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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
士官学校編
309/337

96.戦術長  1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

飛田艦長の「よし、残りの配置を埋めようか」という言い草は、まるで鍋に具材を放り込むような響きだった。


問題なのは、私たちが鍋の具材ではないということだ。 これから艦橋シミュレーターに放り込まれ、誰が一番先に煮崩れるかを見物される哀れな学生である。


「さて、次だ」


飛田は箱に手を突っ込み、縁を叩いた。ひどく不吉なカサカサという音が鳴る。


「『操舵』を引いたのは誰だ?」


ロイ・ハルトマンが手元の紙切れを見下ろし、手を挙げた。


「自分です」


「よろしい、操舵手」


飛田は頷いた。市場でそこそこ形のいい大根を見つけたような顔だ。


「雪風という艦において、操舵手に格好良さは要らない。必要なのは安定だ。敵艦が正面から突っ込んできても手元を狂わせるな。私が転舵の口令を掛けても小賢しい真似はするな。隣でDが喚き散らしても、艦を曲芸飛行させるな」


ドワイト・「D」・バークリーが即座に手を挙げて抗議した。


「なんで俺はいつも反面教師扱いなんですか?」


「お前が典型例だからだ」


飛田は顔色一つ変えない。


艦橋の全員が笑った。


ロイは真面目に頷き、「操舵」と書かれた紙を折りたたんでポケットにしまった。急遽風紀委員に任命され、それでも渋々やり遂げようとするような生真面目さが顔に出ている。


飛田が次を引く。


「通信」


蘭・ヴァイスは自分の紙切れを見て、短く「うん」とだけ言った。挙手すら省き、そのまま紙を全員に向けて裏返して見せる。


飛田は彼女を一瞥し、意外にもかなり満足げな表情を浮かべた。


「よろしい。通信士官に最も必要なのは、甘い声でもなければ流暢な発音でもない。口数が少なく、正確で、速いことだ。戦場の通信は抒情詩を朗読するためのものじゃない。回線で余計な芝居を打つ奴は、黙らせてから切れ」


ジェス・マッカロウが私の隣で、あからさまに舌打ちをした。


飛田が即座に首を向ける。


「どうした、ジェス。何か意見でも?」


「いいえ」


ジェスは無実を装って笑った。


「通信回線の未来に黙祷を捧げていただけです」


「なら、ついでに自分の未来にも黙祷しておけ」


飛田が言った。


私は、この男は今日やけに機嫌がいいのではないかと疑い始めた。 彼が一言発するたびに、私たちの頭上へついでとばかりに土が一杯ずつ掛けられているような気がするからだ。


「戦術員」


ジェスが手元を見下ろし、私の目の前で紙切れをひらひらと揺らした。 そこにはまさにその文字が書かれている。 彼女は口角を上げ、首を傾けて私を見た。


「あら、星野」非常に意地の悪い笑みだ。「私たち、同じ部署ね」


崖っぷちから這い上がった直後に、これから猿とパラシュートを共有しろと宣告されたような気分だった。


飛田は私の顔に浮かんだ絶望など欠片も視界に入っていないかのように、愉快そうに追撃を掛けた。


「戦術員は戦術長の手であり、目であり、口だ。もっとも、口に関しては君は元々十分に足りているがな」


彼はジェスを見て言う。


「データ報告は迅速に、火器管制の修正は正確に。戦術長が死にかけていたら、コンソールの前で揺さぶり起こすのが君の責任だ。横で実況解説することではない」


「善処します」ジェスは言った。


その「善処」には一ミリの信憑性もない。


「主任機関長」


アイダ・ローゼンが紙を裏返したときの動作は、遅かれ早かれ自分が尻拭い役のポストに突っ込まれると最初から予期していたかのように平然としていた。 飛田はその紙を見て、あっさりと頷く。


「よし。主任機関長は、最も修理が上手い人間である必要はない。今、何が絶対に壊れてはならないかを最も理解している人間だ。警報が鳴ったとき、他人は慌ててもいいが、君は駄目だ。他人は叫んでもいいが、君はあと何秒で爆発するかだけを報告しろ」


