84. 艦内白兵戦タクティクス 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「場のカードをあいつに渡してから『あまり派手にするな』って」彼女は言った。「火種を子供に渡して、『弾薬庫には近づくな』って言うのと、どこが違うのよ」
「少なくとも子供は、あいつほど得意げな顔はしない」蘭が言った。
「おい」Dが抗議した。「それは俺の人格に対する組織的な毀損だぞ」
「毀損じゃないわ」真紀が淡々と言った。「長期観察の結果に基づく記録よ」
つい彼女のほうを見た。
言い終えたあとの彼女の表情は、ひどく静かだった。目の動きも最小限で、まるで天気予報に「今日は風が南東寄りです」と一行追加しただけのようだった。
だが、腹が立つ。
この女が一言発するだけで、話は自動的に、より正確で、より鋭く、より反論不可能なほうへ転がっていく。
Dは胸を押さえ、大袈裟に怯んだ様子を見せた。
「九島さん」彼は言った。「そうやって、俺の人間性に残ってる最後の信頼を削り取るつもりか」
「その信頼は、早めに捨てた方がいい」彼女は言った。「後になってからのほうが、痛いから」
本当は笑うつもりだったが、ちょうど横を向いたとき、彼女の視線と正面からぶつかった。
ほんの一瞬だった。
それでも、訓練室の白いライトが強すぎるせいか、あるいは装甲服の横に立つ彼女が元々「近づかないほうがいい危険物」に似すぎているせいか、あの一瞬、彼女のほうがさっきの戦斧より扱いづらく見えた。
すぐに視線を逸らした。
……まずい。方向が悪い。
保安部の近接戦闘の授業で同室の同級生に変な感想を抱く——この設定だけで、「それをネタに運命に殴られる未来」の前奏曲みたいな響きがする。
竹中は、私たちのその辺の視線のやり取りや人格攻撃、集団的不信感には、一切興味がないようだった。彼はただDを一瞥し、そのカードが確かにこの部屋で一番騒ぎを起こしそうな人間の手に渡ったのを確認してから、短く頷いた。
「十五分後に見に行く」彼は言った。「それまでに基本の対練をやっておけ。シールドの角度、重心、接近距離、死角への抑え込み。この四つだ。練習室を壊した奴がいたら、その名前を直接、修理申請書に書き込んでやる」
「了解」Dは意外にも背筋を伸ばし、真面目に返事をした。
彼の「やりすぎないようにします」という顔を見て、私の頭に浮かんだのは一つだけだった。
——本当に抑制が効く人間なら、今ごろ雪風の艦名は「平穏」になってる。
竹中曹長が去ると、彼が抑え込んでいた空気が少しだけ緩んだ。
好き放題できるほどではない。
でも、全員がようやく「生きている人間」に戻ったくらいには。
Dはカードをひらひらさせながら、訓練区の内側にある厚いグレーの自動ドアのほうへ歩いていった。
「さあ、連邦の未来を背負う皆さん」彼は言った。「あなたたちの一時的な優秀場内管理者について来なさい。心配するな、俺には一貫した原則がある——」
「どんな原則?」ジェスが訊いた。
「まず自分が生き残る、というやつだ」
「それは原則じゃない」ハーヴィーが言った。「本能って言うんだ」
「本能も戦場の美徳だよ。ありがとう」
彼が権限カードをリーダーにかざすと、自動ドアが左右に開いた。
その向こうは、私が想像していたような単なる大きな空き部屋ではなかった。
モジュール化された近接戦闘訓練室が、ぎっしりと並んでいた。
扉のところに立ったひと目で、なぜ竹中曹長がこの授業をここに持ってきたのか、理解できた。
ここは普通の練習室ではなかった。
雪風の腹の中で、人が一番みっともなく死にやすい空間をいくつも切り出し、縮小して組み替え、同じデッキにきれいに並べてみせたような場所だった。
