89. ご褒美の誘惑には勝てない 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「私を倒せれば、それで合格だ」
竹中曹長はその一言を、今夜の夕食に野菜が一品増えたとでも告げるような調子で言った。
問題は、彼の口にするその一品というのが、私たち十一人を細かく刻んで和えてから皿に乗せる類のものだということだ。
教室はまず完全に静まり返った。
その静けさは安らぎとは程遠い。全員の脳味噌が同時にフリーズし、この人間の良心を先に疑うべきか、連邦軍保安部の採用基準を先に疑うべきか、判定が追いついていないだけの沈黙だった。
最初に回路を復旧させたのはDだった。
「……報告します、曹長。その『倒す』というのは、戦術的な意味での撃破ですか。それとも医務室的な意味での撃沈ですか」
竹中曹長がDを一瞥した。
「お前たち次第だ」
「終わった」ハーヴィーが額に手を当て、魂が先に抜け出て行ったような声を出した。「どっちの意味でもあり得る響きだ」
「あり得るんじゃない」蘭が冷たく言った。「両方だ」
私は講台の竹中曹長を見つめながら、この男は自分の提案がどれほど無茶か、当然分かっているのだろうと確信した。スプーンをようやく握れるようになった乳児の群れに、素手でヒグマと戦えと言っているようなものだ。
違いがあるとすれば、ヒグマは事前に授業をしてくれないという点だけだろう。
竹中曹長も、さすがに「公開児童虐待」と呼ばれる一線は守るつもりらしい。あるいは、あからさまにやりたくないだけか。
彼はデータパッドを脇に置き、人間としての最低限を施してやるかのように、一言付け加えた。
「組んでいい」
全員の目が一瞬、同時に輝いた。
次の瞬間、竹中曹長が後半を続けた。
「最大二人一組で私に挑め。一組のうち一人でも勝てば、二人とも合格とする」
……なるほど。
ヒグマから小銃にクラスチェンジしたわけではない。
素手から、二人一緒に噛み殺される権利へ格上げされただけだ。
Dが両手を合わせ、天井を仰いだ。
「連邦に感謝を。保安部に感謝を。この、誤差レベルではあるが存在する人道の光に――」
「黙れ」ジェスが言った。「その言い方だと、今もらったのは恩赦令じゃなくて、二人分の死亡通知だ」
「二人分でもいい」Dは真顔で返した。「孤独に死ぬのと、誰かと一緒に死ぬのとでは、心理的な体験がまるで違う」
「あんたみたいな人間は本当に保安部向きね」アイダが言った。「慰め方まで縁起が悪いんだから」
「これのどこが慰めなの」と言おうとした瞬間、竹中曹長がまたニヤリとした。
……くそ。
この男が笑う時は、ろくなことがない。
案の定だった。
「第一組目で私を倒した者には」竹中曹長が言った。「賞品を出そう」
半死半生だった空気に、突然高濃度の燃料がぶちまけられたようだった。
ジェスがほとんど反射的に手を挙げた。質問というより、先陣を奪い合う速度だった。
「はいはい、賞品って何ですか」
竹中曹長は両手を背に回し、最高機密でも開示するような、もったいぶった口調で言った。
「二等室だ」
教室が一秒、静まった。
もう一秒。
三秒目には、目の前の十人の背後に、それぞれ炎が噴き上がるのが確かに見えた。
比喩ではない。
連邦軍の艦内生活に根ざした、極めて具体的な欲望の炎だった。
竹中曹長はまだ足りないとでも言うように、賞品の内容を丁寧に補足した。
「個室シャワー。書き物机。それから衛星チャンネル付きのテレビだ」
ハーヴィーが息を呑んだ。
Dは前列の机の縁を両手で掴み、生き別れた家族が実は隣の甲板に住んでいたと知らされたような、複雑に歪んだ顔をした。
「これは賞品じゃない」彼は呟いた。「これは文明だ」
「違う」ロイの目は完全に焦点を失っていた。「これは階級だ」
「天国ね」アカリが付け足した。
「贅沢で堕落した資産階級の生活だ」蘭が無表情に言った。
Dが勢いよく振り返った。
「じゃあお前は住みたくないのか」
「住みたい」
「なら何を澄ました顔してるんだ」
「澄ましてない」蘭は淡々と返した。「自分が堕落したいという事実を、正直に受け止めているだけだ」
私は危うく吹き出しそうになった。
ジェスの目も光った。いつもの「面白い相手を見つけた時」の光り方ではない。もっと質の悪い光だ――戦利品を見据える時の目だ。
竹中曹長は講台に凭れ、実に腹立たしいほど余裕のある口調で言った。
「使用権は私を倒した時点から、帰校するまでだ。これでやる気は出たな?」
やる気?
