86. 誰にだって踏まれたくない地雷がある 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
訓練された軌道じゃない。教範に載るような綺麗なフォームでもない。ただ純粋に、直線的で、殺意に近い熱を帯びた一撃。
奴の頭が横に弾け飛び、口の端から血が噴き出した。
周囲の誰かが悲鳴を上げる。
私は止まらない。
奴が倒れ込む前に、二発目を叩き込む。今度は顔じゃない、鳩尾だ。
くの字に折れ曲がったそいつの胸倉を掴み、そのまま床へ向かって思い切り叩きつけた。
ドンッ、という重い音。
本当に重い。図体がでかい分、床に叩きつけられた衝撃音も生々しかった。口の利き方を知らない肉の袋を、センサーフロアに直接叩きつけたような音だ。
奴が起き上がろうとした瞬間、私はその胸に膝を落とし、全体重をかけて床に縫い留めた。
「お前、今なんて言った?」自分の声が、ひどく冷たく安定しているのが聞こえた。まるで自分のものではないみたいに。
ガキ大将は身をよじり、まだ何か強がろうとした。
結果、私の次の拳がそいつの頬骨を捉えた。
今度は、はっきりと嫌な音がした。硬くて脆い音。大きくはないが、十分すぎる音だ。
周りから息を呑む音が漏れる。
男が悲鳴を上げ、口からどっと血を吐き出した。血の泡にまみれた歯の欠片が床に転がり、センサーラインの縁で白く光を反射した。
私の頭の中の理性の糸は、もう完全に焼き切れていた。
胸倉を掴み、再び床に押し付け、拳を何度も、何度も振り下ろす。
闇雲に殴っているわけではない。どこを打てばいいか分かっている。どこを避けるべきかも分かっている。
それが逆に恐ろしかった。私は我を忘れているわけじゃない。極めて冷静に、こいつに『人生』を教えているのだから。
「私の恋愛を笑うなら」私は歯を食いしばって言った。「ただの馬鹿として処理してやる」
奴はもがき、泣き喚き、足をバタつかせた。
私は片手でそいつの手首を掴み、床へねじ伏せる。
「だが、私の身体を笑い者にするなら」私は顔を近づけ、さっきまで殴りたくなるような笑みを浮かべていた、今は恐怖と血に塗れた顔を睨みつけた。「お前、何様のつもりだ?」
周囲がとうとう弾けたように騒ぎ出した。
「星野! もういい!」
「おい!」
「引き離せ――!」
だが、実際に私に触れたのは二人だけだった。
一人はD。
もう一人は、真紀。
Dが側面から飛び込んできた。私の拳を無理やり止めるのではなく、右肩と肘の関節に直接割り込み、出力の軸を物理的に解体しにきた。
「星野! やめろ!」彼の声から、初めて冗談の響きが消えていた。
そして、真紀は正面から覆い被さってきた。片手で私の手首を直接ホールドし、もう片方の手で私の肩を押し込む。ほとんど半膝をつくような体勢で、私を後ろへ引き剥がした。
「もういい」真紀が言った。
声は高くない。だがその一言は、冷たい釘のように私の耳の奥へ直接打ち込まれた。
私はまだ前へ出ようとした。
だが、真紀の腕の力がさらに強く食い込んだ。
「私を見ろ」彼女は言った。
私は思わず顔を上げた。
そして、彼女を見た。
いつもなら苛立つほどに冷静な真紀の瞳が、今はひどく近い距離で私を真っ直ぐに射抜いていた。非難でも、驚愕でもない。もっと硬質で、揺るぎなく、これ以上私を暗い底へ落とすまいとする、強烈な圧。
Dはまだ横で私の肩を押さえつけながら、ひどく乾いた声を出した。
「よし、もういい。本当に十分だ」彼は言う。「これ以上やったら、戻ってきた竹中曹長に俺たち十一人まとめて埋められるぞ」
その時、外から慌ただしい足音が響いた。
教員だ。
いや、教員だけじゃない。悲鳴を聞きつけて一緒に駆け込んできた数人の足音。
