92. ドアのロックはお忘れなく 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
二等室に戻り、扉が閉まると、外の機関音も足音も他人の視線もすべて遮断され、部屋には私と真紀だけが残った。
そして、あの、存在しないことにはできない種類の静けさ。
真紀は工具袋とデータパッドを机の上に置いた。動作はいつも通り、整然として、無駄がなく、感情を見せない。だが、そうやって感情を完全に消しているのが見えるからこそ、私はかえって確信した――彼女は、気にしている。
私はベッドの端に凭れて、しばらく真紀を見ていた。
「悶々としてるね」
真紀は私に背を向けたまま、袖口を整える手を半秒だけ止めた。
「してない」
「その『してない』、ヴィクトルが『簡単だ』と言った時と同じレベルだ」
真紀は答えなかった。
私は二歩近づいた。
「じゃあ言い方を変える。今のあんたは、心の中で『九島家の子ども』って言葉を何度も取り出して分解してるみたいに見える」
真紀がようやく振り向いた。
目つきは険しくない。むしろ平坦だった。だが、その平坦さこそが一番厄介だ。
「お前、暇なのか」
「暇じゃない」私は正直に答えた。「ただ、見えてしまうだけ」
「見えても言うな」
「それは無理」私は肩をすくめた。「自分を壁に溶接しちゃいそうな顔してるのに、見なかったふりはできない」
真紀は私を二秒ほど見つめ、それから少し笑った。
嬉しそうな笑いではない。図星を刺されて、逆に噛みつきたくなった時の笑いだ。
「たかがシモのくせに、最近随分と生意気だな」
私が一瞬呆けた隙に、真紀が手を伸ばしてきた。
額を弾かれるか、せいぜい頬をつねられる程度だと思っていた。ところが次の瞬間――
「ちょっと、あはは、真紀、あんた――!」
彼女は直接、私の脇腹をくすぐってきた。速くて的確で、完全に私の弱点だけを狙い撃つそのやり方は、明らかに計画的だった。私は反射的に横へ縮み、ベッドの縁から転がり落ちそうになった。
「頭おかしいの!? なんでそんなことするの――あはは、無理、やめて――!」
「人を開導するのが得意なんだろ」真紀の口調は変わらないが、手の動きは一切平坦ではない。「なら、まず生き延びてから言え」
「それと生き延びることと何の関係が――!」
「大いにある」
「でたらめ言うな!」
笑いすぎて息が切れながら、必死に手で防ごうとした。だが今日の真紀は本当に少し鬱屈が溜まっていたのか、あるいはようやく正当な反撃の口実を見つけたのか、簡単に引く気配は一切なかった。
私はベッドの上へ逃げる。真紀が追ってくる。
きちんと整っていたシーツが一瞬で乱れた。枕は弾かれて脇へ転がり、足は乱戦の中で毛布の端に絡まる。片手で真紀の手首を掴み、もう片方で必死に脇腹を守ったが、こういうことは一度相手にリズムを握られると、無重力でスラスターを乱射するのと同じだ――取り繕おうとするほど、格好が悪くなる。
「真紀! 待って、一回待って――!」
「さっきはよく喋ってたな」
「あれは口だけの話で、命懸けなんて――あはは、そこ触らないで!」
私の「命懸け」という一言に、真紀の口の端がついに本当に上がった。
短い笑いだった。だが出た瞬間、彼女の顔全体の低気圧がふっと緩んだ。
私はそれを見た。だからもがくのをやめ、思い切って彼女の肩を掴み、気が逸れた隙に横へ引き倒した。
「あんたも落ちなよ!」
その引き倒しは、うまくいきすぎた。次の瞬間、私たちは二人ともベッドに倒れ込み、体勢が完全に逆転していた。
真紀の手が私の耳の横に突かれ、私は半身になって膝を乱れたシーツに埋めている。二人の距離が一気に詰まり、さっきまでの笑い声が誰かに音量を絞られたように急に静かになった。
