90. 少し広くなったベッド、二人の特權 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
竹中曹長のルールに従えば、実はまだ一つ、面倒な後始末が残っていた。
簡単に言うと、本来「余り物」になるはずだったのは私だ。
あの組分けの時間、皆が救援物資を奪い合う被災民のように仲間を探し回り、誰もが「一番へマをする人間と組まされたら最後だ」と焦っていた。その結果、私は宙ぶらりんになり、真紀が半ば押し付けられる形で私と組まされ、竹中曹長に挑む臨時ペアが出来上がった。
だから私たちが勝った後は、竹中曹長自身が定めたルール通り、私たちの組から一人を出して、後続の余り物と組ませなければならない。
竹中曹長が最終的に指名したのは、真紀だった。
理由は単純だった。
「お前はもう一ラウンドやっている」竹中曹長は私を見て言った。「さっきの一撃は有効だったが、手が痺れている。もう一度出たら、動作が鈍くなる」
それから真紀の方へ向いた。
「お前が行け」
真紀は余計な一言も発せず、ただ頷いて、さっき下ろしたばかりのシールドを再び腕に固定した。
私はその横に立ち、「どうせ今日はもう全部巻き込まれている、もう半分くらい濡れても変わらない」というような真紀の平静な顔を見ていたら、なぜか笑いたくなった。
「悪いね」私は小声で言った。「まだ残業させて」
真紀が私を一瞥した。
「残業より、今夜のシャワーの使用権が消えない方が大事だ」
「……すごく現実的な一言だな」
「二等室には、それだけの価値がある」
もっともだ。反論の余地が、一切ない。
後半のラウンドで、竹中曹長は自分が言った通り、本当に手加減した。手を抜いて恥ずかしいほど見え見えな、私たちのような素人でも「あ、演じてるな」と一目で分かる種類の手加減ではない。熟練した、性格の悪い、教官らしい手加減だった。
前半、竹中曹長は相手のリズムを解体した。廃材を分解するように、丁寧に。
後半は、逆に隙を作った。わざと半歩遅らせる。わざと半拍だけ遅れる。わざとシールド角を一分だけ緩める。わざとある場面で一気に仕留めず、「今気づけば、まだ拾える」という形に失敗を残しておく。
前半で最も徹底的に「人生を教わった」Dとロイのペアなどは、二度目に出た時、「これはもっと高度な罠じゃないか」という疑念を顔に貼りつけたまま上がっていった。
だが今回、竹中曹長は本当にDに角を一つ渡した。Dはまず一通りフェイントを繰り出し、相変わらず口も汚かった。ロイは横でラインを安定させ続けた。今度の竹中曹長は、さっきのようにDを的として即座に解体しなかった。ロイがシールドで中線を押し出した瞬間、失策に見える小さな隙を、わずかに開けた。
Dというのは、普段いくら鬱陶しくても、本当に入れる隙間を前にすると、鼻だけは野良犬並みに利く。その場で滑り込み、竹中曹長の脇腹のセンサー区画にマーカーを一発叩き込んだ。
命中ランプが点灯した瞬間、Dは二秒ほど固まり、それから運命に頭を撫でられたような、悲壮感のある雄叫びを上げた。
ハーヴィーとアイダのペアは、最も「生存教育映像」らしい勝ち方をした。二人とも最初から最後まで英雄的な気概など欠片もなく、「死なない、乱れない、仲間を売らない」という三つだけを顔に貼りつけていた。その真面目で保守的な戦い方が、逆に竹中曹長が開けた活路をきっちり掴んだ。
アカリとエヴリンも通過した。
蘭とジェスのペアは言うまでもない――前半からすでに紙一重の手応えがあった。後半、竹中曹長が一割だけ力を緩めると、ジェスは血の匂いを嗅ぎつけた狼のように即座に噛みついた。最後の一撃が決まった時、ジェスの顔は喜びではなく、「やっぱり前半から全部わざとだったんだ」という確信の表情だった。
そして真紀は――
真紀は最終的にアッシュと組んで、その最後のラウンドに出た。
その光景は、なかなか怖かった。激しいからではない。あまりにも静かすぎたからだ。
一人は安定している。もう一人も安定している。一人は無口で、もう一人はさらに無口だ。二人がそこに立つと、保安部がどこかから臨時で借りてきた二枚の移動式隔壁のように見えた。竹中曹長はその組を眺めながら、珍しく薄く眉を上げた。「もう少し練習を積めば、本当に気密扉を守れるようになるな」とでも思ったような顔だった。