アイダは淡々と返した。


「了解しました」


上等だ。 こういう人間が主任機関長なら、少なくとも爆発する時には悲鳴より先に座標を報告してくれるだろう。


次はCICだ。 飛田が残りの紙を一枚ずつめくっていくと、艦橋の空気にほんの少し、奇妙な歓楽の色が混じり始めた。 なにせCICに座る四人は、単体でもそれぞれ問題を抱えているうえ、一箇所にまとめれば互いに着火し合うような組み合わせだったからだ。


エヴリン・サド。 アカリ・フラック。 D。 ハーヴィー・ノックス。


この配置を見て、最初に頭に浮かんだのは「これで安心だ」ではなく、「本日の雪風戦闘指揮所はさぞかし賑やかになるだろうな」だった。


だが飛田はこの結果に満足しているようで、手を一つ叩いた。自分が仕込んだ番組の演出が思い通りに決まったのを見届けるような顔だ。


「よろしい。CICはモニターを見て呆けるための場所ではない。あらゆる断片的な情報を、最短時間で使い物になる形へ組み上げる場所だ。誰が何を見て、誰が先に報告し、誰が統合し、誰が優先順位を判断するか。その手順が一つ欠けただけで人を殺すことになる」


彼はまずDを見た。


「特にお前だ。CICを競馬の実況席にするな」


「そんな大袈裟な」Dは被害者のような顔を作った。


飛田は次にハーヴィーを見た。


「お前も、『全員黙れ、俺が計算する』という顔をするな。CICは個人の研究室じゃない」


ハーヴィーは眼鏡を押し上げ、ひどく静かに頷いた。


「了解」


飛田はエヴリンとアカリへ視線を移す。


「そして君たち二人だ。意見の対立は構わないが、シミュレーション中に神様の座を奪い合うような真似はするな」


アカリが眉をぴくりと動かす。 エヴリンはただ、わずかに目を細めただけだった。


すでにその光景が目に浮かぶ。 CICで警報が鳴り響き、データが乱高下する中、Dが横で減らず口を叩き、ハーヴィーが計算に没頭し、アカリとエヴリンがそれぞれの正しさを武器にして互いを攻撃し始める。


良いニュースは、極めて戦場らしい臨場感があることだ。 悪いニュースは、臨場感がありすぎることだ。


最後の一枚。 飛田は手元の紙切れを見下ろし、珍しくすぐには口を開かなかった。 艦橋が、一秒だけ静まり返る。 そして彼は顔を上げた。


「副長」


九島真紀が手元の紙を見下ろし、無表情のままそれを掲げた。


正直、まったく意外ではなかった。 むしろ、この席が彼女でなかったら、飛田は今日、急に誰かと入れ替わったのではないかと疑っていただろう。


飛田は真紀を見て、口角を上げた。先ほど学生を番組のネタにするように笑ったのとは違う、もっと薄く、真摯な笑みだ。


「副長の実務は、格好をつけることでもなければ、艦長の隣で頷くことでもない」彼は言った。「全員が混乱し始めたとき、どこが一番混乱してはならないかを、誰よりも先に把握することだ」


真紀は頷く。


「了解しました」


「艦長が正しい命令を下せば、君が全艦を動かす。艦長が間違った命令を下したときは――」


飛田はそこで言葉を切った。 艦橋の全員が彼を見ている。 そして彼は、ひどく平坦な声で後半を継いだ。


「彼が艦を沈める前に、君がどうにかして止めろ」


アッシュ・ヴァンダーは予備の制帽を被ったまま、黙って真紀を一瞥し、それから飛田を見た。今この瞬間から副長に監視されて生きるのだと正式に宣告されたような顔をしている。


後ろでDが極めて不謹慎な笑い声を上げた。


「そのポジション、プレッシャーきついっすね、艦長」


アッシュは二秒ほど沈黙し、最後はひどく正直に返した。


「……実感している」


飛田は満足げに手を叩いた。


「よし、配置は決まったな」


私は、てっきりこれで終わりだと思っていた。 全員がくじを引き、それぞれの配置に就き、飛田が艦橋運用の大義名分をいくつか語れば、本日の授業は実技演習に入るはずだと。 私が甘すぎた。 完全に私の落ち度だ。


飛田という男は、表向きは艦橋実習全体をくじ引き番組のように仕立てておきながら、実際には配置を終えたその瞬間から、空気を一変させたからだ。 比喩ではない。 本当に変わったのだ。


