高価値の作戦サンプルだ。」
思いっきり白眼を剝いた。
やっぱりだ。
ここでは褒め言葉ですら、機械部品の査定みたいな響きになる。
六本目のあとで、本格的に面倒な反応が出た。
左前腕の皮膚がまずチクチクし、そのあとに小さな赤い斑点が浮かんできた。大惨事というほどではない。安物の洗剤でかぶれたみたいなレベルだ。ただ、このタイミングで出てきたのが腹立たしい。私はその赤みを見つめ、死より原始的な悲鳴が心の中で上がるのを感じた。
やめろ。
発疹はだめだ。
顔は論外として、腕もできれば勘弁してほしい。せっかくまだ人間の形を保っているのに、連邦のせいでアレルギー体質にされてたまるか。
「反応が出たな。」博士の声には、珍しく満足が少し混じった。「いい、実にいい。」
「どこがいいんですか。アレルギー出てんだけど!」
「データに分解能が生まれるということだ。」
「やっぱり病気だよね?」
彼は少し笑った。
普通の人の笑いとは違う。長年温めていた理論が初めて実証されたときに、神経がうれしそうに震えるあのタイプの笑いだ。
「そうだ。よく言われる。」
……ちくしょう。
自覚してやがる。
そして一番やっかいなのは、自分が病気であることを素直に認めるタイプの人間は、本当に重症のことが多いという事実だ。
彼は私の腕のそばの感応パッドを数回タップした。機械アームがするりと伸びてきて、ひんやりした透明なスプレーを噴射する。チクチクはすぐに引き、薄い赤みだけが残った。
「記録。」彼はシステムに向かって言った。「第三種代謝促進複合剤、軽度接触性アレルギー。禁使用リストに追加。」
私はようやく一息ついた。
「じゃあ、終わり?」
「いいや。まだ一ラウンド目だ。」
身体ごと固まった。
「一ラウンド目とかあるの!?ここ、薬物試験やってるの、それとも料理コンテスト?」
「安心しろ。次からは早い。」博士は言った。「君の神経反応のレンジは、大体掴めた。」
「その一言のどこに安心要素があるわけ。」
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二ラウンド目は、一ラウンド目より数段タチが悪かった。
今度の目的はアレルギーチェックだけじゃなく、神経の耐性と回復速度の測定だった。注射のあと、背後の背もたれから二本のケーブルが伸びてきて、後頸部とこめかみに貼り付いた。モニターいっぱいに波形が走るのを見て、私は一つだけ悟った。
ああ、私は今日、報到に来たんじゃない。
分解検査に出されに来たんだ。
ある剤が入った直後、目の前の世界が一拍遅れた。
比喩じゃない。本当に一拍遅れた。
博士の腕の動き、装置の光点の点滅、奥のセンサーの回転——全部が透明なシロップに浸したみたいに粘っこく、遅くなり、それでいて異様にはっきり見える。博士の眼鏡のレンズに映った光が一度きらりとして、それからゆっくり流れていくのさえ見えた。
「時間知覚の延長。」彼の声が、遠くのほうから聞こえてくる。「結構。」
私は口を開き、自分の声すら半拍遅れているのに気づいた。
「……あんたら……マジで……一回壊してから直すの……好きだよね……」
博士は私を見下ろし、その薄い青い目を実験室の照明並みに冷たく光らせた。
「違う。」彼は言った。「連邦軍にそこまでの贅沢はない。我々が好むのは、もとから壊れかけている人間を、もう少し有用な壊れ方に調整することだ。」
その一言で、薬漬けの半分ボケた頭でも、彼のウールのベストに向かって血の一杯でも吐きかけてやりたくなった。
残念ながら吐かなかった。
その代わりに、笑った。
軽く、乾いていて、性格の悪い笑いだった。
「博士。」私は言った。「あんたみたいなの、恋愛小説に出したら、ヒロインを塔に閉じ込めて毎日血圧測る超絶変態のポジションだよ。」
彼はわずかに眉をひそめた。
「私は恋愛小説は読まない。」
「見りゃ分かるよ。」私は息を切らしながら言った。「だから初対面で女の子を椅子に縛り付けたら印象点が地の底まで落ちるってことも知らないんだ。」
彼は二秒黙り、それからその一言を本当に記録に残した。
「注記:被験者は高圧および軽度薬理失真下でも、言語反撃傾向を保持。対人攻撃性が高く、羞恥心は維持されている。」
私は目を見開いた。
「最後の一文、どういう意味だ!」
「意味するところは、君がまだ自分の印象点を気にしているということだ。」彼は平然と答えた。
「それは人として最低限のマナーだからな!」
「ここでは、マナーは必須資産ではない。」
「じゃああんたのその性格から真っ先に廃棄してこいよ!」
彼は私を無視し、最後の薬剤カートリッジをトレイに戻して注射モジュールを切った。
データパネルの波形がゆっくりと安定していく。
そのとき初めて、自分の背中が薄い汗でびっしょりなのに気づいた。指先もかすかに震えている。怖いからじゃない。神経をごりごりかき回されたあと、身体がやっと「文句」を思い出した震えだ。
シュタイナー博士は一通り結果を眺めて、ようやく頷いた。
「よろしい。予測よりも安定している。」
「ありがとうよ。」私は力なく言った。「気絶しかけた人間に向かって『安定している』なんて言葉を褒め言葉として使う奴、人生で初めて見た。」
彼は手袋を外し、一方に置いた。
「君は気絶していない。」彼は訂正する。「ここは重要だ。」
「だから?」
「だから、前の個体より耐久性が高い。」
部屋の空気が一秒、止まった。
私は瞬きをした。
「……今、なんて言った。」
博士は自分がとんでもないことを口にした自覚もなく、資料パッドに視線を落とした。
「大した意味はない。旧データだ。」
ちくしょう。
旧データだと?
