70. 君たちは軍人だ 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「一つ目」真紀が静かに口を開いた。「私は彼女の保姆じゃない。彼女の生活能力はたまに心配になるけど、靴紐を結んであげるほどじゃない」
「失礼な!」
「二つ目」彼女は続けた。「彼女の代わりに話すのは、彼女に問題があるからじゃない。むしろ可能性が高いのは、あなたもが今、理不尽に絡んでるように見えるから」
「理不尽?!」
「そう」真紀が頷いた。「しかも典型的なタイプ。聞きたいのに直接聞けないから、一番どうでもいい部分を先に攻撃する。攻撃しても誰も期待通りに反応しないと分かると、音量を勝率の代わりに使い始める」
リビングが一秒、静まり返った。
それからアイダが噴き出した。
ジェスの耳の根が、目に見えて赤くなっていった。
「誰が聞きたいって言ったの!全然気にしてないし!」
「あらー」アイダが声を伸ばした。「気にしてない人が、あんなふうに玄関で人を見るの」
「バイクが無事か確認してただけ!」
「バイクは外にある」アカリが静かに指摘した。
「こういうときに論理補足しないで!!」
これが普通の言い合いなら、ここで大体終わりだ。
問題は、ジェスは「大体のところ」で止まれる人間じゃないことだ。彼女は、自分が場を取られたと感じたとき、戦場全体を道連れにすることを選ぶ人間だ。
つまり――自爆モード、正式起動。
彼女は深く息を吸い、顔色が沈み、「どうせこうなったなら全員一緒に死ぬ」という表情を浮かべた。
私の中で警報が全力で鳴り響いた。
まずい。
本当にまずい。
「いいよ」ジェスが冷笑した。「みんなそんなに言えるなら、今日は全部はっきりさせようじゃないの。ここに本当に何もやましいことない人間、いるの?」
リビングの空気が一変した。
心の中で、私は「終わった」と言った。
案の定、ジェスは最初の一刀を振るった。
「Dは昨日の夜中の三時に起きて冷蔵庫を漁って、最後のプリンを食べた。食べた後、紙パックも捨ててない」
隅で空気みたいに静かに水を飲んでいたDが動きを止め、顔を上げた。表情は、意外なほど落ち着いていた。
「名前、書いてなかった」
「でも共用スペースの最後の一個を食べたの!」
「共用スペースの最後の一個は、個人の所有物じゃない」Dは無表情で言った。「それに、あなたもは先週私のコーヒー濃縮液を盗み飲みして、水で補充して戻した。分からないと思ったの?」
ジェスが一瞬詰まった。
アイダが遠慮なく笑い声を上げた。
「その返し、きれい」
「盗んでない!借りたの!」
「借りた後に水で薄めたら、借用の定義から外れる」アカリが冷静に補足した。
「今日は裁判官なの、それとも辞書なの!」
ジェスの怒りが収まらないうちに、次の一刀が飛んだ。
「エヴリンとアイダ先輩はしょっちゅう外泊して、何日も姿が見えないときがある!どこ行ってるか誰か知ってるの?!」
のんびり観戦していたアイダが目を瞬かせ、それからちょうど廊下から来たエヴリンのほうを振り向いた。
エヴリン・サドが足を止めた。「またか」という顔だった。
「実験室でテストをしていた」と彼女は言った。「先日は四十八時間連続だった。あなたもはその間、メッセージで『ついでに私の寮のカフェイン耐性の上限も測ってくれない?』と送ってきた」
ジェス「……」
エヴリンは眼鏡を少し直して、声は極めて安定していた。
「記録はまだ残っている。あの日の深夜二時十七分、あなたもの言葉をそのまま引用すると――『もし明日レポートで死んだら、解剖するとき血液中のコーヒーの比率も測っておいて』」
アイダは肩まで揺れるくらい笑った。
「ごめん、それ、あまりにもジェスすぎて額縁に入れたい」
ジェスは顔を赤くして、すぐに矛先を変えた。
「じゃああなたもは!あなたもだってしょっちゅういなくなるじゃない!」
アイダはまったく動じず、むしろ笑みを深めた。
「家に帰ってるだけよ。家族と食事して、たまに一泊して、何が問題なの?」
「言い訳かもしれないじゃない!」