「授業前のふざけ合い」から、唐突に「ここからはもう誤魔化しは利かない」という領域へと切り替わったような感覚。 彼はもう笑いながら箱を揺らすこともなく、ふざけた軽口を叩くこともなく、ただ両手を後ろで組み、本物の艦長が新編の部下たちを見下ろすような目で私たちを見た。


「くじ引きは、今日お前たちがどこに立つかを決めただけだ。私が本気で運任せに人員を配置したわけではない」


飛田は言った。


「一人一人に人格テストを受けさせるほど暇ではないが、安定しない奴に舵を任せたり、口数の多い奴に通信を任せたり、ただ立っているだけの飾り物に副長を任せるほど怠慢でもない」


ジェスが即座に手を挙げた。


「最後の言葉は誰への当てつけですか?」


「自覚があるなら、まだ救いがあるということで喜ばしいな」飛田は言った。


ジェスは舌打ちをしたが、それ以上は口答えしなかった。 つまり彼女も、ここから先の授業が本物であることを理解しているということだ。


その後の時間、飛田は私たちを一気にシミュレーターの座席に押し込むようなことはせず、まるで一台の機械を分解するように、一つの配置ごとに説明して回った。 教科書の朗読ではない。 教範通りでもない。 それぞれの配置の「人間」と、その配置における「死に方」を紐づけて語ったのだ。


ロイは操舵席の前に連れて行かれ、飛田に直接コントロールレバーへ手を掛けさせられた。 雪風という艦は転舵が速く、加速も凶悪だが、速ければ命が助かるとは限らない。


時には速すぎることが、火力解算のすべてを台無しにすることもある。操舵手は技術をひけらかすためのものではない。艦全体の兵装と装甲の角度を探るためのものだ、と。


蘭は通信席に連れて行かれ、飛田は即座に大量の模擬回線を呼び出した。 二十秒以内に、友軍、艦内、ダメージコントロール、火器管制、外部広域通信の優先順位を判断させ、そしてひどく静かに言った。


通信士官が一言間違えても、即座に人が死ぬとは限らない。だが大抵の場合、本来死ぬはずのなかった人間を無残に死なせることになるのだと。


ジェスが私の隣の席に立ったとき、彼女の表情には珍しく真面目な色が混じっていた。 飛田が彼女に説いたのは、操作ではなく、リズムだった。 いつ口を挟むべきか。いつ黙っていることがデータ報告よりも高度な支援となるのか。


火器管制の修正を、戦術長の脳内にある第二の神経にするとはどういうことか。 ジェスはそれを聞きながら、驚くべきことにふざけなかった。


私は危うく感動しかけた。 飛田が背を向けて投影画面を切り替えた隙に、彼女が身を乗り出し、小声で私にこう囁くまでは。


「安心して。しっかり補佐してあげるから、戦術長閣下」


私は即座に言い返した。


「補佐はしていい。弔いの準備だけはするな」


アイダの側は、また別の地獄だった。 飛田は彼女に直接三セットのフォルトツリー・シミュレーションを投げつけ、無数の警報の中から、どれが本当に爆発するもので、どれが爆発しそうに見えるだけのものかを判断させた。


彼女の顔は最初から最後まで平坦だった。平坦すぎて、深い水底のように静かだ。こういう人間が主任機関長に座ってくれると、本当に安心できる。


そしてCICのあの塊――いや、失礼、あのグループに関しては――飛田に集団ストレステストの実験台にされているようだった。


Dが軽口を二言叩いただけで遮られ、ハーヴィーが自分で報告をまとめようとした矢先に思考プロセスを口に出すよう要求され、エヴリンとアカリはたった三分で優先順位について意見を対立させ始めた。