部屋が一瞬、静まり返った。
完全な無音ではない。換気システムは低く唸り続けている。遠くの艦内振動も伝わってくる。
でも、それらはすべて一気に遠のいた。近くに残るのは互いの呼吸だけ。それから、一通り動いた後で、どちらも隠しきれなくなっている体温だけ。
私はまだ喘いでいたが、その乱れた呼吸の中で、ふと非常にまずいことに気づいた。
……おかしい。
この距離は、もうさっきの単なる打ち合いの距離じゃない。
真紀も止まっていた。手はまだ私の横に突かれたまま。押しつけてはこないが、すぐには退かない。
その目が、近くてはっきり見える。普段の冷たさはまだそこにある。だが、さっき近づきすぎたせいか、無防備すぎたせいか、その冷たさの縁が何かに焼かれたように、少し違って見えた。
心臓が突然、重く速く跳ねた。うるさい。自分でも聞こえるくらいうるさい。真紀にも聞こえているのではないかと、本気で疑った。
乾いた唇を舐め、頭の中が一瞬、真っ白になった。
でも、その空白の一瞬に、極めて明確で、極めて危険な衝動が浮かんだ。完全な形ではない。何をするか決めたわけでもない。ただ――
少しだけ、前に進みたかった。ほんの少しだけでも。
真紀を見つめながら、指がシーツの上でわずかに丸まった。それが試みだったのかどうか、自分でも分からなかった。
そして次の瞬間――
視界がひっくり返った。
真紀が突然、私の肩を押さえた。私の頭の中の落ち着かない何かが、どこへ向かうか最初から読み切っていたような速さだった。私の背中は再びマットレスに沈み込み、手首は軽く、だが確かな力で固定され、一気に押し戻された。
乱暴ではない。だが、一切の反抗を許さない力だった。
私は息を呑んだ。
真紀が私の上に体を支え、見下ろしていた。あり得ないほど近い。
その目には、さっきの打ち合いで残った熱がまだ散りきっていない。だが声は低く、平坦で、それがかえって危険だった。
「シモ」
真紀が私を押さえている。重くはない。でも、重くないからこそ始末が悪い。
その力加減はあまりにも正確で、「その気になれば、お前は今、絶対に逃げられない」という事実をただ確認させるためだけに存在しているようだった。手首は固定され、肩はマットレスに沈み、呼吸はどうしようもなく乱れ、胸の起伏さえ全部見られている気がした。
部屋は静かだった。自分の心臓がどれほど異常な音を立てているか、はっきりと聞こえるほどに。
真紀が見下ろしている。近すぎて、睫毛が落とす影まで見える。さっきの熱気はまだ漂い、呼吸が近く、体温が近く、視線さえ触れ合いそうだった。
「シモ」
もう一度、呼ばれた。
低く、喉の奥から押し出されたような声だった。いつもの冷淡な距離感はなく、代わりにごく薄く、危険な掠れがあった。
喉が乾き、返事が一拍遅れた。
「……何」
真紀はすぐには答えなかった。ただ、見ていた。
その見つめ方が、ひどく厄介だった。私が心の中の落ち着かない気持ちを、自分から認めるのを待っているかのようだった。
耳の奥まで熱くなり、視線を逸らしたくなる。でも、本当に逸らすのは惜しかった。
次の瞬間、真紀が顔を下げた。
唇が触れた時、頭の中はほとんど何も残っていなかった。
考えたことがなかったわけではない。むしろさっきの一瞬、すでに曖昧で危険な予感が頭のどこかにあった。でも、予感と現実は別物だ。
その口づけは軽かった。試すように。確認するように。真紀が普段何かをする時と同じように、まず確実に一度触れ、それが幻ではないこと、私が突き飛ばさないことを確かめるような。
でも、それがかえって致命的だった。