もちろん、どれだけ様になっていても、まだ学生だ。だから竹中曹長は最後、「師としての徳」を発揮して、台を作ってやった。
真紀が角を切り、アッシュが補位に入る。竹中曹長はわざと後の一手を一呼吸だけ遅らせた。その一呼吸が、真紀がマーカーを叩き込むのに十分だった。
「有効」
全員通過。
その瞬間の訓練場の空気は、考査が終わった雰囲気ではなかった。死刑囚が揃って有期刑に減刑された時の雰囲気に近かった。
Dがその場に座り込んだ。
「生きた……文明社会はやはり戦う価値がある……」
「竹中曹長に原始人に戻されかけただけだろ」ハーヴィーが言った。
ジェスは手首を振りながら、まだ息が整っていないのに、口だけはすでにいつもの刺々しい調子に戻っていた。
「手加減、あからさますぎたわ」
竹中曹長がシールドの先を床に一度突いた。大きな音ではなかったが、全員の雑音がその一音で押し込まれた。
「覚えておけ」
全員が静まった。
竹中曹長は私たちを一通り見回した。午後の模擬艦内の金属壁より冷たい目だった。
「今日お前たちが通過できたのは、私が手を抜いたからだ」
誰も声を出さなかった。
「戦場で、帝国軍の兵士は手を抜かない」
その言葉が落ちた時、Dでさえ何も言わなかった。こういう場面では、全員が分かっている。前は笑っていい。後は忘れてはいけない。
竹中曹長は練習用戦斧をラックに戻し、口調がまた例の腹立たしい平坦さに戻った。
「だから今日の通過を、自分たちが強い証拠だと思うな。せいぜい――まったく教えようがないほど腐ってはいない、という程度だ」
……なるほど。保安部の褒め言葉は、やはりいつも返しがついている。だが今回は、誰も本気で反論しようとしなかった。この言葉が聞き苦しいのは分かっている。でも、水増しもされていない。
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二等室の扉が開いた瞬間、最初に浮かんだ感想は「勝った」ではなかった。
――連邦軍は、人間がどう生きるべきかを、本当は知っているらしい。
部屋は広くはない。だが、八人部屋の「全員で詰め込まれ、全員でうるさくして、交代で人生を疑う」という基準から見れば、ここはもはや部屋ではなかった。文明再建計画だった。
ベッドが二つ。無理やり押し込んだ二段ベッドではない。寝返りを打っても隣の人間の人生観と交換しなくて済む、貧相な幅でもない。本当に人間が横になって、足を伸ばして、寝返りを打って、わずかな自尊心を保てるサイズのベッドだ。
壁際に固定式の書き物机。引き出しつき、読書灯つき。天板が清潔すぎて、展示用の見本で実際には触れてはいけないのではないかと疑いたくなるほどだった。その隣に収納棚が一列。一番奥の扉の向こうに、個室シャワーがある。
個室。シャワー。
私はその扉を三秒ほど見つめ、午後にジェスがあの賞品を聞いた瞬間に目を輝かせた理由を、一秒で理解した。
贅沢がしたいわけじゃない。文明への、ひどく正直な渇望だ。
「入らないと、見つめすぎて扉に花が咲くぞ」真紀が荷物袋を持ったまま、後ろから平坦に言った。
私は我に返り、横に避けた。
「罠じゃないか確認してただけだ」
「竹中曹長が罠を個室シャワーの形に作れるなら、尊敬する」
「……その言葉、正しいのに、なぜかひどく悲しい」
「保安部の授業は、もともと楽観向きじゃない」
真紀は部屋に入り、扉を引いた。その動作はごく自然で、「教官を打ち倒してやっと入る権利を得た部屋」に帰ってきたのではなく、ただ一時的に泊まる場所に戻っただけのように見えた。
私は荷物をベッドの横に置き、もう一度部屋を見渡した。
二つのベッド。一つは奥、一つは扉側。書き物机は一つ。テレビは壁に埋め込まれていた。大きくはないが、衛星チャンネルで、しかも共用ラウンジで大勢と争わずに見られると思うだけで、この壁全体が柔らかく見えた。
……どうしよう。本当に、少し嬉しい。いや、少しじゃない。かなり嬉しい。しかも、ひどく情けない嬉しさだ。
真紀は扉側のベッドの横に荷物を置き、振り返った。
「奥がお前のだ」
私は少し固まった。
「もう決めたの?」
「扉側は夜中に呼び出しを受けやすい。ノックの音や廊下の光も入ってくる。奥の方が静かだ」