狭い通路、短いコーナー、半開きのドアフレーム、昇降式のパーテーション、低い障害物、緊急照明の切り替え区画、エアロックの模擬ノード。それに、整備用通路に似せた細い足場まであった。フル装備の一人が横向きになってやっと通れるくらいの幅だ。壁と床はほとんどがソフトマテリアルとセンサー層で覆われていたが、表面は灰黒の金属テクスチャで仕上げてあり、一歩踏み込んだ瞬間、心理的な圧迫感の半分くらいは、自分の頭の中から勝手に生えてきた。
飛行課は、宇宙がいかに大きいかを思い知らせてくれた。
この部屋は、もっと直接的にこう教えてきた——人が死ぬのは、外が広すぎるからだけじゃない。中が狭すぎるからでもある、と。
アカリは入るなり頭上の配置を見上げた。
「モジュール式近接戦闘訓練室……」彼女は低く言った。「ノードリセットシステムもある。壁面にセンサー層が埋まってる。命中と接触角度は全部記録されるわね」
「つまり」私は言った。「これからの転倒は、自動的にログが残るってこと」
「そういうこと」
「……あなたの『そういうこと』、情緒が皆無ね」
「データに情緒は不要だから」
本当にありがとう、連邦軍。今日もあなた方の最も温かい一面は、一切顔を出していない。
Dが先頭に立って中に入り、完全にここを自分の一時的な領地だと思い込んでいるようだった。中央のコントロールパネルまで行ってカードをもう一度通すと、訓練室全体のライティングが通常の白色から冷たい訓練モードに切り替わり、床の数本のラインが光り、壁際の装備ラックが自動的に開いた。
中には、訓練用の簡易アーマー、ヘルメット、ショートシールド、練習用の斧とマーカー付きの短銃が、整然と並んでいた。
「いやあ」Dは言った。「竹中曹長、自分では『無情じゃない』とか言ってたけど、ここまでフルセットで用意してくれてると、ちょっと感動するな」
「お前の感動の閾値、低すぎる」ロイは装備ラックの前に行き、アーマーのバックルを真面目にチェックし始めた。
「わかってないな」Dは振り返った。「大人がここまで整った場を丸ごと渡して好きにやらせてくれるってのは、それだけ信頼されてるってことなんだよ」
「それは信頼じゃない」蘭が言った。「損害上限テストよ」
ジェスはすでに一枚の訓練用シールドを手に取り、手首をひねって感触を確かめ、反対の手で練習用の斧を引き抜いた。握った動作があまりにも自然で、その場で生えてきた装置かと錯覚するほどだった。
「くだらないこと言ってないで」彼女は言った。「練るんでしょ? 誰からやる?」
実にジェスらしい。
武器を握った瞬間から、この人間の忍耐力は、誰かがポケットからすり取っていったかのように減少する。
Dはすぐには応じず、まずパンと手を叩いた。
「その前に装備を着ろ」彼は言った。「みんな互いに殴り合うのが待ち切れないのはわかってるけど、せめてプロテクターくらいは付けてからにしてくれ。今日の俺は、正式演習の前に144班がここで脳震盪を起こした件について、竹中曹長に説明する役にはなりたくない」
「今の一言、妙にまともな人間に聞こえるんだけど」ハーヴィーはアーマーを手に取りながら言った。
「俺は最初からまともだよ」
「それなら、連邦の精神科基準のほうを疑ったほうがよさそうだ」
笑いをこらえながら、ラックから訓練用アーマーを一式引き出した。
このアーマーは、さっき展示されていた標準戦闘装甲服に比べればずっと簡略化されている。完全密閉ではなく、ヘルメットも実戦仕様ではない。でも胸、肩、前腕、脚の側面、首の前後には最低限のプロテクションがあり、アーマーの内側には簡易版M.K.I.O.が接続されていて、被弾、バランスのずれ、行動軌跡が記録されるようになっていた。
