86. 誰にだって踏まれたくない地雷がある 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
扉が開いた直後の光景は、予想していたよりもずっとまともだった。
どういうことかと言うと――
中等部から来たガキどもは、どいつもこいつも「寮に帰って一週間は自慢できるネタを拾ってやる」という顔をしていたが、引率の教員がドアの側に立っている間だけは、最低限の教養という皮を被っていたからだ。
武器ラックを物珍しそうに眺める奴。
白線エリアを覗き込む奴。
まだ完全に消えきっていない命中記録のホログラムを指差す奴。
そして――主に野次馬根性が服を着て歩いているような連中は――私や真紀、D、ジェスの顔を値踏みするように舐め回していた。今夜のベッドトークで一番ウケるネタを探すように。
Dはそれを全部見透かしていた。
無理に威圧するでもなく、先輩風を吹かせるでもなく、ごく自然な足取りでエリアの中央へ進み出ると、練習用アックスの柄でシールドの表面を軽く二回叩いた。その音だけで、散っていた視線を自分に集める。
「よし、全員入ったな」Dが口を開く。「まずは最低限の公共サービスを提供しておこう。ここを観光地か何かだと勘違いして足を踏み入れ、見世物じゃなくて『生き残る方法』を学ぶ場所だと後で気づいて泣かないためにな」
決して声を荒らげたわけではない。
だが、リズムが異様に安定していた。
何より――その一言で、場の主導権を完全に奪い返した。
口を挟もうと待ち構えていたガキどもは、案の定、一瞬たじろいで口をつぐんだ。
Dは片手を上げ、装備ラックの横にある展示用の標準戦闘装甲服を指した。
「さっき竹中曹長も言ったはずだが、お前たちのために人間の言葉で翻訳してやる」Dは続ける。「こいつは、着れば無敵になる魔法のスーツじゃない。ただ『死ににくくなる』だけの代物だ」
「夢があるな」後ろでハーヴィーが低く呟いた。
「どうも。連邦の現実を、できるだけ教育的配慮で包んでみたつもりだ」Dは振り返りもせずに返す。
中等部の何人かが噴き出した。
いい傾向だ。
空気はまだDが握っている。
彼はそのまま説明を続ける。
「この標準戦闘装甲服は、コア戦術コンピュータ『M.K.I.O』を搭載し、独立した大気濾過・循環システムを備えている。神経ガスや催涙ガスみたいな三流の嫌がらせは通用しない。表面には対ビームコーティングも施されている。だから、これを着てかっこよくレーザーを撃ち合うのが戦争だと思っている奴がいたら――おめでとう、人生そんなに甘くないってことをすぐに学べるぞ」
二列目に立っていた、いかにも軍オタ予備軍といった風貌の眼鏡のガキが、すぐに手を挙げた。
「じゃあ、本当に有効なのは何ですか?」
Dはそいつを一瞥し、笑った。
「いい質問だ。模範解答は二つある」彼は指を二本立てる。「一つ、火薬銃。二つ、直接突っ込んで相手を叩き割る」
眼鏡のガキは一瞬呆気に取られた。
だが、周囲の何人かは逆に目を輝かせた。
これだから中学生というのは厄介なのだ。システムやスペック、原理を語っても、半分は分かったふりをし、もう半分は欠伸をする。だが「叩き割る」という単語を出した瞬間、頭から氷水を被ったように全員の意識が覚醒する。
Dはその反応に満足したのか、傍らの訓練用シールドを拾い上げ、練習用アックスを引き寄せた。
「よし、一番シンプルなやつを見せてやる」彼は言う。「どう勝つかじゃない。どうやって『先に死なないか』だ」
彼はロイに向かって手招きした。
「善人代表、もう一回貸してくれ」
ロイは傍らで「なんでまた俺なんだ」とでも言いたげな顔をしていたが、結局は諦めたように歩み出た。
「お前が一番、標準的な教材っぽいからな」Dは大真面目な顔で慰める。「手本にするには一番説得力がある」
「まったく慰めになってないんだが」とロイ。
中等部の連中は、すでに前のめりになって押し合いを始めている。
