88. 実技テスト、本番開始 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
午後の保安部実技訓練は、訓練区画に足を踏み入れた瞬間から、「午前はただの前菜、これから本番の殺し合いが始まる」という誠意を全身から放っていた。
午前の筆記試験が竹中曹長による紙を使った精神的絞殺だったとすれば、午後のこれは、その精神的絞殺を、より伝統的で、より連邦軍の美徳に溢れた物理版に差し替えたものだった。
訓練区画の自動扉が開いた瞬間、整然と並んだモジュール壁の列を見ただけで、胃が一段ぎゅっと締まった。
本来なら広々とした練習空間が、今回は徹底的に艦内通路の形へ切り分けられていた。狭い通路、九十度の折れ角、低い天井、半開きの気密扉、わざと明滅させた警告灯。さらに床までわずかに傾斜をつけた区画まであり、艦体が被弾して姿勢を崩した状態を明らかに想定している。壁面にはセンサーパッドが埋め込まれ、天井には監視カメラ、角には敵軍標準装甲を着せられた訓練用ダミーが、本物の幽霊のように立っていた。
一通り見渡しただけで、今日の午後の自分に黙祷を捧げたくなった。
「おお、こうでなくちゃな」
Dが先頭に立ち、左右をきょろきょろ見回しながら、遊園地の新アトラクションを見物に来たような口調で言った。
ハーヴィーが隣で乾いた笑いを一つ漏らした。
「お前、本当に頭がおかしい」
「そんな言い方はないだろ」Dが振り返る。表情は妙に真面目だった。「これは病気じゃない。生存環境への積極的な適応だ」
蘭が後ろから冷たく一刺しした。
「積極的な適応というのは、事故現場に自分から飛び込むことは含まない」
「違う」Dは指を立て、どうせ大した値打ちもない演説を始めそうな顔をした。「本当の精鋭は、事故現場の中に自分の舞台を見つけるものだ」
「幕が下りるまで生き延びてから言え」ジェスはヘルメットを脇に挟み、鼻で笑った。
私も何か一言乗せようとしたが、竹中曹長がすでに横の側扉から入ってきていた。手には伸縮式の指揮棒。それが彼の手に収まった瞬間、全体が「人間の頭を一突きで爆発させる教育用凶器」に見えた。
「結構だ、午前中で声が出なくなるほど怯えさせられたわけではないようだな」竹中曹長は投影幕の前に立ち、スイッチを押した。艦内構造の立体図が一斉に浮かび上がる。「では午後は本題に入る」
指揮棒で立体艙図を一点した。
「艦内侵入と対侵入戦において、要点は昔も今も『誰がより強いか』ではない。本当の要点はただ二つだ。第一、自分がどこにいるかを把握していること。第二、自分の位置を把握した上で、味方を生きたまま追いつかせられること」
「報告します」Dが手を挙げた。「両方分からない場合はどうすれば?」
竹中曹長がちらりと見た。
「そういう奴は、お前が午前中の第六問第二小問に書いた通り、まず第一列に立つ資格を剥奪される」
場がどっと笑った。
D本人は胸を押さえ、古傷を撃ち抜かれたような顔をした。
竹中曹長は取り合わず、続けた。
「今日は正式考査ではなく、前置訓練だ。お前たちが学ぶのは勇壮な突撃ではない。こんな場所で、発情したヤギの群れみたいにぶつかり回らないことだ。入室順序、角の視野、シールド角、交差援護、負傷者の引き摺り、気密扉の切り込み、節点防御、通信略語――今日は全部触れる。明日以降、通路で敵に背中を晒す奴がいたら、その失敗を筆記で三十回書かせる」
……最後の脅しが、敵軍よりよほど怖い。
竹中曹長はまず全員に簡易訓練装甲を着用させ、低出力マーカーガン、練習用戦斧、対ビームシールドを配った。その組み合わせには、連邦軍特有の黒いユーモアが滲んでいた。技術ツリーの一方では宇宙艦内での模擬戦闘を可能にするところまで伸ばしておきながら、もう一方では、廊下でアックスを持って本気で戦う方法を真剣に教えているのだから。
シールドを左腕に固定しようとしたとき、真紀がちょうど隣で固定バンドを点検していた。
「上腕ベルトが緩い」真紀が一瞥した。
「そう?」
「そうだ。角を曲がったら必ずブレる」
確認しようと俯いた瞬間、真紀はすでに手を伸ばし留め具を一段内側に引き込んでいた。動作は、言うことを聞かない機械部品を修正するような速さだった。指先が装甲の縁越しに私の腕をかすめた瞬間、なぜか全身が半秒だけ固まった。
……こんなこと、別に何でもない。
でも真紀がやると、どうしても「何かある」と思わせてしまう。
「終わった」真紀は手を引いた。さっきは引き出しを閉めてやっただけだとでも言いたげな、平坦な口調だった。
「……あ」
私はその一音節しか返せなかった。
それから、左後方の視線に気づいた。
見なくても分かる。ジェスだ。
案の定、ジェスは次の瞬間に鼻で笑い、自分のシールドを腕に叩きつけるようにはめた。
「装備点検が丁寧ね」
Dが懲りずに横から首を突っ込んだ。
「なにしろこっちは繊細路線だからな。お前みたいに『斬れれば何でもいい』式の暴力流派とは違う」
ジェスが眉を上げた。
「今日、正式演習が始まる前に一度死にたいの?」
「違う、俺は今日、場の空気の管理に非常に情熱を持っているだけだ」
「それは空気の管理じゃない」蘭が後ろから淡々と言った。「火に油を注ぐという」
「ありがとう、専門的な評価として受け取っておく」
竹中曹長が指揮棒で壁面を叩いた。