「そう?」アイダが少し首を傾けた。「じゃあ先に、あなたもが先月『徹夜で勉強する』と言っておいて、深夜二時に台所でコーラ味のポテチをアイスミルクで流し込んでたのを説明してもらえる?」
全員の視線がジェスに集まった。
私は笑いをこらえるのがやっとだった。
その画面は説明不要なほど説得力があって、想像しなくてもはっきり見えた。ジェスがぶかぶかのパジャマを着て、冷蔵庫の前にあぐらをかいて、世界が明日終わるみたいな勢いでスナック菓子を食べている姿が。
「あ、あれは戦術補給!」ジェスが逆上した。
「深夜二時の戦術補給ね?」Dが淡々と引き取った。「翌朝、あなたもがトイレを三十分占領したのも、それで説明がつく」
アカリが頷いた。
「因果関係、成立」
「そんなことまで覚えてないで!!」
リビングが崩壊し始めた。
大騒ぎという種類の崩壊じゃない。全員が手持ちの観察記録と相手の黒歴史を一つずつ卓上に並べ始めるタイプの崩壊だった。声のトーンは必ずしも激しくないのに、一言一言が骨まで届いていて、机を叩くより効果的だった。
私はそこに立ったまま、キスの事故からかろうじて生還したと思ったら、今度は家庭内情報戦に巻き込まれていた。魂が現実に追いつかない、あの感覚だった。
真紀は――
まだ安定していた。
この混乱の中で、彼女は手を伸ばして、私が斜めに抱えていたヘルメットを取り上げ、棚の上に置いた。
それだけの動作だった。
なのに彼女の指が私の手の甲をかすめた瞬間、私はまた原地でショートしそうになった。
今のこれは追い打ちじゃないのか。
彼女を見る勇気もないまま、首を固定して前を向き、目の前で段階的に全員自燃へと向かっているこの騒動に、必死に集中しているふりをした。
しかしジェスはまだ止まる気がなかった。
連続で反撃を食らった後、感情は完全にガラス砲の自棄状態に突入していた。顔に「どうせ死ぬなら一番大きいのを道連れにしてやる」と書いてあった。
非常に嫌な予感がした。
この予感が来るのは大体二つの場面だ。試験前に一度も読んでいない範囲を開いたとき、あるいは誰かが公共の場で核弾頭級の暴露をしようとしているとき。
ジェスは息を吸って、視線を走らせ、ダイニングテーブルの反対側に最近座ったばかりの二人の上で、ぴたりと止めた。
ロイ・ハートマン。
蘭・ヴァイス。
二人は局外者を演じようと懸命だった。ロイは手にカップを持ったまま「ちょっと水を飲みに来ただけで、すぐ行く」という余裕を保っていた。蘭は隣で表情を相当安定させていて、防御力の高さという点では代表格と言えた。
私の中の不吉な予感が、最大値に達した。
まさか。
お願いだから、まさかじゃないでくれ。
ジェスが冷笑した。
ああ、終わった。
「怪しいといえば」彼女が口を開いた。声が突然、異様なほどはっきりしていた。「ロイと蘭って怪しくない?片方は最近決まった時間に消えるし、もう片方はいつも資料整理を手伝いに行くって言ってる。で、先週、後ろの階段のところで二人が抱き合ってるのを誰かが見てて、私もうっかり限定公開の恋愛戦区に迷い込んだかと思った」
時間が、止まった。
本当に止まった。
リビングがその瞬間、誰かのカップの中で氷が壁に当たる音まで聞こえそうなくらい静かになった。
ロイが固まった。
蘭も固まった。
「小さな秘密を言い当てられた」という固まり方じゃない。「情報管理は完璧にやっていたはずなのに、なぜ階段で現行犯を押さえられているんだ」という、軍規レベルの硬直だった。
私はゆっくりと二人のほうを向いた。
ロイの顔色が、かなり珍しいスピードで変化し始めていた。蘭は表面の冷静さをかろうじて保っていたが、耳の根は実弾を受けたみたいに赤くなっていた。
アイダが心底本気の「わあ」を一声上げた。
Dがカップを置いた。
アカリが初めて、わずかに片眉を上げた。
エヴリンまで足を止めた。このデータポイントは長期観察に値すると判断したような顔で。
私の頭の中に残った言葉は一つだけだった。
ここはもうリビングじゃない。
爆発現場だ。
「ジェス!!」ロイがついに声を上げた。明らかに制御を失いかけていた。「何を言ってるんだ!」