引率の教員は場が落ち着いていると判断したのか、「前方のセンサーラインを越えないように」とだけ注意し、もう一人の教員と何事か低く言葉を交わすと、そのまま部屋の外へ出て行った。
その後ろ姿を見た瞬間、私の中で嫌な予感が一段階跳ね上がった。
……嘘だろ。
案の定だった。
教員が姿を消した途端、中等部の連中の、それなりに行儀の良かった立ち姿が、骨を抜かれたように崩れた。
顔を見合わせる。
忍び笑いを漏らす。
隣の奴を肘でつつく。
何人かに至っては、明らかに目の色が変わった。「授業を受けに来た」目から、「大人がいないなら、どこまでふざけられるか試してやろう」という目へ。
その変化は早かった。じっと観察していなければ、気のせいだと錯覚してしまうほどに。
だが、Dは見ていた。
私も見ていた。
当然、真紀も見ていた。
それでもDはすぐにキレたりはしなかった。そこが彼の賢いところだ。
彼はまずロイを白線内に引き入れ、ごくシンプルな防御の手本を見せた。シールドの角をどう立てるか、重心をどう沈めるか、アックスの柄を無闇に上げてはいけない理由。さらに、ロイに「初心者がやりがちな、シールドを開きすぎるミス」をわざとやらせ、その隙間から極めてクリーンな軌道で、訓練用アックスを脇腹のセンサー区画に当ててみせた。
システムが赤く点灯する。
中等部の群れから「おおー」という感嘆の声が漏れた。
いいぞ。奴らの目が技術に向いているうちは、まだ場をコントロールできる。
Dは続いて、シールドを使ってどう角度を殺すか、手首をどう固めるか、相手が前に出る一歩を利用してどう有効ラインの外へ押し出すかを実演した。解説の間も口は止まらない。テンポが良く、安定していて、言葉の選び方が絶妙だった。
「ここは力比べじゃない」彼は言う。「相手が先に焦るのを待てるかどうかの、忍耐比べだ」
「艦内戦闘は空間が狭い。一番価値があるのはカッコよさじゃなく、通路を死守できるかどうかだ」
「それから、アックスを持ったからって突然ヒーローになれると勘違いするな。大抵の場合、お前らは『自分をより早く死体袋へ送るための金属の塊』を持たされているだけだ」
眼鏡のガキが深く頷く。
別の長身のガキが、すかさず質問を投げた。
「じゃあ、相手もシールドを持ってたら?」
「相手よりうまく騙せるか」Dは答える。「あるいは、相手より長く耐えられるかだ」
その言葉が出た瞬間、横にいた短髪のガキが鼻で笑った。
「なんか、自分がすげぇ強いみたいに言うじゃん」
ほう。
来たな。
この手の口調には聞き覚えがある。正面からの挑戦じゃない。つま先で軽く線を踏んでみて、こっちがどう反応するかを窺っているのだ。
Dはそいつを振り返り、あろうことかまだ笑っていた。
「じゃあどうしろと?」彼は言う。「本当はさっき、俺が場に引きずり回されてただけでしたって顔で語れってか?」
周りのガキどもが再び笑う。
短髪のガキは口元を引きつらせ、すぐには言い返せなかった。
よし、最初の一撃はDがうまく受け流した。
だが問題は、この年代の子供は「まだ遊べる」と学習すると、そこで引き下がらないことだ。彼らはただ、本当の限界線がどこにあるのかを知りたがる。
そして第二ラウンドが始まった。
別の、少しガタイのいいガキが一歩前に出て、ロイを、私とジェスを舐めるように見回し、最後に真紀へ視線を落とした。
「さっきのあんたらのアレ、何だったの?」そいつは言う。「高等部って言っても、別に大したことないじゃん。お互いにちょっと触り合ってただけだし」
さっきより少し棘が増えた。まだ一線は越えていない。だが、意図的に人へ向かって石を投げ始めている。
ロイが眉をひそめ、言い返そうとした。
だがDがスッと手を挙げて制する。相変わらず、場を温めるような緩い動作で。
「素晴らしい」Dは言った。「これぞ標準的な観客の模範解答だ。自分は安全圏にいて、他人の試合が地味だと文句を垂れる」
中等部のガキどもがどっと笑う。