この場所には、明らかに私の前にも誰かがいた。そして「前の」と言うからには——その人が今どうなっているか、知りたいとはまったく思わない。
やがて、椅子の固定具がカチリと音を立てて外れた。
私はほぼ反射で立ち上がろうとし、しかし膝に力を入れた瞬間、足が抜けて前のめりに倒れかけた。
博士が支えた。
私は条件反射で身体を引いた。
「触るな。」
「安心しろ。」彼は淡々と言った。「今日必要なデータは、すでに揃っている。」
この一言が、さっき支えられたことより腹立たしい。
私は椅子の背を掴んで立て直し、大きく息を吸って、あまりに冷静なその顔を睨んだ。
「で、テストの結果は?」
「禁忌が三種、減量が五種、使用可能が十一種、優先適合が二種。」彼は淀みなく答えた。「総じて、神経薬剤に対する耐性とストレス適応性は高く、疼痛閾値も高い。回復速度も良好。つまり——」
彼は目を上げ、薄い青の視線を私にぴたりと合わせた。
「君は、これからの課程に非常に向いている。」
二秒黙った。
そして一言だけ吐いた。
「……今から返品って間に合う?」
博士はその夜初めて、「楽しそう」と言っていい笑顔を見せた。
その笑顔は薄いのに、さっきの注射より悪い予感がした。
「残念だが、星野一等兵。」彼は言った。「転属命令にサインした瞬間から、君はもう返品可能な商品じゃない。」
彼は内側のコンソールへ戻り、さっきの一連の反応データをメインシステムに流し込んだ。スクリーンが光り、青白い文字列が一行ずつ浮かび上がる。判決文みたいに冷たい字面だ。
私はその場に立ち、腕に残る小さな刺し跡と赤みを見下ろしながら、ただ一つの結論に辿り着いた。
六A倉ですら、地獄にかなり近いと思っていた。
が、違った。
あそこはせいぜい地獄の待合室。
本当に連邦が人間を兵器に加工し始めるのは、ここからだ。
シュタイナー博士は振り返らず、側面のドアを指差した。
「宿舎は廊下の一番奥、左に曲がって二番目の部屋だ。食堂カードは今夜から使用可能。明朝〇六三〇、ここに戻ってこい。最初の課目を始める。」
私は眉をひそめた。
「最初の課目?」
彼は半拍だけ間を置いてから、通報を受けたほうがいいレベルの穏やかな声で答えた。
「疼痛管理だ。」
……ちくしょう。
やっぱりな。
彼の背中を睨みつけながら、レオ・ヴィスラン大佐、第一特別運用科、統合作戦司令部、ついでに杜南星丸ごとを心の法廷に引きずり出して、揃って即時銃殺判決を下した。
残念ながら、その法廷には執行力がない。
だから私はただ、まだ痺れの残る手首を揉みながら、歯を食いしばって宿舎の方向へ歩き出すだけだ。
ドアのところまで来たとき、背後で博士が書類をめくる音がした。続いて、独り言のように一言。
「そうだ。」
振り返る。
彼は眼鏡を押し上げ、淡々とこちらを見た。
「星野一等兵。」
「何。」
「今夜はコーヒーを飲むな。心拍がまだ基準値まで下がっていない。」
私は一瞬固まった。
そして、さらに腹が立った。
「人をこんな目に遭わせておいて、コーヒー飲むなって?」
「命令ではない。」彼は言った。「明日のサンプル品質を確保しているだけだ。」
……よし。
素晴らしい。
この老いぼれクソ野郎、最後の一言ですら機材のメンテナンスマニュアルみたいな言い方しかしない。
私は無表情のまま、あまりお行儀のよくないハンドサインを一つお見舞いしてから、ドアを開けて外に出た。
扉が背後で閉まった瞬間、私は冷たい廊下の壁に背中を預けて、長く息を吐いた。
手が震えている。
足も多少はガクガクだ。
頭の中は、金属製のスプーンでぐりぐりかき混ぜられたあとみたいだった。
でも、一番ひどいのは——
それでもまだ死んでいないことだ。
さすが連邦。拷問ですらサステナブル運用を心がけている。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