引率の教員が部屋に飛び込んできて、最初に目にしたのは、床に散った血と歯の欠片、顔面を原型がなくなるほど殴られ、痙攣するように息を吸い込んでいるガキ大将。次に目にしたのは、Dと真紀に両側から押さえつけられ、装甲服を乱し、荒い息を吐きながら、拳を血で赤く染めている私の姿だった。
その瞬間、訓練室の空気そのものが、誰かに強烈な平手打ちを食らったように硬直した。
全員が黙り込んだ。
徹底的な静寂。
教員の顔から血の気が引いた。
「一体何があった!?」
誰もすぐには答えない。状況があまりにも『完成』されすぎていたからだ。説明の余地すらない。
床に転がる、さっきまであんなに楽しそうに笑っていたガキは、鼻水と涙を撒き散らし、口の端を欠き、血まみれになって、恐怖のあまり本能で震えて喘ぐだけの肉塊に成り下がっている。
私は真紀に手首をホールドされ、Dに肩を押さえつけられたまま、激しく胸を上下させていた。腹の底の炎はまだ消えきっていない。ただ、物理的に押さえ込まれているだけだ。
ジェスは傍らに立ち、先程までの観客のような態度はとうに捨て去っていた。腕を組み、ナイフのように冷たい目を向けている。
そして中等部の他のガキども――さっきまで笑い、野次を飛ばし、境界線を踏みにじることを娯楽だと思っていた連中――は、全員が幽霊でも見たように青ざめていた。
彼らはついに、一つの真実を学んだのだ。
言ってはいけない言葉があるのではない。言えば、本当に『物理的な代償』を払うハメになる言葉があるのだと。
さっきまで自分が世界の中心だと信じて疑わなかったガキ大将は、今や血と泣き声と、顔の輪郭すら腫れ上がって崩れた無様な姿を晒している。半分の歯が床に転がり、ひどく白く目に刺さる。一緒に笑い、煽り、楽しんでいた連中の顔から、表情という表情が消え失せている。
いい気味だ。口という器官が災いを招くシステムであることを、ようやく思い出したらしい。
私はまだ、真紀に手首を、Dに肩を押さえられている。
真紀の手は驚くほど安定していた。同級生を医療ポッド送り寸前まで殴り飛ばした危険人物を制止しているというより、甲板の縁から滑り落ちそうになっている人間を繋ぎ止めているような、そんな力強さだった。
Dの方は完全に冗談の空気を消し去り、私の出力軸を完全にロックしている。明らかに、私がもう二発ほど殴りつけて、事態を『歯が折れた』から『ご遺族への連絡』へアップグレードさせるのを本気で警戒している。
引率の教員が弾かれたように飛び込んできた。後ろに続くもう一人の教員が、慌てて床のガキ大将に駆け寄る。
「衛生兵! 医療班を呼べ! 今すぐだ!」振り返って怒鳴る。
中等部の連中はパニックに陥った。
後ずさりする奴。
その場で凍りつく奴。
「俺じゃない」「あいつが先に言ったんだ」「こんなことになるなんて」と、何の栄養価もない言い訳を呟き始める奴。
私の胸はまだ激しく上下し、拳に付着した血が徐々に冷たくなっていくのを感じていた。奇妙な感覚だった。炎が燃え尽き、後にはもっと醜い何かが残されたような気分だ。手が震え、呼吸が乱れ、胃の腑を誰かに鷲掴みにされているような感覚。そして耳の奥には、さっき自分が一発、また一発と叩き込んだ鈍い音がこびりついている。
引率の教員が、猛然と私を睨みつけた。
単なる怒りではない。驚愕、激怒、そして「ここは軍艦なのか、それとも闘技場なのか」という絶望が入り混じった目だ。
「彼女を外へ出せ」教員は歯を食いしばって言った。「今すぐだ」
「私が」真紀が即座に答える。
Dもすかさず続く。「俺も行きます」
教員も察したのだろう。今、全会衆の中で最も私に触れるべきでないのは中等部の生徒であり、逆に最も適任なのは、すでに私を取り押さえているこの二人だということを。彼は反論せず、酷く険しい顔で頷いた。
真紀はゆっくりと私の手首から力を抜いた。だが完全に離すことはせず、手をスライドさせて私の前腕をしっかりと握り直した。次の瞬間、私が再び暴れ出すのを警戒しているように。