ガタイのいい奴は明らかに気を悪くしたようで、すぐに噛み付いた。
「じゃあ、あんたは強いわけ?」
「少なくとも、外野で口を動かすのが一番楽だってことは知ってる」Dは返す。「それに、実際にラインの中へ入った時、人間が一番やりがちなミスは『勝てないこと』じゃない。『自分を過大評価すること』だっていうのもな」
私は傍らで見ていて、徐々に嫌な予感が濃くなっていくのを感じた。Dの返しが鮮やかであればあるほど、あのガキどもは引っ込みがつかなくなる。別の角度から破綻を見つけ出そうと必死になるだけだ。
そして「俺たちはあんたらにビビってないぞ」という感情が発酵し始めると、大抵の場合、一番安直で下劣な方向へ転がっていく。
案の定だ。
あの短髪のガキが再び口を開いた。今度はDを見ない。真っ直ぐに、私を見た。
「さっき白線の中でやってたの、あんたでしょ?」
心臓が、嫌な音を立てた。
「そうだけど」私は答える。「何か?」
「別に」わざと間延びした口調。「ただ、あんたの動き……なんか変だなって」
私は目を細めた。
「どこが?」
「なんていうか」そいつはニヤリと笑った。「戦ってるっていうより……ほら、演技してるみたいでさ」
周りのガキどもが、くすくすと下品な笑いを漏らす。
さっきよりも悪意が露骨だ。だが、まだ最悪じゃない。まだ耐えられる。
なぜなら、他人の色恋沙汰をからかうなんて、所詮はただの暇つぶしだからだ。不愉快だし、安っぽい。だが「口の減らない馬鹿を相手にするだけ無駄」という範疇には収まっている。
だが、人間というのはそういう生き物だ。こっちがすぐにキレないと分かると、「自分の攻め方は正しい」と勘違いする。そして、さらに深く踏み込んでくる。
集団の真ん中に立つ、同年代より一回り大きなガキ大将のような男が、ついに笑いながら決定的な一言を放った。
そいつの視線が、私の顔からゆっくりと下へ滑り、一秒だけ止まって、また戻ってきた。
それから、こう言った。
「まあ、仕方ないよな。あんたの動きが変なのも」
そいつは笑う。
「あんた、結局男なの? それとも女?」
訓練室の空気が、凍りついた。
比喩ではない。本当に一瞬、空調の音すら遠ざかったように感じた。
私はその場に立ち尽くしていた。手にはまだ訓練用シールドを握っている。
だがその瞬間、脳裏に浮かんだのは、さっきの対人戦でも、Dの煽りでも、白線の向こう側で私を見ていた真紀の姿でもなかった。
ずっと昔の、ひどく忌まわしい記憶だ。
ハインリヒ博士の薬。
遅延し、抑圧され、歪められた成長期。
いつまで経っても同年代に追いつかない第二次性徴。
鏡に映る、紛れもなく女でありながら、どこか誰かにこっそり一時停止ボタンを押されたままのような、この身体。
私はずっと、そのことを口にしなかった。
気にしていないからじゃない。気にしているという事実そのものが、死ぬほど煩わしいからだ。
だから言わない。仲間たちも皆、賢明にそこには触れなかった。
なぜなら彼らは知っているからだ。他人の恋愛感情をからかうのは、ロマン。他人の身体的特徴をからかうのは、ただの暴力だということを。
そして今、身の程知らずのクソガキが、その境界線を土足で踏み躙った。
Dが息を呑む音が聞こえた。
ジェスの顔から笑みが消し飛んだ。
真紀は声を発しなかった。だが、彼女の周囲の気圧が急激に下がったのが分かった。
ただ――
彼らは全員、反応が一拍遅れた。
私が先に動いたからだ。
飛びかかったわけではない。それではあまりに無様だし、感情を失ったように見えてしまう。
私はシールドを無造作に放り捨て、一歩、二歩と前に出た。三歩目を踏み出した時、ガタイのいいガキもようやく異常に気付いたらしい。無意識に肩をすくめ、後退しようとする動きと、虚勢を張って踏み止まろうとする動きが衝突していた。
遅すぎる。
私はまず、そいつの口に拳を叩き込んだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