驚いて固まるべきだった。突き飛ばすべきだった。何か言うべきだった。
結果、私は何もできなかった。
真紀が半寸だけ離れ、私を見た瞬間、頭の中にはただ一つの恐ろしい念だけが残っていた。
足りない。
私はほとんど本能的に手を伸ばし、彼女の襟元を掴んで下へ引き寄せた。
今度は私から口づけた。
真紀が、はっきりと一瞬動きを止めた。その停止は短く、私が本当に自分の行動を分かっているのかを確認するだけの時間だった。次の瞬間、彼女の指が力を込め、私の手首を押さえる力がわずかに変わった。もう制圧ではなく、むしろ黙認に近かった。
私たちはまた口づけた。
一度目は軽すぎた。二度目は、もう完全に乱れていた。
本当に乱れていた。呼吸がぶつかり、唇が重なり、どちらが引き、どちらが近づくのか、リズムさえ分からなくなっていく。心臓が激しく、荒々しく跳ねているのだけが分かる。模擬戦を一試合走り抜いた直後のようだ。いや、それよりずっと恐ろしい。今回は死ぬかどうかの問題ではなく、この制御不能な感覚をどう扱えばいいのか、まったく分からないからだ。
真紀は普段、あんなに冷たいのに。
こういう時になると、表面の冷たさなど微塵も残っていなかった。
真紀の手が私の手首から滑り落ち、肩口に触れた。指先が布越しに私を押さえる。私が本当に逃げるのを恐れているようでもあり、今の私が絶対に逃げないことを見透かしているようでもあった。その感触が、細く熱い痺れを引き起こし、呼吸をさらに乱していく。
強がろうとしていた。耐えられるふりをしたかった。
でも真紀が近づくたびに、私は完全に降参した。
その降参は言葉にしたものではない。指の力が抜け、彼女の襟元を掴んでいた力がすがりつく力に変わり、頭のどこかで「待って、これ早すぎないか」という声がまだ響いているのに、身体は先にもう一方の答えを選んでいた。
真紀はそれに気づいたようだった。だから、もう少し大胆になった。
彼女の指が上着の襟元に触れ、一瞬止まり、それからゆっくりと下へ滑る。打ち合いですでに乱れていた上着が、さらに緩んでいく。乱暴な動作ではない。むしろ自制されているとさえ言えた。だが、その自制こそが一番始末に負えなかった――本当はもっと乱暴にもできるのに、わざと少しずつ進み、その一つ一つを嫌でも鮮明に意識させてくる。
私は無意識に彼女の手を押さえた。
「待って、真紀……」
口に出した時、自分でも分かった。ぜんぜん効いていない。
軽すぎた。制止というより、最後の体裁を保つための言い訳に近かった。
真紀が顔を上げた。
その目の中のものは、いつもとまったく違っていた。近くて、深くて、私が彼女の顔に一度も見たことのない侵略性が混ざっていた。
「止めろと?」真紀が低く聞いた。
私は口を開いた。
……本当に止めてほしかったなら、さっき引き寄せたりはしなかった。
分かっている。真紀にも分かっている。
だから私は形だけ二度ほど抵抗してみせたが、手首には力が入らず、最後には自分でも、その抵抗が降参前の最後の儀式にしか思えなくなっていた。
真紀は二秒ほど私を見て、口の端をわずかに動かした。
嘲笑ではない。「分かった」と言っているような表情だった。
そして彼女は顔を下げ、再び口づけた。
今度はさっきより深く、さっきより荒々しかった。
呼吸が乱れ、そのままベッドへ押し戻される。指がシーツを握りしめる。上着が緩み、肩と首筋の空気がひどく冷たく感じられた。だが上から覆ってくる真紀の体温は熱く、その冷たさと熱さが混ざった感覚に、頭の中まで焼かれていく。
何か言おうとしても、そのたびに次の口づけで塞がれた。