Dは私の反対側に立ち、いつでも制止できるように手を浮かしたまま、低く呟いた。
「とりあえず外だ。今は振り返るな」
振り返るつもりなど毛頭なかった。
後ろめたいからではない。もし今、あの顔をもう一度見たら。誰かが奴を庇う言葉を半句でも口にするのを聞いたら。今日この授業で、さらに処理の面倒な事故報告書を提出させるハメになるかもしれないと、自分でも分かっていたからだ。
私たち三人が出口へ向かって歩き出す間、訓練室は恐ろしいほど静まり返っていた。
それはただの静寂ではない。自分たちが先程まで、いかに致命的な境界線の上に立っていたかを全員が理解し、誰一人として不用意に身動きできなくなった、完全な沈黙だった。
ジェスは傍らに立ったまま、後を追おうとはしなかった。
だが、彼女の横を通り過ぎようとした瞬間、ジェスがひどく低く、冷たい声で一言だけ言った。
「自業自得だ」
たった一言。
慰めではない。
装飾もない。
落ち着けという説教でもない。
なのにその四文字は、「大丈夫?」なんかより、わずかに役に立った。少なくともその一秒だけは、胸の中でぐちゃぐちゃに煮えていたものが、もう一段階爆発せずに済んだ。
訓練室を出て、廊下の冷気に当たった時、私はようやく遅れて、自分の手がひどく痛んでいることに気づいた。
骨が折れたような痛みじゃない。関節、指の節、虎口――殴り終えた後にじわじわと深いところから浮き上がってくる、鈍い脹れた痛みだ。拳の甲は血まみれで、どこまでが奴の血で、どこからが自分の血かも分からない。装甲服の袖口にも飛び散っていて、まるでひどく小規模で、ひどく愚かで、ひどく個人的な戦場の後始末を終えたばかりのようだった。
Dが私を、隣の空いている器材準備室へ引き入れた。
ドアが閉まると、外の気配が一段階、遠のいた。
それだけのはずだった。
でも、人間というのは時々そういうものだ。
場の中にいる間は、まだ張っていられる。
ドアが閉まった瞬間、急に無理になる。
真紀がまず、私を壁際の長椅子へ座らせた。Dは傍らで救急箱を漁っている。部屋の照明は白く、人を突き放すような白さだった。自分の手の血を見下ろしていると、胃の底から喉元まで、ぞっとするような嫌悪感が一気にせり上がってきた。
殴ったからじゃない。
あそこまで殴り続けた理由を、自分が一番よく分かっているからだ。
真紀が私の正面にしゃがみ込んだ。
「私を見ろ」彼女は言った。
本当は見たくなかった。
でもその声があまりに安定していて、一本の釘のようにまっすぐだったから、結局、私は顔を上げた。
「呼吸しろ」真紀は言う。「ゆっくりだ」
一息、吸った。
駄目だった。
二息目も乱れている。
三息目に入ったとき、私は突然、無性に笑いたくなった。
おかしいからじゃない。
人間が限界を越えかけたときに先に出てくる、あの見ていられない種類の笑いだ。
「真紀」私は口を開いた。自分の声が震えているのが分かった。「私、すごく馬鹿だった?」
真紀は私を見つめたまま、すぐには答えなかった。
Dが消毒綿を取り出したところで、私の一言を聞いて、手が一瞬止まった。
「今の質問が『殴ったことがまずいかどうか』って意味なら」Dが言う。「まずい。間違いなく。もし『あんな言葉に刺さされて傷ついたのが馬鹿かどうか』って意味なら――それは馬鹿じゃない。普通の人間だ」
私は俯き、急に言葉が出なくなった。
そういうことだ。
普段の私は、口で言い返せる。強がれる。何も気にしていないような顔を取り繕える。
でも、私自身だけは知っている。いくつかのことは、痛くないわけじゃない。ただ、それを表に出さないように押し込むのが上手いだけだ。
それを今日、生きてここまで来たのが不思議なくらい愚かなガキが、ブーツでその蓋を直接踏み抜いた。
「あいつの言い方が最悪なのは分かってる」私は自分の手の血を見ながら言った。声が乾いていくのが分かった。「怒らせたいだけだってことも分かってる。でも私、それでも――」