前腕のストラップを留めているとき、真紀が左前方で肩のバックルを調整しているのが見えた。
彼女のこういう姿は、本当に鬱陶しかった。
笑える種類の鬱陶しさではない。
厄介な意味で、だ。
普通の人間が訓練用アーマーを着ると、「学生」に見える。
真紀が着ると、「例え練習用の斧しか持っていなくても、正面で相対したくない人間」に見えた。動きは速すぎず、でも半端な間は一切ない。手袋を引き締めるだけの動作ですら、勝手に秩序をまとっていた。
一秒だけ、余計に見ていた。
真紀が視線に気づいたようで、顔を向けた。
「肘のストラップ、裏表逆よ」
見下ろすと、本当に裏返しに留めていた。
……くそ。
「そういう、『結婚何年目のチームメイト』みたいな口ぶりで指摘するの、やめてくれない?」
「事実を指摘しただけよ」彼女は歩み寄ると、私のストラップをひっくり返し、指先だけで一引き一留めで留め直した。「そのまま出たら、最初に自分で身動き取れなくなるのはあなたよ」
近づいていた時間は短く、動きも教科書通りで、一切の余計な曖昧さはなかった。
でも訓練室の冷房が効きすぎていたのか、アーマーの内側が熱を閉じ込めすぎていたのか、その瞬間、耳まで熱くなるのを感じた。
馬鹿みたいだ。
今は保安部の近接戦の準備段階で、私の頭は「さっさと装備を整える」と「さっきの女はただストラップを直しただけで、他意はない。勝手に余計なことを考えるな」の二つを同時に処理しなければならなかった。
ジェスがちょうどこちらを見ていて、私たちに視線を流し、口元を少しだけ上げた。
その笑いは非常に控えめだった。
でも、私はわかった。
——あら。
——また始まった?
すぐに何もなかったふりをして、残りのバックルをやたら一生懸命締めた。
Dがアーマーを着終えると、中央の低い台に飛び乗り、練習斧の柄でシールドを軽く叩いた。
「よし、ルールの説明をするぞ」彼は言った。
「お前、本当にルールを説明するつもりか?」後ろでアッシュが珍しくわずかな驚きを滲ませて言った。
「もちろん説明するさ」Dは言った。「俺はジェスじゃないから」
「殺すわよ?」ジェスが睨んだ。
「いや、これはあなたの行動様式の客観的な記述だよ」
彼は練習斧を肩に担ぎ、もう一方の手でシールドを上げた。
「今日は複雑なことはしない。二人一組の対練からだ。まずはシールドの角度、間合い、足運び、フェイントの掛け方を体に入れる。ヘルメット正面、首の側面、脇下、膝裏、シールドを持っている手首へのヒット、もしくは相手をラインの外に追い出したら、有効。力任せに床に自分の体重を証明するんじゃない。この部屋の壁と床は全部記録する。みっともなさもデータとして残る。連邦テクノロジーに感謝しろ」
「今の一文、校訓として採用できそうね」私は言った。
「俺もそう思う」Dはごく自然に続けた。「『恥はデータとして残る』。144班に贈るよ」
「どんな顔で俺たちを広告に使ってるんだ、お前は」ハーヴィーが言った。
「今、司会だから。司会者は群衆よりエラいんだ」
「そんな制度、今日中に滅びろ」
私は手首を回しながら、Dが立ったままみんなを割り振っていくのを見ていた。
彼は普段、場をまともな方向に運ばない男に見える。
でも、半ば混乱し、半ば誰かに采配を任せたがっている空間を丸ごと渡されると、不思議なことに、妙なリズム感を生やしてくるのだ。
正統な指揮官のリズムではない。
どちらかといえば、路上の喧嘩の中にある種のリズムに近い——誰が先に目を逸らすか、誰が先に踏み外すか、誰の気勢が今まさに萎みかけているか。それが全部見えているから、いつ口を挟むべきか、いつ軽く一押しして人を正しい位置へ動かすべきかを、彼は知っている。
