71. 人的資源の再配置 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
あの紙は、登艦補足規範か、さもなければ「誰かが面倒な仕事を追加で押しつけられる」系の死亡通知だと思っていた。
外れだった。
死亡通知じゃない。
死亡通知より生活感があって、なおかつ胃が痛くなる時間を前倒しにしてくれる、そういう類のものだった。
朝食のテーブルがようやく自爆しない程度に落ち着いたのを確認してから、アッシュはその紙を裏返し、テーブルの中央に平らに置いた。
「もう一件ある」と彼は言った。
紙の一番上の字は、見事なほど整っていた。整いすぎていて、一目見た瞬間から嫌な予感しかしない。
雪風号当直表。
瞼がぴくりとした。
なるほど、さっきの登艦心得は前菜だったわけだ。これが本番。だからわざわざ最後まで伏せておいたのか。こういうものはいったん広げられると、「まあ、乗ってから考えればいいか」という言い訳が誰にも通用しなくなる。
当直表というのは、試験の座席表や当番表や軍の名簿と同じで、一度名前が書き込まれると、運命が公式にスタンプされたような不吉さがある。
「原則として、上級生一人が下級生三人を担当する」アッシュは指の関節で紙面を軽く叩いた。音は大きくないが、全員の注意をそこに引き寄せるには十分だった。「人数が合わないから、一組だけ二人になる」
ジェスが眉をひそめた。
アイダが片眉を上げた。
ロイと蘭は、昨夜公開処刑されたばかりの二人らしく、「分組」というものに対して本能的な拒絶反応を示す微妙な警戒顔を、ほぼ同時に見せた。
私は黙って水を一口飲んだ。
なんとなく、嫌な予感がする。
そしてこの手の予感は、たいてい腹立たしいほど当たる。
アッシュは一番上の表を手前に引き寄せ、読み始めた。
「艦橋当直は交代制、一人一日一更、六時間。当直中は割り当てに従って艦橋に入り、当直士官と交代で標準艦橋勤務を担当する」
そう言いながら、補足ページをもう一枚横に押し出した。
私はざっと目を走らせた。ページに並んだ文字は、法廷記録みたいに整然としている。
艦長が艦橋に入った場合、当直者は直ちに気をつけをとり、口令を通報すること――
Captain on the bridge!
当直士官が艦長に引き継ぎ、指揮権を移譲する。
艦長が初めて艦橋に入った際、当直学生員は現在の艦況を即時報告すること。
「艦長に報告します。本艦は現在、針路〇〇〇度、速力〇〇ノットで航行中。次のポイントまで〇光年、異常なし」
その一行を、二秒ほど見つめた。
昨日、港区で遠くから雪風号を眺めたときの、「でかい艦ってなんかかっこいい」という薄ぼんやりした印象が、この一行の標準報告に、ごつりと上書きされた。
これは見学じゃない。
実際に立って、覚えて、口に出して、間違えられないものだ。
「整時報告、引き継ぎ復唱、針路確認、緊急集合口令、CIC接触報告の復唱手順、今日中に全部頭に入れておけ」アッシュは続けた。「乗艦後、言い淀んだり頭が真っ白になって詰まっても、誰も補完してくれない」
「はあ」アイダが紙をめくりながら、ひどく真剣な口調で言った。「アッシュ、これもう私たちを乗艦させようとしてるんじゃなくて、地上で先に死ぬ練習させてるじゃない」
「練習で死んだほうが、実戦で初めて死ぬよりはましだ」アッシュは顔色一つ変えずに返した。
この返し方がいかにもアッシュだった。
熱血でもなく、煽情的でもなく、脅かす気もない。
笑えない事実を、当然のことのように口に出すだけ。
そしてそれが一番怖い。
「残りの六時間は専門対口の訓練だ」アッシュは言った。「訓練内容は完全には横並びにならない。各自の能力、科系、艦上の必要に応じて割り当てる。文句を言う前に、まず交渉材料になる資格が自分にあるかどうかを確認しろ」