飛田はそこに立ち、冷酷な庭師のように、育ち方の違う植物を同じ鉢に無理やり押し込みながら、冷ややかに言った。


「互いを好きになる必要はない。ただ、敵より一秒早く、言葉を正確に伝えろ」


真紀の番になると、飛田の言葉は逆に最も短かった。 長く語る必要のないこともあるからだ。 彼は副長席の横に立ち、彼女を見て言った。


「全艦の全員が、自分の任務こそが最重要だと思い込んでいるとき、副長は、今この瞬間、何が本当に一番重要なのかを知っていなければならない」


真紀は頷く。


「了解しました」


それだけだ。 とても短い。 だが、横で聞いているだけでも、その席の重圧が伝わってきた。


そして、飛田がようやくこちらを向き、私へ視線を向けたとき、私の心にはひどく嫌な予感しか残っていなかった。 案の定だ。


「星野 シモ」


名前を呼ばれたときの声は、やけに穏やかだった。 飛田の場合、この穏やかさは春の訪れを意味しない。 たいていの場合、処刑前の最後の一杯の水を意味する。


「今回のシミュレーション演習、君が戦術長だ」


「……はい」


もう少し気合を入れて返事をしたかった。 残念ながら無理だった。 「戦術長」という三文字が私にのしかかっただけで、すでに肩が重く感じていたからだ。


飛田は兵装投影パネルの前に立ち、手を振った。 艦橋の側壁一面に、ずらりと兵装リストが浮かび上がる。 私はその場で、不吉な既視感に襲われた。 どう見ても、期末試験前夜の悪夢が具現化したような光景だ。


「優秀な戦術長は」飛田は言った。「自艦の兵装を熟知していなければならない。大体知っている、名前を見たことがある、撃ち合いになってから説明書を探す、では駄目だ」


彼が投影パネルを数回タップする。 各種兵装モジュール、射界、装填規格、連動制限、冷却時間が一斉に表示された。


「暗唱できるくらい、完全に頭に叩き込んでおけ」彼は私を振り返る。「そして、どの場面でどの刀を抜くべきかを知っておくことだ」


目の前に並んだ膨大な名前の羅列を見て、魂が鼻腔から逃げ出そうとしているのを感じた。 隣に立つジェスが、ひどく愉快そうな鼻声を鳴らした。


「わお」


見なくてもわかる。彼女は今、祭りにでも参加しているような顔で笑っているはずだ。


「焦ることはないぞ、星野」飛田はあろうことか笑った。首筋が冷たくなるような笑顔だ。「これを理解するための時間は、丸一日ある」


……慰めではない。 死亡宣告だ。


三時間後。


私の脳髄は、一度エアロックから放り出されて宇宙空間を二周ほど漂い、船殻に激突したところを、公徳心のない整備士に拾われ、埃を払って頭蓋骨の中に詰め直されたような感覚だった。 しかも、前後逆に入れられている。


「さて、星野」


飛田は相変わらずあの顔で、警察に通報したくなるほど穏やかな微笑みを浮かべていた。


「九九式・全自動多連装宇宙空間対空誘導弾垂直発射システムには、全部で何種類の弾種があるか答えてもらうぞ」


私は戦術席に座り、額を押さえていた。 目の前の投影パネルはもはやパネルではなく、私を生き埋めにするために用意された墓碑銘の群れに見える。


「……三種類です」私は、息も絶え絶えの声で答えた。


「その三種とは?」


私は目を閉じた。今の自分は学生というより、拷問を受けている宗教の殉教者のようだ。


「対空誘導弾……『秋水』」私は這いずるように言葉を紡ぐ。「対空散弾……『ウォンバット』。対艦大型誘導弾……『パルジファル』」


「よろしい」


飛田が頷く。 ようやく終わった、と言いかけた。 だが彼の次の一言が、私の希望を踏みにじった。


「あと二問だ。答え終わったら授業終了とする」


私はゆっくりと顔を上げ、悟りを開きかけたような表情で彼を見た。


「あんた、二時間前にも同じこと言っただろ……」


ジェスがその場で手すりに突っ伏して笑い声を上げた。


「星野、そのセリフ、三十分前にも聞いたわよ」


「こいつが三十分前にも私を騙したからだよ!」


飛田はまったく意に介さない。 それどころか、私が文句を言い終わるのを根気よく待ってから、再び親切な口調で問いかけた。


「魚雷発射管を開放した際、起動してはならない兵装は?」


私はほとんど本能で答えた。


「艦首中軸主砲……」


「名称は?」


絶対にわざとだ。 この世で最も長く、最も忌々しく、学生の記憶力を侮辱するためだけに作られたような命名規則は、間違いなく連邦海軍武装開発部に集中している。 私は最後の力を振り絞り、遺言を残すようにその文字列を吐き出した。


