80. 二人を狭める寝台、重なる体温 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
当直が本当に終わる頃には、自分が起きているのか、それとも責任感という名の何かで無理やり魂を肉体に縫い留めているだけなのか、もう区別がつかなくなっていた。
雪風の艦橋から見える外の黒は、もう真夜中のような底なしの黒ではなかった。
前方の観測窓の向こうに、遠くの星の光はまだ残っている。しかしさらに遠くの航路の背景には、ごく薄い灰色の層が浮かび上がり始めていた。日の出ではない――宇宙にそんな都合のいい日の出があるわけがない――艦内時間と航路の視覚補正システムが共同で作り出した「夜明け感」だ。主ディスプレイはまだ点灯し、艦橋の冷たい作業灯も変わっていない。それでも、空間全体になぜか「夜勤がもうすぐ終わる」という匂いが漂い始めていた。
その匂いは、命の終わりに似ていた。
当直要員バージョンの、命の終わりだ。
最後の当直記録を書き終え、指の力を抜いた瞬間、ペンまで一緒に成仏しかけた。
真紀は隣で、交代前の最後の数値をひととおり照合していた。彼女はまだ、信じられないほど落ち着いて見えた。少なくとも表面上は安定していた。髪も乱れていないし、制服もきちんとしている。目の下にごく薄い疲れの色が差しているのだけが、彼女も雪風の夜航システム本体ではなく、私と同じく疲れる生き物だという証拠だった。
「最後の一筆」彼女が言った。
「わかってる……」私は当直ボードの縁に額を一瞬押し当てた。「先に自分の魂に、三秒だけ黙祷させて」
「魂がそれだけ脆いなら、昨夜、艦長席に座るべきじゃなかったわね」
「あれは精神面の偉業。肉体労働とは混同しちゃいけないの」
真紀は私を見もせず、交代要約を少しだけこちら側に押しやった。
「字ははっきり書きなさい。これで今夜の当直が、酔っぱらい二人組だと思われたら迷惑よ」
……容赦がない。
でも、もっともだ。
深く息を吸い込み、最後の時刻、針路、交代備考を、できるだけ丁寧に書き足した。ちょうど最後の字を書き終えたところで、艦橋のドアが滑り開いた。
交代に来たのは、アイダたちの組だった。
アイダが前を歩き、その隣にエヴリン、後ろにはジェスとアッシュが続く。その瞬間、頭に浮かんだのは「やっと交代だ」ではなく――
うわあ、人間って朝六時半に、疲労と殺気と寝起きのご機嫌斜めを同時に持てるんだ、という感想だった。
とりわけジェス。
彼女の顔は、いつもの「いつでも噛みつく気満々」ではなく、眠気でほとんど無我の境地にいながら、無理やり交代に引きずり出された怨念も一緒に載っているという、妙な状態になっていた。髪は一応結んであるが、明らかにやっつけ仕事で、全体として「起動に失敗したまま戦場に運ばれてきた爆弾」みたいな雰囲気だった。
彼女を見ていて、ふと脳裏に何かが閃いた。
「ちょっと待って」思わず口をついた。「私って、ジェスと、この臭顔男と同じ組じゃなかったっけ?」
ここで言う臭顔男とは、もちろんアッシュのことだ。
彼はいつも、顔に三份の報告書と二份の始末書と、一段の家国の怨みを一緒に背負って今日まで生き延びてきたような表情をしている。年齢はそれほど変わらないのに、「この世界はなぜ自分でちゃんと手順通りに動けないのか」という苦渋感が常に漂っている。
アッシュは交代リストを見下ろしていたが、その一言を聞いて顔を上げ、私を一瞥した。
その視線には、ぬくもりというものが一切なかった。
いい。臭顔男というあだ名の雰囲気に、本人が非常によく合っていた。
真紀は私より先に答えた。
「ジェスと相談したの」彼女は当直ボードをアイダに渡しながら、変わらない調子で言った。「交代で当直したほうが、効率がいいから」
「へえ、そうなんだ」
私は頷いた。声はひどく落ち着いていたが、内心では、非常にどうでもいい結論に瞬時に達していた。
つまり私は、何かの安物おまけか?