腹立たしいが、役に立つ。
「第一組」Dは言った。「ロイと俺」
ロイが一瞬固まった。
「俺?」
「そう」Dはひどく人のよさそうな笑みを浮かべた。人のよさが過剰すぎて、先にロイのために線香を上げたくなる笑みだった。「一番ちゃんとルール通りに打ちそうな人間を、まず基準線にしようと思って」
ロイは深く息を吸い込み、シールドと斧を持って中央の白線区画へ入った。
本当に同情した。
心から。
この世で最も恐ろしいことのひとつは、ちゃんと授業を受けるつもりで来たのに、正面に立っているのがDだということだからだ。
練習システムが起動すると、床に淡い青の標線が浮かび上がり、頭上の投影に二人の被弾判定フレームが同期表示された。
「始め」
ロイが先に動いた。
きわめて教科書通りだった。
教範のイラストが生き返ったかのような動きだ。
シールドを前に構えて詰め、斧の手は外に張らず、重心を落として一歩試し、さらに二歩目を刻む。
相手が普通の人間なら、この手堅い打法は十分機能する。
問題は、相手が普通の人間ではないことだ。話しかけながら、同時に相手のリズムを半拍ずつ削いでいく類の人間だ。
Dは左に半歩だけ虚をつき、シールドを少し傾けながら、なぜかまだ口を開く余裕があった。
「ロイ、その構え、報告書を先に書いてから動く気でいるみたいだぞ」
「黙れ!」
「おっ、言い返した。精神はまだ生きてるな——」
ロイが一斧押し込んだ瞬間、Dは最後の一瞬にシールドの角を返し、正面の力をそのまま流した。そのまま骨がないかのようにロイのシールドの脇へ滑り込み、練習斧の柄がぱしりとロイの脇腹のセンサーを叩いた。
システムが即座に赤く光った。
有効命中。
「……」ロイは一秒固まった。
「ほら」Dは二歩引いて、誠実そうな顔で言った。「お前は俺をどう打つか考えてた。俺はお前に『もう少しで当たりそう』と思わせることを考えてた」
「それは指導じゃなくて詐欺だ」ハーヴィーが横から評した。
「近接戦には、かなりの割合で詐欺が含まれてるんだよ」Dはもっともらしく返した。
ロイは明らかに納得していなかった。二度目は、より真剣に来た。
結果は、さらに散々だった。
Dはこういう近距離のリズム戦が本当にうまかった。力任せでも、猛然と圧してくるわけでもない。「この人間は強い」と一目でわかる圧迫感すら出さない。彼が使うのは、非常に厄介なもの——半拍のずらし、フェイント、視線のトリック、そして頭から最後まで一切黙らない口だ。
三ラウンドを経て、ロイは完全にペースを崩されていた。
「お前は本当に集中してるのか!」ロイは耳まで赤くなりながら怒鳴った。
「集中してるよ」Dは言った。「集中しすぎて、お前が打ちにくるたびに左肩が先に固まるのまで観察できてる」
ロイの表情が一瞬で変わった。
「なんで今それを言ったかわかるか?」Dはひどく意地の悪い笑みを浮かべた。「これから必死に直そうとして、かえってもっと崩れるからだよ」
思わず笑いで腰が折れた。
「本当に汚い」私は言った。
「ありがとう、褒め言葉として受け取る」
真紀が私の隣に立ち、場内を見つめながら、淡々と口を開いた。
「汚いんじゃない。相手の注意を分散させるのがうまいのよ」
横目で彼女を見た。
「あなた、あいつを褒めてる?」
「事実を述べてるだけ」真紀は言った。「あの打ち方は、近距離の圧に慣れていない人間に対して、特に効く」
ジェスが小さく鼻を鳴らし、手の中で斧の柄をくるりと回した。
「真面目な人間には効くでしょうね」彼女は言った。「私には、どうかしら」
Dがすぐに顔を上げた。