「超高エネルギー正負電子対消滅崩壊砲……」


飛田が眉をひそめる。 私は歯を食いしばり、呪いにしか聞こえないその別名を付け足した。


「……『タンホイザー』」


言い終えた瞬間、私は自分がすでに死んだのだと思った。 比喩ではない。 精神的に、あの兵装名の羅列に正面から撃ち抜かれ、宇宙の塵となってきれいに蒸発したのだ。 艦橋が一秒だけ静まり返る。 続いて、ジェスが真っ先に拍手をした。


「おめでとうございます、戦術長閣下。見事な生還です」


「生還してないと思うけどな」Dがいつの間にかCICの方からふらりとやってきて、私の斜め後ろで腕を組み、ひどく無責任な鑑賞者の顔をしていた。「今の彼女は、発声機能を維持しているだけの教育用標本って感じだ」


「同意する」ハーヴィーが言った。


私は睨みつける気力すら失い、力なく額をコンソールの縁にぶつけた。


「お前ら、絶対に覚えておけ。いつか本当に砲火を交える日が来たら、誰がここでタンホイザーを暗記してやったかをな」


「ええ」ジェスがニコニコしながら言った。「感謝の心を胸に、あなたが砲を撃つ姿を見守るわ」


「じゃあ、まずは一発目をお前の顔面に叩き込んでやる」


「怖い怖い」彼女はひどく楽しそうだ。


そのとき飛田がようやく、どこから取り出したのかもわからず、なぜか毎回私の精神の脆い部分を的確に殴りつけてくるその教本を閉じ、満足げに頷いた。


「よろしい。今日はここまでとする」


私は感動のあまり泣きそうになった。 だが次の瞬間、彼は周囲で見物している学生たちに向かって、極めて親切な口調で言った。


「星野を担いでいっていいぞ」


艦橋の全員が一秒静まり返り、そして爆笑が起きた。


私は腕の中に顔を埋め、諦めと呪詛が混ざったような呻き声を漏らした。


「……自分で歩ける」


「でも、担がれた方が絵になるだろ」Dが言う。


「今日の戦術長の自己犠牲精神にもぴったりだしね」ジェスが追撃する。


「医療搬送が必要だと判断する」ハーヴィーは大真面目だ。


「いいえ」


真紀の声が横から聞こえた。過剰なまでに平坦な声だ。


「脳がオーバーヒートしているだけ」


顔を上げて抗議しようとした。 だが次の瞬間、真紀が本当に手を伸ばし、私を支え起こした。 私の腕を下から支える彼女の手のひらは、重くはないが、ひどく確かな力強さがあった。 「平気だ」と強がるつもりだったのに、いざ立ち上がってみると、本当に足が少し震えていた。


ジェスがそれを見て、さらに大袈裟に笑う。


「あら、本当に立てなくなってるじゃない」


「黙れ……」


「お手伝いしましょうか、戦術長閣下?」


「お前が私に近づかないことが最大の支援だ」


「冷たいわね」


真紀はジェスを無視し、私を支えて立たせると、低い声で言った。


「行くよ」


私は首を向けて彼女を見た。


「……今、光るパネルを見たら吐きそう」


「正常な反応」彼女は言う。


「飛田は絶対にわざとやったんだ」


「それも正常」


「なんでそんなに納得してるわけ?」


真紀が私を一瞥し、口角をほんのわずかに動かした。


「戦術長を引いた時点で、逃げ道なんてなかったから」


……なぜかその一言は、タンホイザーよりも殺傷力が高かった。


彼女に支えられながら外へ向かって歩く。 背後からは、飛田の口調を真似て笑うDの声や、私の臨終の遺言バージョンを付け足すジェスの声が聞こえる。


ハーヴィーに至っては、「兵装名の暗記がストレス耐性訓練に寄与するか」についてアイダと真剣に議論し始めていた。 こいつら、誰一人として人間じゃない。


飛田は艦橋の中央に立ち、腕を組み、学生を挽肉機に放り込んでその仕上がりに満足している総料理長のような顔で、私たちに向かって頷いた。


「帰ってしっかり復習しておくように」


真紀に支えられ、覚束ない足取りで艦橋のドアを跨ぐ。 頭の中には一つの思考しか残っていなかった。


もしこれが、艦橋シミュレーションの初日に過ぎないのだとしたら。 私はおそらく、近いうちに本当に担架で運び出されることになるだろう。

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