違う。
これはもう、やる気などという生ぬるいものではない。保安部の教官に処刑されると嘆いていた訓練生たちを、個室シャワーとテレビのために逆に教官へ噛みつく飢えた動物の群れへと、その場で変換する作業だった。
Dが最初に手を挙げた。
「報告します。俺は今、やる気どころか、人格の昇華すら感じています」
「お前の精神状態はもともと怪しい」ハーヴィーが言った。「それを昇華と呼ぶな」
「分かってないな」Dは胸に手を当て、至って真剣な顔をした。「群れで生きる生物にとっての個室シャワーの意味は、文明にとっての自由の意味とほぼ同じだ」
「その台詞、歴史の教官に聞かれたら、消毒液に漬けられるわよ」アイダが言った。
私もそのいくつかの単語――個室シャワー、書き物机、テレビ――には、正直、少し心を揺らされた。地上生活なら何でもないその三つが、艦上生活では人を簡単に寝返らせる誘惑になる。だが頭を一巡させた後、私は別の問題の方に気づいた。
「でも私たちは十一人いる」私は口を開いた。「誰か一人は、竹中曹長と一対一になるんじゃないか」
教室が一気に静まり返った。
いい。どうやら私だけが気づいたわけではないらしい。
一秒前まで、二等室でまずシャワーを浴びるかベッドで衛星テレビを見るか夢想していた連中が、一瞬で現実へ引き戻された。賞品がどれほど魅力的でも、私たちが奇数であるという事実は消えない。
竹中曹長は「ようやくそこに気づいたか」という顔をした。
その顔が実に腹立たしい。
教師がわざと罠の問題を仕込んでおいて、誰かがそれに踏み込んだ瞬間、満足そうにする、あの顔だった。
「最初に私を倒した組が」彼は言った。「一人を代表として出し、余った者と組ませればいい」
Dが一瞬、固まった。
ロイの眉がすぐに寄った。
「え、ちょっと待ってください」ロイが手を挙げた。「それだと、第一組が勝った後、派遣された一人が余った奴と第二戦に出て、そこで負けたら損じゃないですか」
やっぱりだ。ロイという人間は、普段は大人しく見えても、規則の穴と利害の分配が絡む場面になると、誰よりも頭の回転が速くなる。
竹中曹長は感熱式気化爆薬のデモ用セットをゆっくりと箱に戻しながら、「お前たちが考えていないとでも思ったか」という口調で言った。
「安心しろ、ちゃんと手加減する」
「……」
「私が本気を出せば」竹中曹長は安全ロックを掛けながら言った。「お前たちはとっくに全滅している。何を戦うつもりだ」
この一言は本当に――反論の余地がないほど腹立たしい。
しかも、それが事実だということが、なお忌々しい。
教室に二秒の沈黙が落ちた後、Dがほとんど悲憤に近い感嘆を漏らした。
「こういう大人が一番恐ろしいのはさ。人を侮辱するついでに、本当のことまで言ってくるところだよな」
「今日はやけに悟りが多いな」蘭が言った。
「ありがとう」
「褒めてない」
「知ってる。でも最近、廃墟の中からポジティブを拾う練習をしてるんだ」
「かなり無理をして拾ってるみたいだけど」
竹中曹長が手を叩いた。
「よし、規則の説明は終わりだ。今から三分間、自分で組を作れ」
一拍置き、口の端を上げた。
「第一組の順番を取った奴は、自分の胸に聞け」
……終わった。
その一言が落ちた瞬間、場が爆発すると分かった。
しかも、あまり体裁のいい爆発ではないことも分かった。
---
艦上生活を長期の消耗戦に例えるなら、二等室は、同盟をその場で崩壊させ、普通のクラスメイトを一瞬で肉食動物に変えるだけの、高価な戦略資源だ。
だから竹中曹長の「自分で組を作れ」という一言は、狭い通路に閃光手榴弾を一発投げ込むのと、効果としてはほぼ同じだった。
教室がまず一拍、静まり返る。
次の瞬間、すべてが爆発した。
「俺が第一組を予約する!」Dが机を叩いて立ち上がった。文明世界への入場資格を一秒でも逃せば失われるとでも思っているような勢いだった。「誰か俺と組む奴!本人提供の高級戦術ホラ話、現場の空気管理、それから殴られた後に非常に笑えるという付加価値――」