「夜間当直組・真紀」をひとつお買い上げで、星野霜が一人おまけでついてくる。保証付きで?
ジェスは半分眠っていたのに、その一言でいくらか覚醒した。
「ちょっと」眉をひそめて私を見て、それから真紀を見た。「じゃあ、あんたたち二人、昨夜本当に一晩中艦橋にいたわけ?」
「他に何があると思ってるの」私は、鈍器としても使えそうな重さの手冊をテーブルに置いた。「まさか艦橋でピクニックでもしてたと思う?」
ジェスは目を細めた。私を見る目に、非常に不健全な好奇心が灯った。
エヴリンが隣に立ち、とても柔らかく笑った。
柔らかすぎた。
こういうとき、たいてい何かまずいことが起きている。
「星野さん」彼女はゆったりと言った。「今のあなたの顔、何かすごいところから生きて帰ってきた人みたい」
「みたい、じゃなくて」私は正直に訂正した。「そうなんです」
アイダは引き継ぎ資料を受け取ると、まず素早く目を通し、それから主ディスプレイの締め括りの標記と、深夜の接触異常の記録を確認した。
彼女の眉がわずかに動いた。
「何かあったの?」
真紀が頷いた。
「民間運輸会社のモジュール異常。外部装着コンテナの脱落。誤判のリスクは低かったけど、位置が船団外縁に入ったから、先に黄二で掛けて、あとから発生源を確認した」
アイダは聞き終えて、視線を私に向けた。
「気絶しなかったの?」
「……先輩、私への信頼度、失礼なくらい低くないですか?」
「信頼の問題じゃない」アイダは平静に言った。「本当に倒れそうな顔をしてるから」
反論しようとしたが、エヴリンはもう笑い声を立てていたし、ジェスも腕を組んで鼻を鳴らしていた。少なくともこの交代班に関しては、この点で満場一致らしい。
マンニ大尉と飛田艦長も、後ろで最後の簡単な口頭引き継ぎを終えていた。飛田艦長は私たちのほうを一瞥し、わざわざ良心的に一言加えた。
「昨夜、二人はよくやった」
その一言が落ちた瞬間、ジェスの目にあった単なる野次馬的な光が、「ほう、それは面白くなってきた」に一段アップグレードされた。
Dがここにいないのが、本当に惜しかった。
いたら絶対、この一言を額縁に入れて飾るべき歴史的瞬間として扱っていただろう。
飛田艦長とマンニ大尉は言い終えると、あっさり仮眠に下りた。アイダが橋楼当直を引き継ぎ、エヴリンとアッシュが新しいラウンドの記録の照合を始める。ジェスは口では「なんで朝っぱらから艦橋に引っ張り出されるのよ」と文句を言っていたが、体はすでに副席の脇に移動して当直摘要を読み始めていた。文句を言いながらも仕事はちゃんとやるタイプらしい。
そして私と真紀は、ようやく正式に「消えてよし」と宣告された。
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艦橋を出た瞬間、足の裏から何かの張力が抜けていくような感覚があった。
ドアが閉まり、橋楼のあの冷たく、薄く、鋭い空気が後ろに遮断されて、初めて自分がどれほど疲れているかを実感した。単なる眠気ではない。頭はまだ起きているのに、身体はその場で横になりたがっている、という分裂した疲労だった。
私と真紀は並んで下りの短い通路を歩いた。どちらも先には口を開かなかった。
今の状態はおそらく同じだ。無駄口を一つでも叩けば、かろうじて立っているための人間性がその場で決壊しかねない。
二つ目の角を曲がったところで、私はようやく低く言った。
「昨夜、本当にあそこまでやるとは思わなかった」
真紀は隣を歩き、歩調はまだ安定していた。
「当直を、星を見に来る場所だと思ってたの?」
「今なら、星を見ても、あれは全部数値が光ってるとしか思えない」
「おめでとう。艦橋後遺症の始まりね」
「その言い方、全然慰めになってないんだけど」
「慰めじゃない。判定」
