88. 実技テスト、本番開始 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
二人一組の切り込みは、一人より面倒だ。
面倒な理由は、自分だけでなく相手のリズムまで面倒を見なければならないからだ。入室の先後、シールドの高低、どちらがどの角を担うか、どちらが上を見てどちらが下を見るか。一拍ずれれば互いにぶつかり、二拍ずれれば揃って首を差し出す。
私が左、真紀が右。
竹中曹長は「標準手順で」と一言だけ言って、脇に退いた。
リズムを確認しようとした瞬間、真紀がわずかに顔をこちらへ向けた。
「三拍で数える。お前は合わせろ」
「……ずいぶん自然に決めたな」
「他に何がある」
「せめて私の意見くらい聞いてもいいだろ」
真紀が半拍止まった。
「お前が、これより早い方法を出せるか」
「……出せない」
「なら、私に従え」
Dが後ろで笑い声を上げた。
「うわ、この指揮スタイル、なかなか強引だな」
ジェスが冷たく言った。
「あんた、そんなに暇なの?」
「俺は戦術観察員だ」
「野次馬と言え」
私も振り返ってDへの文句に加わりたかったが、真紀はすでに手を上げていた。
三、二、一。
進入。
最初の一歩を踏み出した瞬間、真紀の「私に従え」という言葉が、決して虚勢ではなかったと分かった。
リズムが、異様に安定していた。
考える前に、身体が勝手についていく。真紀のシールドが前方の視野を先に押さえ、私は左下角へ切り込み、銃口で低位の死角を掃く。折れ角に差し掛かると同時に、真紀の肩線がちょうど半歩退いて、私が滑り込んで第二の視野を補う隙間を作った。第一のダミーが飛び出した瞬間、私はほとんど本能で二発でセンサーパッドを打ち抜いた。息をつく間もなく、真紀はすでにシールドで半開きの気密扉を押さえていた。
「右上」真紀が言った。
「見えてる」
私は銃を上げ、補射した。
「命中」
「……ほう」
後ろでDが低く唸る。
「この同期率、少し気持ち悪いな」
「黙れ」ジェスが素早く言った。
だが今回の「黙れ」には、うるさいという以上のものが混ざっていた。
Dが何か認めたくないことを言い当てたことへの、明確な苛立ちだ。
さらに二区画進んだ三つ目の角で、私は真紀とぶつかりかけた。真紀は直接手を伸ばして私の肩を掴み、半歩引き戻した。自分が先に出て視野を取る。
側面からダミーが飛び出し、マーカー光が真紀のシールド縁をかすめた。
あの半歩がなければ、当たっていたのは私だった。
心臓が、ひどく行儀の悪い跳ね方をした。
真紀が振り返った。
「焦るな」
私は口を開き、結局一言だけ返した。
「……分かってる」
「お前は心が先に行って、足がまだ来ていなかった」
「そんな馬鹿なやらかし方まで分かるのか」
「見れば分かる」
「あんた、本当に一言多い」
「可愛げを出しに来たわけじゃない」
Dがまた後ろで発症した。
「対練させてるんだ――見合いじゃないぞ、打てよ!」
通路が一瞬、静まり返った。
私は危うく足を滑らせそうになった。
真紀は頭さえ動かさなかった。銃口は、その言葉が耳に届いていないかのように安定したままだった。
だがジェスの笑い声は、はっきり聞こえた。
さっきの短い鼻笑いではない。ようやく名目が立って思い切り嘲れる、という種類の笑いだった。
「D、その一言は支持する」
「ありがとう、陣営を越えた理解を感じた」
「喜ぶな」ジェスが言った。「今回は間違ってなかったというだけだ」
顔が少し熱くなった。フェイスシールドがあって助かった。
しかもDは、まったく適当なところで止まる気がなかった。
最後の狭い通路区画で、左右の二体の仮目標を同時に処理するために、私は真紀の盾面に寄って角度を借りなければならなかった。距離が詰まると、二枚のシールドがほぼ貼りついた。フェイスシールドの内側に、互いの呼吸が薄く白く曇った。
Dが後ろで手を叩いた。
「これ、倦怠期の夫婦みたいな戦い方だな!」