「どうしてそんなに、二等室に入って即座に騒音分布を推定できるんだ」
「今夜は誰か来るから」
上着の固定ベルトを外しかけていた指が、止まった。
「……なんで分かるの」
真紀は自分のデータパッドを書き物机の上に置いた。位置まで整然と揃えている。
「ここが二等室だからだ」
「それ、理由が大雑把すぎる」
「もう少し正確に言うなら」真紀の口調は相変わらず平坦だった。「お前が入ったからだ」
私は振り返った。真紀も一瞥してきた。表情は変わらない。それなのに、この「艦内の気圧と照明の明るさを述べます」みたいな口調で言われるのが、一番始末に負えない。
「それ、私が自分で災害を引き寄せると言いたいの」
「災害じゃない」真紀は少し考えた。「高確率事象、と言う方が正確だ」
「全然よくない」
「少なくとも、専門的に聞こえる」
危うく吹き出しそうになった。この人間は普段そんなに口数が多くないのに、一度開くと、なぜかいつも人を言い詰める。
私は制服の上着を棚に掛け、引き出しを引いた。空だ。清潔だ。そして、私が使っていい。
自分が二等室に引っ越したのではなく、何かの理想的な社会モデルに入り込んだような気がした。
「感動するつもりなら、早めに済ませておいた方がいい」真紀が言った。「誰か来たら、感動している暇はなくなる」
「私たちの部屋を観光スポットみたいに言うな」
真紀は扉の方へ目を向けた。
「観光スポットみたいに言っているのではない。事前警告をしている」
ドアベルが、その時鳴った。短く、速く、二回続けて。実に遠慮がない。
私と真紀は顔を見合わせた。
……警告、的中。
扉を開けると、ジェスが立っていた。手にはどこからか調達してきた菓子袋を提げ、顔の笑みは無駄に晴れやかで、純粋に祝いに来た顔ではないことが一目で分かった。
「こんばんは、文明の住人」
眉がぴくりとした。
「その開幕、すでに殴りたい」
ジェスはまったく気にせず、私の肩越しに部屋を一通り見回し、満足そうに口笛を一吹きした。
「二人部屋、書き物机、個室シャワー、テレビまで」ジェスは菓子袋を振った。「やっぱり来て正解だった」
「見学に来たの、それとも居候に来たの」
「どっちも両立する」そう言ってジェスは私の横をすり抜けて入ってきた。この部屋の権利の半分は自分にあるとでも言いたげな馴れ馴れしさだった。
私は扉を閉め、振り返りながら、さっき「在室」を装わなかったことを後悔し始めた。
ジェスは菓子を机の上に置き、ごく自然に部屋を一周し、最後にシャワー室の扉の前で足を止め、研究者のような口調で言った。
「これが伝説の個室シャワーか」
「考古学者が遺跡を発見した時みたいな言い方はやめて」
「分かってない」ジェスが振り返り、ひどく真剣な顔をした。「共用区画に住み慣れた人間にとって、これは古代文明の遺産より希少なんだ」
真紀は扉側のベッドの端に腰を下ろし、ジェスが一周するのを眺めながら、平坦に言った。
「見学報告書を書くつもりなら、ここは公開展示区画ではないことを注記しておいてくれ」
ジェスは遠慮なく私のベッドの端に座り、マットレスを叩いた。
「弾力いいな」
こめかみがひくついた。
「品定めみたいな座り方はやめて」
ジェスが眉を上げた。
「二人部屋でしょ。確認しないわけにはいかない」
「何を確認するの」
「二人の共同生活環境でしょ」
……来た。
この人間が「二人部屋」という言葉を文の中に安全に置いておけるわけがないとは、分かっていた。
私は腕を組み、ジェスを見た。
「その言い方、頭の中でもう台本を書き始めてる顔だ」
「書いてない」ジェスは笑った。「合理的な推論をしているだけ」
真紀が横から補った。
「お前の推論の精度は、たいていそれほど高くない」
ジェスが即座に向き直った。
「少なくとも、全部を作戦報告書みたいに語る人よりは面白い」
「面白さと有用性は別物だ」
「じゃあ、有用じゃないとどうして分かるの」ジェスは顎を手で支え、わざとゆっくり私を見て、また真紀を見た。「例えば今、私はとても気になることが一つある」
嫌な予感がした。
「聞かないで」
「先に洗うのはどっち?」
……やっぱり。本当に、やっぱりだ。
私は深く息を吸い込んだ。竹中曹長のシールドに何度か弾き飛ばされた時より、今の方が血圧の上がり方が速い。
「それ、あんたに何の関係があるの」
