78. 二人きりの夜間当直 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
とにかく、その午後の陸戦隊訓練は、私の心身ともに程よく破壊されたところで、ようやく終わった。
終わった瞬間の感想は、「疲れた」よりも先に、「自分の体に、普段まったく使っていない筋肉がこんなにあったとは」という妙な感心だった。
半死人のような状態で訓練区画から出てきたところで、神代班長が短く講評した。
「九島は維持できてる。星野は、反応は想定より速い。ただし考えすぎ。次は先に動いてから考えろ」
……ありがとう。まったく褒め言葉に聞こえない。
真紀は私の隣を、タオルを手に、ほとんど汗もかいていない顔で歩いていた。全身が、あまりにもきれいだった。彼女が疲労をどこか別場所に預けてきたんじゃないかと疑いたくなるくらいに。
「普通に歩いてるのが腹立つんだけど」私が言った。
「その台詞、本来はこっちの台詞じゃない?」彼女が返す。
「今歩いてるのは、道じゃなくて意志力だから」
「なら、あなたの意志力はそこそこ丈夫」
「それ、慰め?」
「違う。観察」
……だと思った。
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その日の風呂は、昨夜よりもさらに魂がこもった。
正確には、途中で壁にもたれて、そのまま終末医療に身を投げたくなった。熱い湯が肩から背中を落ちていくとき、肩から腰へ、腰から太腿へ、太腿からふくらはぎへと、順番に緩んでいくようなあの感じは、身体が「午後の体験学習を二度と軽く見るな」と直叩きしてくるみたいだった。
ジェスも明らかに疲れていたが、口だけは健在だった。
「ようやくわかったわ、『寝る前に全身自分のものじゃない感覚』ってやつ」
「その言い方は危ない」私は髪を洗いながら言った。
「危ないのはあんたの脳みそでしょ」即座に返ってきた。
アカリは隣で、肩の泡を冷静に流し落としていた。
「今日の午後、いちばんひどいのは星野でしょう」
「そのランキング、私の了承取った?」抗議した。
「あなたの了承は要らないわ」蘭が言った。「事実は承認を必要としない」
真紀は少し離れたところで、髪を濡らしていた。熱い湯に、いつもの過剰なまでの清潔な冷たさが、少しだけ溶かされていた。彼女は会話に混ざらず、私がタオルを取ろうとして取り損ねたとき、滑りかけたそれを自然な動作で拾って寄こした。
「しっかり持って」
「……どうも」
「今日だけで、二回落としてる」
「それは筋肉が参政権を失ったせい」
「単に、午後ずっと気が散りすぎ」
言葉が喉に詰まった。
……しつこい。まだ覚えてる。
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夕食は昼より少しマシだったが、その頃には食事に対する基準がだいぶ下がっており、圧縮ブロックと液体でなければ感謝して受け入れる気でいた。全員が普段より静かで、Dでさえ口数が減っていた。箸を持ち上げるだけで、人類にとっての代償がどこに乗っているか、全身が思い出させてきた。
風呂も飯も済ませたのだから、そろそろ一日を平和に締めくくる権利くらいは与えられてもいい――と、本気で思っていた。
もちろん、雪風がそんな甘いことをするわけがなかった。
盆を返却口に戻したところで、真紀が隣に立っていた。声は天気予報みたいに平坦だった。
「行くわよ」
呆けた。
「は?」
「当直」
「どこの当直?」
「艦橋」
三秒ほど、彼女を見つめて固まった。
隣のジェスが、飲んでいたスープを吹き出しそうになった。
「ちょっと待って、なんであんたが艦橋当直?」
Dも顔を上げ、途端に目が冴えた。
「おお、それはテンポ、飛ばしすぎじゃない?」
アイダだけが、「やっぱり来たか」という顔をしていた。
「エレナ少佐、午後に言ってたわよ。一部の実習生は今夜から橋楼外周の夜間当直見学に入れるって」
彼女を見た。
「それ、聞いてたっけ?」
「言った」アイダが言う。「そのときあなた、陸戦隊訓練に人生を破壊されてたから、耳に入ってなかっただけ」
……はい。理由が妙に納得できて腹立たしい。
「でも、なんで私?」まだ抵抗した。
真紀はコップの水を一口飲み、変わらない調子で言った。
「今夜の橋楼当直実習組に、私が入ってる。あなたは、私と同じ組」
「なんでそれ、今知るの?」
「端末を見ないから」
「シャワー浴びてたの!」
「浴びる前も見てない」
口を開きかけて、閉じた。
Dは頬杖をつき、露骨に面白がっていた。