「静かにしろ。第一項、通路切り込み」
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通路切り込みとは、要するに、一枚の扉、一つの折れ角、二秒の視野差の中で、自分が生き残るか倒れるかを決める方法を教わることだ。
竹中曹長がまず自ら実演した。
一人、一シールド、一アックス、そして低出力マーカーガン一丁。前進、壁際、圧歩、角の確認、シールドを先に出す、視線を先に走らせる。一連の動作は、人間が歩いているというより、保安条令そのものが四肢を生やして動いているように見えた。速度は決して速くない。だが一つ一つの角度が、見ている者の腹の底に何かを刻むほど安定していた。派手さも気取りもない。「こうやれば、少し死ににくくなる」という、叩き上げの兵士の感触だった。
「分かったか?」
分からなかったとは誰も言えなかった。
本当に分からなかったとしても、今それを認める気にはなれなかった。
竹中曹長は次の一言でその逃げ道も塞いだ。
「分かることと、できることは別だ。D、出ろ。お前が第一組を率いろ」
一瞬、全員が固まった。
それから一斉に、視線がDへ向かった。
D自身も固まっていた。
「……俺?」
「MK標準六号戦斧に呼びかけたつもりはない」
「いや、確認したかっただけで」Dは自分を指差した。表情が、どこか恐縮しているように見えた。「今日、本当に俺の番か?」
竹中曹長が鼻を鳴らした。
「お前は口が多く、足が速く、目がよく動く。動き回り方に少しだけ値打ちがある。こういう場所には先に出す。口を半分閉じられれば、もう少しよくなる」
Dの顔が瞬時に明るくなるのを見て、私は初めて腑に落ちた。
こいつは、できないわけじゃない。ただ普段は、先に味方を全員うんざりさせてから敵もついでにうんざりさせるタイプに見えるせいで、忘れがちになる――Dは混乱した場面で、本当に怪物じみた適応力を持っている。
「聞いたか?」Dはすぐに振り返り、臨時艦長の辞令でも受け取ったかのように堂々と言った。「教官直々の認定だ。俺は口が多いが、値打ちがある」
「最初の角を生きて曲がってから言え」ハーヴィーが言った。
Dは鼻を鳴らし、片手でシールドを提げ、もう片方にマーカーガンを持ち、起点の前に立った。
竹中曹長が通路モジュールを赤色警戒モードに切り替えると、照明が一気に落ち、警報音が低く鳴り始めた。数秒前まで練習室だった空間が、私の最も嫌いな類の艦内事故現場に変わった。
「始め」
Dが動いた。
最初の一歩が、すでに安定していた。
午前中のあのへらへらした見せかけの安定ではない。全身の重心が本当に沈んでいた。シールドを半歩分先に出し、壁際に沿って足を運び、視線は先に角の上端を掃い、腰線の高さへ落とす。最初のT字路に差し掛かると、半拍だけ止まり、銃口で左側にフェイントをかけ、即座に右側へ切り返した。
次の瞬間、右側から敵軍ダミーが飛び出した。
Dが銃を上げ、マーカー弾二発がそのまま胸部センサー区画に吸い込まれた。
「命中」
機械音声が響いた瞬間、全員が一拍、黙った。
竹中曹長の眉さえ、わずかに動いた。
D本人も手応えを感じたようだったが、まだ浮かれてはいなかった。さらに二歩進んで、突然手を上げ、声を落とした。
「ここが本物の艦内なら、左の天井に人が隠れられる。ロイ、お前さっきあそこに立ってたら最初に死んでたぞ」
ロイが後ろから即座に抗議した。
「実演は実演だろ、なんでついでに俺を呪うんだ」
「呪いじゃない、予測だ。戦場は正直なものだ」
Dがそう言い終えた瞬間、天井の側板が本当に開いて、第二のダミーが飛び出した。
Dの反応が半拍遅れ、肩の装甲を掠められた。
「軽傷」
機械音声が容赦なく宣告した。
ジェスが後ろで直接笑い出した。
「誇った直後に被弾、あんたの舞台、随分と短命ね」
「あれは容錯率の実演だ!」Dは後退しながらシールド角を立て直し、強がった。「わざと教育的な事例を残してやったんだ!」
竹中曹長は今回は叱らず、ただ淡々と一言言った。
「事例としては悪くない。次からは自分の肩を教材にするな」
Dは結局、通路全体を打ち抜いた。第二の扉の前ではセンサー式の罠まで見つけた。途中で口が止まることはなく、ダミーの立ち位置に突っ込みを入れようとして側面から二度ほど取られかけたが、全体の完成度は驚くほど高かった。
起点へ戻ってきたとき、ハーヴィーの目つきが変わっていた。
「……お前、本当にできるんだな」
Dはフェイスシールドを押し上げ、「今さら気づいても遅くはない」とでも言いたげな得意顔をした。
「ずっと言ってただろ。近距離の泥仕事は、俺、わりと心得てるって」
「その台詞、普通の場所では絶対に使えないな」アイダが言った。
だが私はそんなに長く笑っていられなかった。
次の組として、竹中曹長が呼んだのは――
「星野、真紀」
胃が一瞬で沈んだ。
隣のジェスが「カチッ」とフェイスシールドを底まで叩き込んだ。音が、ひどく感じ悪かった。
Dは血の匂いを嗅ぎつけた鮫のように、一瞬で目が輝いた。
「おお――これは見ものだ」
「黙れ」私は言った。
「口は閉じる。でも観衆の期待は消えない」
「本当に殴られたいの?」
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