「大事なことよ」ジェスは堂々と言った。「二人部屋の秩序は、シャワー室の使用権から始まる。知らないの?」
「知らないし、なんであんたがそんなに詳しいのかも知りたくない」
「観察力があるから」
「あんたにあるのは観察力じゃなくて、火をつけずにいられない性分だ」
ジェスは実に楽しそうに笑い、刺された様子もなく、さらに続けた。
「じゃあ、ベッドの割り振りは? 書き物机の使用時間は? テレビのチャンネルは誰が先に決める? 夜中に寝返りを打って互いに当たる心配はした?」
「ジェス」
「何?」
「もう一言でも言ったら、シャワー室に押し込んで外から鍵をかける」
「怖いな」ジェスは後ろに凭れ、手をマットレスに突いたまま、目を細めた。「でも耳が赤い」
私は反射的に耳の先に触れた。
……くそ、本当に少し熱い。
「あんたが鬱陶しいからだ」
「じゃあ、二人部屋のせいでも、室友のせいでもなく、私のせいなの?」
「勝手に自分を話に加えるな!」
真紀がその時、手元の菓子袋を開き、平坦に言った。
「これ以上追い詰めると、出ていかされても当然だぞ」
ジェスが振り返った。
「あんた、庇ってるの?」
「部屋の平和を守っている」
「おお――」
またあの声だ。一度聞けば、何かろくでもないことが来ると分かる「おお――」。
私はもう溜め息をつく気力さえ残っていなかった。
「ジェス」
「何?」
「どうしても火をつけないと気が済まないの?」
ジェスは瞬きをし、悔い一つない笑顔で言った。
「つけないと、どこが一番燃えやすいか分からないじゃない」
……これだ。実に、ジェスらしい。悪意があって、直接的で、しかも正確だ。
部屋が一秒、静まり返る。
次の瞬間、真紀が口を開いた。
「もう分かったか?」
ジェスが一瞬、固まった。
私も真紀の方を向いた。
真紀は書き物机の端に凭れ、開けたばかりの菓子を手に持ち、表情に起伏はなく、口調も平坦だった。だからこそ、その殺傷力が完全に機能していた。
ジェスは真紀を見て、笑みがわずかに引いた。
「何が分かったって?」
「観察しているんだろ」真紀は言った。「なら今頃、どこが一番燃えやすいか、もう分かっているはずだ」
空気が「パチッ」と弾けた。比喩ではない。本当に何かが点火されたような感覚だった。
私は横に立ちながら、後頸がじわりと熱くなるのを感じた。
この言葉は表面上ジェスへの返答だが、実際にはそれだけではない。
「見物に来るのは構わない。火をつけるのも構わない。ただし、火は自分だけが扱えるものじゃない」
そう、言っているように聞こえた。
ジェスは二秒ほど真紀を凝視し、それから笑った。今度の笑いには、さっきのような露骨な煽りは少なかった。本気で面白がっている笑いだった。
「あんた、ただの壁じゃなかったんだ」
「最初から、そのつもりはなかった」
「でも昼間は、かなりそれっぽく見せてたけど」
「そういう時は、刃物より壁の方が役に立つ」
……確信した。この二人が本気で正面衝突し始めたら、艦内警報は要らない。
私はジェスがさらに危険な一言を口にする前に、さっさと彼女をベッドから引き剥がした。
「はい、見学はここまで」
ジェスは立たされながらも、まだ笑っていた。
「慌ててる」
「これ以上居座られると、二等室が今夜のうちに事故現場になる」
「それはそれでスリルあるじゃない」
「お前だけで十分だ」
私はジェスをドアの方へ押しやりながらも、彼女の口は止まらない。
「でも、お菓子持ってきたんだけど」
「お菓子は置いてけ。人は出てけ」
「ひどい」
「ありがとう。保安部で学んだ」
「それは説得力あるわね」
私はドアを開けた。ジェスは出て行きかけて、もう一度こちらを振り返った。私を見てから、真紀を見る。
今度の笑みは、少し薄かった。さっきほど騒がしくはない。でも、逆に本心に近い顔だった。
「霜」
「何だ」
「二人部屋でよく眠れたからって、明日から気を抜くなよ」
「分かってる」
ジェスは一度頷いたが、視線はすぐには逸らさなかった。
「それから」ジェスは続けた。「もし真紀が夜中にいびきかいたら、私のところに苦情を入れに来ていいから」
思わず言葉を失った。
部屋の中で真紀がごく冷静に返す。
「いびきはかかない」
ジェスは声を上げて笑った。
「ほらね。こういうことだけは即答するんだから。面白くない?」
「さっさと帰れ」