「D」私は歯を食いしばった。
「はい」
「次にお前が出る番になったら、天井からダミーが二体余分に落ちてきてお前の上に直撃するよう祈っておく」
「それが結婚生活的呪詛ってやつか?」
「黙れ!」今度は私とジェスの声が重なった。
ハーヴィーは笑いすぎてしゃがみ込みそうになっていた。
ロイは顔を覆い、今すぐ別の班への異動を申請したい顔をしていた。
竹中曹長のこめかみがぴくりと動いたが、それでも中断はさせず、タブレットに何かを書き留めていた。戦術上の問題を記録しているのか、それとも「Dへの訓話の項目」をさらに十ページ追加しようとしているだけなのか、私には判断がつかなかった。
最後の扉の前で、真紀が私に先行を示した。
私は一瞬、固まった。
「今度は私が先?」
「そうだ。もうリズムを掴んでいる」
真紀を半秒見て、頷いた。
今度は私が先に切る番だ。
扉際に貼りつき、圧歩、角の確認、進入。
低位に一体、扉の陰に一体。前者は私が打ち抜き、後者は真紀が補射した。全体の流れが驚くほど綺麗に収まり、システム音がわざわざ一言足した。
「二人切り込み評価:優」
後ろから一斉に囃し立てる声が上がった。
Dが先陣を切り、声の大きさは保安部全体を呼び集めようとしているかのようだった。
「よし、お前たち、あと少し続けたら口づけでもしそうだな――」
「D」
今度は竹中曹長が名前を呼んだ。
声は平坦だった。
平坦すぎて、訓練区画全体の温度が三度ほど瞬時に下がったように感じた。
Dがすぐに直立した。
「はい」
「お前の戦術観察、一つだけ正しいものがあった」
「……どれですか」
「お前は確かに、火に油を注ぐのが得意だ」
全員が一秒、固まった。
それから、最初に笑い出したのはD自身だった。
おどけた笑いではない。認めた笑いだ。
「まあ、今回は俺の落ち度だ」Dは両手を上げ、誠実さが怪しすぎる顔で言った。「認めます。現場の空気管理が、少々エンターテインメント方向に傾きすぎました」
ジェスが壁に寄りかかり、肩を揺らして笑った。
「あんたにも、認める時があるのね」
「いつでも認めるさ。ただ、俺の番があまり回ってこないだけだ」
「その一言の方が、さっきより殴られたい」
「ありがとう」
私はフェイスシールドを押し上げ、ようやくまともに息を吸い込んだ。顔を上げた瞬間、ちょうどジェスの視線と合った。
ジェスはもう笑っていなかった。
いや、正確には、笑みはまだ口元に残っている。ただその下にあるものが、さっきまでの単純な野次馬の気軽さではなくなっていた。もっと――値踏みしている。確認している。何かを、あまり気持ちよくない顔で認めようとしている。
それからジェスは顎をしゃくり、私に言った。
「本番の演習で、あまり後ろに下がりすぎるな」
「なんで」
「真紀に引っ張られて、自分でも先に動けることを忘れると困るから」
……なるほど。
いかにもジェスらしい言い方だ。
表面は挑発。その奥に、別のものを少しだけ混ぜてくる。
何か返そうとした瞬間、真紀がシールドを外しながら、平坦に一言添えた。
「星野の最初の切り込み角は正しかった」
ジェスの目が、わずかに沈んだ。
「間違ってるとは言ってない」
「だが、お前は今、技術の話をしていない」
空気が、わずかに詰まった。
Dは傍らで、二艦が衝突コースに入ったのを見届けた観測員みたいに目を輝かせた。
「おおお――」
「もう一言でも余計なことを言ったら」私はDを振り返った。「負傷者引き摺り訓練の教材にする」
「……了解」Dは素直に両手を口の前でジッパーを閉める仕草をした。「今日はここでミュートする」
竹中曹長は、私たち十一人の感情の殴り合いを十分に観察し終えたのか、指揮棒で壁を叩いた。
「集合。前置訓練はここまでだ。これから正式演習の班分けを発表する」
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