……ああ。
なぜこれを先に言ったのか、急にわかった。
次に必ず誰かが飛びかかるとわかっていたからだ。
そしてその誰かは、案の定、三秒も経たないうちに動いた。
「ちょっと待って」ジェスがほぼ即座に顔を上げた。「先に待って。『完全には横並びにならない』って、聞いただけで怪しい」
「最後まで聞いてから言え」アッシュは言った。
「聞き終わってから抗議しても遅い」ジェスは堂々と言った。
私は笑いそうになるのをこらえた。
いや、これは実際まともな理屈だ。みんなが言いたくて言えなかった部分を、彼女がただ先に言っただけだ。
アッシュは無視して、直接組み分けを読み始めた。
「第一組、アイダが担当。下につく三人――ロイ、蘭、ハーヴィー」
食堂の空気が微妙に揺れた。
アイダが先に笑った。
普通の嬉しそうな笑いじゃない。「神様が私に最高の食材を一卓並べてくれた」という顔だ。
「この分け方、面白いわね」彼女は片手で頬杖をつきながら、ゆったりとロイと蘭を見た。「免許持ち、免許持ち、それに文句言いながら機関室を仕切る顧問一名。先輩、わざとこういう安定しすぎて逆に危ない組み合わせにしたの?」
ロイがフォークを握る手を、わずかに固めた。
蘭は冷静に彼女を見返した。昨日のことをこの組み分け話に引っ張り込もうとするなら今すぐ消えてやる、とでも言いたそうな顔で。
ハーヴィーが最後に反応した。
カップを置き、まるで朝から壊れた推進器の修理を強制された人間みたいに眉を寄せた。
「機関室に『顧問』って何だ」と彼は鼻を鳴らした。「機関室で本当に問題が起きたら、こいつら並べて立たせても収容の手間が増えるだけだ」
「だから連れていくんだ」アッシュは言った。
「連れていくとは言ってない」
「今言った」
ハーヴィーは二秒黙り、最後に「まあ、どうせこの世界はとっくに終わってる」という顔で視線を外した。
私は心の中でアイダの組に半秒だけ黙祷を捧げた。
そしてアッシュは続けた。
「第二組、エヴリンが担当。下につく三人――D、アカリ、九島真紀」
今度は私の心の中で「あ」という声がした。
この組の温度は霜が降りるレベルだ。
悪いわけじゃない。ただ、安定しすぎている。きちんと調整された刃物を何本か鞘に揃えて収めたみたいに、抜かない限りは静かに見える。
エヴリンは眼鏡を押し上げ、頷いた。
D半は余計な表情すら持たず、「了解」の三文字で全部が済むという顔をしていた。
アカリは資料を一ページめくり、ひどく落ち着いた声で聞いた。「精密射撃訓練は艦内射撃場ですか、それとも模擬艙ですか」
……見たか。これが差だ。
組み分けを聞いている人間と、もう実際の作業場所を確認している人間がいる。
「模擬艙優先だ」アッシュは言った。「艦内射撃場の開放は航区と安全等級次第だ」
「わかりました」アカリは頷いた。
その隣に座っている真紀は、ただ表を見下ろしていた。いつも通りの顔で。
自分がなぜエヴリンの組に入ったのかも聞かなかったし、同じ組の人間に何か特別な反応を示すこともなかった。どこに配置されても本質的な差はないとでも言うように。
……理屈の上では、これは普通のことのはずだ。
でもなぜか私は、一瞬だけ場違いに思った。
彼女は私と同じ組じゃない。
次の瞬間、すぐに自分を心の中で怒鳴りつけた。
星野霜、しっかりしろ。
これは登艦の組み分けで、遠足の自由グループ分けじゃない。
それに、同じ組になったとしたら、十分おきに山頂でのあのキスを思い出さないように自分を抑えるのに必死になって、先に艦ごと小惑星帯に突っ込む羽目になるかもしれない。
……まあ、今こうして考えてる時点でも十分しっかりしてないけど。
「第三組」アッシュは言った。
背筋が一瞬伸びた。
来た。