「嘘をついてる?」ジェスが即座に返した。もう完全に目が血走っていた。「じゃあ説明してよ、おとといの夜、書類を取りに行くって言ってたのに、一時間後に蘭と一緒に外から戻ってきたのはどういうこと?書類は相手の口の中に入ってたの?」
ロイ「……」
蘭がようやく口を開いた。声はまだ冷静を保とうとしていた。
「誤解だ」
アイダは頬杖をついて、最高席を確保したばかりの観客みたいに笑った。
「あら、台詞まで標準的」
「それとも」ジェスはもう無差別砲撃に入っていた。「雨の日に傘を一本で共有してたこと、倉庫のあたりでこっそり話してたこと、あと誰かの机の上にある、自分では絶対買わないようなマフラーはどこから来たの――」
「ジェス」真紀がついに口を開いた。
声は高くなかった。でも、人を椅子に押し戻せるくらいの冷たさがあった。
普段ならこの声で大体は止まる。
でも今夜のジェスは瀕死のガラス砲だった。
もう戦っていなかった。燃えていた。
「何よ!」彼女が振り向いた。「どうせこうなったんだから、全員――」
言いかけて、彼女自身も気づいたらしかった。あ、私は炸裂しすぎた、と。
でも遅かった。
リビングの向こうでもう意味深な息を吸う音が聞こえていたし、アイダは机に突っ伏すくらい笑っていたし、Dはこっそり水を飲むふりで口元を隠していたし、エヴリンは「なるほど、データが揃った」という顔をしていた。
そしてロイと蘭は、もう生存しているとは言いがたい状態に入っていた。
私はその場で全火力を浴びている二人を見て、ふと、軍人として純粋な敬意を感じた。
嘲笑じゃない。
いや、少なくともすべてが嘲笑ではない。
「主砲を肉体で受け止めてくれたことで、残りの者が撤退できた」という、真心からの感謝だった。
だから私は、この瞬間に唯一正しいと思ったことをした。
背筋を伸ばして、手を上げ、ロイ・ハートマンと蘭・ヴァイスに向かって、これ以上なく正確な敬礼をした。
「貴官らの犠牲に感謝する。下官、これにて退散する」
場が半秒、静まり返った。
それからアイダが机を叩くくらい笑い、ジェスが固まり、ロイが「こいつ、こんな場面で最後の一刀を入れやがった」という顔をし、蘭は目を閉じて、この世界に対する期待を完全に手放したみたいだった。
誰かが反応を完成させる時間は与えなかった。
戦場の判断は重要だ。
核弾頭は起爆した、余波は拡散中、最善の戦略は一つ――撤退。
「行くよ」私はそのまま真紀の手首を掴んだ。
彼女が私を一瞥した。
その一瞥の中に、ごく淡く、すぐに隠された笑みがあった。
まずい。
こういうときに笑うな、本当に死ぬから。
でも彼女は振り払わなかった。私の力に合わせて身体を向け、一緒に廊下のほうへ退いた。
背後からすぐに、ロイの崩壊寸前の声、ジェスの強がりの反論、アイダの火に油を注ぐ補足、アカリの真顔での事件整理が聞こえてきた。リビング全体に五種類の相互矛盾する化学試薬が一気に投げ込まれて、どの教科書にも載らないが観賞価値は極めて高い、激しい反応が起きていた。
私は真紀を引っ張って現場を逃げ出した。足取りはほとんど、狼狽に近いくらい速かった。
廊下の角を曲がり、背後の喧騒が壁に少し遮られると、私はようやく、実弾演習から生きて這い出してきたみたいに、長く息を吐いた。
「……私たち、義理を欠いたかな」と私は小声で言った。
「もう敬礼した」真紀が言った。
「それも義理のうち?」
「そう」彼女の声は平静だった。「しかも、形式のある部分」
私は振り向いた。
彼女もちょうど私を見た。
廊下の灯りは明るくなく、彼女の横顔に薄い光の層を作っていた。山頂の夜風の中で私に乱されたあの気配が、まだほんの少し、彼女の目の奥に残っているみたいだった。そして今、その目の中にはさらに、私の敬礼に笑いをこらえているけど素直に認めたくない、かすかな笑みが加わっていた。
心臓がまた、情けなく一拍打った。
くそ。
リビングで集団爆発が起きたばかりなのに、なぜまだ彼女が私を見る顔を気にする余裕があるんだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