「その台詞、好きだぞ。次はお前か?」
ジェスはほとんど考えもせず、一歩前に出た。
「来なさい」
……なるほど。
この二人が同じ輪の中に入ると、誰かが点火器と高圧燃料を同じテーブルに置いた状況に似ている。
システムが再び白線を光らせた。
今度は、場の外が明らかにさっきより静かになった。
みんな、わかっていたからだ。これは「Dが真面目な学生を翻弄して人生を疑わせる」教育の場ではない。本当の意味での、互いに刃を試し合う場だ。
「始め」
ジェスの最初の一歩は、ロイとは比べものにならないほど鋭かった。
保守的な試し歩きも、礼儀的な間合い計りもなかった。
入ってくるなりシールドを前に押し出してDに先に下がらせ、シールドの陰から練習斧を翻す。その角度は、相手のリズムごと尊厳ごと削ぎ落とすつもりで来ているようだった。
Dは半歩だけ引いた。
半歩だけ。
ここで退きすぎると、逆効果だとわかっていた。ジェスのような相手に「わざと誘ってるな」と見せると、次の一撃がさらに重くなる。
「おお」Dは引きながらも言った。「この入りかた、火花が出てるな。ジェスさん、飛田艦長に撃墜された件、まだ覚えてる?」
「今それを試したいの?」
シールドとシールドがぶつかり、鈍く重い音が響いた。
その一発で、さっきまで少し冗談の色が残っていた場が、完全に実戦のリズムに叩き込まれた。
ジェスは本当に強かった。
見映えのする強さではない。
容赦のない強さだった。
一歩一歩に「前へ圧し込む」意志が乗っていて、斧路は無駄がなく、シールドの角は鋭く、動作の全体に「退かせる」という意図が、ほとんど露骨なほど剥き出しになっていた。しかし乱れてはいない。あの直線的な圧迫の中に、独自のリズムがある。牙に似た。
場内で交差するシールドと斧の影を見ながら、なぜ竹中曹長がこの授業で防御を先に教えると言ったのか、ようやく腑に落ちた。
この距離では、考えている時間がない。
どうやって勝つかを先に決めるのではない。
どうやって死なないかを先に決めるのだ。
Dは第一ラウンドで少し遅れを取った。
命中ではない。
ジェスに直接標線の端まで追い込まれ、システムが警告を出した。
「わあ」Dはすかさずシールドを上げながら後退し、それでも口は止まらなかった。「この人、装甲より気性が厚い」
「黙れ」
ジェスがもう一斧押し込んだ。
今度、Dは退かなかった。
右に虚をつき、シールドの面にわざと小さな隙間を作った。失敗に見える隙間だった。あまりにも失敗っぽくて、私でさえ一瞬「本当に遅れたか?」と思ったほどだ。だがジェスがそこへ踏み込んだ瞬間、Dは突然距離を詰め、シールドの縁でジェスの斧柄の下半分を引っかけ、身体を一側にひねって、斧柄の尾端をジェスの膝の外側へ軽く当てた。
強打ではない。
バランスを崩すためだ。
ジェスの足元が一瞬乱れ、次の瞬間にはDの練習斧の平面が、肩と首の境目に当たっていた。
システムが赤く光った。
有効命中。
「くそ」ジェスが低く言った。
「毎度あり」Dが言った。
だがジェスはロイのように、リズムを完全に持っていかれることはなかった。ただ歯を食いしばり、第二ラウンドに入るなり、極めて速く修正してきた。さっきほど足を直線に踏まなくなり、シールドも前へ貪るような押し込みをやめ、Dが先に喋るのを待ち始めた。
これは賢い。
「修正が速いな」私は思わず言った。
「もともと馬鹿じゃないから」真紀が返した。
「あなた、今ジェスを褒めた?」
「今日はずっと事実を言ってるだけ」真紀は場内を見たまま、声は変わらなかった。「ただ、慣れていない人が多いだけ」
……なるほど。
この人は他人を褒めるときも、統計分析をしているみたいに聞こえる。