「私が担当する」彼はひどく平然と後半を続けた。「下につく二人――星野、ジェス」
私は危うく水を噴き出しそうになった。
アッシュが私を担当するのは、まあわかる。
それは合理的だ。
問題は――
「……なんでジェスまでついてくるの」気づいたら心の声が口に出ていた。
テーブル全員が私を見た。
固まった。
よし、星野霜、おめでとう。朝一番で同じ組の仲間を公開で侮辱し、開幕即失点を達成した。
ジェスは当然のように爆発した。
「おまけって何よ!?こっちこそなんであんたなのって聞きたいんだけど!」
「そういう意味じゃなくて、この組み合わせが……いや、私が言いたいのは――」
「黙れ!」
「はい、黙ります」
即座に降参した。
これ以上続けると、雪風号に乗る前に朝食のテーブルで内戦が始まる。
アイダが楽しそうに笑っていた。
「この組み合わせ、面白いわね。口が強い子と、口が頭より速い子と、その二人を歩兵として鍛え上げる先輩の三人組。先輩、これって組み分けじゃなくて、ストレステストじゃないの?」
「正解でも賞品はない」アッシュは言った。
本当に認めた。
この人は悪意のある組み分けすら当然のことのように認められる。どこから突っ込めばいいのかわからなくなる。
「次は各自の専門対口だ」アッシュは下の欄を開いた。「星野」
私はすぐに背を伸ばした。
「単座戦闘艇操縦訓練、格闘戦訓練、射撃訓練」
三項目を見つめた。最初の反応は抗議じゃなかった。
胸が、なぜか一拍速くなった。
単座戦闘艇。
シミュレーターの上の綺麗な飛行でも、授業でノートを取るだけの浪漫的な想像でもない。
実際の訓練。
雪風号という場所で、本物の当直と本物の艦上リズムに縛りつけられた訓練。
喉が少し乾いた。それでも言った。
「……了解です」
アッシュは頷き、続けた。
「D。格闘戦訓練、射撃訓練、重力適応訓練」
D半は目を上げた。今日の昼食のメニューが変わったと通知されたくらいの反応で。
「うん」
「アカリ。格闘戦訓練、精密射撃訓練」
「了解」アカリは言った。
「エヴリン。艦上休整、またはCIC当直」
エヴリンは頷いた。異論はなさそうだった。
「アイダ。CIC当直、または休整」
「え〜」アイダは声を引き伸ばした。「なんか、精神力に限界があるから適度に放牧しとこうって判断みたいに聞こえるんだけど」
「お前の口が多いから、常時報告が必要な場所に固定した方が安全だと判断した」アッシュは返した。
アイダは肩が震えるほど笑った。
「いただき、それ褒め言葉として受け取る」
「褒めてない」アッシュは淡々と補足した。「辛うじて使えるという意味だ」
「もっといい。こっちの方が好き」
彼女は本当に当然のように言った。「貶されながらも重要な仕事を任される」を何か高級な待遇として受け取っているんじゃないかと疑いたくなるほど。
「ジェス」アッシュの指がジェスの欄に移った。
ジェスの目が、その瞬間に本能的に警戒した。
まずい。
彼女も危険を嗅ぎ取ったのだ。
「ジェス」アッシュは平らな声で言った。「格闘戦訓練、射撃訓練、後方支援管理」
沈黙。
一秒。
二秒。
三秒目に、ジェスは「ぱん」と紙をテーブルに叩きつけて立ち上がった。
「なんで格闘戦と射撃の訓練をしなきゃいけないの!?」彼女はアッシュを睨んだ。「私、補給科なんですけど!」
来た。
私は俯いて資料を見るふりをしながら、必死に口の端を噛んだ。
もう笑いそうだとわかっていたから。
そしてアッシュは期待を裏切らなかった。
声量すら上げず、ただジェスを見て、既定事実を読み上げるような口調で言った。
「まず、お前は私のクラスにいる」
ジェスが少し固まった。
「私はまずお前を歩兵として評価する」アッシュはゆっくり言った。「そのあとで、兵科を見る」
……くそ。
これは容赦がない。