……いい。
この人は艦橋を下りた後の早朝でも、内蔵プログラムみたいな喋り方をする。
でも不思議なことに、私はもうそんなに言い返したくなかった。言い返す気力は残っているが、「すぐに言い返さなきゃ」という衝動が、もっと微妙な疲労感と……馴染みの感覚に上書きされていた。
昨夜の艦橋当直、接触信号、深夜の角での静かな会話を経て、私と真紀の間の何かが、静かに位置を変えたのだと思う。
大きくではない。
でも、隣を歩くときの呼吸のリズムが、はっきり変わるくらいには。
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生活区の階層まで下りてきたとき、雪風の「二日目」はもうはっきり始まっていた。
主通路の照明は一段明るくなり、遠くから早番勤務のブーツの音、台車の音、どこかの区画から響く短い報告の声が聞こえてくる。空調システムの底音も夜とは違い、艦全体が半覚醒から完全稼働へ切り替わろうとしているようだった。資料板を抱えて足早に通り過ぎる士官の姿もちらほら見えたし、すでに朝の勤務に駆り出されている実習生も何人かいて、その顔には「昨日乗艦したばかりなのに、今日もう引退したい」という正直な表情が浮かんでいた。
人生の無常について一言愚痴ろうとしたとき、真紀が先に口を開いた。
「今夜は当直がない」
振り向いて彼女を見た。
「本当に?」
「本当に」
「……その一言、今は肉入りの朝食より感動的」
彼女は私を一瞥した。
「基準が低すぎる」
「艦橋当直を一晩やった後は、幸福の閾値が自動的に下方修正されるの」
真紀はそれ以上何も言わず、八人部屋の方向へ歩き続けた。
その隣を歩きながら、私は妙にはっきりと自覚していた。
今、艦橋から出てきた私は、乗艦したばかりで、八人部屋でジェスに振り回されて白目を剥いていた昨日の私ではない。
もちろん、白目は相変わらず剥く。そこは変わらない。
でも少なくとも今の私は、雪風の夜の艦橋がどんな形をしているか、本物の当直がどんなものか、接触信号が来たとき人がどうやって仕事のリズムに引き込まれていくか、そして真紀がそういう場所に立つとき、どんな姿をしているかを、知っている。
それらはまだ温かかった。深夜の当直がまだ完全には終わらず、そのままずっとついてきているみたいに。
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八人部屋に戻ると、中は誰もいなかった。
一瞬呆けてから、すぐに思い当たった――そうか、今の時間、生活リズムが正常な人間はとっくに二日目の行程に引っ張り出されている。当直明けの可哀想な人間だけが、他人が一日を始めようとしているこの時間に、半死半生の身体で戻ってきて仮眠を取ろうとする。
頭に残ったのは、ただひとつの念だけだった。
寝る。
今すぐ。即刻。この瞬間に。
ところが真紀がそのとき、脈絡もなく言った。
「今夜は当直がない」
「さっき言った」私は上着を脱ぎながら返した。「それに今の私の脳には睡眠機能しか残ってない。重複情報をフィードしないで」
彼女は返さなかった。
ただ、視線を私のほうへ一秒だけ止めた。
残念ながら、その一秒を分析する気力は残っていなかった。
本当に、限界まで眠かった。
飛田艦長が昨夜言った「交代で休めばいい」という一言は、今思えば艦橋版の優しい詐欺だった。幻想は捨てたほうがいい。当直中に本当に状況が起きれば、理論上は休めるとしても、せいぜい数分目を閉じるだけで、頭が本当にシャットダウンできるわけがない。
ぱちんと部屋の灯りを消し、ほとんど体が覚えている本能だけで手探りでベッドの縁まで来て、よじ登った。
そこで、動きが止まった。
……待って。
なんで私のベッド、膨らんでるの?