「ない」蘭が即答した。
「即答すぎないか」
「お前が自分の紹介の中で、欠点を全部言い終わっているからだ」
ハーヴィーはペンを片付けながら半歩後ろへ引いた。何か感染性のものを避けるような慎重さだった。
「第一組で竹中曹長の教材にされるのは遠慮する」
「ハーヴィー」Dは心底残念そうに言った。「そんな生き方じゃ、一生二等室には住めないぞ」
「少なくとも生きて共同シャワーの順番待ちには並べる」
「志が低すぎる」
「志の前に、生存率を見るべきだ」
一方、ジェスはこの競り市場のような混乱に加わる気もなく、直接真紀の方を向いた。
「どう見る?」
真紀はその場に立ったまま、肩さえ動かさず、この騒ぎが自分とは無関係であるかのように言った。
「まず他人がどう負けるかを見る」
「……あんたって時々本当に嫌な人間ね」
「ありがとう」
私は危うく吹き出しそうになった。
「ありがとう」まで学んだか。真紀は最近Dと一緒にいすぎて、言語システムが明らかに汚染されつつある。
ジェスは眉をひそめた。元々は真紀と組む気だったのだろうが、この一言を聞いて、少し悔しそうに鼻を鳴らした。
「じゃあ後ろで様子を見るつもり?」
「前は焦りすぎだ」
「第一組は馬鹿だと言いたいの?」
「そうは言っていない」
「でも、そういう意味でしょ」
真紀はジェスを一瞥し、否定しなかった。
その「否定しない」態度が、直接認めるより腹立たしいことがある。
ジェスは案の定言葉に詰まり、今度は私の方へ視線を向けた。
私は瞬時に警戒した。
……待って。こっちを見ないで。
「この人が乗ってこないなら、せめて使えそうな戦力をもう一人確保しよう」という目で見るな。
私の今の最大の願いは、この二等室争奪戦の中でできるだけ目立たずに最後まで生き延びることであって、誰かの高級戦力パーツとして調達されることではない。
「星野」ジェスが口を開いた。「あんた――」
「断る」
ジェスが固まった。
Dが横で実に意地の悪い声を上げた。
「うわあ、言い終わる前に拒否された。これはダメージ高いな」
「黙れ」ジェスが歯を食いしばった。
私は額に手を当て、先に自分の立場を整えた。
「あんた個人への拒否じゃない。今、頭が整理できていない私を第一組に引きずり込もうとしている全員に対する拒否だ」
「へえ」ジェスが眉を上げた。「じゃあ、頭が整理できたらいいわけ?」
「いいとは言ってない」
「でも、絶対だめだとも言ってない」
「取り調べみたいな聞き方はやめてくれない?」
「あんたが断るのが早すぎたから、少し追及したくなった」
Dは横で、戦場に無料のビュッフェが突然現れたのを見つけたカラスのように目を輝かせていた。
「言ったろ。二等室は人の本音を引き出すんだって」
「じゃあ、あんたの本音も聞かせてよ」アイダが言った。「誰を身代わりにしたいのか、とか」
「言い方がひどいな」Dは真顔になった。「これは、肩を並べて戦う魂の相棒って呼ぶんだ」
「誰があんたと魂を繋ぎたいのよ」ハーヴィーが聞いた。
「いるかもしれないだろ」Dは左右を見回し、最終的にごく自然にロイへ視線を落とした。「ロイ、俺たちどうだ?文と武、静と動、古典的な組み合わせだ」
ロイは一瞬呆けたが、それから本当に一秒ほど真剣に考えた。
「上に出たら、ちゃんと指揮に従うか?」
Dは胸に手を当てた。
「俺はチームの規律を何より大切にする男だ」
全員が同時に黙り込んだ。
それから蘭が冷たく言った。
「せめて連邦軍旗に先に謝っておくことを勧める」
ロイはため息をついた。
「……分かった。組む」
「マジか」Dの顔に電流が走った。「ロイ、お前は今日、俺を信じてくれた最初の人間だ」
「信じてない」ロイは無表情で返した。「お前みたいな奴に普通の人間が一人ついていないと、本気でシールドに自分を折り畳んで自滅しそうだからだ」
「それでも、少しは信じられてる気がする」
「そう思いたいなら、そうしていい」
