73. 雛鳥たちの旅立ち 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
『軍令如山』――軍令は山のごとし。
普段なら、壁の額縁に飾られた四字熟語みたいに他人事に聞こえる。でも実際に生活へ降りかかってくると、その意味はもっと直接的で容赦ない。昨日まで「まだ何日かあるはず」と思っていたのに、ある朝トラックが門の前に乗りつけてきて、こう怒鳴るのだ。 「いいから今すぐ積め!」 私はそういう、人道的配慮の欠片もない現実の中で目を覚ました。しかも起きてから、一切の猶予がなかった。
階段を下りた瞬間、二十二番地の前に小型トラックが停まっているのが見えた。荷台はきれいに空いていて、「いつまでもぐずぐずするな、お前らのちっぽけな私生活をさっさと積み込め」と書かれた移動通知書みたいだった。
アイダ先輩が車のそばに立ち、片手に登録用クリップボードを持ちながら、もう片方の手を中に向かって振っていた。運送会社の人間より、よほど運送会社らしい顔をして。
「起きた?」私を見て、彼女は自然に笑いかけた。「ちょうどよかった、第一便を港に送るわよ」
私は入口に立ったまま、そのトラックを二秒ほど見つめ、それからようやく頭が現実に追いついた。
……そうか。
「もうすぐ出発」じゃない。
「今すぐ積め」の段階に入ったんだ。
「星野」アイダ先輩が何かを思い出したように呼び止めた。「バイク、ちゃんとガレージに入れて鍵かけておくのよ」
私は一瞬固まった。
「あ、そうか……すっかり忘れてた」
言ってから、自分でも少し情けなかった。
バイクのことすら頭から抜け落ちていた。これは出航準備の状態じゃない。頭の半分がまだ昨日に引っかかったまま、もう半分が今日に強引に引きずられている状態だ。
アイダ先輩は小さく息をついた。呆れているわけじゃなく、普段はそれなりに自分のことができるのに今日に限って明らかに調子が狂っている人間を見ているような目だった。
「もう、しっかりしなさいよ、星野」
「……はい」
素直に返事をして、彼女の指先が向いている方を見た。
見なければよかった。
ジェスはまだ自分の箱の前にしゃがみ込み、B-147サイズ規格表と道連れになる寸前の顔をしていた。手には例の呪われたスカーフを握りしめ、表情は国家から文明の手ずから葬るよう命じられた人間のように悲壮だった。
私は二秒黙り、最後は心の中で長い息をついた。
もう荷物を駆逐艦に送り出す段階まで来ているのに、あいつはまだスカーフと格闘している。
ある意味、精神力は本物だ。
それからの半日、二十二番地は引越し、撤退、戦場前方集積所の三つが同時に起きているような奇妙な状態に置かれた。
箱、ラベル、表、名簿、手冊、衣類、個人用防具、艦載前置ステーションへの第一便に入れるべき物資が全部ごちゃ混ぜになっている。リストを確認している人間がいれば、運んでいる人間がいて、文句を言っている人間がいて、「なんでこんなことでもこんなに騒げるんだ」という顔で黙々と後始末をする人間もいた。
私はバイクをガレージに押し込んで鍵をかけ、戻ってきて何往復かして、第一便、第二便が出ていくのを見届けたら、太陽はもう午後に傾いていた。
そのあとも少しして、家の中の人間は一人ずつ散っていった。
手続きのために学校に戻る者、もう一度港に同行する者、残りの荷物の最終確認をしに行く者。
最終的に、二十二番地には本当に私一人だけが残った。
静かすぎて、少し落ち着かなかった。
リビングの真ん中に立って、周りを見回す。
いつも散らかり放題だった共用スペースは、かなりがらんとしていた。テーブルの上のカップは片づけられ、ソファの脇から常駐していたクッションがいくつか消え、「ドアを開けたら誰かが何か妙なことをしている」という生活ノイズもなくなっていた。
残っているのは私だけと、まだ完全には消えていない日常の気配だけ。
最後の点検を始めた。
窓、内扉、収納室、後方通路、主電源、セキュリティモジュール、ガレージ接続、外周フェンスのセンサー。
こういうことは私には難しくない。むしろ、後始末には人より慣れていると言っていい。空間を一通り見て回り、どこを閉め、どこを施錠し、どこに問題を残してはいけないかを確認する。この手順は一度始まれば、身体が勝手に進んでいく。
最後のチェックポイントを終えて外に出て、フェンス外のパネルでセキュリティを起動すると、建物の外壁に沿って、ごく薄い青い光の帯が屋根から地面へ落ちた。透明な薄膜が上から降りてきて、この短くて騒がしかった共同生活を、一時的にどこかに封じ込めていくみたいだった。