しかも容赦がないのに筋が通っている。
ジェスは明らかにこの一言で揺らいだが、それでも降参しなかった。
「で、で、でも私は補給なんですよ!補給!敵が船の中まで入ってきてから銃を持てって、本末転倒じゃないですか!」
「敵が艦内に突入したとき」アッシュは彼女を見た。「お前が補給担当だからといって、見逃してはくれない」
一言。
短い。
でも短さが、抗議をそのまま椅子に押し返すような重さを持っていた。
ジェスは二秒詰まり、それから必死に角度を変えて反撃した。
「じゃあなんでロイは――」
よし、道連れ作戦に入った。
ロイが警戒して顔を上げた。自分は関係ない、という顔で。
でも手遅れだった。
「なんでロイと蘭は後方支援なの?」ジェスは不満そうに表の名前を指差した。「乗艦したら全員まず歩兵って言ったじゃないですか!」
アッシュがわずかに前傾みになった。
威圧じゃない。
威圧よりたちが悪い。
その動作は「事実でお前を釘付けにする準備ができた」という意味だからだ。
「ロイは一級会計士の資格を持っている」彼は言った。「お前は?」
ジェス「……」
「蘭は二級大型搬送機械操作資格を持っている」アッシュは続けた。「お前は?」
ジェス「……」
アッシュは少し間を置き、彼女を見た。
「ないなら座れ」
私は声に出して笑いそうになった。
腹筋が既に痙攣し始めているのに、保身のために顔を限界まで俯けて、紙の繊維構造を研究しているふりをしなければならない程度に。
くそ。
容赦なさすぎる。
しかもジェスのあの表情が本当に最高だった。
彼女は一回の議論に負けたんじゃない。
資格と、専門と、艦上での適合性で、一枚一枚剥がされて、最後に「ないなら座れ」だけが残った。
彼女はそこに立ったまま、「抗議したい」が「何を抗議すればいいんだ」になり、最後には現実に正面から処刑されたような屈辱感を帯びながら、ゆっくりと座り直した。
アイダが隣で意地悪く笑っていた。
「あら、きれいに負けたわね」
「黙って」ジェスが鋭く睨んだ。
「でもアッシュに賛成」アイダは笑いながら言った。「本当に誰かが艦内に突入してきたら、在庫表を抱えて逃げるのが最初の仕事じゃないでしょ」
「在庫表を抱えて逃げるなんて言ってない!」
「だったら尚更練習しなきゃ」
……よし。
追い打ち二番手、到着。
ジェスは深く息を吸い、まだ抵抗を諦めていなかった。目が一瞬動き、真紀の欄を見つけた。
彼女の顔から、次に来る台詞の完全な草案が読めた。
そしてそれは一字一句違わず出てきた。
「じゃあ九島は?」ジェスは眉をひそめ、表の名前を指差した。「『自由選択』って何?」
私も視線を向けた。
その欄には、確かに他の人より少ない文字が並んでいた。
少ないのは仕事がないからじゃない。
こう書いてあった。
主修項目は自己申告、残り時間は艦上の需要に応じて補充要員として対応。
この書き方はいかにも真紀らしかった。
一見すると特権に見えるが、実際はもっと面倒な種類の責任だ。
でもジェスは明らかに前半しか見ていなかった。
「なんで彼女だけ自分で選べるの?」と彼女は言った。
真紀がちらりと彼女を見た。表情は静かで、参戦するには程遠かった。
その瞬間、私は妙に息が楽になるのを感じた。
彼女が自分で口を開かなかったからか、それともアッシュが代わりに答えると私がなんとなくわかっていて、アッシュが答えればジェスはもっと完全に負けるとわかっていたからか。
案の定だった。
「九島真紀はすべての科目で精通評価を取っている」アッシュは淡々と言った。「信じられないなら学級評定を確認しろ」
ジェスが口を開きかけた。
アッシュは止まらなかった。
「主修項目は自己申告にして、残り時間は艦上の需要に応じて補充要員として動く。特別扱いじゃない。どの欄にも使えるからだ」
……すごい。