その先が、喉に詰まった。
これ以上言えば、本当に見苦しくなる。
でも真紀は、私が続けられないことを最初から知っていたみたいに、ただ平然と受けた。
「もともと気にしてたからだろう」
私は目を閉じた。
終わった。
この一言だ。
一番認めたくないところを正確に射抜いてくるくせに、一切の嘲りが混ざっていない台詞が、一番始末に負えない。
喉が一気に締まった。
「こういうの、嫌なんだ」私は言った。自分でも驚くほど小さな声だった。「気にするべきじゃないって分かってるのに、気になる。あんな奴に振り回されるべきじゃないって分かってるのに、一言言われた瞬間、頭の中が全部昔のことで埋まった。皮を剥がされるみたいに」
Dは黙り込んだ。消毒綿を私の横に置いて、珍しく本当に静かになった。
真紀はまだ私の前にしゃがんだまま、私の膝の少し上に手を置いていた。触れてはいない。ただ、揺れているものをそこに押さえるみたいに。
「お前のせいじゃない」
それだけだった。
大した理屈もない。
「もっと強くなれ」とも言わない。
「気にするな」とも言わない。
ただ――お前のせいじゃない。
鼻の奥が突然熱くなって、内側から誰かに強く掴まれたような感覚がした。
次の瞬間、私は本当に崩れた。
号泣するような崩れ方じゃない。それはあまりに見苦しいし、私には似合わない。
どちらかと言うと、張り詰めすぎた鋼の糸がとうとう切れて、涙が勝手にこぼれてくる感じだった。呼吸が長距離走の直後みたいに乱れ、俯いたまま肩が震えて、手はまだ血まみれで、絵面としては最悪に狼狽えていた。
Dは空気を読んで視線を逸らし、新しいガーゼを開きながら言った。
「よし、今ここで正式に宣言する。今日一番歯を折られるべきだったのは、実は俺だ。さっき二発目を止め損ねかけたからな」
泣きながら、思わず吹き出しそうになった。結果として、泣くのと笑うのが混ざった、ひどく間抜けな状態になった。
「やめてよ……」私は息を吸いながら言う。
「本気だぞ」Dは言った。「さっき本当に一瞬思ったんだ。終わった、ドワイト。今日九島と一緒に星野を止めてなかったら、明日から星野と並んで退役するまで反省文を書くハメになってたって」
真紀がようやく手を伸ばし、傍らの水筒を私に差し出した。
「一口飲め」
私は受け取る。手はまだ少し震えていた。
こういう時、なぜか、真紀が冷静であればあるほど、私は余計に泣きたくなる。
情けない。でも、仕方がない。
しばらくして、アイダ、エヴリン、ハーヴィーも部屋に通された。
ドアが開いた瞬間、アイダはまず私の様子を見て、表情がほんの少し緩んだ。エヴリンはもっと直接的で、新しい濡れタオルを手に持ったまま入ってくると、私の横にしゃがみ込み、慎重に言った。
「手、拭いてもいい?」
私は頷いた。彼女の動作はひどく丁寧で、壊れやすいものを扱っているみたいだった。
ハーヴィーは傍らに立ち、数秒沈黙した後、最後に一言だけ言った。
「あのガキ、殴られて当然だ」
実にハーヴィーらしい慰め方だ。
不器用だが、効く。
アイダは私の装甲服の外れかけた固定ベルトを直しながら、低い声で言った。
「怒ったこと自体は間違ってない。その後の何発かが余計だった。この二つは分けて考えなさい、いいわね?」
私は俯いたまま、一度頷いた。
この言葉も重要だった。
私を丸ごと否定しない。ただ、事象を誠実に切り分けてくれた。
そうだ、私は怒っていい。踏みつけられて傷ついたのは罪じゃない。でも、その後の追撃の何発かは確かに一線を越えていた。
「もう大丈夫」という空虚な言葉より、よほど効いた。
呼吸を取り戻すのに、しばらくかかった。
まともに座り直せるようになった頃には、外の嵐は、次のラウンドに入ろうとしていた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