場内の第二ラウンドに戻る間もなかった。もう火がついていたからだ。
ジェスは今度、本当にDに一発入れた。
完全な制圧ではない。
でも短い窓を見つけ、シールドの押し込みでDを少しずらし、斧刃をほとんど綺麗な角度でDの前腕のセンサーバンドに掠らせた。
システムが黄色から赤に変わった。
有効命中。
今度はDが口笛を吹く番だった。
「いてえ」と言いながら後ろへ跳び下がり、笑っていた。「噛みつくな」
「あなたと談笑しに来たと思ってたの?」
「一瞬だけ、そう願ったよ」
第三ラウンドが始まる前に、練習室の中はもうさっきの緩んだ空気がなくなっていた。
全員が引き込まれていた。
ロイはDのフェイントの作り方を見ていた。
ハーヴィーはジェスのリズムの修正の仕方を見ていた。
アカリの端末の記録ページは、もうすぐ次のページに移りそうだった。
アイダとエヴリンは、明らかに足運びの交換を頭の中で追っていた。
アッシュはまだ淡々とした顔をしていたが、視線の集中度は最初とは違っていた。
私は立ったまま、ふと明確な感覚を覚えた。
この授業は、飛行課とは違う。
飛行課は全員を同じ宇宙に放り込んで、誰が持ちこたえるかを見た。
竹中のこの授業は、一人ひとりの気性、リズム、癖、負けず嫌いの部分を引っ張り出し、逃げ場のない狭さに押し込んで、突きつけてくる——この距離の中で、お前はこういう人間だ、と。
第三ラウンド、Dとジェスはほぼ同時に命中を出した。
一方は肩に、一方は脇腹を掠めた。システムが同時に赤く光り、場内は訓練室らしい野次と笑いが弾けた。
「引き分け!」私が真っ先に叫んだ。
「違う」Dがすぐ抗議した。「俺は精神的に勝ってる」
「お前は精神的にはいつも自分が一番だと思ってるだろ」ハーヴィーが言った。
ジェスはヘルメットを少し上げ、額に汗が張り付いていたが、目は輝いていた。
「もう一回」
「順番待ちな」Dはすかさず手を上げた。息もまだ整っていないのに、口はもう動いていた。「お前みたいな危険物は連続使用禁止だ。他の人間にも連邦の教育を体験させてやれ」
そう言って、彼の視線が全員を流れ、最後に私と真紀のほうで止まった。
胸の中に、非常に嫌な予感が湧いた。
「次の組」Dがにやりと笑った。「星野——」
私はすぐに手を上げた。
「ちょっと待って、延期を申請する権利があるはずで——」
「——と九島」
練習室全体が、半拍だけ静まり返った。
それから、誰かが極めて小さく息を吸った。
私はその場に立ち、手に持っていたシールドが滑りそうになった。
……いや。
この組み合わせを作ったお前、場の盛り上げ方をわかりすぎてないか。
Dは無実そうな顔で私を見た。
「どうした?」彼は言った。「さっきからずっと息が合ってたじゃないか。俺は資源の有効活用を大事にしてるんだよ」
ジェスは横でシールドを抱え、口元がゆっくり上がっていた。
その表情を訳すと、大体こういう意味だった——
——あら。
——これは面白くなってきた。
真紀のほうは、特に反応もなかった。ただ静かにヘルメットを締め、シールドと斧を持って白線区画へ歩き始めた。
私の横を通り過ぎるとき、一言だけ落とした。
「行くわよ」
その当然すぎる顔を見て、このシールドをDの顔に直接叩きつけてから、「連邦軍学校に『同級生の前で正常な心拍を維持する方法』という補講は開講されていますか」と問い合わせたくなった。
残念ながら、そういう講座はない。
だから最後は深く息を吸い込み、練習装備を手に取り、白線の中へ歩いていくしかなかった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