「星野、おめでとう。今日のメニュー完走だな。午前は保母、午後は陸戦隊、夜は艦橋。立派な総合人格鍛錬コースだ」
「もう一言言ったら、今夜、感情で殴る方法を探すから」
「いいよ。でもまず、俺の上段ベッドまで登ってこれたら、な」
ジェスは悪びれもせずに頷いた。
「今のあんたの太腿じゃ、たぶん無理」
……誰一人、味方がいない。
結局、真紀に引っ張られるようにして、その場を離れた。
正確に言えば、午後訓練の後遺症をまだ抱えた身体を、彼女の「これが当然」という顔にくっつけて、橋楼区画へ向かった。
夜の雪風は、昼とも昨夜とも違っていた。主通路の灯りは一段絞られているが、昨夜みたいに完全な休止モードではない。艦は今、航行中だ。多くの区画が当直照明を残していた。歩いている人は昼より少ないが、交代の勤務士官、当直の乗員、資料板を抱えて駆け抜けていく通信員の姿がぽつぽつと見えた。
昼の「艦全体が展開しながら動いている」感じとは逆に、夜の雪風は、外側のざわめきを畳んで、骨格だけを剝き出しにしたようだった。
真紀の隣を歩きながら、ますますこのルートに嫌な予感がしてきた。
生活区でも、食堂でも、八人部屋の人間臭い通路でもない。
上っていた。
一層、また一層。足元の通路は磨き上げられ、人影は減り、通過するごとに重くなるセキュリティドア、空気からは生活区の雑味が抜け、代わりに計器と冷房と電子機器の熱の匂いが混ざった、薄い温度だけが残っていった。
「……なんか、現実味なくなってきた」小声で言った。
真紀は振り向かない。
「どのあたりが?」
「午後は床で這ってたのに、夜は艦橋に行くって」
「それで?」
「人生の振れ幅、大きすぎない?」
ようやく横目を寄越した。
「雪風が、あなたの情緒の段差まで気にかけてくれるとでも?」
「夢がない言い方」
「軍艦では、夢は手順の後よ」
「今の、覚えとく」
「覚えても賞品は出ない」
さらに厚いセキュリティドアの前に着いた。勤務士官が名簿と臨時実習権限を確認し、ようやく解錠する。ドアが開いた瞬間、心拍が一段跳ねた。
その先は、さっきまでよりさらに静かな短い通路だった。
自分のブーツが床を叩く音がはっきり聞こえた。その奥からは、電子的な微かなチャイム、低い報告の声、「何かが同時に見られ、計算され、処理されている」リズムが、ぼんやりと伝わってきた。
生活区ではない。
訓練場のような、筋肉と号令で押しつける種類の圧でもない。
ここにあるのは、もっと薄くて、もっと鋭い圧だ。目に見えない刃の縁みたいな。
ふいに理解した。
昼間、飛田艦長が甲板に立っていたとき、あれほど穏やかに見えた人間が、離岸の口令を発した瞬間、骨から変わったように見えた理由。ここは、そもそも人を緩ませる場所じゃない。橋楼――艦橋という場所自体が、人の余計な部分を削り落として、決定と数字と報告と判断だけを残させる。
真紀が前で足を止めた。
危うく背中に突っ込みかけた。
「ちょっと、あんた――」
「着いた」
顎で前を示す。
視線を向けた。
そこにあるドアは、ここまで通り過ぎてきたどれよりも、きれいで、きちんと「境界」だった。余計なスローガンもなく、区画識別、当直表示、入室ランプだけが整理されていた。扉の隙間から漏れる光は、廊下より冷たく、ほとんど透明だった。
無意識に、呼吸を浅くした。
真紀が手を伸ばし、さっきの移動中に少し歪んだ私の襟を、さっと直した。早く、自然で、避ける暇もなかった。
「災害現場から這い上がってきたみたいな顔、やめなさい」淡々と言った。「ここは艦橋」
彼女を見た。一瞬、反論を忘れた。
艦内の冷たい灯りに横顔を切り取られて、彼女は、いつも以上にきれいで、静かで、真っ直ぐだった。まるで最初から、このドアの内側に属していたみたいに。隣で立っている私は、まだ午後の訓練の疲労を引きずり、髪も乾いて間もない。頭の中には食堂と訓練場と主通路と、百人単位の中学生の残響がこびりついていた。それなのに、この一言で、問答無用に別のテンポへ引きずり込まれた。
咳払いをして、心拍の乱れをただ階段を上りすぎたせいだと装った。
「……今の、完全に先輩ムーブなんだけど」
「元々、あんたよりは先にここに慣れてる」
「その台詞も先輩っぽい」
「だったら、黙って見て覚えなさい」
「……はいはい」
彼女はそれ以上何も言わず、当直士官に軽く頷いた。
次の瞬間、艦橋のドアが左右に滑り開いた。
そして私は真紀と一緒に、その中へ足を踏み入れた。
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