「自由選択」より、これの方がずっと厳しい言葉だ。
「自由選択」は特権に聞こえる。
でも「どの欄にも使える」は特権じゃない。それは純粋な能力による圧倒だ。
ジェスは今度こそ本当に負けた。
巻き返す余地が一ミリもない負け方で。
彼女はゆっくりと口を閉じた。悔しいのに、怒りをぶつける場所が見つからないという痛そうな顔をして。
私は笑いそうになった。
本当にあと一歩だった。
仕方なく頭を下げてカップを持ち上げ、水を飲むふりをしながら、実際にはカップの縁で自分の崩れそうな口元を隠した。
真紀がそれに気づいたのか、視線がこちらに一瞬流れた。
一瞬だけ。
でも確かに、見られた。
心臓が半拍飛んだ。すぐにカップをもう少し高く持ち上げ、水を飲むことに異常なほど敬虔な集中力を注いでいるふりをした。
くそ。
こんな瞬間に捕まるとは、さすがに恥ずかしすぎる。
「ハーヴィー」アッシュは周囲の喜劇に完全に影響されない様子で続けた。「機関室」
ハーヴィーは鼻を鳴らした。
「やっとまともな配置が一つ出た」
「人を連れていく」アッシュが一言足した。
ハーヴィーの表情が、瞬時にまた不満寄りになった。
「やっぱり後ろに落とし穴があると思ったんだ」
「雪風号に楽な仕事はない」アッシュは言った。
「その台詞、船の入り口に彫っておけ」ハーヴィーは冷たく言った。
「時間があれば検討する」
この二人の会話には奇妙な乾いた感触があった。砂紙が砂紙を擦るみたいに、ざらつきの質が揃っていて、逆に妙に滑らかだ。
「ロイ、蘭、後方支援だ」アッシュは言った。
ロイはさっきジェスの巻き添えから何とか立ち直り、渋々頷いた。
「了解です」
蘭も頷いた。
ただ彼が今、本当に後方支援のことを考えているのか、昨日の地下恋愛がなぜ二十二号のリビングという場所で公共の財産になったのかを考えているのか、私には判断がつかなかった。
そしてアイダは当然、この細部を見逃さなかった。
「あら、後方支援のツートップ」彼女はにこにこしながら言った。「搬送ルートと帳簿整理、息がぴったり合いそうね?」
ロイの耳の付け根が、怪しく赤くなった。
蘭は低い声で言った。
「先輩、仕事と変な連想を混ぜないでください」
「変な連想なんてしてないわよ、二人の効率が高いって褒めてるだけ」
「その言い方だから変なんです」ロイはついに一言返した。
よし。
まだ生きている。
昨夜あの核弾頭が直撃した後、今日一日ずっと半死半生の状態が続くかと思っていたが、少なくとも基本的な反撃能力は残っているようだ。
アッシュは全員が自分の項目をだいたい確認したのを見計らって、また指の関節で机を一度叩いた。
音は軽い。
でも効果はある。
「質問があれば今のうちに言え」と彼は言った。「乗艦してから知らなかったとは言うな」
今度の沈黙は少し短かった。
訓示を聞かされているだけじゃなく、自分の生死と睡眠の質に直結するものを実際に手に持っているからだ。
私は自分の欄の「単座戦闘艇操縦訓練」を見下ろした。
胸の奥が、素直に熱くなった。
期待もある。
プレッシャーもある。
しかもかなり。
夢の欄に書いてある綺麗な言葉じゃなくなったから。スケジュールに組み込まれて、実際に立って、実際に操作して、実際にミスの結果を引き受ける何かになったから。
手を挙げた。
「先輩」
「言え」
「単座戦闘艇の訓練……シミュレーターですか、それとも実機に触れますか」
アッシュが私を見た。
その一瞥は短かったが、私が単純に興奮して聞いているのか、少なくとも自分が何を聞いているかわかって聞いているのかを確認するような目だった。
「まずシミュレーター、それから実機だ」彼は言った。「順序は逆にならない。シミュレーションで安定した飛行もできないなら、本物に乗っても燃料を無駄にするだけだ」