覗き込むと、遮光カーテンが半分閉まっていて、薄い毛布の下に明らかに人の形の輪郭があった。「毛布が整っていないだけ」という程度ではない。本物の人間が先に潜り込んでいた。
頭が二秒遅れて現実に追いついた。
「真紀、あんた……」
毛布の中の人が動いた。
次の瞬間、真紀が毛布の中から顔を上げた。声は、今が私のベッドの中ではなく、自分の席で朝礼の始まりを待っているかのように平静だった。
「ごちゃごちゃ言わないで、入りなさい」
その場で固まった。
今少しでも頭が動いていたら、十の質問が出てきたはずだった。
たとえば――なんで私のベッドなの?なんで先に潜り込んでるの?なんでそんな命令口調で人を一緒に寝るよう誘えるの?そして何より――
艦橋当直を一晩明けた人間に、この光景がどれだけ不親切かわかってる?
でも私は今、疲れすぎていた。
本来なら炸裂するはずの疑問が一列に並んだが、審議の順番が回ってくる前に、身体が勝手に決断を下した。
ため息をついて、観念してカーテンを開け、潜り込んだ。
「一つだけ言っておく」毛布の中のかろうじて空いているスペースに自分を押し込み、声は枕に溶けそうなくらい低かった。「もしこれが九島家特製の嫌がらせなら、明日必ず仕返しする」
真紀は毛布を私たちの間で引き平した。声は淡々としていた。
「そんな気力があるなら」
……くそ。正しい。
ベッドは狭かった。
ひどく狭かった。
二人が横になると、現実は即座に八人部屋の物理的限界を思い知らせてきた。薄い毛布と軍校寮標準仕様の硬い枕越しに、真紀がすぐ隣にいるのがはっきりわかった。ドラマチックに密着しているわけでも、不必要に絡み合っているわけでもない。ただ、単純に――近かった。
彼女の呼吸がいつもより少し遅いのが聞こえるほど近かった。少し動くと、肩が触れそうなほど近かった。昨夜の艦橋の角での静かな時間が、記憶の中からそのまま浮かび上がってきて、しかも余韻まで連れてくるほど近かった。
ベッド板の下の縁の影を見つめ、頭を「眠い、寝たい」のほうへだけ滑らせようとした。
真紀が先に口を開いた。
「艦橋から下りるとき、二回、壁にぶつかりそうになってた」
目を閉じたまま返した。
「魂で歩いてたから」
「その魂、方向感覚が悪い」
「人が本当に眠いとき、隣の人と議論したくないって知ってる?」
「知ってる」
「なら、なんで喋るの」
「あなたが返すから」
笑いが漏れた。
軽く、短く。
「真紀」
「ん」
「あなた、実は人の扱い方、上手いんじゃない?」
彼女は半秒黙った。
「違う」
「じゃあ今何してるの?」
「当直の相棒が、今日の昼間、通路で野垂れ死にしないように確保してる」
……なるほど。非常に真紀らしい。非常にロマンがない。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
そのまま、私たちは本当にただ毛布の中で話した。
大したことでもなかった。
神代班長の「ここは恋愛相談所じゃない」のせいで今も換気管の中に潜り込みたくなると言うと、真紀は「あのとき本当に間抜けな顔してた」と静かに返した。飛田艦長の「艦長とソナー手と戦術長以外は全部足りない」という自嘲のせいで、今後雪風を見るたびにこの艦が飛んでいること自体が奇跡に思えると言うと、真紀は「飛べるのは奇跡じゃない、倒れていない人間が意地で支えてるだけ」と言った。模擬橋楼で初めて夜更かしをしたときの感覚を聞くと、彼女は少し間を置いてから「静かだった。でも嫌だった。大人はいつも、子供が覚えていないと思うから」と言った。
話しながら、声はだんだん低くなっていった。
低くなるにつれ、いくつかの言葉はもう空気の中に半端に落ちるだけで、誰も完全な返事を待っていなかった。
最後に覚えているのは、寝返りを打ったとき、手の甲が真紀の指に触れたことだ。
彼女は避けなかった。
私も動かなかった。
ほんの短い間、そのままでいた。夢と現実の境目みたいに短い時間だった。
それから、私は本当に眠った。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