いい。第一組の候補はほぼ形になった。しかも、どう見ても本番で互いに罵り合いそうな形で。
一方、ハーヴィーはすぐにアイダに捕まった。理由も単純だ。アイダ曰く、ハーヴィーは少なくとも「殴られる前に退路を考えてくれそう」に見える、その資質は保安部の格闘考査ではロマンより重要だという。
ハーヴィーは「なぜ怖がり屋に見えるという理由で選ばれるのか」という複雑な顔をしたが、最終的には頷いた。
アカリはごく自然にエヴリンのところへ行った。一人は口が速く、一人は手が安定している。最も凶暴に戦う組み合わせではないかもしれないが、少なくとも開幕で自滅しない組み合わせだった。
残った空気が、じわりと重くなっていく。
人数が減れば、選択肢も減る。
選択肢が減れば、視線に重みが乗ってくる。
私、ジェス、真紀、蘭。
そう、真紀もいる。
真紀はずっと窓際の机のそばに立ち、最初から一度も声を挟んでいなかった。この人間は大抵の場合、艦内の金属製の手すりに似ている――普段は特に意識しないが、場が傾き始めた瞬間に、自分がそれを必要としていたことに気づかされる。
一番目立つわけでも、一番口数が多いわけでも、一番前に出たがるわけでもない。
だが真紀には、妙な安定感がある。
飛田のように空域全体を圧するような安定感でも、感情ごと人間を片付けてしまうような冷たさでもない。「船が揺れても、この人間の手にある物は先に落ちない」という種類の安定感だ。
真紀がここで、ようやく口を開いた。
「先に言っておく」真紀は言った。「今、単に第一組を取りたいだけの人間がいるなら、一緒に発狂してくれる相手を他で探した方がいい。私は第一組には出ない」
平静で、合理的で、周囲の焦りをすっぱり切り分けるような効果があった。
ジェスが眉をひそめた。
「あんたも第一組は損だと思ってるの?」
「損じゃない」真紀は言った。「情報が一番少ない」
蘭が横で淡々と付け足した。
「その言葉は正しい」
ジェスは真紀を一瞥し、また鼻を鳴らした。
「あんたたち、本当に同じ種類の嫌な奴らね」
Dが遠くから聞きつけ、すぐに口を挟んだ。
「その括り、広すぎないか。俺まで入っちまう」
「お前は同じ種類じゃない」蘭が言った。「別の災害枠だ」
Dが二秒沈黙した。
「それは保安部公式認定として受け取ることにする」
その時、ジェスが突然私の方を向いた。
「星野、お前と組む」
問いではなかった。
命令形だった。
こめかみがぴくりとした。
「その口調は募集?それとも徴兵?」
「違いがあるか?」
「大ありだ。前者ならまだ検討の余地がある。後者ならその場で亡命したい」
ジェスが目を細めた。
「私が足を引っ張るのが怖いの?」
「あんたが勝ちを急ぎすぎて、私ごと壁に叩きつけるのが怖い」
「……最近、随分と肝が据わってきたな」
「仕方ない」私は肩をすくめた。「保安部が人を早く育てるんだ」
ジェスの口の端がひくついた。反論したそうだったが、私の言葉が完全に間違っているとも言えないと悟ったような顔だった。
その微妙な火花が散りかけた瞬間、真紀がふと口を開いた。
「星野」
振り返る。
真紀は机の角に凭れ、いつも通り平坦な、しかしはっきりした声で言った。
「私と組め」
教室が、ごく短く静まり返った。
それほど驚天動地な一言だったからではない。普段あまり主導権を取りに行かないこの人間が、一度そう口にすると、妙な重みが出るからだ。
ジェスが先に眉をひそめた。
「あんたも乗ってくるわけ?」
真紀はジェスを見た。
「『も』じゃない。私は今初めて口を開いた」
「違いがあるの?」
「ある」真紀は言った。「私は第一組を取りに来たわけじゃない。開幕から味方の心拍数を警戒値まで突き上げない人間を探しに来ただけだ」
Dが即座に、実に意地の悪い「おおー」を漏らした。
シールドで殴りたくなった。
ジェスも意味を取り違えるほど鈍くはなかったらしい。眉尻がぴくりと跳ねる。
「それ、私のこと?」