……なるほど。
合理的な答えだ。
合理的すぎて、幻想で自分を誤魔化す余地がまったくない。
「了解です」と私は頷いた。
斜め向かいに座っている真紀が、そのタイミングでようやく口を開いた。
「艦上での補充要員配置は、雪風号側から臨時指定されますか、それともこちら側で事前に割り振りますか」
彼女はいつもこういう質問をする。
「自分は何をしたいか」じゃなく、「これ全体はどう動くのか」を考えている人間の質問を。
アッシュの返答も簡潔だった。
「事前に割り振る。ただし艦側が最終調整権を持つ。つまり今見ているのは出発点であって、終点まで保証された席じゃない」
アカリが隣でわずかに頷いた。頭の中で同時に系統図を組み立てているような頷き方だった。
ジェスは眉をひそめたまま表を睨みながら、小声でぼやいた。
「終点まで座ってたいとか思ってないし、この出発点だけで十分しんどいんですけど……」
私はまた笑いそうになった。
でも今回は堪えた。
気づけば、テーブル全体の空気がさっきとは少し変わっていた。
笑いどころはまだあるし、嘴が強い人も、追い打ちをかける人も、現実に容赦なく修正される人もいる。でもそういう声の下に、何か重いものがゆっくりと沈んでいた。
組み分けは冗談じゃない。
当直は飾りじゃない。
資格、専門、評価、補充要員、艦橋口令――それらが名前と結びついた瞬間、人は急に気づく。雪風号は背景じゃないと。語り合ったり、想像したり、港区から遠くに眺めてすごいと思うだけのものじゃないと。
日常のリズムを飲み込む場所だ。
能力と欠点と反応速度で、人を一から並べ直す場所だ。
私は手元の表を見つめながら、なぜか昨夜の山頂の風を思い出していた。
真紀の反則みたいに近い距離を。自分から先に唇を重ねた瞬間を。帰ってきてから、誰かが火をつけたみたいにリビングが爆発したことを。
あの感情は消えていない。
ただ今は、この当直表に一歩分だけ後ろに押しやられている。
消されたわけじゃない。
ただ、提示されている――まず艦に生きて乗って、自分の番を生きて立ち切ることを、前に置け、と。
アッシュが当直表を手元に戻し、紙の角を揃えた。
「今日中にこれを頭に入れておけ」と彼は言った。「午後に口令を抜き打ちで確認する。明日は引き継ぎ手順。明後日までに艦橋で『Captain on the bridge』が言えない人間がいたら、一週間そのことを覚えていてもらう」
「その言い方、不吉すぎる」アイダは言った。
「なら覚えろ」アッシュは返した。
そう言って、当直表を脇に置いた。
その瞬間、私はふと気づいた――
彼の手元に、まだ一枚の紙が残っている。
さっきのものじゃない。
さっき配った心得でもない。
その紙は当直表より少し幅が狭く、ページ上部に別途追加されたような体裁で、名前の欄が通常の書類より密で、端には手書きのメモがいくつか添えてあった。
胸の中でさっとおさまりかけた不安が、また浮かび上がってきた。
なぜかわからないが、本当に面倒なものは、まだ始まっていない気がした。
アッシュが私の視線に気づき、ちらりとこちらを見た。
それから、ごく自然な動作でその紙を裏返し、手の平の下に伏せた。
「これについては」と彼は言った。「朝食を食べ終えてから話す」
テーブルの周りが一秒だけ静かになった。
ジェスが最初に眉をひそめた。
アイダの笑みが少し引いた。
ロイと蘭が同時に「まだ第二弾があるのか」という警戒顔を見せた。
私はテーブルに伏せられたその紙を見つめ、さっきの組み分けも、ツッコミも、反撃も、資格と熟練度評価も、全部が本番前のウォームアップに過ぎなかったんじゃないかという気がしてきた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