「帰る帰る」ジェスはドアの外へ下がりながら、最後にもう一言刺してきた。「おやすみ、ツインルームの住人さん」
扉が閉まる。部屋は一瞬で静かになった。その静けさは、少し戸惑うほどだった。ジェスが去って行って、いなくなったのはただ一人分の重みではなく、「自動で動く厄介製造機」一台分の騒がしさだった。
私は額をドアに軽く押し付けて、長く息を吐き出した。
「……今になって思うけど、竹中曹長が二等室を出した本当の目的って、外から見物に来やすくするためなんじゃないか」
「あり得るな」と真紀。
私は振り向いて彼女を見た。真紀はすでに机に戻っていて、ジェスが置いていったお菓子を一つ一つ分けて並べていた。さっきの小競り合いとは無関係だったかのような、冷静な手付きだった。
「疲れないのか」私は聞いた。
「どんな意味で」
「ジェスみたいなのを相手にするの」
真紀は顔を上げた。
「別に」
「本当に?」
「ジェスの相手より」真紀は少し考え、「お前の方が疲れて見える」と言った。
……悔しいが、図星だった。
私はそのままベッドに倒れ込み、天井を見つめた。
「そりゃ疲れるさ。昼間は竹中曹長にシールドで殴られ、夜はジェスに口で殴られたんだぞ」
「どっちの方が怖い」
一秒真面目に考えてから、答えた。
「口」
真紀は、そこで初めて分かりやすく笑った。大きな笑いではない。ただ口元がわずかにほどけるだけ。それでも、かえって目に残った。
「正直でいい」
「生きてるうちは、変に格好つけたくない」
「その通りだな」
部屋は再び静かになった。今度の静けさは、さっきとは違う。緊張でも、誰かと誰かの綱引きでもない。むしろ、うるさい風が一通り吹き抜けて、窓と扉を閉めた後に戻ってくる、本来の室内音のような静けさだった。
小さな換気システムの低い唸り。壁のディスプレイの待機中の微かな光。書き物机の端に金属製のメモパッドが置かれる、小さな音。そして、二人で同じ部屋にいる時にだけ生まれる、「気まずくはないが、完全に存在しないことにもできない」距離感。
私は寝返りを打ち、真紀の方へ顔を向けた。
「なあ」
「何だ」
「本当に、いびきかかない?」
真紀は一瞬だけ手を止めて、こちらを見た。その目に、珍しく、ごく薄い「言葉に詰まった顔」が浮かんでいた。
「今それを確認する必要があるか?」
「ジェスがあそこまで話したんだ。自分の睡眠環境くらい確認させてくれ」
「いびきはかかない」
「歯ぎしりは」
「ない」
「寝言は」
「……ない」
「よし」私は頷いた。「少なくとも文明の半分は守られた」
真紀は二秒ほど私を見つめ、それからまた小さく笑った。
「変なところで真面目だな」
「仕方ないだろ。お前と同室の一夜目だ。リスク評価くらいはしておかないと」
「評価はどうだ」
私は天井を見たまま、わざと少し間を置いてから答えた。
「現時点では、室外要因より室内要因の方が安全だ」
真紀はすぐには何も言わなかった。二秒ほどしてから、淡々と返してきた。
「それは、褒め言葉として受け取っておく」
私は思わず彼女の方を見た。
「自分から褒め言葉を拾うんだ」
「誰かさんから学んだ」
「……それが成長か汚染か、判断に迷うな」
「結果が悪くなければ、それで十分だ」
私は吹き出した。
「それもそうね」
その夜、二等室のベッドは、学生艙のベッドとは比べ物にならないほど、確かに快適だった。
個室シャワーは本物だし、机も、テレビも全部、実物だ。
だが、それ以上に本物だったのは、別のことだった。
昼、竹中曹長は手加減して、接舷戦の考査を通してくれた。
夜、ジェスは遊びに来て、元々見て見ぬふりをして済ませられたかもしれないものを、わざわざ灯りの下に引きずり出して見せていった。
だから、布団に潜り込んで目を閉じる直前、頭の中を一番はっきり占めていたのは、シャワーでもテレビでもなかった。
それは――
二等室はツインルームであること。私のルームメイトは真紀であること。そして、その事実をジェスはもう知っていて、しかも相当な感想を持っていること。
……結構。どうやら竹中曹長が今日渡してきたのは、賞品だけではなかった。後々まで面倒を引きずる、宿泊条件付きの火種も一緒に付いてきた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