「自分でどう思う」
ジェスが一歩前に出た。
「試してみる?」
真紀は退かなかった。
「場の上なら、いくらでも」
……いい。
組分けも終わっていないのに、先に始まりそうだ。
竹中曹長は講台の方からこちらを見ていたが、止めようとはしなかった。その表情は「よし、感情が動いている。衝突が生まれている。教材が自分から育っていく」とでも言っているようだった。
保安部の大人に良心などない。
私は眉間を揉み、このまま放置すれば本当に「二等室の資格を巡って教室内で内戦が始まる」と悟った。
「ちょっと待って」私は口を開いた。「私はまだ誰にも答えてない」
ジェスが私を見た。
「なら今答えろ」
真紀も私を見ていた。急かさず、ただ待っている。
それがかえって厄介だった。
露骨に迫ってくる人間もいれば、何も言わずにいることで、こちらに自分を追い込ませる人間もいる。
私は頭の中で両者を素早く天秤に掛けた。
ジェスと組めば、リズムは猛烈で爆発力も高いだろう。だが一歩間違えれば、彼女の前面圧力に引きずられて、そのまま壁まで持っていかれかねない。真紀と組めば――理由はよく分からないが、直感的に「生きて最後まで戦い切れる」確率が高い気がした。開幕五秒で自分を死角へ追い込むような真似はしないはずだ。
それ以上に。
真紀の誘い方には、私を単なる火力の補充パーツとして扱っている感じがなかった。
言葉にしにくいが、それだけは分かった。
私は顔を上げた。
「……真紀と組む」
空気が一拍、止まった。
Dが遠くで「これは見物だ」とでも言いたげな顔をしていた。今すぐ紙とペンを取り出して記録を始めたそうだった。
ジェスの顔が、その場でわずかに暗くなった。
多くはない。
ほんの少しだ。
だが、そのほんの少しが、一番目についた。
「へえ」ジェスが言った。「真紀を選ぶんだ」
「そう」
「理由は?」
「長生きしたいから」
Dが即座に割り込んだ。
「その一言もダメージ高いな」
「黙れ」私とジェスが同時に言った。
Dは両手を広げ、無実の顔をした。
「俺は今日はただの観戦愛好者だ」
「今日はお前が火種だ」ハーヴィーが遠くから言った。
真紀はずっと黙っていたが、ここでようやく淡々と口を開いた。
「それでいい」
「どこがいいの」私は振り向いた。
真紀の視線が、私とジェスの間を一度行き来した。
「リズムが乱れすぎない」
ジェスはそれを聞いて、さらに険しい顔になった。
「私と組んだら乱れるって言いたいの?」
真紀は少し考えた。
「速くなる」
「速くて何が問題なの」
「速さ自体は問題ない」真紀は言った。「制御を失うことが問題だ」
見事な刃の研ぎ方だった。
ジェスはその場で笑った。
嬉しそうな笑いではない。
「この借りは覚えた」という種類の笑みだった。
「あんたたち二人、今日は随分と口が回るわね」
「ありがとう」真紀が言った。
「褒めてない!」
「知ってる」
……終わった。
本当に終わった。
真紀はもうDに汚染されただけでなく、汚染源を逆に武器化する段階に入っている。
最終的な班分けは、あまり体裁のよくない、しかしぎりぎり殴り合いには発展しなかった混乱の中で決まった。
Dとロイ。ハーヴィーとアイダ。アカリとエヴリン。蘭とジェス。真紀と私。
竹中曹長は名簿を一瞥し、頷いた。
「よし。第一組、D、ロイ」
Dは名簿を眺めながら平静を装っていたが、本当に自分が第一組だと聞いた瞬間、顔全体に雷が落ちたようになった。
「……マジかよ」
ロイがゆっくりと振り返った。
「さっき第一組を、あんなに喜んで奪い合ってたのはお前じゃないか」
「あれは理論上の喜びだ」Dは言った。「実務的には、今ちょっとトイレに行きたい」
「もし本当に漏らしたら」蘭が言った。「その話を艦内伝説に刻んでやる」
「その友情に感謝する」
竹中曹長が訓練区画を指した。
「行け」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