部屋は異様に静かだった。衣擦れの音が聞こえる。自分の乱れた呼吸が聞こえる。真紀が耳元に落とす低い息も聞こえる。
そして――
扉が突然開いた。
「星野、一緒に夕食――」
声が、そこで途切れた。
部屋全体も、完全に止まった。
私の頭は一秒、完全に真っ白になった。比喩ではない。本当に何も残っていなかった。
次の瞬間、私は勢いよく顔を向けた。
扉のところに、ジェスが立っていた。
一人ではない。後ろにロイ、D、ハーヴィーが続いていた。皆、ごく自然に夕食に誘うつもりで入ってきたのだろう。だが今は全員が扉のところで固まり、示し合わせたように石化していた。
ジェスの視線が、ゆっくりと部屋の中へ滑っていく。
乱れたシーツ。ベッドに押し倒された私の姿。まだ私の上に体を支え、完全には退ききれていない真紀の様子。
そして、このろくでなしは笑った。しかも、最高に意地の悪い笑い方で。
「あらら」ジェスはのんびりと言った。「どうやら、もうお腹いっぱいの人がいるみたいね」
私の中で何かが爆発した。
「出てけ――!!」
その怒鳴り声は自分でも驚くほど大きかった。
Dが最初に反応し、勢いよく一歩後退しながら、まだ扉のところで見物していたハーヴィーを慌てて引っ張った。
「撤退撤退撤退! これはもう飯の誘いじゃない、事故現場だ!」
ハーヴィーの顔が真っ赤になり、口はうまく動かなかった。
「お、俺は別に見ようとしたわけじゃなくて、本当にただ夕食のことを――」
「黙って走れ!」ロイが彼の腕を引いて後ろへ引きずった。ロイの耳自体が、警告灯の代わりに使えそうなほど赤かった。
ジェスだけが最後に残った。退く前に、目を細め、毒を混ぜたような甘い声で一刺し残していった。
「続けていいわよ。私たちは何も見なかったことにするから」
「ジェス――!!」
「はいはい」ジェスは両手を上げてようやく後退した。扉が閉まる直前、もう一度振り返って笑いながら言い残した。「夕食の席は取っておいてあげる。もし、あんたたちにまだそんな暇があるならね」
扉が、バンッと閉まった。
部屋がまた静かになった。だが今度の静けさは、さっきよりずっと恐ろしかった。
私はベッドの上で固まっていた。顔が熱くて煙が出そうで、耳まで燃えるようだった。さっきの曖昧さ、あの制御不能な感覚、あの収まりきらない熱が、ジェスの「もうお腹いっぱい」の一言で、まったく別の種類の災難に変換されてしまった。
真紀がようやく、ゆっくりと少し身を離した。
離しても、まだ近すぎた。近すぎて、今すぐ服を直すべきか、それとも布団に潜り込んで死んだふりをするべきか、判断がつかなかった。
二秒ほどして、真紀が低く笑った。
私は勢いよく振り返って睨んだ。
「笑ってる場合!?」
真紀の呼吸もまだ完全には整っていなかった。それでも、笑いを堪えきれないようだった。
「悪い」
「その謝り方、一ミリも反省してない!」
「うん」真紀はあっさり認めた。「してないかもしれない」
私は横の枕を掴み、そのまま彼女に投げつけた。
「全部あんたのせいだ!」
真紀は片手で枕を受け止め、実に落ち着いた声で返してきた。
「さっき、先に私を引き寄せたのは、お前だろう」
私は言葉を失い、顔を赤くして睨むことしかできなかった。
真紀は私を見ていた。その瞳の奥に、さっきの熱がまだ確実に残っていた。
それが、事態をさらにまずくしていた。なぜなら私は、今はっきりと分かってしまったからだ――
さっき中断されたのは、夕食の誘いだけではない。もしあのまま続いていたら、もう「何もなかったふり」ができない何かが、確実にそこにあった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