私はそのまま二秒ほど、その光を眺めた。
なぜかわからないが、何かをここに預けていくような感覚があった。
別れじゃない。
でも普通の外出でもない。
どちらかと言えば――私たちのあの、めちゃくちゃで、うるさくて、いつの間にか日常の一部になってしまっていた生活が、待機モードに入った、そういう感じだった。
「おや、遠出かい?」
突然、隣から老いた声がした。
振り返ると、フェンス越しに、六十代くらいの男が立っていた。黒い髪は少し乱れていたが、若い頃はかなり整った顔立ちだったと見当がつく。片手には白い磁器のカップを持ち、縁から湯気が立っていた。風が吹くたびに、濃い茶の香りが漂ってくる。でもその中に、安物の蒸留酒みたいな刺激臭が混じっていた。
……なるほど。
この匂い、気づかないふりをするのは難しい。
先日も見かけた、退役元帥だった。
私は反射的に背筋を伸ばし、標準の軍礼をとった。
今何か職務を持っているからじゃない。人によっては、退役しても、身についたものは一緒には退役しない。
「はい」と私は言った。「お騒がせしてしまい、失礼しました、閣下」
老人はそれを聞くなり、何か面倒なものに絡まれたみたいに手を振った。
「もう退役した身だ」と彼は言った。「今はただの、年金をもらっている老人だよ」
口調は重くない。どちらかといえばのんびりしている。でも人を見るときの目が、ひどく落ち着いていた。威圧するような落ち着きじゃない。長い時間をかけて、多くのものを見てきた人間の目に自然と宿る重さ、というやつだ。
彼はしばらく私を見てから、ふいに聞いた。
「……また戦争か?」
私は一瞬固まり、それから答えた。
「いいえ。期末実習です」
老人はすぐには返事をしなかった。
カップの中の熱い茶を――あるいは、茶の名目で存在している怪しい液体を――一口飲み、数秒黙り、それから「ただの実習」という四文字に対して少し意見があるような顔で、ゆっくり口を開いた。
「そうか」
それから顔を上げ、また聞いた。
「名前は?」
「星野です」と私は言った。「星野 霜」
「星野……さん、か」
彼は少しの間、その名前を口の中で転がすみたいにしていた。その表情が、一瞬だけ奇妙に見えた。警戒でも疑いでもなく、何か言いかけて、最後に無難な方へ切り替えたような、照れに近い間があった。
「無理をするなよ」と彼は言った。「この世界に、命と引き換えにしてまでやる価値のあることなど、何一つない」
私はすぐには返さなかった。
別の人間が言ったなら、聞き飽きた台詞に聞こえたかもしれない。でも、茶に酒を混ぜたカップを持ってフェンス越しに私を見ているこの退役元帥の口から出てくると、まったく違う響きを持つ。
忠告じゃない。
あまりにも多くの代償を見てきた人間が、もう言葉をきれいに包む気もなくなって、一番省エネで、一番本当のことだけを投げてくる、そういう言葉だ。
私はもう一度、礼をとった。
「はい、閣下」
何か続けようとしたところで、通信器が震えた。
見ると、予想通りジェスからだった。
メッセージの長さと句読点の密度から判断するに、たぶん第二段階の暴走に入っている。内容は「今どこにいる」じゃなく、「なんでこの手続きはこんなに馬鹿げているのか、誰かこの世界を何とかしろ」系統だろう。
心の中で、これからの行程に静かに蠟燭を一本立て、老人に向かってもう一度礼をとってから、踵を返した。
バスに乗ったとき、窓の外をちらりと見た。
ちょうど二十四号の扉が、静かに押し開けられるところだった。
肩掛けを羽織った中年の女性が出てきた。日が落ちていても、玄関口に立っているだけなのに、目を引かずにはいられない品がある。本物の格を持ちながら、それを誇示する気がない人間特有の、あの静かな余裕だ。
彼女は男の隣に歩み寄り、手元の白い磁器のカップを見下ろすと、そのまま手を伸ばして取り上げた。
近づいて一嗅ぎして、案の定というように眉をひそめた。
老人はすぐに、現行犯で捕まったくせに反省の色が全くない、あのへらへらとした愛想笑いを浮かべた。それどころか、少し滑稽な具合に、もともと乱れていた黒髪を掻いた。
……その光景を見て、私は思わず笑った。
大きくじゃない。
口の端がごく軽く動いただけで、自分でも気づくのが半拍遅れたくらいだ。
バスが走り出してから、ようやく視線を引き戻して、通信器の中のジェスからのメッセージ群に向き直った。
学校に戻って、制度と人類災害そのものと向き合う時間がまたやってくる。
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